軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21◇参謀歓迎会と、童女の夢

「うわーん!」

魔王様の腰に抱きついて泣いているのは、【恋情の悪魔】シトリーさんだ。

「ごめんねぇ、ルーちゃん! シトリー負けちゃったっ……!」

そんなシトリーさんの頭を、猫にでもするように撫でるルーシーさん。

「よいよい。それに一人落としたではないか。しかも【勇者】だ。むしろよくやった」

幼女に慰められる少女という図というのは中々珍しいが、不思議と違和感は無かった。

「うぅ……あのフェニクスとかいう子、絶対におかしいよ。あんなイケメン高身長で最高ランクの精霊持ちで世界四位で魔物への敬意も忘れない人間なんて、おかしくない? 神様が『最強の 魔力体(アバター) 作ろ』って言って出来上がったのがあの子だって話されたら、シトリー信じちゃうよ」

親友が褒められて悪い気はしない。

フェニクスも最初から最強だったわけではないが、今の彼の姿を見ればそんなことを考えてしまうのも仕方ないというものだ。

結局、あいつは一撃でシトリーさんを退場させ、第五層を攻略した。

使える画が少ないこともあり、おそらく次の六層までを一回の放送で流そうとする筈だ。

攻略直後に六層を予約していったし。

「はい、レメさん。どうぞ、あーん」

横から甘い声。

ミラさんが鳥の丸焼きを切り分けたものをフォークに刺し、僕の口許に差し出していた。

右手でフォークを持ち、左手は皿のように。

絶妙な角度で首を傾けながら、「あーん」と可愛く唇を動かす。

「じ、自分で食べられますから」

「……そうですよね……私のような者にこんなことされても迷惑なだけですよね、ごめんなさい……もう二度としないのでどうか許してくださいね」

どよーんと落ち込むミラさんに、僕は一瞬で意見を翻す。

「食べます」

「嬉しい」

ミラさんも一瞬で笑顔に戻った。

分かっていても飛び込まなくてはならない罠というものがあるのだ……。

顔が赤くなるほどの恥ずかしささえ我慢すれば、なんてことはない。

美味しい筈のお肉の味が感じられないほどの緊張だって、どうってことはなかった。

さて、此処は魔王軍行きつけの食事処だ。

建物は二階建てで中央が吹き抜けになっており、一階中央には泉が作られており、水を好む亜人が中で寛いでいる。

天井には蔦が生い茂る一角や、岩肌のようなものが覗いている箇所があり、魔物に飼われる亜獣――かつて魔獣と呼ばれていた動物――の姿があった。

今日は僕の歓迎会ということで、店内は魔王軍貸し切り。

店の中には【吸血鬼】【人狼】【夢魔】【魔人】【人魚】【龍人】【鳥人】【巨人】【ダークエルフ】【スケルトン】などなど、他にも種族が分からない人まで沢山いた。

歓迎されるのは嬉しいし、こういう機会はありがたい。地道に挨拶して回るよりも早く、みなさんに覚えてもらえる。

一通り自己紹介を済ませた後、僕は二階へ進んだ。

その一角には魔王様ことルーシーさん、四天王のミラさん、アガレスさん、シトリーさん、

まだ名前を聞いていない黒騎士さんがいて、今に至る。

僕の右隣にはミラさん、左隣にはカシュがいて、他にも幾人かのフロアボスが近くで飲み食いしている。

「離れろ、【夢魔】もどき。魔王様はこれからプリンを食するところなのだ、邪魔立てするな」

「そんなのシトリーが食べさせてあげるもんね。アガレスくんうるさいよ」

「……どこの世界に仕事でミスして上司に抱きつく部下がいる。不適切だ」

「此処にいるもーん。ルーちゃん、シトリーとルーちゃんの関係って不適切なんだって。なんだかドキドキするね」

「む? いや、特には」

「あはっ、ルーちゃんにはまだ早かったかー」

シトリーはまだ敗北が尾を引いているようだったが、なんとか笑顔を作っていた。

「【夢魔】もどき……貴様」

「その『もどき』ってやめてよ。傷つくんですけど? ルーちゃあん、アガレスくんがいじめるよぅ」

猫なで声を出しながらルーシーさんに絡みつくシトリーさん。

「おーよしよし。アガレス、そう虐めてやるな。前から言っているが、仲間くらい名で呼んだらどうだ」

