軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35◇仕事に困っていると思われてる黒魔導士、世界ランク第一位の誘いに……?(下)

「や、やったじゃねぇかレメ! 一位だぞ一位!」

我が事のように喜んでくれるブリッツさん。

うん。そうですよね、すごくいい話だ。

僕はゆっくりとミラさんへと目を向けた。

ミラさんは、微笑んでいた。

「おめでとうございます。冒険者の中にもレメさんの素晴らしさを理解してくれる方がいたのですね。嬉しいです、とっても。短い間でしたが、夢のような時を過ごすことが出来ました。私、絶対に忘れません」

ミラさんの声は、震えていた。

自分の感情を押し殺して、僕の背中を押してくれている。

笑っているのに、泣いているみたいだ。

あぁ、エアリアルさんの言う通りですね。

彼女は素晴らしくて、素敵な人だ。

だけど、僕は悲しかった。

「ミラさん、僕が引き受けると思ってるんですか?」

「……貴方は元々冒険者で一位を目指していたではないですか……魔物では所詮レメゲトンとしてしか名を上げられません。顔も隠さなければならない……貴方が子供心に憧れた勇者とは違う……」

「ミラさんが示してくれた夢は、第二候補なんかじゃないよ」

「……じゃあ、一位の誘いを蹴って魔王軍に残るんですか? どうして?」

「どうしてって――」

僕はミラさんの手を取って、立ち上がる。

「えっ、レメさんっ?」

「ブリッツさん、すぐ戻るので待ってて下さい」

「お、おうっ」

店の外へ出る。

外套のフードで顔を隠しているエアリアルさんを発見。

「あの!」

その背中に声を掛けると、彼はすぐに止まって振り返った。

「おや、もう決めたのかい」

「はい」

「そうか、嬉しいよ。では――」

「お誘い頂いて、本当に光栄に思います。でも、お断りさせてください」

エアリアルさんは驚かず、穏やかに言う。

「理由を訊いてもいいかい?」

「僕は、一位になりたかった。一位に、入れてもらいたかったわけではありません」

彼は僕の返答に、嬉しそうに微笑む。

少年みたいな笑顔だった。

「……ふむ。なるほど、漢だね。確かに頂点というものは、上り詰めるものであって引き上げてもらうものではない。どうやら私は無粋な申し出をしたようだ」

「いえ、冒険者の中にも僕を認めてくれる人がいると分かって、すごく嬉しかったです」

「あぁ、だが君は既に居場所を見つけている。そうだね?」

……そこにも気付いていたか。

「はい」

頷く。

エアリアルさんは、僕に手を差し出した。僕も手を出し、握手を交わす。

「楽しみだよ。君がどのようにして一番になるのか。その為には、私達を打倒しなければならないね」

一体どこまで見抜いているのか。

僕が戦うことを諦めていないことは、伝わっているようだ。

「その時が来たら、勝ちます」

「素晴らしい。まだまだ引退出来ないな」

彼はニッコリと笑って、今度こそ宿へ帰っていった。

「な、な、なに、なにやってるんですか、レメさん」

僕らの会話を呆然と眺めていたミラさんが、わけがわからないといった顔で僕を見る。

僕は改めて、今度は彼女の両手を包み込むように握った。

「僕が自分で決めて、魔王軍に入ったんだよ。ミラさんに救われて、夢が明確になった」

ミラさんは黙って聞いている。

「僕は君達の勇者になると決めた。途中で追い出そうなんて、許さない」

彼女の瞳を覗き込み、からかうように笑う。

ぽろぽろ、とミラさんの瞳から涙の雫が落ちてきた僕は慌てる。

「え、いや今のは違うよ、責めたとかそういうことではなくてですね――」

きゅう、とミラさんが手に力を込めた。

「もう……とっくに私の勇者様ですよ」

泣き笑いの表情、涙声での明るい声。

僕は彼女の美しさに目を奪われた。

数秒後我に返り、場の空気を変えるように軽口を叩く。

「……世界中の亜人に希望を与えるくらいにはならないとね。私達も冒険者ぶっ倒せるじゃん、ってくらいには思ってもらいたいな」

「ふふ……もう完全に魔物ですね。人類の裏切り者です」

ミラさんがその頭を、僕の胸にそっと預けた。

僕以外には聞こえない程の声量で、呟く。

「……ほんとは、すごく不安でした」

「うん」

「喜んで、誘いに乗るのではないかと」

「僕は、ミラさんが止めてくれると思ったけどね」

「貴方の幸福が一番です。推しの幸せを願えない者にファンを名乗る資格はありません」

推しと来たか……。

「そっか。でも僕が他の女性と関わろうとすると――」

「虫は駆除しなければならないと思うのです」

「……まぁ、それは置いておいて」

触れてはいけないこともある。

「これからもよろしくね、ミラさん」

「はい……!」

顔を上げたミラさんと目が合った。微笑む。

彼女はバッと距離をとった。

見れば、曲げた人差し指の第二関節あたりをガジガジ噛んでいる。

「どうしたの?」

「一度吸った所為で身体が味を覚えてしまって……吸血衝動がすごいことになってます」

「あー……」

「大丈夫です、我慢出来ます。でももしレメさんの方が我慢出来なくなったらすぐ仰って下さいね。というか私はその時が一秒でも早く来ることを望んでいます」

「深く分かり合うのがいいんじゃなかったっけ?」

「これ以上私の何を知りたいのですか? 服の下以外に隠しているものなどないというのに……よよよ」

嘘泣きするミラさん。

分かっていてもほだされそうになるから、彼女は凄いと思う。

「取り敢えず、今日のところは戻ろう。ブリッツさん一人にしてるし」

「むぅ。分かりました」

後日、フェニクスパーティーは第九層を突破。

彼らの十層への進出が決定。

攻略を翌日に控えた夜、フェニクスが僕を訪ねてきた。

エアリアルさんといい、四大精霊持ちは滅茶苦茶だ。

隠れている僕を見つけ出すんだから。