軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

274◇レイスパーティーVSジャックパーティー2/不屈の幻像

「残念だよ」

戦いが始まる直前、【十弓の勇者】ジャックさんはそう口にした。

「何が?」

我らがリーダー、【湖の勇者】レイスくんは首を傾げる。

「君は、俺と同じ目的を持っているものだと思っていた」

「……あー、それって、精霊の力を借りずに戦うってこと?」

ジャックさんの瞳にあるのは、落胆だった。

どれだけ強くとも、ジャックさんにとってレイスくんはもう、精霊と契約してしまった者。

つまり、【不屈の勇者】の姿を目指すことはできない者。

「君が現れた時、俺の胸は大きく高鳴った。彼の息子が、彼の偉大さを世に知らしめるべく現れたのだと。事実、君は精霊の力に頼らず、それでいて素晴らしい戦果を挙げていた」

レイスくんが、微妙な顔になる。

少年にとってあの過去は、精霊という仲間を蔑ろにしていた記憶だ。

だが同時に、当時のレイスくんと、今のジャックさんは、同じ目的のもと戦っていたとも言える。

「あー…… そういう感じ(、、、、、、) かぁ」

困ったように頭を掻くレイスくんを見て、ジャックさんは怪訝そうな顔をする。

「なんだ?」

「別に、誰が何を目指してようが自由だと思うけど……」

そこで、レイスくんはちらりと僕を見た。そして笑う。

「俺は、今の自分の方が好きなんだよね」

「精霊に選ばれた者を否定はしない。だが、選ばれなかった者が不当に評価される現状は、誰かが打破せねばならない。そのために、君は水精霊を一度は拒否した筈だ」

「うん、だからさ……いや、まぁいっか」

「?」

「戦えばわかるよ」

レイスくんの言葉に、ジャックさんは――微かに笑ったのか。

頷いたようにも、喉を鳴らしたようにも見える仕草もあって、判然としなかった。

「そうだな、我々は話し合うために此処まで来たわけではない」

【勇者】【戦士】【聖騎士】【魔法使い】【狩人】の、ジャックパーティー。

【勇者】【破壊者】【鉱夫】【白魔導士】【黒魔導士】の、レイスパーティー。

正統派の勇者パーティーと、新時代の勇者パーティーが、世界の注目を集める中、激突する。

ジャックパーティーは、【豪腕の重戦士】ゴライアさんと【堅固なる聖騎士】ミルドレッドさんが前衛に立ち、【必中の射手】シオさんと【七色の魔法使い】レズリーさんを護る陣形。

