軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303◇全天祭典競技最終段階『血戦領域魔王城』25/貴方が世界で一番強くても

見えていた。

師匠から黒い影が立ち昇り、急速に広がっていくのが。

それが僕の放った『魔神の 跫音(きょうおん) 』と同じ深奥であることも、わかっていた。

魔王の角によって圧縮・純化された魔力は、それ自体が世界に干渉可能。

僕自身、『神々の焔』をこれで相殺したことがある。

つまり、防御として深奥にも有効。

これが師匠を倒しきれなかった理由だろう。

そして、同じ理由で僕も師匠の攻撃を防げる筈だった。

だがその魔力量は、あまりに桁違いで。

気づけば世界は黒に包まれ。

それが晴れた時、僕は壁面に叩きつけられていた。

壁がなかったら、一体どこまで吹き飛ばされていたのだろうか。

いやそれよりも、魔力が足りなければ、この身は崩壊を待たず消滅したに違いない。

顔を上げると、【魔王】と【勇者】を除く仲間の姿が、消えている。

退場、したのだ。

召喚に応じてくれた、頼れる仲間たちが、全員、一瞬で。

死の影、どころではない。

死の世界を、師匠は広げることが出来る。

精霊術の利点は、精霊の魔力を借りることができること。

そして精霊は、世界から魔力を汲み上げる存在。

無限ではなくとも、その魔力貯蔵量は膨大。

僕だって、サラクエルの魔力を借りたくらいだ。

だが師匠は、深奥の魔力を全て自分で賄わなければならなかった筈。

それでも使えるという驚きと、師匠であっても乱発は出来ぬ力であるという確信が同時にくる。

先程まで展開されていた『深海の揺籃』と『天空の箱庭』は既に解けており、術者の二人も倒れていた。退場はしていない。

だが二人とも、腕や半身などを失っており、全てを相殺できたわけではないようだ。

「……大丈夫かい? レメゲトン」

【六本角の魔王】アスモデウスさんが、僕の前に立っている。

まるで、庇うみたいに。事実、庇ってくれたのだろう。

何故ならば、彼女の美しき『完全鎧角』は見るも無残に崩れ去り、その身の半分も失われていた。

更には、彼女の自慢の角も五本が砕けており、残るは一本のみ。

「……何故」

「私の全力は、充分ぶつけたしね。その上であの 方(かた) に勝つにはどうすればいいかと考えた時、頭に浮かんだのが君だったんだ。だから、感謝は要らないよ。我らは最強の魔王討伐の盟友、君が勝てば私の勝ちなのだからね」

『……相棒』

ダークが何やら神妙な声を出す。彼女らしくないトーンだ。

「だが、済まないねレメゲトン。完全に守ることは出来なかった」

「そのようなこと――」

謝らなくていい。

そう言おうとして、僕は気づく。

会場の視線が、僕に集中していることに。

僕の、顔に集中していることに。

自分の手をやり、そこで気づく。

自分の仮面が(、、、、、、) 外れていることに(、、、、、、、、) 。

――衝撃で外れたのか。

いつ、このような事態が起きてもおかしくなかったのだ。

それに、永遠には隠せない。それもわかっていた。

だが、今とは。

「え? え?」「【黒魔導士】……レメ?」「ど、どういうこと?」「目が……赤い?」「あいつ魔人だったの?」「いやいやいや、生身で何度も 映像板(テレビ) 出てるじゃん、人間だろ」「じゃあなんで角が生えてんだよ」

僕の正体が判明することで、この熱狂が冷めてしまうのだけは嫌だ。

ここまで頑張ってきたみんなの戦いに水を差してしまうのだけは――。

囁きは急速に、騒動と呼べるレベルにまで変化していく。

「力隠してたってこと? じゃあ追い出されて当たり前じゃん?」「そんで魔王城に再就職してからは本気出して、自分で足引っ張ってたフェニパをボコしたってこと? 性格クソじゃね?」「いやいや、さすがになんか事情が」「事情があったら仲間に迷惑掛けていいのかよ」「でも脱退後もフェニクスとは仲いいじゃん」「あの二人幼馴染だからだろ」

