軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

216◇全天祭典競技

大きな会場だ。アーティストやアイドルのライブなど、イベントごとで使用される。

客の入りは上々どころか、超満員。

僕らは主催者に誘われ、最前列に通してもらった。

『詳細は秘密』なこのイベントが、それでもこんなに人を集めるのは――ゲストの効果だろう。

明らかにされた冒険者や魔物はいずれも有名どころ。

世界中に数え切れないくらいのファンを抱える彼ら彼女らが集まり何かやるらしい……というだけで、気になる人は大勢いる。

『難攻不落の魔王城』から見に来たのは、その魔王と四天王と参謀とその秘書だ。

魔王様の両脇をアガレスさんとミラさんが固め、アガレスさんの横にフルカスさん、ミラさんの横に僕がいる。シトリーさんはフルカスさんの横だ。

シトリーさん、フルカスさん、アガレスさん、魔王様、ミラさん、僕、カシュという並び。

「ちっ、何故余と愛しき配下が、あのような男の誘いを受けねばならんのだ」

魔王様は座席の上で足を組み、ご立腹の様子。

灼熱を思わせる長髪に、同色の瞳。そして黒い両角。

ちなみに今日の髪型はツインテールだった。加えてワンピース姿なものだから、彼女の小さな体と相まって可憐な幼女にしか見えないが、魔王城の主である。

我らが王がお怒りなのは、その主催者が――フェローさんだからだ。

魔物が悪というダンジョン攻略の認識を変えるため、新競技の確立とダンジョン攻略の廃止を目論む――魔王様の父。

それはつまり、僕の師の息子ということでもある。

アガレスさんとミラさんがなんとか魔王様を宥めていると、会場の照明が落ちた。

代わりに会場奥に設けられたステージだけが、眩い光に照らされる。

僕の右側では、わくわくした様子のカシュの耳が、ぴくっと動いた。暗くなって少し不安になったのか、僕の服の袖をちょこんと掴んでいる。

左側では、照明の変化に合わせるように、ミラさんが僕の手に自分の手を絡ませた。

上目遣いに向けられた視線は、あらゆる抵抗の意思を溶かす魔性の魅力を放っている。

『世界に平和が訪れて以降、大陸に熱狂を届け続けてきた――ダンジョン攻略』

「あら、マルさんの声ですね」

ミラさんが小さく呟く。

会場に響く声は確かに、第三位パーティーの【召喚士】マルグレットさんのものだった。

僕らにとっては、少し前オリジナルダンジョン攻略で共に戦った仲間でもある。

ステージ背後には巨大スクリーンがあり、そこに映像が映し出される。

数々の冒険者の攻略映像を組み合わせたものだった。

既に高まった観客から「おぉ……」と声が漏れる。

『しかし、貴方はこう思われたことがありませんか? あの冒険者とあの冒険者が戦ったらどうなるのだろう? あの魔物とあの魔物は、どちらの方が強いのだろう?』

ランク上位の冒険者がパッパッパッと映し出され、次は高難度ダンジョンで有名な魔物たちが映し出される。

魔王城の四天王や僕も映った。魔王様はレイド戦で一瞬出現しただけだが、ばっちり映っていた。

僕レメゲトンが映った瞬間、カシュが目を輝かせて僕を見た。僕は微笑んで頷く。

『――あるいは、こういった想像をされたことは? 歴代一位の中で最も優秀なパーティーはどこどこだ、というもの。最強の魔物は誰々だ、というもの』

【不屈の勇者】アルトリートさんや【嵐の勇者】エアリアルさんを含む映像のあと、師匠や過去冒険者を大きく苦しめた猛者の姿が連続する。

気づけば僕は、スクリーンから目が離せなくなっていた。

『最終的に、我々は必ず一度はこう考えます――結局、 一番強いのは(、、、、、、) 誰なのだろう(、、、、、、) 、と』

