軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32◇嵐の勇者、来たる

僕の魔王軍参謀ライフは、順調と言ってよかった。

連日、日に数回やってくるパーティー撃退に駆り出されたり駆り出されなかったり。

呼ばれない時は、僕の持ち場となる十層をフロアボスであるレメゲトン用に作り直してもらったり、各層から借りる人材の調整をカシュに手伝ってもらいながら進めたり。

フェニクス達の攻略も続いており、彼らは第七層・空と試練の領域、第八層・武の領域を突破。

残すはアガレスさんの守護する時空の領域と僕が任された……えぇとまだ未定の領域だけだ。

第七層の景観は第六層の空版だ。空に道が敷かれており、ハーピーやセイレーンなどの【鳥人】による襲撃をなんとかしながら進まなければならない。

普通に落下すると永遠に落ち続ける感覚に晒されるので、 魔力体(アバター) に組み込まれている『棄権』機能を使用し、自ら退場することになる。

またフロアボスの【雄弁なる鶫公】カイムさんは昔ながらのダンジョンを愛しているらしく、冒険者達に試練を与える。

普通じゃ突破出来ない扉や罠があって、近くの石碑なりに一見謎な文章が書かれている。

しかし目の前の難所を踏まえて読むと突破のヒントとなっており……というやつだ。

あとは少し危険なトラップ解除とか、解除したかと思ったら大きな丸岩が転がってくるとか。

ちなみに試練への挑戦中に落下したら、彼の配下である【怪盗鴉】ラウムさんの空間移動能力によって第七層入り口に戻される。

通常の落下は棄権一択、試練中の落下は入り口から再スタート。

フロアボス戦もカイムさんの出す問題に正解した者だけが戦闘に参加出来るというシステム。

フェニクスとはあいつが冒険者育成機関を出た十三から一緒にパーティーを組んでいたけれど、第七層の攻略が最も時間を掛けた冒険だった。確実に。

「おし、酒が来たな。んじゃあ、えー、レメの再就職を祝って! 乾杯!」

木樽ジョッキを掲げるのは果物屋の店主・ブリッツさんだ。

「乾杯です」

応じるのはミラさんと、僕。

僕らはある酒場に来ていた。

仕事終わり、カシュを送り届けた後のこと。

以前からブリッツさんが再就職を祝おうと言ってくれていて、今日実現したわけだ。

「いやーしかし、あれだな。まさか再就職先がアレとはな」

ブリッツさんは魔王城とかダンジョンとか言わず、ぼかしてくれた。

今の僕はレメとして呑みに来ているし――周囲が僕に気づかぬよう認識阻害の魔法を展開してはいるが――あまり注目は集めたくない。

「思っていたより、上手くやれてます」

「それ以上ですよ。レメさんは間違いなくうちの救世主……勇者様です」

ミラさんは可愛らしく両手でコップを包み、唇を湿らせる程度に果実酒を口に含む。

……ぼんやりとした二年前の記憶だと、豪快に呑んでいた気がするが。

触れないようにしよう。

今可憐な姿を見せてくれている。それでいいじゃないか。

ちなみに今日の彼女の種族的特徴隠しはニット帽とコンタクトだった。

一度そんなに気にしなくてもよいのではと話したのだが、彼女は薄く笑うだけだった。彼女の気遣いは嬉しいしありがたいが、僕といる時に種族をずっと隠さなければならないというのは、なんか健全ではない気がする。