今この戦いで触れてほしいのは、着目すべきは、そこではないのに。

「なぁ、思ったんだけど、高ランクの奴らがやたらとレメ上げしてたのってさ……」「あ! 正体知ってたから?」「魔王レベルの超強い【黒魔導士】って知ってたら、そりゃ評価するわな」「それより、レメゲトンがレメだったなら、色々茶番にならねぇ?」「フェニパの第十層もレイドも、知り合い同士のやらせだったとか?」「それはないっしょ」「つーか気づいちゃったんだけど、フェニクスがベヌウじゃね? この状況であれ喚ばないのおかしいって思ったんだよな」「出たよ、フェニクスの幼馴染贔屓」

『…………節穴共が』

サラクエルが聞いたこともない低い声で言う。

なるほど、この精霊なりに僕を大事に思ってくれているのは、本当のようだ。

こんな時ながら、サラクエルでも誰かの為に怒ることがあるのだな、と安堵する。

このような仕事をしている以上、批判はつきもの。

僕に関するものならば、甘んじて受け入れよう。

だが、好き嫌いと真偽は別物。

嫌いという感情は個人のものなので尊重されるべきだが、嘘を野放しには出来ない。

僕らのこれまでの戦いは、茶番などではないのだから。

しかし、ここで僕が反論をすることが、逆効果であることは明白。

そもそも今は、戦いの――。

「―― 喧しい(、、、) 」

ただ、その一言で。

世界が沈黙した。

世界最強の魔王には、それだけの力があった。

今、世界中の 映像板(テレビ) の向こう側にいる人々も、同じように黙っただろうという確信があった。

そして、突然の情報に感情先行で様々なことを口走った人たちも。

一度冷静になれば、わかる筈だ。

やらせなんてそんなこと、あるわけがないのだと。

「訊きたいんだがね、諸君。仮に、レメゲトンの実績が嘘偽りだったとしよう。そんな人間がここまで上がってこれるほど、この業界が甘いとしよう。で? そんな者を、世界最強の魔王が、敵と認めるとでも?」

アスモデウスさんの言葉が、観客席に深く突き刺さる。

あぁ、誰をどれだけ否定できても、師匠の強さだけは否定できない。

誰に媚びる必要もない、気を遣う必要もない、最強の王が、認めているのだ。

その事実を前にしては、反論するなど、この世に生きる何者にも出来やしない。

何者よりも自由で、最も強き者が、敵と認めているのだから。

これ以上純粋で、真実に近い言葉は存在しない。

どれだけの理屈と悪意を込めて僕を否定しようとも、そんなことはもう無意味になってしまった。

そんな意見、仮に空を満たすほど集めたところで、この王一人の言葉を覆す力は得られないのだ。

それをこの場にいる全員が、正しく理解した。

理解させられた、というべきか。

「馬鹿も休み休み言いたまえよ」

言葉足らずな師匠を補足するようなアスモデウスさんの声にも、反発は上がらない。

――……もしかして、師匠。

いや、と心の内で首を横に振る。

仮に師匠がわざと僕の仮面を落としたのだとしても、それはもう気遣いではない。

彼は敵と認めると言った。

ならば単に、全力の敵を叩き潰したかっただけだろう。

自分の意志で素性を隠している人は、それでまったく問題ない。

だが僕は別に、正体を隠して活動したかったわけではない。

己の力と師匠との関係などを考えて、隠した方がよいのではないかと考えただけ。

そして実際これまで、仮面の奥や鎧角が露見せぬよう、気を遣う場面も多かった。

ここから先の戦いで、僕が僅かでもそんな思考に囚われれば、それこそ興醒めだ。

ならば邪魔な仮面は破壊し、雑音も消しておく。

そんなところだろうか。そういうことに、しておけないだろうか。

「が、が、がんばれーっ!」

声が。

師匠によって沈黙を強いられた世界で、観客席から、声がした。

視線の先にいたのは、犬耳に栗色の髪をした、幼い亜人の子。

魔王軍参謀秘書、カシュだった。

彼女の側には家族と、果物屋で友人のブリッツさんもいる。

「立てレメ! 負けるな! お前、頑張ってきたじゃないか! 【黒魔導士】になっても勇者を諦めねぇで、今日までずっと頑張ってきたんだろ! もう少しだ! 頑張れ! 頑張れ!」

