軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

246◇祝福と後押し(前)

【黒魔導士】の僕をパーティーに迎えてくれたレイスパーティー。

彼らと共に参加した全天祭典競技で、僕は予選に続き第一段階も突破。

あとはトーナメント方式を採ると説明のあった第二段階を勝ち抜けば、最終第三段階で師匠や【不屈の勇者】アルトリートさんたちと戦える。

順調といえるだろう。

けれど今、僕の胸には複雑な感情が渦巻いていた。

「ほんど、よかっだなぁ……!」

魔王城のある街。とある酒場。客入りは上々で、店の中央には 映像板(テレビ) が四台、四方に向けて設置されている。

店のどこにいても、どれかの画面は目に入るわけだ。

僕とブリッツさんは、一つの卓で向かい合わせに座っていた。

彼はカシュが働いていた果物屋の店主で、僕の友人でもある。目つきの鋭い 禿頭(とくとう) の巨漢で、パッと見の印象は怖そうな人だが、心優しい人だ。

最近は街を出る機会も多くお店に顔を出す頻度も減ってしまったが、今でも親交があった。

今日は僕の第一段階突破を祝ってくれるということで酒場にやってきたのだ。

彼は少し前から酔いが回ったようで、何度目と分からぬ祝いの言葉をくれる。

「ありがとうございます」

友人からの祝福は、何度であっても嬉しいものだ。

「俺ぁ嬉しいッ……! あんだけ再就職に難儀してたお前さんが、今や注目の的だ! ほんと、すげぇことだ……!」

ブリッツさんは涙ぐんでさえいる。

我が事のように喜んでくれる姿を見て、僕も胸が熱くなる。

「仲間に恵まれたおかげです」

「馬鹿! そういう時は素直に『俺、すげぇ!』でいいんだよ」

似たようなことをレイスくんにも言われたっけ。

決して自分を卑下しているわけではないのだけど、長年染み付いた感覚は簡単には抜けない。

「そう、ですね。頑張ったので、結果が出せて良かったです」

「ったく……。レメらしいけどよ」

そう言って苦笑すると、ブリッツさんは木樽ジョッキをグッと呷る。

近くの給仕さんにおかわりを頼み、それを待つ間に尋ねてきた。

「んで? ミラ嬢はどうしたんだよ?」

その質問も、二度目どころじゃない。

酔うと同じ話題が何度も繰り広げられるのは珍しくないが、この話題はちょっと……。

「今日は、来られないとのことで」

「嘘つけー。あの嬢ちゃんがお前さんより優先することがあるかよ。喧嘩でもしたか?」

「そういうわけではないんですけど……」

歯切れの悪い僕の言葉に、ブリッツさんの表情が少し真剣なものになる。

「……まぁ、真剣勝負だからこそ、勝った負けたのあとは色々あるんだろうけどよ。でもあの嬢ちゃんは自分を負かしたお前さんをスカウトしに来たくらいだ、試合後は勝利を祝ってくれそうなもんだけどな」

