軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39◇友と笑い合う(下)

男と、その取り巻き――えぇと十三人――が立ち上がる。

「あぁ? なんだテメェら、オレ様を誰だと思ってる?」

その男はフェニクスでも見上げる程の巨漢だった。

だが僕もフェニクスも冷静そのもの。

「知りませんけど、冒険者なら百位より下でしょう」

男の顔に青筋が立つ。既視感があるよ。ミラさんを襲った【重戦士】もこうだった。

「よっぽど死にてぇらしいな」

ドスの利いた声。

僕は首を傾げた。フェニクスを見る。

「そうなのか?」

フェニクスも応じる。

不思議そうな顔をする僕に、優しく教えてくれる。

「もしかすると彼らは、私達を打倒する力が自分達にはあるのだと考えているのかもしれないね」

「あはは、そりゃ笑えるな」

大げさに肩を竦める僕。

「……頭沸いてんのかテメェら。いいか、オレ様は【勇者】なんだよッ!」

あぁ、そう。

【 役職(ジョブ) 】はそうかもね。

でも――。

「お前みたいなのは勇者じゃないよ、ゴロツキの間違いだろ」

「後悔させてやるよ、クソガキ」

酔っぱらい集団に囲まれる。

無関係な客達は離れたり帰ったり、一部が静観したり煽ったりしていた。

他の給仕や亭主が不安そうな顔でこちらを見ている。

「……俺も鬼じゃあねぇ。泣いて地面に這いつくばったら許してやるよ」

「ふざけたことを。貴様が女性に謝罪するのが筋だ」

フェニクスの正論に、男は激怒。

「テメェにゃ関係ねぇだろうが!」

「このゴロツキは僕がやるよ」

「あぁ、任せた」

「テメェみたいなヒョロガリが、オレ様を? ハッハ! 面白ェ!」

決着までは数分掛からなかった。

『小柄な少年』にしか見えない僕の拳を、男は避けもしなかった。きっと殴られてもノーダメージってところを見せて、僕に絶望感を味わわせたかったのだろう。肉体自慢には結構多くて、まぁ上手くいくことが多いのかな? そのあたりは分からない。

防御力を全力で下げて鳩尾を突けば、基本的に一撃で沈むからだ。

ランク不明の【勇者】さんが「こひゅっ」みたいな声を上げて白目を向き、顔面から床に斃れる。

一緒に倒れてしまわぬよう、フェニクスが咄嗟に女性を引き寄せた。

「どうして地面に這いつくばってるんですか? 許してほしいとか?」

返事はない。

一瞬場の空気が凍るが、取り巻きの中では中心人物なのか、一人の男が叫んで飛びかかってきた。

しかしその男性は近くにいた別の取り巻きに殴られて転倒する。

……面倒だから敵味方の認識を『混乱』させて、敵意を近くの者にぶつけるようにしたのだ。

無関係な客もいるから、扱いが難しい。

まぁフェニクスもいるし平気だろう。

同士討ちを始めて戦力ダウンした酔っぱらい集団を、適宜殴って気絶させていく。

「よし、終わった」

「こちらもだよ」

最後の一人が床に倒れる。

さすが【炎の勇者】。僕が一人倒す頃には三人倒し終えるペースだった。

僕は気絶しているランク不明【勇者】の登録証を探り、情報を記憶。

「私の方からも報告しておこう」

その方がいいな。僕が報告するよりも真剣に聞いてくれるだろう。

人数が多くなると問題児が含まれる確率も上がるんだろうけど、問題は僕の遭遇率だな。

「衛兵が来たぞ!」

先程店外へ退避した客の誰かが呼んだらしい。

まずい。

捕まってしまうと色々と面倒だ。

「急ごう」

「あぁ」

フェニクスは腰を抜かしてしまった件の給仕さんを優しく抱き起こしてから、その手に食事代にしては多めなお金を握らせる。

「ご迷惑をおかけした詫びのようなものです。大変美味しい食事をありがとうございました」

フェニクスを『高身長の青年』としか認識出来ない筈の給仕さんが、ポッと頬を染めた。

「あ、あの、あっちに裏口があるので……。助けていただき、ありがとうございましたっ」

ありがたい情報を得た。

「行くぞ女たらし」

「その言い方は酷いだろう」

苦笑するフェニクスと共に、給仕さんの指さした方向へ急ぐ。

店外に出た僕らは、しばらく街を走った。

誰も追ってこないことを確認してから、目についた路地に入る。

「あははっ。【炎の勇者】が酒場で乱闘とか、スキャンダルだな」

「あんな所業は見過ごせない」

「そうだけど、僕一人で出来たのに」

「二人だからすぐに終わっただろう?」

「まぁなぁ」

「……やはりレメの魔法があると、戦いやすいよ」

「知ってる」

友達に謙遜する必要もあるまい。

どちらともなく、歩き出す。

ぼそり、とフェニクスが話し始めた。

「明日、私達のパーティーは十層を攻略する」

「あぁ」

知ってる。

十一層に繋がる扉を守るのは、僕だし。

「その……勝つから、 観て(、、) ほしい」

「あぁ、絶対に 見る(、、) よ」

大迫力の特等席で。

お前を迎え撃つのが、僕なんだから。

「一足先に、一位へ行くよ」

「それはどうだろうなぁ」

「……私が負けると?」

「明日になれば分かるだろ」

「私は必ず勝つ。それが勇者なのだと、教えてもらったからね」

「……いつまで覚えてるんだよ、それ」

嬉しいような、気恥ずかしいような。

「一生忘れないさ」

僕の宿の近くまで来た。

「じゃ、またな。僕は近々宿を移すけど、今度は突き止めるなよ」

「君が消息を絶たない限りはね」

「分かったって。仕事のことはちゃんと話す。その時は僕の方から顔を出すよ」

「あと、素敵な恋人も紹介してもらわないと」

「しつこいぞ」

顔を見合わせて、僕らは笑った。

次の日、僕らはまた顔を合わせることになる。

冒険者と魔物として。

【勇者】と【魔人】として。

そして、僕にとっては。

人の勇者と、魔物の勇者として。

親友と、戦うのだ。