ブリッツさんは、まるで自分自身が戦っているかのように、大粒の汗を散らしながら応援してくれている。

「レメー! カシュを泣かせるな! まおーなんか、さっさとたおせよな!」

「れめしゃん、がんばえー!」

カシュの弟妹であるナツくんとミアちゃんの声も、しっかりと届いた。

姉のマカさんと母であるヘーゼルさんも応援の言葉を掛けてくれる。

カシュは再び大声を上げた。

「れ、レメさん……! わ、わたしっ、信じてます! レメさんが勝つって、わたしっ、だから……!」

こんな状況で声を張り上げるのは、とても勇気が要っただろうに。

初めて逢った時と同じだ。

懸命な彼女の姿を見ていると、自分ももう少し頑張ろうという気持ちが、自然と湧いてくる。

会場の空気を吹き飛ばすような熱い叫びは、それで終わりではなかった。

「参謀殿! ルキフェル殿は伝説なれど、貴殿は希望なり!」

「然り! 漢の中の漢レメゲトンがここで倒れるわけもなし!」

「そうとも!」

「ようやく体が温まってきたところではないか?」

「だなぁ! 今からが本番というものよ!」

魔王城の【人狼】のみんなだ。

その近くには、バウバウと吠える【黒妖犬】のみんな。

「女王の隣に立つ男なのだろう、魔の王くらい倒してもらわねば認められぬというもの」

「まったくね。我らが主を花嫁にしたければ、世界最強くらい獲ってみせなさいな」

「そして機嫌をよくした女王様に、我々は極上のムチを打っていただけるというわけだな」

「勝てレメゲトン! 我ら豚一同がために!」

【吸血鬼】のみんなも……。ブレないですね。

他にも【夢魔】【鳥人】【人魚】【魚人】【魔人】【龍人】と、魔王軍勤務のみんなが僕を応援してくれる。

「参謀ー! あんたがいたからダンジョンを失わずに済んだんだ! あんたがダンジョンと俺達の力を引き出してくれた!」

「そうだ! フルカス殿へのメシ代で財布は空になったが、魔王城のおかげで、参謀殿のおかげで今の俺達がある! 勝ってくれ、あんたが負けるとこなんて、見たくねぇよ!」

「潰れかけの初級勤務で馬鹿にされてた俺たちを、あんただけが諦めなかった! 俺たちも最後まであんたを諦めない! 勝ってくれ! ――レメゲトン!」

『初級・始まりのダンジョン』のゴブリン、コボルド、オークのみんな。

「レメ殿!」「レメ!」「レメ氏!」

タッグトーナメントで戦った人、祭典競技で知り合った人、【黒魔導士】パーティーのみなさん、オリジナルダンジョンを一緒に攻略した人達。

そして。

「レメ」

カナリーさんと、ホークさん。

父さんと、母さん。

僕の、四人の、親達。

僕がレメゲトンであるとすぐに気づき、それでも何も言わずに応援してくれた人々。

そうだ、僕は一人じゃない。

共に戦う仲間が倒されたって、一人きりになんかならない。

師匠、貴方の許を離れてから色んなことがありました。

辛いことも苦しいこともいっぱいあったけれど。

自分を不幸と思ったことはありません。

だって僕は、出会う人に恵まれた。

僕が人間で、でも角を持っていて。

そのことを知っていても、知らなくても。

今知った人達だっているのに。

みんな、僕を応援してくれるんです。

そういう繋がりを、持つことが出来たんです。

この人達が見ている前で、負けられない。

師匠、僕は子供の頃とは色々と変わっているけれど。

ずっと変わっていないこともあります。

それを、これから証明します。

起き上がろうとして、右足の違和感に気づく。

――あぁ、なるほど。

『完全鎧角』の内側で、右足が崩壊していた。

刻限は、しっかりと迫ってきているようだ。

短くて数秒、長くて十分とサラクエルは言っていたか。

途方も無い時間戦っていたようにも思えるが、実際のところは数分経っているかどうか。

多少不便だが、『完全鎧角』は足を覆っていた時の形状を保っているので、義足代わりにもなる。