だが確かに、元フェニクスパーティーの【黒魔導士】と亜人が仲良くしているという情報だけで、妙な勘ぐりをする者もいるんだよな。

僕の脱退後にインタビューをしようと記者達がわんさか現れたが、誰一人として僕を見つけられていない。全員に気づかれないレベルで『混乱』を掛けて撒いたからだ。

今では通行人に僕を『小柄な少年』以上に認識させぬよう魔法を掛け続けている。

まぁ元々日々の修行で魔法を使わなければならないので、丁度よくもあるのだが。

「あれだろ? 見たぜ【雷轟の勇者】んとこの攻略とかよ」

店内は騒がしいので大丈夫だと思うが、ブリッツさんは声を小さくして言った。

「あぁ、あれが初めての防衛ですね」

彼らはあの攻略で全滅してしまった。

それと、映像の買い取りは予約時点で決める。

つまり、上手く攻略出来なかったら映像は要らない、というのは通らないのだ。

五人分の 魔力体(アバター) 再生成費用、この街までの移動費や宿泊費などの諸費用などを考慮すると、動画を配信しなければ完全に赤字。

自分達が第一層で謎の【魔人】に誘導され、【黒妖犬】とグラさんに全滅させられた映像でも、配信しないわけにはいかない。

よほど金銭的に余裕のあるパーティーならば不採用という選択肢もあるが、彼らは違うようだった。

それに一応、第四位パーティーの映像では見られなかった敵の動きもあったので、再生数はそこそこ伸びた。

他の冒険者達にとっては、貴重な情報となっているようだ。

「ひったくりん時みたいに、全員に魔法掛けてたのか?」

「えぇ」

「ほぉ~。【勇者】にも効くってのはマジですげーんじゃねぇか?」

ブリッツさんの言葉に、ミラさんが大きく頷く。

「まじですげーのです」

ブリッツさんを真似たのだろうが、ちょっと彼女らしくなくて僕は笑ってしまった。

そんな僕に気づき、ミラさんが拗ねたように上目遣いでこちらを見た。

「笑いましたね……」

「いや、なんか新鮮で」

「ひどいです」

「ごめんね」

「許します」

よかった。許してもらえた。

「なんだかお二人さん、良い感じじゃねぇか?」

「よくお気づきですね、ブリッツさん。そうなのです、良い感じなのです」

ミラさんがグッと椅子を近づけてきた。

「あー、まぁ。仲良くさせてもらってます」

「いや、良いことじゃねぇか。お前さんは親しみやすいくせに距離をとるだろう? こう、オレのこともしばらく『ご店主』とかだったしよ」

……しっかりバレていたようだ。

こう、分からないんだよな。

友達の作り方が、もう思い出せない。

子供の頃は自然に出来ていた筈だけど、そうやって出来た友人達は【 役職(ジョブ) 】が判明すると共に消えてしまった。

残ったのはフェニクスだけ。

それで充分だったが、長いこと友人が出来なかった所為で人との距離を縮めるのが苦手だった。

ブリッツさんは友人だが、それも彼が友だと言ってくれたことがきっかけだし。

カシュに対しても、果物を買う客としてのスタンスは崩さないよう気を遣っていた。

「……すみません」

「いやいや、そうじゃねぇよ。もっと自分を出してけってことさ。冒険者時代は知らねぇが、今ならその方が周りの奴も喜ぶだろうよ」

……そうだろうか。

ぐいっと、ミラさんに腕を引かれる。

「ブリッツさんの仰る通りです。レメさんはもっとご自身の気の赴くままに発言・行動されてもいいと思います。たとえばほら、今私にしたいこととかありませんか?」

そう言って唇を近づけてくるミラさん。

……酔ってます?

「人前でそういうことをする趣味は、無いです」

「では人のいないところに行きましょう」

ミラさんの瞳を見るに、理性の光は残っている。

冗談と判断した僕はやんわりと彼女を引き離した。

「ケッ。羨ましいねぇ……おっ、あの牛っ娘の姉ちゃん胸デケェな」

僕らのやりとりを生暖かい目で見ていたブリッツさんが、少し遠くの給仕へと目を向けた。

牛の亜人の女性で、短い髪がよく似合う快活そうな人だった。

そして胸が大きかった。

ガシッと誰かに頭を抱えられる。

誰かというか、ミラさんしかいない。

「レメさんが見ていいのは、こっちです」

僕の視界はミラさんの胸部で満たされていた。

「女性の身体に興味がお有りなら、私に仰って下さいな」

思考を溶かすような、甘い声。

酒の所為か、クラッとする。

「失礼、少しよろしいかな」

僕らの卓の前に、誰かが立っている。

周囲には酔ったカップルがイチャイチャしているように見えたかもしれない。そのことで文句でも言われるのかと思ったが、その人物を見て僕は固まった。

ブリッツさんはジョッキを落とし、僕を抱えていたミラさんの手から力が抜ける。

「あぁ、やはり君だ。探していたのだよ。かなり苦労した。なんとか見つけられてよかったよ。レメ。久しいね、元気だったかい」

そこにいたのは、世界ランク第一位パーティーのリーダー。

『嵐の勇者』エアリアルさんだった。

僕は視界に収めた人に対しほぼ反射的に『混乱』を施せるが、彼程の人間だと 抵抗(レジスト) 可能。

とはいえ、意識させないレベルの魔法だ。

つまり彼は、僕が『混乱』で所在を上手く隠していると推測し、常に魔力を纏いながら探していた、と考えられる。

「……お久しぶり、です。何故此処に……いや、え、僕を、探していた?」

「あぁ、目的から話すと――君に仲間になって貰いたいのだ」

――え?