軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

258◇レイスパーティーVS

僕は今、レイスパーティーとして宿泊している宿の一室で、端末の前に座っている。

数日前にフェニクスから届いたメールのことを思い出す。

『勝ったよ』と短い文面だった。

僕はなんて返信したのだったか。『そうか』とか『おめでとう』とかそんな感じだろう。

エリーパーティーは強い。とても強くて、魅力的なパーティーだ。

それでも、負けることはある。

あのパーティーの特異な点は、サポート【 役職(ジョブ) 】が勇者に不可欠な点だ。

エリーさんがやっていることを知ると、一瞬こう思ってしまう人もいるのではないか。

やっぱり、エリーさんが四人の面倒を見てるから成立している面が大きいのではないか? って。

それは違う。

エリーさんは自由な人だ。奔放で、そこが強み。

けれどそれは、自由すぎるとも言えるほどのもの。

ダンジョン攻略の基本中の基本を思い出してみると、わかりやすいかもしれない。

つまり、『なるべく固まって動く』である。

もっと言えば、『一番足の遅いメンバーに合わせて進む』ことだ。

分散や、索敵に秀でた者を先行させるなどはあくまで戦術であって、通常はパーティーで固まって攻略を進めるものなのだ。

エリーさんの多彩な精霊術と驚くほどのスピードは、縦横無尽に駆け回ることでその真価を発揮する。

彼女こそが最前衛なのだ。【狩人】や【魔法使い】の攻撃はむしろ彼女の動きを制限する要因になりかねないし、【重戦士】や【聖騎士】では遅すぎる。

彼女自身、それをよく理解している筈だ。

その上で、エリーさんは今の在り方を貫いた。

四人がエリーさんを崇拝しているように見えるが、そんな一方向の関係ではない。

一般的な勇者パーティーの構成に、『常識』という枠に、彼女を押し込んでいたら、今のように人気パーティーになっていたかは怪しい。

少なくとも、画面で動く彼女はとても窮屈そうに見えた筈だ。

あの四人だから、エリーさんという『主役』の魅力を引き出すことに力を尽くし、またエリーさんからの助けを得てステージを共に作り上げることが出来る彼らだから、エリーパーティーは今の地位にいる。

今回の敗北を経て、彼女たちはより一層強くなることだろう。

僕はそれが恐ろしくて、楽しみだった。

そんなことを考えながら 対戦相手(、、、、) の研究をしていると、画面が暗転する。

広告だ。

黒い背景。 映像板(テレビ) が一台置いてある。

ぺたぺたぺたと、二頭身の女の子が画面の端から歩いてくる。

赤い長髪に側頭部から一対の角を生やした、白いパジャマ姿の童女だ。

その子がリモコンを拾うと、 映像板(テレビ) が点く。

騒がしい音が聞こえ、女の子が興奮した様子で飛び跳ねる。

画面はだんだんとテレビに寄っていき、そこでこんな表示が出た。

『ルーシーテレビ』。

そう、魔王様の父親であるフェローさんの商会が提供なのだ。

これは全天祭典競技関連の映像を視聴出来る特設サイトの広告なのだが、商会名だけでなくロゴムービーに娘をイメージしたキャラクターを出すあたり、フェローさんらしい。

ちなみにルーシーさんはめちゃくちゃ嫌がっていたという。

映像が切り替わる。

白組一回戦、世界ランク第六位【雪白の勇者】スノーパーティーVS騎士団長率いる【正義の天秤】アストレアパーティーの一部だ。

『さぁ、今日も雪の国で遊びましょう?』

スノーさんが微笑むと、絵本に出てくるような雪の造形物が出現する。

『申し訳ないが、職務中だ』

アストレアさんに襲いかかった雪の狼が、見えない力によって押し潰される。

『休みも大切よ?』

『休養は充分にとっている』

『体だけでなく、心の話なの』

特大の『ゆきぼうや』が出現し、アストレアパーティーに倒れ掛かる――ところで再び違う映像に切り替わる。

赤組一回戦、世界ランク第四位【炎の勇者】フェニクスパーティーVS世界ランク第九十五位エリーパーティーの戦い。

スローで再生しているだろうに、それでも速すぎるフェニクスとエリーさんの攻防。

氷壁が生じ、エリーさんがベーラさんへと標的を移したところで、こちらも映像が切り替わる。

青組一回戦では我らが魔王様の姿が映り、黒組一回戦では南の魔王城君主【万天眼の魔王】パイモンパーティーVS北の魔王城君主【六本角の魔王】アスモデウスパーティーの映像が使われていた。