それに、ここから先の戦いで歩く力は要らない。ただ立てれば、それでいい。

仲間のほとんどが消えたが、彼らの活躍は凄まじい。

師匠が体外に展開していた鎧角の星空を、砕き終えていたのだから。

数百人にも及ぶ【魔王】を倒したのと同じ。

彼らの戦果を誇りこそすれ、無価値だと宣う者はいないだろう。

何も無意味なんかじゃない。

師匠の前に立った全ての者の力で、確実に世界最強の魔王の力は削れてきている。

無限ではないのは、彼の魔力も同じ。

「そうだね、レメゲトン。ここまで力を消費した状態のルキフェル殿というのは、おそらく初めてのことだ。勝機はある。ただし、 全員にではない(、、、、、、、) 」

アスモデウスさんが、僕に手を差し出した。

それはまるで、踊りに誘っているようにも見えたが、違う。

彼女の手のひらの上には、膨大な魔力が球状に留められていた。

「君は至っているのだろう?」

何者のものでもない魔力を、己のものとする力。

ダンジョンコアから魔力を抽出すべく、身につけた技術だ。

【魔王】の魔力であろうと、体外に放出され、かつ認識できるほど濃ければ、確かに……。

「ですが……」

もはやレメゲトンの演技も不要。というより、今はもうレメなのだ。

「おい、これから死ぬ人間の頼みが聞けないのかね」

冗談のように言うアスモデウスさんの姿は、確かに退場寸前。

僕はそれ以上迷うのは無礼と判断。彼女の手に己の手を重ね、魔力を頂く。

「……一本分とはいえ、残る私の全魔力なのだが、容易く吸収してみせるか。恐ろしいね」

ぶわりと、アスモデウスさんの肉体が 解(ほど) けていく。

「ふふ……こんなこと、普通ダンジョンボスは言わないのだが――後は任せたよ」

確かに、ダンジョンボスは最後の敵。その 後(、) など、本来はない。

「はい、任されました」

「おい、レメゲトン」

次に僕を呼んだのは、【万天眼の魔王】パイモンさんだ。

彼は懸命に師匠に挑み続け、魔王様と並び、その魔力を大幅に削ってくれた。

だが、彼も僕同様に、師匠の深奥を間近で受けてしまった。

下半身が消失している。

それでも即退場していないのは、【魔王】の生命力によるものか。

「オレの魔力も持っていけ。ここまでやって、勝てませんでしたじゃ我慢ならないからな」

「……同じ気持ちです」

パイモンさんの魔力も貰い受け、それを最後に彼の姿が消える。

誰のものでもなくなった、つまり放出された魔力は、本人が退場しても失われない。

僕のものとしても、消えることなく力になってくれる。

「くそ……くそ、くそ、くそ……!」

魔王様の『完全鎧角』も、ボロボロになったドレスのような姿になっていた。

彼女は壁面を何度も拳で叩きながら叫びを上げ、悔しさに幼い顔を歪める。

「何故だ。何故、守るべき城を捨てたジジイがこんなにも強い! あの男も貴様も、何故簡単に捨てられる!」

魔王様は、人一倍『難攻不落の魔王城』を愛している。

ダンジョン攻略を、そこで生きる魔物たちを、配信を楽しむ視聴者たちを、慈しんでいる。

だからこそ、業界最高峰のダンジョンを捨てた祖父と父に、複雑な感情を抱いているのだろう。

自分が最も大事にしているものは、祖父と父にとっては捨てられる程度のものだったと、傷ついてきたのだろう。

僕は翼から魔力を噴出し、彼女の元へ駆けつける。

そして片膝をついた。

「魔王様」

「……レメゲトン」

仮面がなくとも、この人の前では、僕を雇ってくれた大恩人の前では、配下として振る舞うべきだ。

「一つ、お許し願いたいことが」

「……申してみよ」

「貴女様の祖父は、世界最強の魔王です。彼が王位に君臨していた期間が、『難攻不落の魔王城』の権威を確固たるものにしました」

「あぁ、わかっている、わかっているとも……! そして余はここで退場するのだ。決して攻略出来ぬダンジョンの王が負ける。そうなっては、『難攻不落』の名も堕ちよう」

