軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編◇吸血鬼の女王の実家へようこそ2

なんやかんやあって、ミラさんの帰省に付き合うことになった。

どうやら彼女の母は地元のまとめ役らしく、住んでいるのは古城のような大豪邸で、配下の人が沢山いて、執事やメイドまで揃っていた。

そのことにも驚いたが、彼女の母を見て更に驚く。

出逢った当初のカシュと同じか、少し上程度の幼女だったのだ。

いや、幼女に見える大人の女性、というのが正しいのだろう。

とても三女の母には見えないが、お若く見えるどころの話ではない。

「貴方がレメくんね?」

「は、はい。ミラさん……娘さんには、日頃からお世話になっています」

やや面食らったが、ぺこりと頭を下げて挨拶する。

金髪赤目のセラナさんは、にっこりと微笑んだ。

「うちのミラは気が強い子だから、大変でしょう」

「いえ、そんなことは……」

「お母様、レメさんにそんなことを言う為に呼び出したんですか?」

ミラさんは不機嫌そうだ。

「ふふふ、久々に娘の顔が見たかっただけよ」

「端末を起動すれば観れるでしょう」

【吸血鬼の女王】カーミラという意味なら、確かにそうだけれど。

「貴女、魔物としては目を隠しているじゃないの」

「……元気なのは分かる筈です」

ミラさんの言葉に、セラナさんが肩を落とす。

「どうして子供というものは、少し成長したら親を煩わしく思うようになるのかしら。悲しいわ。小さい頃は『おかーさまおかーさま』と可愛かったのに……。あ、レメくん、ミラの小さい頃の写真に興味はある? ふふ、この子ったら小さい頃から血の扱いが上手でね。同年代の男の子をよく泣かせて――」