「あ、それははい、ブリッツさんの言う通りなんですけど……」

負けたのが僕の方でも、彼女たちの勝利を讃えただろう。

「ん?」

怪訝そうな顔をしたあと、みるみる内に彼の顔が楽しげなものへと変わっていく。

「それが問題じゃねぇんなら、顔を合わせづらい別の理由があるってことか?」

「――――! そ、そういうわけでもない、というか……」

「はっはぁ。ピンときたぜ。お前さんの余裕が崩れるのは恋愛事と決まってる。修行に明け暮れてたとかで耐性無ぇんだもんな?」

経験が無いとか言わないあたりは、彼の気遣いというか優しさか。

ブリッツさんは赤ら顔で、それでも声を潜めながら言った。

「『初めて』に失敗したか?」

僕は表情を隠すために口元に運んでいたジョッキを落としそうになる。

「なっ……! ち、違いますよ! そもそも僕らはそういう関係では……」

今度は正気を疑うような顔をされた。

「まだそんなこと言ってんのか。いや、ペースは人それぞれで良いと思うけどな?」

カーミラとの戦い、その最後を思い出す。

彼女が最後に口にしたあれだけは、それまでの『心臓』とは別の意味を持っていたと思う。

実際、あれ以来なんとなく気まずい。顔を合わせても、ミラさんがどこかよそよそしいというか。

視線が合うと目を逸らされてしまうのだ。

「俺から見ればお似合いって感じだが、何がダメなんだ?」

「彼女がダメとか、そんなことは無いです。問題は、僕の方で……」

「ん……。あぁ……あれか? 冒険者との恋は長く続かない的なやつか?」

冒険者は、世界中を旅する職業だ。

一つの場所に留まって、一人の人と長く一緒にいるということは出来ない。

長い遠距離恋愛の末に結ばれる……という美しい話もあるにはあるが、稀も稀だ。

フェニクスパーティーの男性陣は僕以外モテモテだったが、長く続いた恋人というのはいなかった筈。

いやまぁ、そういう冒険者あるあるは置いておいて。

「最近は忙しいですけど、今の僕には当てはまらないかなと」

「だなぁ……職場も同じわけだしよ」

それから、しばらく無言の時間が流れる。

悩んだ結果、僕は口を開く。

「僕は、その、天才ではないんです。その自覚があります」

ブリッツさんは静かに僕の言葉を聞いている。

「でも、夢を見てしまった。自分が凡才だと気づく前に抱いた夢を、捨てられない。それを叶えるためには、考えられる限りの努力全てでも、足りないかもしれない。最高の仲間がいても、届かないかもしれない。それでも叶えたいから、他に何が出来るかと日々考えてます。そればかり、本当に、そればかり考えていたんです」

故郷の家族が、どれだけ僕のことを案じ、応援してくれていたかにも気づかず。

普通の人が普通に経験するような、甘酸っぱかったりほろ苦かったりする恋愛に興味も示さず。

仲間からの不満が自分に集中することで、ランキングを駆け上がれるのならそれでも良いと思うほどに。

あのやり方は、健全では無かった。

【氷の勇者】ベーラさんは僕だけが悪いわけじゃないと言っていたか。僕が力を隠そうと、仲間が気づけばその時点で話し合いが出来たではないか、と。

でも、始めたのは僕だ。

「落ち込んでいる時、カシュに出会って元気づけられました。ミラさんに再会して、新しい夢の形を示してもらいました。ブリッツさんと友人になれたのも嬉しいです。本当に沢山の人と出会えて、僕は幸運だと思います。でも、僕はきっとまだまだ未熟で、人間関係なんて特に、慣れないことだらけです」

「みんなそんなもんさ」

運ばれてきたお酒のおかわりには手をつけず、ブリッツさんはきっと敢えて、なんてことのないように言った。

「そうでしょうか?」

「あぁ、酸いも甘いも知り尽くした気になってるようなやつでも、十五のガキみたいな恋愛をしたりするもんだ。最高の【黒魔導士】が、五歳に出来るようなことが出来なくてもおかしくねぇよ」

