軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45◇人類最強

ベーラさんは無駄死にではない。

彼女はグラさんとキマリスさんの存在を仲間に知らせることに成功した。

僕が召喚した五体の魔物の内、これで四体が明かされたわけだ。

グラさんの不可視化能力は知っていても厄介だし、残る一体は不明。

いや、判明した。

不可視化によって接近し、接近によって可視化された【黒妖犬】達。

リリーは即座に弓を捨て、鉈に切り替えた。彼女は自身の弓の腕に誇りを持っているが、そのことにこだわって手が遅れることはない。流れるような鉈捌きで【黒妖犬】を切りつけ、時に頭部を刈り取る。

【黒妖犬】達の攻撃は低い。対応するには自然と腰を低くする必要がある。だからと言って前だけ向いていては背後からの攻撃を許してしまうので、彼女は苦しい体勢で周囲を警戒する必要があった。どうしても機動力が下がる。

そこに、黒魔法を掛ける。おなじみの空白と混乱だ。

「……っ。来ると分かっていれば、耐えられますわ……っ!」

エルフは人間より魔法耐性も魔力器官の性能も優れている

だから調整した僕の黒魔法にも、なんとか耐えられるだろう。

耐えて、【黒妖犬】の相手が出来る。

でも、動きは確実に落ちる。

――これくらいでいいだろう?

レラージェも同じ判断をしたようだ。

「あっ……っ……!」

リリーの脇腹に矢が刺さっている。傷口から滲む魔力は本来淡い光の筈だが、レラージェの毒によって濁っている。傷口から腐蝕が始まり、皮膚がぐじゅぐじゅと溶けていく。

その頃フェニクスの視界は、ナベリウスさんの三首が吐く獄炎によって遮られていた。

「こ、これは……、あの射手の……」

「レラージェだ、エルフの【狩人】。黒魔法を掛けられた状態で戦うのは苦しいだろう? 実力を出しきれず、敵の全力に屠られる。あぁ良かったよ、これで私達は苦しみを共有出来た」

柱の影からレラージェの声がする。

「……レメの黒魔法が、これ程だったと?」

「いや、もっとだろうな。参謀殿は貴様が『戦い』を続けられるように加減されていた」

……レラージェさんと戦った時も、傍目には普通の黒魔法程度に映るよう調整したものだが、まぁ言える状況じゃない。

レメゲトンの評価が上がるのは悪いことじゃないし。

「……貴女の矢を撃ち落としたこと、根に持っているのですね」

ちらりと、リリーが弓へ目を向けた。

「くだらん挑発だ。だがいいだろうエルフの女、弓を拾え――グラシャラボラス殿!」

レラージェさんの姿が露わになる。

……魔王城の魔物は勝つ為に協力してくれるけど、基本的には真っ向勝負が好きなんだよな。

僕は指示を仰ぐようにこちらを見た【黒妖犬】達に、手で『待て』と指示。透明になっている者同士は互いを認識出来るので、指示は伝わったようだ。

レラージェの視線を受けて、僕はリリーに掛けた黒魔法を解除。

確かに不意打ちで落とすよりも、対等な弓勝負で勝つ方が他のダークエルフや【狩人】持ちの魔物にとって希望になるだろう。

警戒しつつも弓を手に取るリリー。

矢筒に手を伸ばしたのは両者同時。

矢を放つのは――リリーの方が早かった。

さすがは世界で三人しかいない『神速』使用者。

だが――。

「速ければいいというものではあるまい」

レラージェさんは最初から早撃ち勝負をするつもりはなかった。

彼女は思い切り横へ跳んだのだ。

宙に流れる身体、外れるリリーの『神速』、そしてレラージェさんは落下しながらも矢を番え、放った。

「くっ――」

リリーは回避行動を取れない。

レラージェさんの矢が喉に突き刺さり、そこから腐蝕が始まる。

「【黒魔導士】殿の助けがなければ、貴様には速さしかない。正確性を鍛え、駆け引きを覚えろ」

……レラージェさん、うっかり【黒魔導士】に敬称を付けてますよ。中身が僕だと知っているからこそなのかもしれないが、彼女的には元フェニクスパーティーの憎っくき敵なのではないか。