「そーだそーだ。それにシトリー叱るならそっち見てみなよ。就任早々ミラっちと秘書ちゃんと不適切なカンケイの子がいるんですけど?」

僕だろう、間違いなく。

カシュは先程までリスのように食べ物を頬張っては幸せそうな顔をし、「みんなにも食べさせてあげたいです」と家族を想ったりしていた。

だがミラさんのやっていることに気づくと、なにやら決意の光を瞳に宿し、一番のお気に入りらしいハンバーグを一切れ僕に差し出した。

子供の頃と言えば好きな食べ物は全部自分で食べてしまいたいものだったが、カシュは好物を人に分け与えられる子らしい。弟妹がいるそうだから、それも関係あるかもしれない。

その優しさをむげにするつもりはなかった。僕は感謝を述べそれを口にした、のだが。

そこでシトリーさんが僕らを指差したのだ。

「話しかけないでくれるかしら、今いいところなの」

「ミラっちなんかその子にだけキャラ違くない? シトリーとの仲の方が長いんだからシトリーにも優しくしてよ」

「優しいでしょう? だってほら、話をしてる」

「優しいの基準壊れてない?」

「レメさんと一緒にいる時に会話に応じるのは、貴方のことをとても大切に思っているからよシトリー」

「そ、そう?」

大切という言葉にぴくりと震えるシトリーさん。

「えぇ、大好きだからそのまま良い子にしていて頂戴ね」

「い、いいけど?」

「偉いわね」

シトリーさんは嬉しそうに笑った。

「ルーちゃん、シトリー偉いって」

「うむ……そうだな、偉いぞ」

ルーシーさんは全てを察しながらも、シトリーさんの喜びに水を差すことはしなかった。

そう言えば、シトリーさんは自分をダンジョンネームで呼ぶんだな。

「人に恋を錯覚させる魔物が、偽物の好意に騙されてどうするのだ」

「は? アガレスくんうるさいんですけど? 熟女に恋させてあげてもいいんだよ?」

「フッ、愚かな……。私は幼き者の純粋さを守護したいのであって、性欲の対象にしているわけではないと何度言えば分かる。……それはそれとして御婦人に恋愛感情を抱かせるのだけはやめてくれ」

四天王はなんだかんだ仲がいい。

アガレスさんとは先程話した。カシュの件をどこからか聞いたらしいアガレスさんは無言で僕に握手を求め、応じると「まさか参謀殿が同胞とは」と誤解をしたまま契約してくれた。

訂正したが「よいのです……隠さなくともよいのですよ」と初めて見る微笑を向けられてしまったので何も言えなくなった。

カシュに罵倒してくれとか踏んでくれとか言い出したりすれば別だが、ルーシーさんが四天王においているくらいだ、その辺の分別はしっかりしているだろう。

なのでそっとしておくことにした。

後は黒騎士さんの鎧に入っていた人物を目の当たりにしたり、ダンジョンネームをフルカスと言うことを知ったり、僕の前にあった食べ物をじーっと見ていたので渡したら一瞬で平らげた後に、「助っ人一回、一ご飯」と言われてその条件で契約したりした。

食後にうとうとしてきたカシュを家に送るべく、僕は早めに抜けることにした。

一応は主役である僕が抜けるのはひんしゅくを買うだろうかと思ったが、皆さん優しくて温かく送り出してくれた。

僕が抜けようがお酒は飲めるので気にしてない、という人も多そうだったが、心が温かくなるに越したことはない。

「ねぇ、レメくん」

シトリーさんだ。

その目許は少し腫れている。

「なんでしょう」

僕は眠そうなカシュをおんぶして、店を出るところだった。

「君、あの子倒せるの?」

フェニクスのことだろう。

「皆さんの力があれば」

「……ふぅん。でもいいの? 幼馴染なんでしょ確か。前まで一緒に一位目指してたのに、親友の一位到達を邪魔していいの?」

当然の疑問だった。

「シトリーさんが勝つ為にしたことに対して、あいつはなんて言ってました?」

「……好ましく思うとかなんとか」

「そういうヤツなんですよ。敵とか味方とか関係ない。目的の為に全力を尽くす人間に敬意を表する、そういうヤツなんです。親友だからって手心を加えるとか、敵なのに戦いたがらないとか、そんなことをしたら侮辱になる」

