軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238◇五つめのパーティー

アイムパーティーとの戦いは、僕らレイスパーティーの勝利に終わった。

【破壊者】フランさんの高い攻撃力も炎の肉体を持つ【炎の槍術士】アミーさんには中々通りにくかったが、やりづらかった点と言えばそこくらいのようだ。

敵は火属性を得意とする魔物達だったが、こちらには【湖の勇者】がいる。

属性の有利をとった我らがリーダーは瞬く間に一人を打倒し、即座に仲間のサポートへ。

アミーさんも、最後は氷漬けにされた上でフランさんの怪腕に砕かれた。

「メラニアさん、火傷を治療します」

「あっ……ありがとう。よ、ヨスくん」

サイクロプスのハーフである【鉱夫】メラニアさんが屈み、ヨスくんが火傷を白魔法で治療。

「次、お前も治してもらえよ。警戒はこっちに任せてさ」

「……ん」

レイスくんの言葉に、フランさんは小さく頷いた。

彼女の巨大な右腕は破壊力抜群な上に丈夫だが、怪我と無縁でいられるわけではない。

幼馴染に気遣いの声を掛けたリーダーは、次にちょっと無茶をした【黒魔導士】へと視線を向けた。

つまり、僕にだ。

「一人で高位の魔人を倒しちゃうとか、さすがだね」

小言の一つや二つ言ってもいいだろうに、何故かレイスくんは嬉しそうだった。

「僕が一人で彼女にあたることまで含めて、パーティー同士の戦いだったよ」

仲間がいなかったらアイムさんはより威力の高い魔法を放っていただろうし、そもそも会敵からの接近はもっと困難だっただろう。挙げていけばまだまだある。

一見して一対一でも、全員が全体を考慮して動いている以上やはりパーティー戦なのだ。

まぁ、レイスくんならそれくらい分かっているだろうけれど。

「謙虚だなぁ。魔人を任せられる【黒魔導士】ってだけで貴重どころじゃないって話なんだけど」

「……ありがとう。ただ、今回のは僕の都合だった。気をつけるよ」

弟子として、師を知る者の思いに応えたかった。

しかしこれは僕個人の都合でしかない。

と思ったのだが。

「それは違うでしょ。レメさんの都合なら、それはパーティーの都合だ。負けたがりは要らないけど、本気で勝つつもりで無茶をするなら手伝うのが仲間だ。俺にとってはね」

確かに、ろくな相談もなく動いた僕をフランさんは空へ飛ばしてくれたし、レイスくんは滑空するための氷の坂を出してくれた。

レイスくんは、そもそもが勝つ意思以外は不問で仲間を集めていた。

逆に言えば、そこさえ満たしていれば仲間として不足はない、というわけか。

元々強い子ではあったが、レイド戦以降どんどん頼もしい勇者になっていっている気がする。

「ありがとうリーダー。勝利の為に力を尽くすよ」

「知ってる」

「……治った」

僕とレイスくんの間に割り込むように、フランさんがずいっと顔を出した。

「そっか。見してみ」

「ん」

レイスくんは幼馴染の腕を確認し、頷く。

「レメさんは大丈夫ですか? かなりの規模の爆発でしたが」

ヨスくんがやってくる。

「うん、大丈夫だよ」

『頼れる相棒の聖剣があったからだなー。加護をくれたダークに感謝しないとなー』

黒ひよこが僕の頭の上でぱたぱたと翼を揺らし、アピールしてくる。

そうだね、感謝してるよ。

事実、聖剣のおかげで戦いの幅が広がった。

これまで限られた時に角で行っていたことを堂々と行えるのが良い。

これでも聖剣の中では最低限の機能しか備えていないというのだから、精霊の加護というのは凄まじい。

『それならもう少し頼れる相棒にデレても良いんじゃないの?』

でれ……?