会場中が息を呑むのが、分かった。

『 それを決めましょう(、、、、、、、、、) 』

しゅうう、と煙がステージの床から噴き出す。

それが消えた時、僕らは夢を見た。

違う。

夢のような光景を、見た。

『この時代の最強を決定する祭典、その開催を此処に宣言いたします……!』

煙の中から、現れたのは――。

『「幻の第一位パーティー」【不屈の勇者】アルトリート率いるアルトリートパーティー!』

『「圧倒的第一位パーティー」【嵐の勇者】エアリアル率いるエアリアルパーティー!』

『そしてなんと、生ける伝説にして長きに亘り消息を絶っていた「無敗の絶対君主」【魔王】ルキフェル! 更には、かつて彼に仕えた魔物の方々まで……!』

師匠だ。

師匠がいる。

え?

え?

え??????

魔力反応を完璧に隠匿していたことについては驚かない。師匠だし。

エアリアルパーティーやアルトリートパーティーの参加なんて、高まるどころではない。

でも、あの、師匠、あの……。

僕、何も聞いてないんですけど……。

いや、別に弟子の許可なんて要らないのだろうけど。

師匠はこちらを見もしない。

少し遅れて、僕は魔王様を見た。

魔王ルーシーもまた、僕を見ていた。

互いに首をぶんぶんと横に振る。

弟子だけでなく孫にも何も言っていなかったらしい。

「あ、あの男どのようにお祖父様を……っ。くっ、行くぞ」

それだけで、魔王軍幹部は頷き、立ち上がった魔王様についていく。

カシュはよく分からないまま、ちょっと慌てて、僕が差し出した手をぎゅっと握ってついてくる。

観客は既に全員立ち上がって歓声を上げていた。

事前に公開されたゲスト情報だと、ここに第二位エクスパーティー、第三位ヘルヴォールパーティー、第四位フェニクスパーティー、第五位スカハパーティーや他の上位陣も来ることになっている。

普段はあまりに多忙で、それこそレイド戦レベルの仕事でなければ、一流のパーティーは集まれないものだ。

だが、この企画の内容を思えば、誰もが全ての仕事を蹴って集まることだろう。蹴られた側もまったく気にせず、一視聴者として楽しみで仕方なくなるのではないか。

関係者用の通用口を抜けると、スーツ姿の女性が待ち受けていた。

慇懃に一礼した女性には二本の角――魔人だ。

「お久しぶりにございます、お嬢様」

「……イルーネか」

聞けば、今も昔もフェローさんの秘書なのだとか。

「再びお嬢様とお逢いすることができ、イルーネは嬉しゅうございます」

「用件を言え」

「昔はまるで姉のように慕ってくれましたのに……」

「貴様があの男と共に消えるまではな。用件はなんだ」

イルーネさんは一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに説明する。

「旦那様のご指示で、衣装のご用意ができております」

「ちっ……計算ずくか。いいだろう、案内しろ」

「こちらへ」

僕らもついていく。

「あ、あの……レメさん」

カシュの不安げな顔。僕は安心させるように笑ってから、話す。

魔王様とお父さんはちょっと仲がよくない。

多分お父さんはステージに今の魔王軍も出てほしかったけど、普通に頼んだら断られてしまうと思った。

でも、冒険者側がかつての一位と今の一位を登場させ、魔物側からかつての魔王軍が出た。

なのに今の魔王軍がいないというのは、格好がつかないというもの。

魔王様はすぐにみんなとステージに行こうと考え――その場合、軽い変装で正体を隠すくらいしか出来なかっただろう――お父さんはそうなると分かっていたから魔物用の衣装を用意していた。

