軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43◇参謀のお仕事

「……! まずい! アルバ先輩の魔法剣を使うつもりです!」

ベーラさんが気付いた時には、僕は魔法剣を起動していた。

見様見真似で使ったと思わせるように、使い方はアルバと同じ。

ただし、使うのは片手だけだ。アルバと違って力が落ちているわけでもないし。

さて、僕は誰を狙うだろうか。

「ちくしょう! ふざけやがって!」

アルバはブチ切れて僕を睨みつけている。

ミラさんの剣が脇腹を掠め、太腿に亜獣が噛み付いた。

「えぇ、存分にあの御方を目に焼き付けなさい。貴方は闇魔導士たる彼の魔法によって、完膚なきまでに敗北するのですからね」

「むかつくんだよッ……!」

さすがのアルバも、武器と両手を失っては四天王とやり合えない。

「ベーラっ! 防御を!」

リリーの叫びに、ベーラは首を横に振る。

「あの魔人はアルバ先輩の動きを見切ってました! このパーティーをよく知っている! 魔法剣の軌道も変えるかもしれません!」

「なら広く展開すれば――」

「そうすれば魔力生成が必要になります! その間、私は氷結を使えなくなってしまう!」

賢い。

僕の攻撃を直線だと断じて予想軌道上に氷の壁を立てる。これは避けられるかもしれない。

だからといって僕が左右や上に避けることを見越して大きな氷壁を展開すると、魔力が一時的に切れて再度練らなければならなくなる。

どれだけ魔力を生み出せるかと、どれだけ魔力を体内に留めておけるかは別。

ベーラは有望だがまだ【 役職(ジョブ) 】判明から三年。常人を遥かに凌ぐ成長スピードを誇る【勇者】だが、そもそも魔力関連の能力は伸びにくいものだ。

彼女にとって、大規模魔法は乱発出来るものではない。

「ならば他の敵ごと――っ」

リリーも気付いたようだ。

敵全てと仲間の間に氷の壁を展開出来るなら、それでいい。

フェニクスならばフルカスさんを後退させられるだろうし、【龍人】を近づけさせないことくらいリリーにも出来る。

なんならラークが盾で弾くだろう。

しかし、アルバがまだ残っている。

結果的に一人だけパーティーから離れてしまい、今もなお【吸血鬼の女王】に嬲られている仲間が。

彼を見捨てれば四人を魔法剣から守れるが、彼を守ろうとすれば魔法剣以外の脅威は残る。

氷結魔法を一時使えないベーラに攻撃出来る位置に。

冒険者は設定上正義側の存在。仲間を見捨てるべきではない。

第四位ともなれば、そんな姿を視聴者には見せられない。

「アルバごとだ。急げ」

フェニクスの指示に、ベーラさんは即座に従った。

氷の壁の出現によって僕と魔法剣、それ以外で世界が分けられる。

僕の魔法剣は氷壁に阻まれる――寸前で止まった。すぐに伸びた剣身が戻ってくる。

彼らの判断は読めていた。

ベーラさんに魔力を使わせることこそが目的。

いや、もう一つある。

「 来い(、、) ――マルコシアス、ナベリウス」

狼状態の【人狼の首領】マルコシアス、そしてこちらもまた巨大なケルベロスに変化した【地獄の番犬】ナベリウスさんが出現する。

「よくぞオレを召喚してくれたッ、参謀殿ッ!」

「なんなりとお命じ下さい」

僕の命令は一つ。

「破壊しろ」

「応ともッ!」

「承知致しました」

マルコシアスさんが氷壁を殴り付け、少し離れた位置でナベリウスさんが三首から火を吹いた。