よく分からないが、そもそも僕はまだ君を相棒と認めていないので。

ダークはまだ何か言っていたが、ヨスくんの声がしたので意識をそちらに戻す。

「……レメさんを見ていると、いつも驚かされます」

ヨスくんが言い、彼の後ろでメラニアさんがこくこくと同意するように頷いている。

「たとえ聖剣を手に入れても、普通の【黒魔導士】ならば到底使いこなせません。慣れない得物など扱いに困るだけ。けれどレメさんは以前より剣の鍛錬を積んでいたからこそ、入手してすぐに実戦レベルで聖剣を振るえている」

ヨスくんに言われて、ハッとする。

師匠に体を鍛えられていたから、フルカスさんに指導してもらったから、タッグトーナメントで剣を使った戦いを経験したから。

急に聖剣を手に入れても、ある程度使えているのだ。

無駄なことなんて何一つない、なんて格好いいことは言えないけれど。

積み重ねた努力が、ある時思わぬ形で自分を助けてくれることはある。

どうせ無駄と、諦めなくて良かった。

「レメさんってさ、なんか褒められ慣れてないよね? いいんだよ。凄いヤツはさ、『凄いね』って言われたら『だろ』って言っていいんだ」

【黒魔導士】になってからの十年で染み込んだものは、中々簡単には抜けてくれない。

今でも、僕にとって誰かに褒められることは特別で、レイスくんが言ったように当たり前のように受け入れられる日は当分来そうになかった。

「頑張ってみるよ。でも、今はそれより――」

「だね。対吸血鬼戦なら室内がいいんだろうけど」

吸血鬼の高い身体能力も、翼を生やしての飛行能力も、血の操作能力も、狭い場所では上手く活かせないだろう。

壁や天井や室内のものが邪魔になるわけだ。

「ご、ごめんなさい……大きくて……」

メラニアさんが縮こまって言う。

確かに彼女を伴って 人間(ノーマル) 規格の建物には入れないが……。

「何も悪くないよ。メラニアさんのことは、みんな頼りにしてる」

「……!」

ボッとメラニアさんが顔を赤くした。

「それに、今のは相手が普通の吸血鬼の場合だから」

【吸血鬼の女王】ともなると話が変わってくる。

そもそも魔王城の第三層で彼女は、室内で冒険者達を迎え撃つのだ。

狭所ごときで阻めるものがどれだけあるか。

「しかも暗殺者のおねーさんもいるしね」

レイスくんが少し苦い顔で言った。

そういえば、今回カーミラパーティーに所属となった【魔眼の暗殺者】ボティスとレイスくんは、レイド戦で顔を合わせている。

彼女の石化の魔眼によって石像となる寸前、【疾風の勇者】ユアンくんがレイスくんを庇ったのだ。

その後、トドメを刺される寸前で水精霊と心を通わせたレイスくんは、ボティスをギリギリのところで退場させた。

「場所の有利が取りづらいなら、こっちから攻める?」

「それもいいけど、場所を移動してから待ち構えよう。レイスくんにやってほしいことがあるんだ」

「おっ。いいよ、やろう」

ステージがどういうものかは事前に情報が得られなかったが、それでもパーティー内での作戦会議は何度も行われていた。

対戦相手は分かるのだから、対策は講じている。

「あ、あの、レメさん」

移動中、ヨスくんが言いにくそうに言う。

「なんだい?」

「その……この会場に、パーティーは全部で五つ、集まったわけで」

「あぁ……そうだね」

ヨスくんの言いたいことを理解する。

「少し前に吸血鬼たちとそのパーティーがぶつかってるんだよ」

レイスくんが言う。

僕とレイスくんには魔力反応でそれが分かっていた。

距離があるので、感知能力的に他の三人には分からなかったのだろう。

だがヨスくんが知りたいのはそこではない。そこから更に踏み込んだ話。

残る敵は二パーティーなのに、吸血鬼たちと戦うことしか想定していないようだがいいのか、ということ。