そして【十弓の勇者】ジャックさんは、その名の由来でもある――弓を構える。

最初の一射がくる前に、僕らも動き出していた。

飛び出したのは【鉱夫】メラニアさんと【破壊者】フランさんだ。

サイクロプスのハーフであるメラニアさんの大きな体が駆けるだけで、大地が揺れる。

彼女の装備は、これまでの試合と一部変わっていた。

武器が棍棒ではなく――斧になっているのだ。

フランさんはギリギリまで動きを読ませないよう、メラニアさんの影に隠れるようにして移動している。

「――ゴライア、任せる」

ジャックさんの短い言葉に、【豪腕の重戦士】が猛る。

「おうッ!」

メラニアさんが斧を頭上高く振り上げ、疾走の勢いそのままに振り下ろす。

これが決まれば、それだけでジャックパーティー全員が地面ごと断ち切られる軌道だ。

ジャックパーティーは動かない。その必要がないとばかりに。

その中でゴライアさんだけが斧を斜め下に構え、メラニアさんに合わせるように――振り上げた。

耳を劈くような金属音が鳴り響き、斧と斧の激突によって火花が散る。

生まれた衝撃は風を生み、ジャックパーティーやメラニアさんの衣装と髪を大きく揺らした。

それだけではない。ゴライアさんの踏みしめる大地が、打ち付けられた一撃によって大きく沈み込む。

だが、彼は無事だった。

「ウォォオオオオッ!」

獣のような雄叫びを上げる彼の筋肉が限界まで隆起する。

その威容はまるで多くの山々が連なる――連峰を思わせた。

人間の限界を超えた筋力が、その力を伝える戦斧が、半巨人メラニアの一撃を――弾く。

「えッ!?」

跳ね上がる巨大な斧に翻弄されるように、メラニアさんが数歩後ずさる。

僕らのパーティーでも、ちゃんとジャックパーティーの研究は行った。

それでも、目の前でこの剛力を体感すると驚いてしまうのもわかる。

人が、猫やうさぎに腕力で負ければ、その個体が特別だと知らされていても、やはり驚いてしまうだろう。

半巨人のメラニアさんにとって、純粋な 人間(ノーマル) に力で競り負けるというのはそれだけの衝撃なのだ。

だがゴライアさんも余裕とはいかない。

息は荒いし、顔も赤くなっている。ただ表情だけは、興奮と歓喜に震えていた。

そこに、【破壊者】フランさんが襲いかかった。

「シオ」

ジャックさんの声。

だが、【必中の射手】から返事はない。

彼の思考には今、僕の黒魔法で『空白』が挿し込まれている。

世界で最も優れた七人の射手だろうと、思考できなければ矢を射ることもできない。

そして、【堅固なる聖騎士】ミルドレッドさんがフォローのために動き出すも、その速度は異様に遅い――『速度低下』を掛けたからだ。

【七色の魔法使い】レズリーさんも、魔法発動より先に 抵抗(レジスト) 用の魔力を展開したことで、僅かに動き出しが遅れている。

「――レメ、やはり君か」

僕の名を口にしたのは、ジャックさんか。

これまでの戦いを通して、世間から僕への評価は変わりつつある。

最も顕著なのは、対戦相手たちだろう。

僕が厄介だという認識を持って、最初に狩りに来るのだ。

ジャックさんもそうだった。

メラニアさんが駆け出した頃から、既に七射。

僕の頭部を狙って彼の弓から放たれたのは、赤色の矢だ。

ジャックさんの矢は、多彩。

赤い矢は火属性。あたると火炎が飛び出す。

青い矢は水属性。あたると水刃が飛び出す。

緑の矢は風属性。あたると風刃が飛び出す。

茶色の矢は土属性。あたると土壁が飛び出す。

これらはほんの初歩に過ぎず、様々な属性だけでなく、多様な魔法が矢の形で飛来するのだ。

彼が扱う、基本十種から――【十弓の勇者】の名がついた。

僕のことはレイスくんが出した氷壁が守ってくれているのだが、恐ろしいのは矢の精度だ。

氷壁で射線を遮ってから、僕は左右に移動しているのだが、ジャックさんはまるで透視でもしているかのように、その瞬間僕の頭がある空間に、寸分のズレもなく矢を当てるのだ。