「そこです」

「なに……?」

「魔王様が退場され、 続けて世界最強の(、、、、、、、、) 魔王が退場しては(、、、、、、、、) 、いよいよ『難攻不落』の名を疑う者も出てくるやもしれません」

つまり。

「それでも、 祖父君(おじぎみ) を退場させてよろしいでしょうか?」

敢えて、困ったような顔で尋ねる。

「…………ふ。ふふふ。はははっ!」

魔王様は最初こそポカンとしていたが、すぐに大声が笑い出した。

「あっはっはっは! 馬鹿者め。第十層のダンジョンボスが世界最強の魔王を倒せば、我が城の権威は墜ちるどころか天上まで昇るに決まっておろうが」

第十層の時点で、魔王殺しが控えているダンジョンということになるから。

僕は自信たっぷりに見えるよう、笑う。

「ではどうか、その役目をお任せ頂きたく」

魔王様は強い。おそらく彼女の同年代では世界最強だろう。

高位の分霊契約者でさえも倒してみせる実力を、既に有しているのだ。

ここまで上がってきたことからも、その能力は疑いようがない。

それでも、若い。まだまだこれからいくらでも強くなれる人だけれど、今日この時には、師匠を倒すのに力が熟していなかった。

なんと末恐ろしく、頼もしい上司なのか。

「あぁ、愛しき我が 魔物(こ) 、我が忠臣、我が参謀、我らが 魔物の勇者(、、、、、) よ。貴様の王が……命じる」

「なんなりと」

魔王様は笑うような泣くような顔で、己の全魔力を、僕の前に差し出す。

「最強の魔王を退場させるのだ」

「必ずや」

そして、我が王の姿も魔力粒子と消えた。

立ち上がると、三人の【勇者】がすぐ側まで来ていた。

「君たちとのレイドの経験がなければ、一人で突っ込んでいたかもしれないな」

【嵐の勇者】エアリアルさんが、笑っている。

彼は、右腕を失っていた。

レイドの最終戦で、エアリアルさんはそれまでのまとめ役から一転、単騎で侵攻を開始。

なんとか倒すことは出来たが、魔王城側の被害も甚大だった。

だが結果は結果。負けたという経験を、エアリアルさんなりに消化したのだろう。

だから、単騎での師匠への攻撃ではなく、ここに合流することを選んだ。

「……本当は、もうちょい自分でスカッと敵を倒したかったんだけど、今日は俺の日じゃないみたいだね。多分、レメさんの日なんだな」

【湖の勇者】レイスくんは、『悲嘆の氷獄』を至近距離で師匠に当てた。

その所為で師匠の反撃も近距離で防ぐことになり、左半身が失われていた。

身体から流れ出る魔力粒子が、崩壊まで間もないことを証明している。

状況が違えば、父親である【不屈の勇者】アルトリートさんと死闘を繰り広げるのは、息子であるレイスくんだったかもしれない。

他にも、大々的に活躍できる場面は沢山あっただろう。

彼もまた魔王様同様、若くして圧倒的な実力者。

今回はその力を、仲間を勝たせる為に使ってくれていたように思う。

その瞬間ごとの最善を選んだ結果、そうなっただけなのかもしれないが。

それこそが、彼の柔軟さを物語っている。

「状況は理解した。我々の時も、そう残っていない」

【炎の勇者】フェニクスもまた、間近で師匠の深奥を受けた。

その体には罅が入っており、いつ割れてもおかしくない。

「私は昔、レイドでルキフェル殿に負けていてね。同じ敵に、何度も負けるわけにはいかない。せめて、チームとして勝利しなければね」

出来ることなら、自分で勝ちたいだろうに。

精霊たちも、きっと悔しいだろうに。

それでも、笑って、僕に魔力を託してくれる。

「はい」

エアリアルさんの魔力を受け取る。

『どうやって勝つかの選択肢に余裕があれば、ね。今はもう、このまま死ぬか、相棒に託して死ぬかだから。精霊たちも分かってるよ。愛しき人の子を、敗北者にはしたくないのさ』