幸いというべきか、リリーにはそれを気にする余裕はない。

首をやられては終わりだ。

膝から崩れ落ち、リリーが倒れる。

少し遅れて、その身体が分解されて光の粒子に変わった。

――後、一人。

――お前だけだぞ、フェニクス。

『私を守らないで下さい』

ベーラが走り出した後、リリーは小さく、だが確かに言った。

私の前に立ち塞がる魔物達は一対一を破らないだろうが、それ以外の魔物はリリーを狙うだろう。

そこで彼女を庇うように動けば、思わぬダメージを負うかもしれない。

助け合うのが仲間だが、リリーはこの状況では別々に戦う方が最終的に勝利出来る可能性が高いと判断した。

そして……それは私も同じだった。

仲間を側に置いていては、炎を全力で扱うのは難しい。

ベーラに任されたリリーを放置することになるが、仲間の決意を無駄には出来ない。意見が合致しているとなればなおさら。

視界が炎で塞がれている。

馬車程の巨躯を誇る三首の猛犬――ナベリウスの獄炎だ。

だが私は衣類に焦げ一つ付けずに炎の中を突き進んでいく。

これが、火精霊の本体と契約した者に与えられる加護だ。

自らが御する熱に、その身を侵されない。

「貴殿の獄炎では、私を灼くには足りないらしい」

「ッ! なら、この牙はどうだ……!」

「突き立てられる牙を防ぐ加護は有していないが――」

炎の中から迫る巨大な頭部に、私の聖剣が突き刺さっていた。

三首の真ん中が私に噛み付こうとしていたのだ。

「――噛まれる前に敵を打倒するので、問題はない」

「がッ……」

残る二つが炎を吐くのをやめる。

私は眉間に突き刺した聖剣を抜き、そのまま彼の脇を通り過ぎる。

「ま、待てッ……! まだわたくしは終わっていな……っ!?」

彼の身体が一瞬で燃え上がり、すぐに退場した。

一瞬で身体を炭化させる程の燃焼に、 魔力体(アバター) が耐えられなかったのだ。

「次はマルコシアス殿でよろしいか? ――いや、グラシャラボラス殿がいたのだったな、失礼した」

私は振り返りざまに剣を横薙ぎに一閃。

今まさに私の背後を突こうとしていたグラシャラボラスの前脚が断ち切られ、そこから彼の身体に火が着く。

後はナベリウスと同じだ。

「キマリス殿とレラージェ殿はどうされる。お二方には仲間を落とされた、私としては戦いの場が得られれば喜ばしいが」

キマリスは死霊を消し、本人のみが進み出た。

「手合わせ願おうか」

「申し訳ないが、これ以外に剣を持っていない」

「フッ。いや、そのままで構わんよ。死霊は私の判断で仕舞っただけだ」

「では」

死霊術師とは言うが、彼の剣の腕は卓越していた。実直で、確かな研鑽に裏打ちされた力強く早い剣筋だ。

だが、聖剣と打ち合うことは出来ない。剣身が触れ合った瞬間に溶けるからだ。

こちらの振り下ろしを巧みに回避しようとした彼だが、横に跳ぼうとして失敗する。

彼の足場が――真っ赤に灼熱されて溶けていた。

「ベーラが負けたのも頷ける。素晴らしい剣捌きだった」

体勢を崩した彼の身体に剣を振り下ろし、両断した。

矢が飛んできた。

私に届く前に焼けて灰になる。

何度も何度も、近づきながら矢を放つレラージェ。

「レメは優れた【黒魔導士】だ。彼と共に戦えたことは私の一生の誇りだと断言出来る。だが、私は【勇者】だ。世界一の【黒魔導士】がいなくとも、敵にどれだけ優秀な参謀と【黒魔導士】がいようとも、関係ない。敵がどれだけいようと、どれだけ強かろうと。私は――勝つ」

レラージェが弓を捨て曲刀を抜き放つ。

彼女が私に近づく前に、その身を火柱が包んだ。

火炎が消えた後には、レラージェは残っていない。

彼女の 魔力体(アバター) は、完全に破壊された。