それも、レイスくんの氷壁を溶かすほどの火矢だ。

五射目で氷壁から鏃が覗き、六射目で少し遅れて貫通、七射目はレイスくんが氷壁を三重にすることでなんとか防いでくれた。

矢はそれで防いでいるが、厄介なのはそこから更に放たれる炎熱だ。

炎熱に溶かされた所為で、レイスくんは毎度毎度新たに氷壁を展開する必要があった。

長年の鍛錬の成果とはいえ、【湖の勇者】の防御を精霊術なしで突破する火力。

無論、レイスくんの方もまだまだ全力には程遠いが、それでも凄まじい魔法だ。

「レイスくん」

「わかってるよ」

こんな素晴らしい魔法を見せられたのだ、彼とて今すぐ応戦したいはず。

だが僕の作戦を守って、防御に徹してくれている。

僕は意識をフランさんに戻す。

氷壁でこちらの視界も一部遮られているが、魔力反応などと合わせて察知は可能。

「構わん! 来いッ!」

仲間のフォローが間に合わないことを悟ったゴライアさんだが、一切怯むことなく叫ぶ。

戦斧を腰に構えているのは、振り下ろしではフランさんに回避されると思ってのことか。

体の重心が普段より低いのは、フランさんの身長を考慮して横薙ぎの一閃をやや低く振るうためだろう。

これならば、仮に回避行動をとるにしても、フランさんは距離をとるか飛ぶかしかない。

もし飛んだなら、ゴライアさんほどの人ならば、戦斧を捨てて即座に追撃に移行できる。

長年の戦闘経験から咄嗟に導き出されたその動きには、迷いがない。

これに対し、かつてのフランさんであれば、正面から応じていたかもしれない。

彼女は【破壊者】だ。

とにかく強い(、、、、、、) 。

武術を修めた者のように、繰り返し同じ動きを体に叩き込んで覚えさせ、それを状況に合わせて繰り出すのとは違う。

その瞬間初めて挑戦するような動きでも難なくこなし、そしてそれは型に嵌まらない動きであることも多い。

そういったことができる肉体を持って生まれた者。

その上、彼女には【不屈の勇者】を父に持つ、冒険者志望の幼馴染がいた。

彼と共に育ったことで身につけた冒険者知識は、彼女の動きに知性まで加えるに至った。

強くなりたいと願った彼女に対し、僕とレイスくんが出したアドバイスは、それを発展させたもの。

ゴライアさんの斧の間合いに入る、その直前のことだった。

「――なッ」

フランさんは小柄な体格に不釣り合いな右の巨腕で――地面を殴りつけたのだ。

石造りのフィールドが大きく凹み、あまりの衝撃に大きくめくれ上がる。

彼女の拳を起点に左右に隆起した石塊は大きく、まるでゴライアさんを板挟みにするように跳ね上がった。

いくらなんでも出来すぎな結果。

だがこれは狙い通りだった。

これはメラニアさんとフランさんの合同作業。

メラニアさんへのアドバイスは、彼女の【鉱夫】という【 役職(ジョブ) 】を戦いに活かすこと。

彼女は、己の【 役職(ジョブ) 】を戦闘系ではないからと卑下している節があったが、それはとてももったいないことだ。

【鉱夫】の【 役職(ジョブ) 】特性は『採掘』『運搬能力』『体力』『腕力』『暗視』『空間識』などがある。

僕らが目をつけたのは『採掘』能力だ。

これは単に掘りとるのが上達しやすい、という特性ではない。

もっと総合的な適性の凝縮である。

望むものを発見し、山が崩れぬよう、それを掘り出すという、鉱夫として生き抜くための適性。

彼女が持っているのは、その――巨人版なのだ。

当然、掘り出すという作業の規模も、 人間(ノーマル) の比ではない。

メラニアさんにはわかるのだ。

一見均一に作られたように思える、魔力空間に展開されたフィールド。

その魔力の偏り、綻びとでも言うべきものが見える。

そのどこにどんな衝撃を加えれば、どうなるかが、彼女にはわかる。

山が崩れぬように掘り進める能力を利用すれば、逆に山が崩れる箇所もわかる。

その能力を発展させ、大地を望むように壊そうというわけだ。

仲間も動き回るフィールドだ、優しい彼女には壊すという選択肢はなかったのかもしれない。

特に競技の第二段階からはそれまでよりもフィールドが狭い。

けれど、それが彼女にできることなら、仲間全員で共有して、作戦に組み込めばいいだけのこと。

メラニアさんの最初の一撃は、もちろん全力ではあったが、もう一つの目的があった。

衝撃を加えるべき点を、背後を駆けるフランさんに教えるという目的が。

そして今、メラニアさんの特性とフランさんの破壊力が生んだ攻撃が、ゴライアさんを圧殺せんと迫っていた。

「【破壊者】が絡め手とはなッ! これもレメの策か!」

レイスくんが僕をブレインなどと持ち上げるものだから、何かしらの策を感じるとみんな僕の入れ知恵だと思うようだ。

ゴライアさんの指摘は正しい。そして本質をついている。

フランさんは最終的に勝利を掴む戦闘の天才だが、その強さからか力で捻じ伏せる方法をとることが多い。

レイド戦でも全天祭典競技でもそこは同じだった。

そのスタイルは格好いいものだ。だがそれだけでは、カーミラパーティーやアスモデウスパーティーのように、相手の策次第で足止めされてしまう。

高い戦闘能力を活かせなければ意味がない。

意識が破壊に向きすぎていると、【六本角の魔王】アスモデウスさんも言っていたではないか。

本能と理性の比率が、七対三、あるいは八対二というのが従来のフランさんだとすれば、授けたのはその比率を相手や状況に応じて自在に変えること。

本能強めで勝てそうならそうするし、相手が絡め手を得意とするなら自分も理性強めで戦う、といったような使い分け。

口で言うほど簡単なことではない。本来、彼女がこれからの長い長い冒険者生活をかけて培っていくもの。

だが、今は僕がいる。

彼女よりほんの少し早く生まれ、ほんの少し長く冒険者をやっていた【黒魔導士】がいる。

僕は彼女のようには動けないが、彼女の行動が付け焼き刃で終わらぬよう、知恵を貸すことができる。

左右より迫る岩板の所為で、ゴライアさんの斧の動きが阻害される。今から振り上げ、フランさんを迎撃するのは間に合わない。

だから、ゴライアさんは迷わず斧を捨てた。

「拳で迎え撃つまでッ!」

真っ向勝負となれば、僕やヨスくんのサポートは不要だろう。

その分の意識を戦場の他の箇所に向けるべき。

【魔法使い】であるレズリーさんは僕を警戒し、まずは隙のない 抵抗(レジスト) 展開を優先したことで、試合開始から三十秒と経っていないこの状況には参戦できていない。