「確かに、僕としても彼らに活躍してほしいって気持ちはあるよ」

「で、ですよね……」

でも、と僕は続ける。

「僕らが戦うことになるのは、カーミラパーティーだ」

以前、レメさんにお話を伺ったことがある。

私と再会を果たす前の、再就職に苦労したお話だ。

その際に、こんなパーティーを見つけたという。

冒険者組合にて利用出来る冒険者マッチングサービス。

大陸は広いので、仲間探しも中々大変。

そこで理想の条件を入力してマッチする相手を探すわけだ。

【黒魔導士】を求める、という時点で少数派も少数派。

そこに、ヒットした者達がいたのだとか。

それこそが――【黒魔導士】による【黒魔導士】の為の【黒魔導士】パーティーだ。

既存のルールでは、【勇者】がいなければ冒険者パーティーは結成出来ない。

なので、レメさんが検索した時点でも正式なパーティーでは無かった彼ら。

この全天祭典競技は種族も【 役職(ジョブ) 】も問わずにパーティーを組める。

だからそう、【勇者】のリーダーを見つけられなかった所為で活動さえ出来ずにいた者達も、この祭典には参加可能なのだ。

五人全員が【黒魔導士】でも、祭典予選には参加可能。

彼らが、レメさんが当時見つけたのと同じ者達とは限らないけれど。

「カーミラ様」

ボティスがどこからともなく傍らに現れ、囁く。

人間の上半身に蛇の下半身を持つ女性。下半身を覆う鱗も人の肌も、おまけに長い髪も全てが白い。その目は包帯で覆われ、魔眼で敵を捉える時のみ露わになる。

「【黒魔導士】のみで結成された例のパーティーが、不意打ちを狙い潜んでいます。ご指示いただければ自分が処理いたしますが」

彼女は己の気配を殺して動くのが得意だ。今もその長所を活かして斥候を務めてくれた。

「……そう」

ボティスが敵を軽んじているとは思わない。

むしろ逆。

直属の上司にレメゲトン様を持ち、同僚に【黒き探索者】フォラスを持つ彼女は、並の魔物よりもよほど【黒魔導士】に理解があることだろう。

五人の【黒魔導士】を見た上で、一人で暗殺可能と判断したのだ。

単に勝ち負けを考えるならば、ボティスに任せるのも手だが……。

「カーミラ様?」

「聞こえていますよ。そうですね、今回はこのまま行きましょう」

「……承知いたしました」

強さを競う祭典とはいえ、これもまた一種のエンターテインメント。

吸血鬼が四人もいて、【黒魔導士】のパーティーを倒すのを暗殺者に丸投げというのは盛り上がりに欠けるだろう。

また、個人的に敵は好ましいパーティーなのだ。

【黒魔導士】でありながら自分達を諦めず、戦い方を模索し続けた者たち。

冷遇されがちな【黒魔導士】の活躍が世に広まるのは、同じ【 役職(ジョブ) 】を持つ者達にとっても希望になるだろう。

だからといって、負けるつもりは微塵もない。

敬意を表し、真正面から蹂躙するのみ。

「甘いわねボティス。おねえさ――女王様はこう仰っているのよ。 暗(、) 闇に乗じて 殺(、) す必要などない、正面から捻じ伏せてみせる、とね!」

部下たちからハゲ様の愛称で親しまれる【串刺し令嬢】ハーゲンティが言う。

私を意識しているのが丸わかりな格好だが、実力は確か。

「貴女にしては、よく私の意を汲めているわね。彼女の言う通りですよ、ボティス。貴女がいかに有能とはいえ、頼り切りというわけにもいきません」

私たちは敵が潜んでいる通りに向かって迷わず進む。

そういえば、彼以外の【黒魔導士】とまともにあたるのは初めてかもしれない。

これからあたるパーティーは、予選のルールを上手く活かして突破した。

だがこの本戦第一段階では、予選と同じ手は使えない。

彼らの真価が問われることになるだろう。

そしてこれから、私たちは彼らに現実を突きつけるのだ。