僕は続けて契約者を召喚する。

「――グラシャラボラス、キマリス、レラージェ」

【不可視の殺戮者】【死霊統べし勇将】【闇疵の狩人】も続けて現れた。

グラさんが尻尾を振り、おすわりの態勢になった。

「……我々五体を連続で召喚されるとは……驚嘆すべき魔力ですな」

「それでこそ参謀に相応しいと言えましょう。ご命令を、レメゲトン様」

「事前に伝えた通りだ――グラシャラボラス」

声を掛けると、グラさんが自分を含めた三体を不可視化する。

彼らの動くべきタイミングも決めてある。

「おぉぉおおおおおッ! じきに開通するぞ、参謀殿!」

目にも留まらぬ速さで放たれる左右の拳がガンガン氷壁を砕いていた。

「こちらもじきに溶かせます」

氷が凄まじい勢いで溶けては蒸発していく。

「二体でタイミングを合わせろ」

「承知したッ!」

「レメゲトン様の仰せの通りに」

僕はもう一度魔法剣を構える。

次は、この剣で一人退場させるつもりだった。

敵の立ち回りは非常に巧みだった。

黒騎士フルカスは攻めるのではなく私を押し止める為に動き、鎧姿からは想像もつかぬ俊敏な動きでこちらの攻撃を受け流している。

「私との再戦を望んでいるのかと思いましたが、時間稼ぎですか」

「 一飯一戦(いっぱんいっせん) の約定に基づき行動している」

質の悪い変声機を使用したような声。

聞き慣れない言葉だが……参謀の指示に従っている、というような意味だろう。

「彼は信ずるに足る男だと?」

私の予想通りなら――私が彼を他人と間違える筈が無いが――彼らは逢って間もない。

だが、答えは明快だった。

「参謀は、仲間を勝たせる」

それで充分とばかりに、フルカスは槍を振るう。

どこへ行っても、彼は変わらない。

ただ魔物は、彼の貢献を理解しているようだ。

それが少しだけ、悔しい。自分には出来なかったことだったから。

「素晴らしい。ですが、勝つのは私達だ」

「語ることに意味が?」

「私は、あると考えます」

口に出すことで、己を鼓舞するのだ。

氷壁が展開されてすぐ、私は驚愕した。

――壁の向こうで魔力反応が増えた、だと。

しかも魔力から判断するに、フロアボスクラスの魔物だ。

それが、五体。

「ラーク、ベーラを」

「りょうかいっ……と!」

【龍人】の拳を盾で弾きながら、ラークがベーラの許へ向かう。

「全員警戒しろ。壁の向こうに五体の魔物だ。全てフロアボス相当」

「な――ッ。既に目の前に四天王が二人いるのですよ!?」

リリーの放った矢が【龍人】の腕に命中。鱗を超えて突き刺さる。

「……氷壁がじきに破壊されます」

ラークの影からレイピア型の聖剣による刺突を繰り出しながら、ベーラは苦々しげな顔をしている。

「どうなってやがるッ! 多くても六体じゃねぇのか、八体もいるなんて有り得ねぇ!」

アルバの叫びは尤も。

一階層ごとにフロアボスが一体、戦力でそれに匹敵する徘徊型あるいは副官魔物が一体まで。

これが基本。

四天王という例外、彼本人、そしているならば副官。

この層に現れていいフロアボス相当は、最大で六体。

だが現時点で八体。

「だが現実に起きている。規程が守られているのならば、召喚魔法によるものだろう」

「でもあれは契約者を呼び出すのに、対象の肉体を構成する魔力を対価として消費するのでは!? 五体まとめて召喚したなら――そんなの魔王レベルの魔人ってことになりますよ……!」