「な、なるほど……ですっ!」

まぁフェローさんが娘へのサプライズとして伏せていた可能性もある。

いくら不仲といっても、師匠の話を聞けば魔王様はステージに上がる方向に傾いただろうし。

……大いに有り得るなぁ。

男女に分かれて着替え、イルーネさん案内のもとステージ脇へと急ぐ。

衣装はデザインだけでなくサイズ感もぴったりで、そこがちょっと不気味だった。

フェローさんの情報収集能力、恐るべし。

「ふーちゃん平気? さっきあそこにいたのって……」

「ん。問題ない」

シトリーさんの気遣うような声に、フルカスさんはいつも変わらない平坦な声で応じる。

そう、先代【 刈除(かりそく) 騎士】フルカスもまた、師匠と共にステージに立っていた。

鎧と槍を当代に託して引退したという、元魔王軍四天王。

……ちなみにフルカスさんは現在、鎧に搭乗する際に着用する専用の衣装に身を包んでいる。

体のラインがくっきりと分かるぴちっとした衣装で、ワンピースタイプの水着に似ている。

太もも付近までを覆う長い靴下も履いていて、普段よりもむしろ肌の露出度は下がっている筈なのに、つい気になってしまう。

と、その瞬間、着心地が気になったのかフルカスさんが生地と肌の間に指を入れ、生地を伸ばし、ぱちっと離した。それが臀部付近だったもので、なんだか見てはいけないものを見てしまったような、罪悪感っぽい感情が胸中に渦巻く。

「こ、こほんっ。む、胸の部分がキツいですね……」

若干わざとらしい口調でミラさんが言う。

しかしその言葉に、僕の意識は彼女の示した場所へと向いてしまう。

すぐに逸らそうとするが、その僅かな間にカーミラの扇情的な衣装が目に焼き付けられる。

胸を支えるベルト状の部分をくいっくいっとアピールするように弄ってた所為で……いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