「うっ……」

確かに、『好きなものを好きと、嫌いなものを嫌いと言う』くらい単純な問題だとすれば、僕の悩みは五歳児に難なく出来ることなのだろうけど。

思った感情を、思ったままに口にする。簡単なようでいて、段々と難しくなっていくこと。

「勇気の出しどころだな」

「勇気……」

僕には、それが足りていないだけなのだろうか。

その時、店内がワッと沸いたのが分かった。

「おっ、そろそろ始まるみたいだな。どうする?」

「……この話は、また後にしましょう」

今日はこれを観るのも目的の一つなのだ。

席を立って、 映像板(テレビ) の近くに寄る客も多い。

僕らは席についたまま、それを眺める。

『今、最も世界の関心を集めているものと言えば? ――そう! 全天祭典競技です!』

『今日もその最新情報をお伝えしていきます! 今回はついに出揃った第二段階進出パーティーの紹介と、彼らの「最も戦いたい相手」の情報も!?』

特番で、進行役はウサ耳の女性と、 人間(ノーマル) の男性。

しばらく二人の会話が続き、そして本題へと映る。

『世界ランク第一位のエアリアルパーティーは一人の退場もなく第一段階を突破! 今年ランクのグッと上がった第二十四位ループパーティーや「上級・深海のダンジョン」の面々など実力者が揃った戦いでしたが、さすがの一位といったところでしょうか! 新人の【疾風の勇者】ユアン選手もチームに馴染んできたようで、鮮やかな風の精霊術を披露してくれました!』

第二位エクスパーティー、第三位ヘルヴォールパーティー、第四位フェニクスパーティー、第五位スカハパーティーも突破。世界ランク十位以内のパーティーはみな、第二段階へと駒を進めた。

第九十五位エリーパーティーや、第九十九位ニコラパーティーも。

五百あったパーティーが百パーティーまで減った。

多くの知己が突破しているのは、それだけ彼ら彼女らが強いということ。

だがもちろん、みんながみんな突破出来るわけではない。

『デビュー後から話題に事欠かない【湖の勇者】レイス選手のパーティーも、見事勝利を収めました! 彼らはこの試合「南の魔王城」にて四天王を務める【火炎の操者】アイム選手のパーティーや、「難攻不落の魔王城」四天王【吸血鬼の女王】カーミラ選手のパーティーと激突、これを撃破しています! またこの試合、メンバー全員が【黒魔導士】という異色のパーティーが登場し、その構成が話題になりました。これについてレイスパーティーの【黒魔導士】レメ選手はインタビューでこのように述べています――』

アイムパーティーやカーミラパーティーだけではない。

強い者だらけの戦いでは、強い者の中で更に勝者と敗者に分かれる。

東の魔王ベルゼビュートのパーティーが勝利し、【恋情の悪魔】シトリー率いるパーティーが敗北。

西の魔王アスタロトのパーティーが勝利し、『初級・始まりのダンジョン』の【寛大なる賢君】ロノウェパーティーが敗北。

南の魔王パイモンのパーティーが勝利し、世界ランク第十一位【灰燼の勇者】ガロパーティーが敗北。

他にも強力な魔物やランク上位の冒険者が、この第一段階で敗北を経験している。

信じがたい、という思いもある。どれだけ強い人達か、知っているから。

けれど同時に、そういうこともあると分かっている。

生涯無敗でいられる人はいない。

僕が知る限り、あの最強の魔王を除いては、そんな人物は存在しない。

『いやぁ、この第一段階も名勝負だらけでしたね!』

『こちら、冒険者組合とルーシー商会共同による特設サイトにて後日公開とのことです! 観に行けなかった! 始まりから終わりまで観たい! という方はお楽しみに!』

ルーシー商会というのは、魔王様の父でもあるフェローさんの会社だ。

娘の本名を社名にしてるあたり、彼らしい。魔王様はめちゃくちゃ嫌がっていたけれど。

『続く第二段階はトーナメント制! 百組が四つのグループに分かれ、各グループトップのみが最終段階へと進出となります……!』

最後に残るのは四パーティー計二十人。人数としては多く感じるが、最終段階に控える伝説の存在たちをを思えばどれだけいたって充分とは言えないだろう。

参加者たちに出来るのは、自分たちが挑戦者の一パーティーとなれるようトーナメントを勝ち抜くことのみ。

『それでは、次のコーナーへ行きましょう!』

『第一段階を突破した方々に、トーナメントで誰と戦いたいか尋ねてみました! どうぞ!』

映像がスタジオを映したものから、インタビュー時のものへと変わる。

本当に沢山の映像が流れた。

そしてそのうちの幾つかが、僕の心を強く揺さぶった。