彼ならば、それも可能。

十歳から今日この日まで、欠かさず己の魔力器官を鍛え続けてきた彼ならば。

「フェニクス、オレらは無視して魔法を使え!」

アルバの叫びに、応じることは出来ない。

私の大規模魔法は周囲を巻き込んでしまう。

焼き分けることも不可能ではないが、そんな繊細な魔力操作は目の前の敵が許してくれまい。

強引に踏み込めば剣技でフルカスを打倒することも可能だが、その場合は仲間から離れることになる。

それが目的であることが動きから明らかなのだから、乗せられるわけにはいかない。

「氷壁、突破されます!」

瞬間、壁が砕けて大穴が空き、少し離れた位置では壁がどろりと溶けて赤い炎が見えた。

「我が名はマルコシアスッ! 炎の勇者よ、手合わせ願おう! 行くぞ兄弟!」

隠れていたのか召喚されたのか、彼の配下である【人狼】数体も進み出た。

「我が炎、我が牙、今度こそ貴殿に……!」

壁を溶かしたのはナベリウスのようだ。

「……まだ更に三体いるんじゃなかったの」

ラークの憂鬱そうな声。

三体への対応もそうだが、それよりも――。

「魔剣に注意しろ」

「分かってるよ。ちゃんとベーラはま……も、……る……え……?」

「――――」

ラークに落ち度は無かった。

氷が溶け、二体のフロアボス相当がこちら側にやってきたのと、ほぼ同時。

魔法剣が伸びたのだ。

つまり、こちらの位置関係を目にした瞬間か、目にする直前に魔法剣の軌道を設定していたということ。さすがに後者は考えられない。

一瞬見ただけなのだろう。

魔法剣はベーラに向かって伸び、ラークはそれを弾かんと盾を構えた。

だが、その切っ先が盾を 躱した(、、、) のだ。

まるで意思でも持っているかのように盾を迂回した剣身が、ラークの胸を突き抜けた。

心臓の位置、致命傷だ。

「いや……これ、おかし……しょ」

いつもの眠たげな目ではない、ラークは目を見開いている。

アルバの魔法剣を、完璧に操ってみせた。

いや、違う。

こちらの動きを読み、更に黒魔法で調整したのか。

「カーミラ、もういい。これ以上嬲る必要はあるまい」

「レメゲトン様が仰るのなら、ここまでにしておきましょう」

アルバの身体には幾つもの切り傷が付き、腹部には剣が刺さっており、体中を蝙蝠に噛み付かれていた。

「感謝しますよ【戦士】アルバ、貴方の魔法剣で【聖騎士】ラークを落とせたのですからね」

「……テメェ、覚えてろよ」

カーミラは、ニッコリと微笑んだ。

「もう忘れました」

蝙蝠達が一斉に吸血を開始、瞬く間にアルバの身体は萎み、崩壊した。

「はぁ、この子達のオヤツにもならないなんて……」

それに伴い魔法剣も散り、なんとか剣身を掴んでレメゲトンを引っ張ろうとしていたラークの努力が無駄になる。

「ごめ……フェニ――」

アルバとラークが退場した。

敵の損害はベーラが凍らせ、リリーやラークが止めを刺した二体の【龍人】のみ。

失った戦力とは見合わない。

「リーダー……今ので確信しました」

ベーラはそれ以上言わなかったが、正体に気付いたことは私に伝わった。

「此処は私が行くべきでしょう。許可を」

彼の動きは、こちらをよく知る者のそれ。

ならば彼が唯一よく知らないだろうベーラを向かわせるのは、正しいように思えるが。

「まさか自分がやりたいから行くなとは言いませんよね」

そうではない。いや、そういう気持ちはあるがそれを理由に誤った判断を下したくない。

私の懸念は、彼ならば私達がベーラを使うことまで読んでいるのではないかということ。

「残る三体を警戒しつつ、速やかにレメゲトンを退場させます。リーダーはリリー先輩を守り、周囲の敵は全滅させて下さい。単純でしょう」

ベーラは出来ると思っている。

「……いいだろう。頼んだ」

「はい」

ベーラが飛び出す。

敵の誰もそれを――止めない。

――やはり、読まれている。

「ベーラ!」

「誘われているのは分かっています!」

リリーを置いて、彼女を追うわけにはいかない。

私の邪魔をするように、魔物達が立ち塞がる。

「参謀殿は我らに機会を下さった! 貴殿との再戦の機会をだ!」

マルコシアスが叫ぶ。

「順番で言えば、わたくしからでしょう」

ケルベロスことナベリウスが進み出る。

第一層のフロアボス。最初に倒したから、最初に再戦する権利があるとの主張。

「全員で掛かってはこないのですか」

「それならば、もっと早く貴様らを全滅させる方法など幾らでもあった。参謀殿は我らの望みを汲んで下さったのだ」

随分と良い上司のようだ。

友として誇らしい。

そして。

随分と舐められているものだ。

【炎の勇者】を前にして、もっと早く倒すことも出来たなどとは。

確かに、ここまでは相手が優勢。

だが、勝負はまだ決まっていない。

「承知した。何人でも、お相手しよう」

全員退場させて、戦わなければならない相手がいる。

私は灼熱する聖剣を手に、敵を迎え撃つ。