「へぇ……」

興味深げに、シトリーさんが僕を見上げた。

「今度話そうよ、レメくん。その時にシトリーが満足したら、契約したげる。違うか。契約しようって、シトリーが言うね」

シトリーさんは返事を待たずにルーシーさんのところに戻っていく。

帰り際にふと視線を向けると、ミラさんも僕を見ていた。

ニッコリ微笑んで、妖しく唇を動かす。

『また明日』、だろうか。

ミラさんは明日休みだ。僕も休みをもらっている。

そう、以前約束したお出かけの日なのだ。

僕は頷いて、店を後にした。

夜の街を歩く。

「レメしゃん……」

眠気にとろけたカシュの声が、僕の耳に掛かる。

「うん」

「わたし……しょうらい、まものになる……なりたい、です」

背中のカシュが温かい。子供って体温高いんだなぁ。

「そうなの?」

「さっき、きめました」

「そうなんだ」

カシュは今八歳。【 役職(ジョブ) 】が分かるのは十歳だ。

将来を決めるには早い、なんて僕が言えることじゃない。

物心ついた頃には【勇者】に夢中で、【黒魔導士】になった後も諦めなかった男が何をアドバイス出来るというのだ。

「それで……レメさんに、おねがいがあるのです」

「僕に? 秘書を続けてくれるっていうなら、大歓迎だけど」

もちろん夢が出来て、それを追うというのなら応援する。

「レメさんの、ゆびわ。けーやくして、その……なかまに、なる、もの。ですよね」

「そうだね。ルーシーさんに貰ったんだ。魔力は必要なんだけど、遠くにいる人でも、すぐに助けに来てもらえる」

カシュは僕のうなじのあたりに、自分の額をこすりつけた。

「わたし、まだこどもなので。おやくにたてないです」

「そんなことないよ、助かってる」

カシュは既に魔王城の人々に受け入れられ、可愛がられている。僕の仕事を手伝う中で、みんな彼女の健気さに心打たれたようだ。

「ゆびわ、ななじゅうに、ですよね」

「うん。七十二人の人に、助けてもらえる指輪だよ」

「……おねがいが、あるのです」

もう一度、カシュはそう言った。

「聞かせてくれるかな」

応えまでは、結構間が空いたと思う。

「わたしが大人になって……レメさんをたすけられるようになるまで……」

「うん」

「ななじゅういち、で、けーやくをストップしてほしい、です」

ミラさんのように、一番目の魔物にしてほしいというのとは逆。

いつか成長して共に戦えるようになるから、最後の枠はとっておいてほしいと言っている。

カシュはそれを、とても大きなわがままだと思っているらしい。

不安からか体が震えていた。

「だめ……ですか?」

だから僕は、敢えて軽く答える。

「あぁ、それはいいね」

「……っ」

「人生の楽しみが一つ増えたよ」

「え、え、レメさん? あの、その、えと」

「最後の契約者はカシュに予約だね」

「――~~~~っ。い、いいんですか?」

「もちろん」

ぎゅうっと、彼女が僕の首に抱きつく。

苦しくない程度の力だ。

「……がんばるので」

ぼそりと、彼女が呟いた。

「うん」

「わたしは……レメさんと……けーやく、する……です」

「そうだね」

そのまま彼女の家に向かって歩き続ける。出勤初日の帰りに送って行ったので、場所は把握していた。

「……すぅ……すぅ」

彼女の寝息を聞きながら、僕は足を動かし続けた。