「時を弁えろ、吸血鬼」

「なっ、くっ……言い返せません……!」

アガレスさんの冷たい視線に、カーミラが悔しそうな表情をしつつ赤面する。

「師の尻に邪な視線を向ける弟子には、あとで仕置きが必要」

フルカスさんのジトッとした視線が僕に突き刺さる。

「えっ……いや……あの……すみません」

「冗談。気にしない」

「ねぇねぇレ……参謀くん。シトリーも見ていいよ? 今日も抜群に可愛いと思うんだよね」

シトリーさんの魔物衣装は、第五層が夢魔のメイド喫茶という個性的なコンセプトのため、メイド服をイメージしたものとなっている。

メイドといえば『初級・始まりのダンジョン』に勤務するケンタウロスの【狩人】ケイさんもだが、あちらのキチッとしたものとは違う。

なんといえばいいのだろう、可愛さ特化の改造? リボンやハートの装飾がちりばめられていたり、衣装に意図的な隙間が設けられていて……ところどころ肌が見えるのだ。

今日も二つに結われたピンクの毛髪は、ふわりと巻かれている。

レースのあしらわれたカチューシャの中央付近からは、ハート型に見えなくもないクセっ毛が伸び、猫っぽい生き物を模した髪飾りも着用している。

もちろん夢魔の種族的特徴である角、翼、尻尾も健在。

「ふ、二人共? あまりレメゲトン様をからかわないように」

「貴様もな」

「アガレス、貴方は少し黙っていなさい」

頬をひくつかせるカーミラと、なんだかしょぼんとした様子のカシュ。

そういえば……と思い、僕は彼女に「今日のその服、似合っているね」と伝える。

イベントごとということで、カシュは新しい服を着てきたのだ。

「あっ、ありがとうございますっ……!」

にぱぁっ、とカシュの顔に笑みが浮かぶのを見て、僕はほっと胸を撫で下ろす。

やはりカシュは笑顔の方が似合う。

そんな僕らのやりとりを見て、それまで思案顔だった魔王様が――明るく笑う。

「ふっ……ははは! さすがは余の配下だ。あれほどの敵を前にして、些かも動じた様子がない。貴様らと此処に来られたことを、誇りに思うぞ」

「ハッ……! もったいなきお言葉!」

アガレスさんが片膝をついて頭を下げたが、魔王様含めみんなはそのまま歩き続けた。

「貴様は大げさなのだ、アガレス。さっさと来い」

「御意に!」

魔王様の一歩後ろに『空間移動』するアガレスさん。

「レメゲトンよ」

「はい」

「分かっているな?」

「――……はい」

さすがは魔王様と言うべきか、見抜かれていたようだ。

どうにも、僕は上手く頭が切り替えられていない。

フルカスさんの格好だって、初めて見るわけじゃないのに。

カーミラも、シトリーさんのもだ。

頭が戦闘用に切り替わっていれば、集中していれば、たとえ相手が全裸だろうが動じずにいられただろう。対戦相手なら冷静にその意図や利点について考えを巡らせた筈だ。

魔王様は、ステージにいた者達を敵と言った。

そう。

敵、ということになる。

全ての冒険者の頂点、エアリアルパーティーをはじめとした今を生きる冒険者たち。

かつて 映像板(テレビ) や端末に張り付いて活躍を楽しみにしていた、アルトリートパーティーを含む伝説の冒険者たち。

同じように、各地のダンジョンで活躍中、あるいは過去活躍した魔物たち。

彼らを敵と思うことに、対戦相手と捉えることに、問題はない。

僕は冒険者であり、魔物でもあるから。

けれど、うん、認めよう。

僕にとって師匠は、そういった枠の中に含まれる人ではないのだ。

もちろん、最強の魔王という認識はある。エアリアルさんを含む実力者を第一層に出て撃退したレイド戦の映像は、僕だって観た。

けど、僕にとって師匠は……師匠なのだ。

同僚になってから、剣を学んだフルカスさんとはまた違う。

僕を鍛えてくれた、僕に黒魔術を、己の角を与えてくれた大恩ある人なのだ。

僕は世界一位を目指していた。もちろん、魔王城の踏破も想像したことがある。

だが、これだけは、実はないのだ。

自分と師匠が戦い、自分が勝つという妄想だけは、したことがない。

誰よりも知ってるなんて言えないが、誰よりも間近で師事してきたから。

思えば師を越えていくとか、むしろ健全な思考かもしれない。業界によっては、師よりも大きく活躍することを恩返しなんて言ったりするそうだ。

でも――。

「あの場にいた者全てが求めていることを考えろ、それだけで済む」

「――――」

魔王様の言葉に、ハッとする。

そうだ。

あの師匠だぞ。

興味のない催しに参加なんてするわけがない。

師匠だけじゃない。あの場にいた人も、これからステージに現れるみんなも、同じ。

求めるのは――強敵との激闘と、最強の証明。

分かりきったことを、師匠はわざわざ確認しない。時間を掛けて弱者を潰すなど彼のやり方じゃない。

では、いるのか。

最強を証明する必要があると、彼に思わせる敵が。

ぼうっ、と。

心に火の点く音がした。

――誰だか知らないけど、負けたくないな。

その人に勝てば、僕でも――師匠の敵になれるだろうか。

「いい顔になった」

満足げな魔王様の声。

「仮面、付けてますよ」

冗談を言えるくらいの落ち着きを取り戻す。

「ふっ」

魔王様は小さく笑ったあとで、真剣な雰囲気を纏う。

「どのような企みであろうと、こうなった以上不参加は有り得ん。最も強い者達を決めるというのであれば、頂点に立つのは余の魔王軍をおいて他にない」

王の後ろに続く僕らは、ただ心の中で頷く。みんな、同じ気持ちを共有していると分かる。

「――征くぞ」

ステージ袖まで来た僕らを遮る者はいなかった。

舞台裏で働く人達も、まるで想定していたみたいに道を開けてくれる。

――フェローさんから指示があったのかな。

カシュはここまでだ。

グッと両拳を胸の前で握り、口の動きだけで「がんばってください……っ」と応援してくれる。

僕は彼女の頭を一度撫で、それからステージへ向かう。

ルール説明の途中みたいだ。

最初の三組? 以外はまだ誰も出てきていない。

『この全天祭典競技はまさに――っ!? 今、ステージ上に予定外のゲストが現れました……!』

どうやら、この世紀の大イベントは全天祭典競技というらしい。

祭典は比喩だろうか……そうでもなければ、【 役職(ジョブ) 】を告げてくれる神様にでも捧げる儀式、という形なのかもしれない。

どちらにしろ、感謝せねばならないだろう。

僕がこれまで関った実力者達も、そうでない強者も、一つの戦いの場に集まる。

こんな機会、そうそう得られない。

これが、ダンジョン攻略を廃止するためのフェローさんの一手なのだとしても。

勝った上で、ダンジョン攻略の存続する道を探るまでだ。

『これは――「聖剣砕き」【魔王】ルシファーです! 彼女の背後には現魔王軍四天王と参謀の姿が……! こ、これは凄まじいことになりました! この祭典、一体どうなってしまうのでしょうか!』