「お母様!」

娘に怒鳴られ、セラナさんはぷくりと片頬を膨らませた。

「分かった、分かりました。では本題に入るわ。ミラ、少しレメくんと二人きりにしてくれる?」

僕は内心緊張する。

娘に相応しい男かどうか試されるのかと思うと、ドキドキした。

「断固拒否します」

「貴女がいては出来ない話もあるのよ」

「そんな話はありません」

断言するミラさんだった。

「もう、少しは親の言うことを聞きなさい」

「お母様の魂胆は読めています」

「……なんのことかしら」

ミラさんはぷるぷると震えたかと思うと、キッと目を吊り上げてセラナさんを睨む。

「私を追い出してレメさんの血を吸うつもりでしょう……!」

ミラさんの指摘に、セラナはニコッと微笑み、ぺろっと舌を出した。

「舐める程度よ。構わないでしょう?」

「娘の恋人をつまみ食いしようとしないでください……!」

「でも、レメくんの血、とっても美味しいのでしょう? 自慢だけして、飲ませないなんてひどいとは思わない?」

「思いません! レメさんの血は私専用なのです!」

『相棒の血は相棒のものだよ』

ダークがツッコミを入れる。

どうやらミラさんが僕の血の味を自慢していたらしく、セラナさんはそれが気になるようだ。

ミラさんはそれが許せないらしい。

セラナさんは娘相手では分が悪いと思ったのか、僕の方を見て、視線を潤ませた。

「レメくん……ダメ?」

彼女の母だとは聞いているが、健気な童女に涙ながらに訴えられると、大変断りづらい。

思わずダメじゃないですと言いそうになったのだが、ミラさんがついには血の刃を生み出してセラナさんに斬りかかってしまう。

「み、ミラさん……!?」

「娘の彼氏を誘惑する母がいますか!」

「ふふ。愛情深く、それ故に熱しやすいのは、貴女の魅力であり弱点ね」

ミラさんの刃を、セラナは座った状態のまま、右手の人差し指一本で止めた。

彼女も本気ではなかっただろうが、第三層フロアボスの一撃を、指の一つで止めるとは……。

「お母様こそ、そんなに飢えてるなら、再婚でもしたらどうです」

「え~? ママはパパ一筋だからなぁ」

「どの口が! それと可愛子ぶらないでください、気色悪い」

ミラさんは溜め息をついて、剣を引いた。

「レメくん。この子は貴方の前ではお淑やかに振る舞っているかもしれないけれど、激しい性質も持った子です。そういった部分まで含めて、受け入れてもらえると嬉しいわ」

確かに、ミラさんは僕の前だと常に笑顔で、なんでも出来る完璧美人といった振る舞いだが、オタクな面やカーミラとしての面も見ているので、今更これくらいでは驚かない。

「全部含めて、ミラさんの魅力だと思います」

「れ、レメさん……!」

ミラさんが頬を染め、セラナさんが安堵の表情を見せる。

「……そう。ありがとう、レメくん」

それから、セラナさんはニンマリと笑う。

「ところでレメくん? 貴方からまだ童貞の匂いがするのだけど、もしミラとの初めてで失敗するのが怖いなら、セラナママが――」

「貴女に、お父様一筋なんて言う権利はありません……!」

再びミラさんの怒鳴り声が響き、セラナさんは悪戯っぽく笑うのだった。

その後、ミラさんの部屋に通された僕たち。

どうやらミラさんが家を出た時と同じ状態で保たれているようで、 主(あるじ) が留守にしていたとは思えぬほどに綺麗だった。

「へぇ、ここがミラさんの部屋か」

「うぅ、あまり見ないでくださいね? 少し恥ずかしいです」

ミラさんは照れているようだが、恥ずかしがるようなものは置いてないと思う。

余分なものがなくて、実用主義という感じ。

それが逆に恥ずかしいのだろうか。

部屋の中に更にいくつか扉があり、衣装部屋などもあるようだ。

ある扉を捻った僕は、向こうの景色に固まる。

そこは寝室だった。

天蓋付きのベッドは、彼女が実家を出る時まで使っていたもの。

「……」

「あ、あの、レメさん。今からでも客室を用意してもらいますか?」

ミラさんが不安そうに言う。

そう、僕らは恋人同士という設定で来訪しているので、別室というのは不自然。

なのでミラさんの部屋に一緒に寝泊まりすることになったのだが、改めて考えるとそわそわしてしまう。

添い寝はいつもしているというのに、変な話だ。

いや、違う。

僕はおそらく、添い寝以上のことを想像してしまっているのだ。

顔が熱を持つのを自覚しながら「大丈夫だよ」と意識的に微笑む。

室内を見終わった僕は、ミラさんに屋敷を案内してもらうことに。

「あれ? なんだか第三層の古城に少し似ているね」

魔王城の第三層はカーミラの担当フロアだ。

「よくお気づきですね。あれは私がフロアボスになってから設計したもので、確かに実家を参考にした点も多いのです」

「へぇ~」

ミラさんと廊下を歩いていると――気配。

僕らは同時に、ある扉に差し掛かる直前で立ち止まる。

直後、扉を突き破って誰かが吹き飛んできた。

そのまま壁面に激突したのは、吸血鬼の男性。

「のろまが。霧化が遅いからそうなるのだ」

扉の向こうから冷たい声が聞こえてくる。

ミラさんが嫌そうな顔をした。

「あのー……大丈夫ですか?」

僕は思わず声を掛ける。

男性は「えぇ、問題ありません」と言って立ち上がり、ミラさんを見て瞠目。

「ミ、ミラお嬢様でしたか……! これはお恥ずかしいところを……!」

「気にしないでください。姉がわざとやったに違いありません」

ミラさんがそう口にしたのと、扉から長身の吸血鬼女性が出てきたのは同時だった。

「姉を疑うとは無礼な妹だな。私がお前の気配を察知し、この訓練場を無視して通り過ぎることを予期した上で、それを阻もうと大事な部下を扉の外へ吹き飛ばしたと、そう言いたいのか?」