「俺の魔力をあげるんだから、勝ってよね。あと、お礼はパーティー加入でいいから」

レイスくんが悪戯っぽく笑う。

だが、彼の肩は悔しげに震えていた。

「ありがとう」

レイスくんの魔力を受け取る。

最後はフェニクスだ。

「我が友、我が生涯の好敵手よ、私の力も君と共に」

こいつだけは、何があっても変わらない。

田舎でガキ大将気取っていた僕が、【黒魔導士】に目覚めて将来が閉ざされたと嘲笑われても。

どういうわけか離れていかなかった、ただの、一生の友だちだ。

「あぁ、貰ってやるよ」

フェニクスの魔力を受け取る。

三人の四大精霊契約者、最後の魔力を頂戴した。

彼らの姿が魔力粒子となり、景色に溶けていき。

この赤き瞳に映るは、世界最強の魔王。

「待っていてくれたんですか――師匠」

「この儂に、敵の不意を突けとでも?」

なるほど、そのようなこと、世界最強の振る舞いではない。

最も強い生き物は、真正面から戦って一番強い者だ。

敵が悠長に話しているからといって、割って入って殴るのは、彼のやることじゃない。

それを見逃すことで、敵がどれだけ強くなろうとも。

それよりも強いということこそが、世界最強ということなのだから。

「―― 精霊よ(サラクエル) 」

『急にいっぱい呼んでくれるじゃないか、嬉しいね』

――もう一つの深奥を発動するよ。

『……え~? ちゃんと言ってくれないと分からないなぁ。「サラクエル、お前と一つになりたい」って心なし低めの声で言ってくれないと分からないかもしれないなぁ』

こんな時までセクハラまがいの発言をしないでほしい。

本気だろうが冗談だろうが、彼女はふざけ倒すのだと、もう理解したけれど。

『名案だけど、 水精霊(ショタコン) の 契約者(推し) が初めて使った時のこと、忘れた? すぐに 魔力体(アバター) が弾けて……って、今の君に言っても無駄か』

確かに、天才レイスくんでさえ、ベヌウとの戦いで用いたあの深奥に身体が深刻なダメージを負い、すぐに崩れた。

フェニクスだって、習得に時間を要したという。

だが、問題ない。

既に秘術の部分開放と精霊の加護をその身に受けていることで、崩壊は間近だ。

ここから更に崩壊の危機を抱えるくらい、なんだというのか。

『でも、神秘との同化はさせてあげられない。だから、これから少しの間、君にぴったりなものへと変わってあげよう』

そして僕は、精霊契約者だけが使える深奥を――発動する。

それは、精霊との同化。

世界でこれだけは、師匠にも使えない。

自分以外の存在と交わることで、己の存在を変質させる術だから。

孤高の魔王が唯一、至れない領域だ。

そして、僕の翼が魔力で満たされ。

師匠の顔面を、強打していた。

「――――」

師匠が吹き飛び、中空で己の翼から魔力を噴射。

即座に姿勢を制御し、こちらを見据える。

みんなの力で、辿り着いた戦場。

三人の魔王、三人の勇者、新たなる相棒、オリジナルダンジョン、魔王城のコア、そして己自身から得た魔力。

世界最強の魔王の片角による『完全鎧角』、それを受容する秘術の部分開放、『万天眼』の能力。

そして、あらゆる本霊に共通する深奥――『同化』。

今の僕は、師にも劣らぬ魔力を有した―― 生きた黒魔術(、、、、、、) だ。

僕に触れることは出来ず、敵の攻撃は肉体を通過していく。

更に、師匠が僕に触れるということは、僕の黒魔術に触れるということ。

抵抗(レジスト) しなければ黒魔術に掛かり、だが 抵抗(レジスト) すれば膨大な魔力を失うことになる。

師匠が圧縮魔力で対応する際には、こちらも圧縮魔力でこれを相殺。

残るは近距離戦のみだが、師匠の攻撃を、今の僕は透過する。

「今日、ここで、貴方を倒す」

「吠えるではないか、 小童(こわっぱ) が」

僕は、師匠が笑う顔を見たことがある。

正式に弟子と認めてくれた日。

びっくりするような優しい声で、僕の頭を撫でてくれた時。

師匠は微笑んでいたように見えたのだ。

だが、今のこれは違う。

獲物を見つけた獣のような、好敵手を見つけた狂戦士のような、好戦的なこの笑みは。

敵に向けるものだ。

それが、とても嬉しい。

師匠。

貴方が世界で一番強くても。

僕は――。