僕への対処は必要なこと。これがなければシオさんのように、黒魔法で思考さえできない時間が生まれてしまう。

また、僕は魔力操作によって 抵抗(レジスト) の隙間を縫って魔法を当てることができる。

だからこそ、レズリーさんは丁寧に魔力を纏っているのだ。

本来、これが【黒魔導士】を仲間に入れるということ。

相手がどれだけ優れていようと、それを充分に発揮できない状態にし、仲間を支援する。

時代の変化や様々な条件が積み重なり、この時代の【黒魔導士】は冷遇されているが――弱体化とは厄介なものなのである。

そして、僕らの策によって成立した拳と拳のぶつかり合いに、決着の時が訪れる。

殴り合いなど起こらない。

一撃。

それで終結。

巨人の一撃をも跳ね返す大男・ゴライアさんの右拳と、全てを破壊する童女・フランさんの怪腕が正面から衝突する。

肉と肉、骨と骨がぶつかり合う鈍い音の直後、周囲の岩板が粉々になって吹き飛ぶ。

二人の激突の衝撃に耐えられなかったのだ。

塵風が渦巻き、しばし二人を覆い隠す。

それが晴れると、そこには。

拳を振り抜き、立っている――【破壊者】フランさんの姿だけがあった。

観客席の一部から悲鳴のような声が上がる。

巨大な飛来物が壁面に激突していた。

――ゴライアさんだ。

右腕は千切れ飛んだのか、隻腕となった彼からは魔力粒子が漏れている。

「こりゃあ……鍛え直しだな」

彼の体全体が粒子と散り、残った壁面の凹みが、衝撃の度合いを物語っている。

フランさんは、『速度低下』を受けながらもこちらに近づくミルドレッドさんを視認、即座に離脱し僕らの許へ戻ってきた。

それを阻むように、魔法の準備を整えたレズリーさんが風刃を放ったが、それはメラニアさんが斧で防ぐ。

風刃が見えたのではなくフランさんを庇うように咄嗟に斧を出したのだが、それが功を奏した形だ。

「レズリー」

一連の攻防を見ていたジャックさんが、口を開く。

「あぁ」

「シオごと 抵抗(レジスト) だ。なんといったか……レメのやっていた――」

「 完全抵抗(フルレジスト) 。構わないが、レメと同じ精度は無理だ」

「お前でもか」

「あれの特筆すべき点は、黒魔法ゆえに不可視の防御壁として成立する、という発想にある」

穴のない 抵抗(レジスト) として僕が考えた 完全抵抗(フルレジスト) は、『起動前の黒魔法』を自分の周囲に展開する、というものだ。

命令を与えた魔力は魔法になってしまうが、対象にぶつかるまで、黒魔法や白魔法は不可視の魔法式でしかない。

だから、自分の周辺に魔法式をぐるぐる回すことで、それは『魔力を展開して、他者の魔力を防ぐ』という 抵抗(レジスト) と同じ結果を生み出すことが出来る。

水や炎で己を囲めば同じ効果を得られるが、それでは視界や動きが遮られてしまう。

ただでさえ求められる技術レベルが高いので、黒魔法のように不可視かつ術者も自在に動けるというメリットでもなければ、真似する価値がない。

「ならば黒魔法でやれ」

ジャックさんの言葉は短い。

オリジナルダンジョンで【先見の魔法使い】マーリンさんがやっていたように、優れた【魔法使い】は白魔法黒魔法も扱える。

ただ、彼女でさえ不得意と評したように、やはり適性が低いようだ。

だが僕は知っている。

戦闘能力が低い【黒魔導士】に対し、剣の師【刈除騎士】フルカスは言ってくれたではないか。

才能のない人間の限界まで鍛えられている、と。

僕だけが、そんな努力を積んでいるわけではないのだ。

「……軽く言ってくれる」

眉を歪めつつ、レズリーさんの唇は少し緩んでいる。