鋭い目つきをした金髪赤目の美女だ。まるで騎士のような居住まいで、相当な武人であることが伺える。

「その通りでしょう?」

「ふんっ。挨拶に来ないお前が悪い」

「妹の顔が見たいなら、出迎えに混ざればよかったのでは?」

ミラさんとお姉さんの視線がぶつかる。

「……まぁいい。それで、そちらがレメ殿か」

「よろしくお願いします」

「……はぁ。こちらはレヴィお姉様です」

「……………………ふむ」

レヴィさんは僕をじぃと見たあと、一つ頷く。

「気に入った。こちらに来るといい」

そして僕の肩に手を回し、どこかへ連れて行こうとする。

「手を切り落とされたくなかったら、レメさんから離れてください」

ミラさんが殺意を漲らせて、低い声で警告を発する。

「何を馬鹿な。妹のものは姉のもの、世の理だ」

「そんなわけがないでしょう! 滅しますよ本当に!」

レヴィさんは悪びれることなく、妹に言い放つ。

「こんな美味そうな匂いを垂れ流しにするレメ殿も悪いとは思わんか?」

「どんな理屈ですか! レメさんの血はその一滴に至るまで私のものです!」

『いや相棒の血は相棒のものだよ』

「ではこうしよう。お前と私で模擬戦をして、私が勝ったらレメ殿を借りる」

「レメさんを賞品のように扱わないでください!」

「わがままな妹だ」

やれやれ、と肩を竦めるレヴィさん。

「……こ、このっ!」

「えぇと、すみません。今はミラさんに、家を案内してもらっているところなので……」

僕はやんわりと、レビィさんの手を引き離し、お誘いを断る。

「ほう。私の誘いを断るとは……ますます興味が出てきたな」

「レメさん! 今です!」

ミラさんは僕の手を掴むと、そのまま廊下を走り出す。

「また夕食時に逢おう、レメ殿!」

それから、レヴィさんの姿が見えなくなるまで走ることしばらく。

「ふぅ……。さすがにこれ以上は追ってこない筈です。訓練を放り出すことになりますから」

「かなりの魔力量だったけど、お姉さんはどこかのダンジョンに所属しているのかな?」

「いえ、この街ではまだまだ『力』が重視されます。人をまとめるのには武力が必要なのです。姉は母の補佐役であり後継者でもあるので、昔から訓練ばかりしているんです。私も昔は何度泣かされたことか」

「なるほど……」

「あ、もちろん今戦えば私が勝ちますけれども!」

「あはは。そうだね、今のミラさんは、『難攻不落の魔王城』のフロアボスだもんね」

「はい! さぁレメさん、あんな吸血鬼のことは忘れて、次に参りましょう」

そして夕食時。

知らせに来たメイドさんに導かれるまま、食事部屋に案内される。

長方形のテーブルを囲むように椅子が配置される様は、まるで貴族の食卓のよう。

「わっ、ほんとに連れてきた。ミラ 姉(ねぇ) の妄想かと思ってたのになー」

既に着席していた一人の少女が、席を立って僕らの許へ近づいてくる。

「ふっ。甘いですよエリザベート。正真正銘、レメさんと私は親しき仲なのです」

金の髪に赤い瞳、ツリ目がちな瞳に悪戯っぽく歪む口許。

十代前半ほどのその少女は、学生なのか制服を身に纏っていた。

ただし右肩はズリ落ちて中のシャツが覗いているし、袖が長過ぎるのか手が半分ほど隠れてしまっていた。そしてスカートは異様に短い。

「えぇと……ミラさんの妹さん、であってるかな?」

セラナさんの件があるので、疑問形になる。

もしかするとこの姿でミラさんの叔母だったりする可能性もあるのだ。

「あはっ。そういえば先におかーさまに逢ったんですよね? それじゃー疑うのも無理ないか。はいはーい、エリザはミラ姉の妹でーす。よろしくお願いしますね? レメ義兄さま?」