『お前の試験官気取りは以前より不快だった。何故この催しに参加した? 敵を潰すつもりのない者が、どうして最強になれようか』

パイモンさんは、美しすぎて男装の麗人に見えるほどの、男性だ。

五大魔王城の内、南の魔王城で頂点に立っているだけあり、当然強い。

その強さは、第一段階で世界ランク第十一位【灰燼の勇者】ガロパーティーを倒したことからも分かるだろう。

彼は実に様々な魔法属性を使いこなす。

技量も凄まじいが、そもそも魔力の捉え方が異なるらしい。

たとえば同じ『火球』でも、普通人の頭くらいの火炎が出るところを、彼が使うと一撃で家屋を灰にする威力・火力となる。

世界の本当の姿、魔法の正しい使い方が見える『眼』を持っているが故に、術の行使に一切のロスがないのだとか。

そんな彼の言葉に、アスモデウスさんは楽しげで、妖しい微笑みを返した。

『君、私に興味津々じゃないか。可愛いね』

瞬間、フィールド中央に亀裂が走り、地面が砕ける。

二人の研ぎ澄まされた魔力が激突し、その衝撃でフィールドが割れたのだ。

圧縮・純化された魔力は、ただそれだけで世界に干渉可能。

【魔王】同士の戦いでは、こういうことも起こり得るのだ。

そして、また映像が変わる。

他の一回戦の映像らを背景に流しながら、ナレーションが入る。

『全試合ノーカット! 試合映像は順次追加! 全天祭典競技を観るなら――ルーシーテレビで!』

広告が終了し、元々観ていた映像に戻る。

それが終わった頃になって、部屋の扉がノックされた。

「レメさん?」

レイスくんの声だ。

「あぁ、今行くよ」

立ち上がって、扉の前まで行く。その前にベッドに放っていたローブを拾うのも忘れない。

扉を開けると、レイスくんだけでなくフランさんもいた。

二人と共に階下へ向かう。

仲間と夕食がてら、作戦会議をする約束だったのだ。

僕らの借りている宿は、巨大な樹木の中をくり抜いたような形態をしている。

僕の部屋は 人間(ノーマル) 向けだが、ハーフサイクロプスであるメラニアさんが泊まれる部屋もあるのだ。

「研究ご苦労さま。どうだった?」

「大変だったけど、まぁなんとか。当たり前だけど、強い人ほど付け入る隙がなくて困るね」

「あはは。でもさ、レメさんは『相手が隙だと認識してない弱み』を見つけるの得意じゃん?」

レイドで、レイスくんが精霊を仲間だと気づけていなかったことを指しているのだろうか。

フランさんが同意するようにこくりと頷くのが見えた。

「それだと、僕が性格悪いみたいだなぁ」

苦笑しながら言うと、レイスくんは当たり前のように言う。

「戦いで『性格が悪い』ってのは褒め言葉じゃない?」

相手が嫌がることというのは、戦いにおいては自分たちに有利に働くことだったりすることが多い。

「まぁ、そういう面もあるか。じゃあ、褒め言葉として受け取っておこうかな」

とても強い人は沢山いるが、完璧な存在はいない。

だから確かに、隙も弱みも、無いことは無いのだろう。

それを見つけられるかとか、見つけても自分たちに突けるかとか、問題は色々あるけど。

「それにしても、レメさんって本当に緊張とかしてないんだね」

階段を下りる途中、レイスくんがそんなことを言う。

「ん? いやいや、もちろんしてるよ」

「ふぅん? でもほら、ヨスとかメラニアなんかは結構ガクガク震えてるじゃん?」

【白魔導士】ヨスくんと、【鉱夫】メラニアさん。うちのパーティーメンバーだ。

あの二人の方が、一般的な感覚を備えている気がする。

普通に過ごしていた自分が、ある日世界中が注目する祭典に参加することになったのだ。

それも順調に勝ち進み、次は【魔王】率いるパーティーと戦わなければならない。

うん、平常心でいろって言う方が無理な状況だろう。

それでも、いざ本番となればちゃんと動けるのが、あの二人の強いところだ。

レイスくんもそれを分かっているから、明るい調子で話しているのだろう。

「経験もあるのかな。一応、フェニクスたちと世界を周ったからね。緊張に慣れたというか、緊張した状態での過ごし方を学んだというか」

「もしくは、魔王相手でも揺らがないくらいに自信がついたか」

ぼそりと彼が呟いた言葉が、やけに耳に残る。

階段を下りきって、食堂へ向かう。

「……だとしたらそれは、仲間込みでの自信だと思うよ」

「あはは、それは嬉しいね」

天井の高い広々とした食堂に入ると、既に残る二人のメンバーも到着していた。

僕を含めたこの五人が、レイスパーティー。

「それじゃあ、自慢の仲間と一緒に――魔王パーティーを倒そう」

僕たちの試合日も、近づいていた。

戦うことになった魔王パーティーは――。