「早くしろ」

「長くは 保(も) たないぞ」

「それでいい」

シオさんを戦線復帰させるために、レズリーさんに 完全抵抗(フルレジスト) を展開させるジャックパーティー。

レイスパーティーは戻ってきたフランさんの怪腕をヨスくんに診てもらう。

彼女は平気な顔をしているが、拳が握れぬほどのダメージを受けているようだ。

ヨスくんの白魔法で治癒してもらう。

「勝ったね、フラン」

「ん……みんなのおかげ」

レイスくんが視線は向けずに言うと、フランさんが頷いた。

相変わらず、ジャックさんの弓術は厄介だった。

レイスくんが『水刃』も交えて撃ち落としたりしているのだが、それでも氷壁まで達する矢が多い。

一度、ヨスくんの白魔法で身体能力を強化してもらったのだが、強化された僕の移動速度に合わせて、ぴったり頭部の位置へと矢が迫ってくるのだ。

その矢の雨が、やんだ。

「ミル、二人に合流して、守れ」

いまだ『速度低下』の影響下にあるミルドレッドさんが頷き、レズリーさんとシオさんのもとに向かう。

僕らは相手の思惑を理解。

完全抵抗(フルレジスト) で囲うことによって、シオさんの弓術が戦場に加わるだけではない。

『速度低下』も弾かれるわけだから、二人を護る盾役としてミルドレッドさんが機能するのだ。

レズリーさんが言ったように、彼の 完全抵抗(フルレジスト) は本職の僕のようにはいかない。

彼も魔力は凄まじいから、僕の黒魔法をしばらくは防げるだろうが、ずっとは続かない。

その短時間で、ジャックさんは充分だと考えている。

「そろそろ俺も暴れられそうかな」

レイスくんが、ぺろりと上唇を舐めた。好戦的な笑みを浮かべながら、聖剣を抜く。

ジャックさんが弓を腰に回すと、ガチャリという音と共に固定された。

腰の両側から飛び出す弓のパーツは、羽根のように見えなくもない。

直後、彼は剣を抜いた。

そう、ジャックさんは弓使いである同時に、剣士でもある。

「君たちは素晴らしいパーティーだ。だが最後に勝つのは俺たちだ。その積み重ねこそが、最高の勇者の姿を、世界に思い知らせる唯一の道なのだから」

この全天祭典競技で再び注目を集め、また一流の冒険者なら知らぬ者はいない最高の勇者――【不屈の勇者】アルトリート。

だが、それだけでは、ジャックさんは満足できないのだろう。

かつては、風精霊に愛された【嵐の勇者】の台頭によって彼の功績は霞み、世に正当に評価されなかった。

そして今回は、世界最強の名をほしいままにし、その状態で表舞台から姿を消した最高の魔王――ルキフェルが最終戦に参加するのだ。

こんな言い方はしたくないが、 またしても(、、、、、) 、アルトリートさんの名前は霞んでいる状態にある。

無知な者は『誰?』と首を傾げ、心無い者の中には『最終戦には相応しくない』と宣う者もいるくらいだ。

ジャックパーティーは証明しようとしている。

ここで勝ち、最終戦へと駒を進めることで。

世界最強を決める戦いにまで辿り着くのに、精霊の加護なんてものは必要ないのだと証明しようとしているのだ。

不屈の努力で様々な属性を使いこなし、世界の頂点に立った偉大な勇者がいたのだと、その人は本当に凄いのだと、世界に知らしめようとしている。

「熱いねジャックさん。うぅん……でも、そうか……よし。俺も気づかせてもらった側だからさ、今日はちょっと、余計なお節介を焼いちゃおうかな」

レイスくんは、ジャックさんに伝えたいことがあるようだ。

「この道を譲るつもりはない」

「譲ってくれなくていいよ、好きなように進むからさ」

二人の【勇者】が、同時に駆け出す。