「に、義兄さま……?」

「えー? だってミラ姉の婚約者さんなんですよね? じゃあ、義兄さまで問題ないじゃないですか? 嬉しいなぁ。うち、男兄弟がいないので、憧れだったんです」

そう言って、エリザベートさんが僕の腕に絡みついてくる。

「……離れなさいエリザベート。レメさんを、貴方が普段玩具してる男の子たちと同じように出来ると思

ったら大間違いですよ」

「ミラ姉ひど~い。玩具じゃなくて、友達なのに」

「気をつけてくださいねレメさん。この子は戯れに吸血しては相手の心を掻き乱す小悪魔なので」

「悪魔じゃないよ、吸血鬼だよ」

「先に言っておきますが、レメさんの血は吸わせませんよ」

「それってミラ姉が決めることじゃなくない? レメ義兄さま次第でしょ? 可愛い 義妹(いもうと) になら、吸わせてくれますよね? ……ダメ、ですかぁ?」

うるうるした瞳で見上げられると、大変心苦しいのだが……。

「ご、ごめんね。ミラさんが嫌みたいだから……」

僕が断ると、先程までの表情が嘘だったように、「ちぇー」とつまらなそうな顔になる。

驚くべき演技派だ。

「言ったでしょう? レメさんは貴方程度に吸い取られたりはしません!」

特定の相手に血を吸わせていたのに、別の相手に吸わせるようになるのを、『吸い取られ』と言うらしい。

どこどこの旦那さんが、職場の女性に吸い取られた、というように使うそうだ。

「ふぅん? でもレメ義兄さま、エリザに吸われると普通より気持ちいいらしいですよ?」

悪戯っぽい笑顔で僕を見つめるエリザベートさん。

「んなっ! 私の牙が貴女に劣るというんですか!」

「だってミラ姉、直接吸うのはレメ義兄さまが初めてだよね? やっぱこういうのって経験が大事だからさ」

「貴女みたいなのは節操なしと言うんです!」

「えーんミラ姉がイジメる~。レメ義兄さま助けてください~」

「レメさんにくっつくなー!」

『重めのオタクちゃんが帰省したがらない理由が分かる気がするよ』

ダークが呆れたように溜め息をこぼす。

しかしこの街に来て衝撃なのだが、僕の血はそんな美味しそうな匂いがするのだろうか。

魔王城の吸血鬼さんたちには、何も言われたことがないのだが。

『そりゃ、第三層の吸血鬼は思ってても言えないでしょ。重めのオタクちゃんに八つ裂きにされたくはないだろうからね』

これがセラナさんを始めとしたご家族の冗談なのか、本当に血の匂いというものがあるのか、少し気になる僕だった。

『血に込められた栄養とか生命力とかを吸うと考えたら、相棒が美味しそうでも不思議ではないけどね』

食事はちゃんと摂っているし、身体も鍛えているので、健康ではある。

そのあたりが関係していると言われれば、納得は出来るのだが。

「こらこらエリザちゃん、レメくんが困っているでしょう?」

ほどなくして現れたセラナさんが、エリザベートさんを窘める。

「はーい」

「レメくんを吸うなら、ママの後になさい」

「あはは、はーい」

「はーい、じゃないですよ!」

「そうだぞエリザベート。お母様、私、ミラ、お前の順だ」

長女のレヴィさんも入ってきた。

「だから、レメさんは誰にも吸わせません!」

怒り過ぎてミラさんが息切れを起こしている。

「ふふふ、ミラちゃんが帰ってくると、家が賑やかになって楽しいわね」

「私はまったく楽しくありません!」

その 後(ご) の食事の時間も、とても賑やかに進んだのだった。

「ごちそうさまでした」

大変美味しい食事だった。

「そうだ、ミラ。久々に一緒に風呂でも入るか。エリザも来い」

「んー? まぁ、いっか」

「は? 私は嫌ですけど?」

「そう言うな、積もる話もあるだろう」

「魔王城の話とか聞かせてよ、ミラ姉」

「ちょっ、離しなさい……!」

「ミラさん、僕はいいから行ってきたら?」

「……レメさんが、そう言うなら」

渋々といった具合に、ミラさんが姉妹に引きづられていく。

「えぇと、じゃあ、僕は部屋に戻りますね」

三人が去って若干気まずくなった僕は、そう言って立ち上がろうとするのだが。

「レメくん。お話しましょう?」

「……はい」

浮かせた腰を下ろす。

セラナさんは、元々僕と話したがっていた。

レヴィさんとエリザベートさんは、母のためにミラさんを連れ出したのかもしれない。

「まずは、ありがとうね。あの子のわがままに付き合ってくれて」

「え?」

「付き合っているというのは、嘘なのでしょう?」