マルさん、大分ノリノリだなぁ。

僕らの姿はレイド戦もあって、知ってる人も多いのだろう。

会場は大盛り上がり。

師匠が近くにいる。

十三で村を出てから逢っていないから、七年以上ぶりだ。

きっとこの会場から出たら、観客のみんなが色んな感想を世に流すだろう。

その中には、師匠の右角が失われていることもトップに挙げられるに違いない。

誰が継いだのか、様々な憶測が飛び交うと想像出来る。

弟子が、師を越えることが恩返しなら。

師を失望させることは、最もやってはいけない裏切りだと思う。

最強の魔王の角を継がせたことが、失敗だったなんて、絶対に思わせない。

映像板(テレビ) に父が映っている。

「見ろフラン、父さんとみんなが映ってる。わぁ、みんな老けたなぁ」

パーティー解散後もみんな仲はよくて、ちょくちょく家にも顔を出していた。

しかし改めてパーティーとして揃っているところもみると、老けたなと思う。

「レイス、嬉しそう」

幼馴染のフランがそんなことを言う。

【湖の勇者】レイスにとっては、頼りになる仲間の一人でもある。

異形の右腕を抱えて生まれた【破壊者】にして、最高に格好良くて可愛い女の子だ。

「そりゃ嬉しいさ。おじさんには感謝しないとな。父さんとみんなを説得してくれてどーもってさ」

俺は今、とある街、とある人物の家に来ていた。

「フェローどの」

「そうそう、その人。本当にありがたいよ、レイド戦に続いて、こんな機会までくれるんだから。パーティーお披露目にピッタリじゃん――メラニアもそう思わない?」

「……! うっ……あ……思い……ます」

俺達がいるのは、全体的にサイズ感のデカイ家だった。

人間(ノーマル) の数が一番多いとはいえ、今は共存の時代。

人間(ノーマル) だけの村は珍しくないが、都市ともなると様々な種族に対応した施設があるものだ。この家もその一つ。

大きい亜人用の住居だ。

彼女は俺のパーティーメンバー。種族はサイクロプスだが、ハーフらしく巨人にしては背丈が低い。 人間(ノーマル) 基準だと、それでも相当大きいのだけど。

森を思わせる緑のふわふわした髪で隠れ気味だが、その奥には種族的特徴である一つ目が見える。

「……その……参加するん……ですね」

「もちろん。一緒に勝ちまくろうぜ」

「……! ……あい……はいっ……頑張り、ます……」

メラニアは自信なさげというか控えめな性格だが、実力は確か。

なによりも、彼女自身の意思で俺達のメンバー募集に応募してきたのだ。

「お前もよろしくな―― ヨス(、、) 」

背の高い白髪の青年【白魔導士】が、湯気を立てるマグカップを持って、リビングに現れた。

「力を尽くすと約束するよ。それより、最後の一人は本当にあの人にするつもりかい?」

「それも、もちろん。少なくとも今回は、臨時扱いでもなんでも入ってもらうし、入ってくれると思うよ。五人目は――レメさんだ」

そう言うと、ヨスは嬉しそうに表情を綻ばせた。

「そうなると良い」

「あ、そう言えばレメさんと一緒に戦ったんだって? ずるいなぁ」

「あはは、とても良い経験だったよ」

「……出てきた」

フランがくいっと俺の腕を引っ張る。

なんだか最近、レメさんの話をすると頬を膨らませるのだ。

映像板(テレビ) に視線を戻すと、現魔王軍がステージに現れたところだった。

「ボクらも出るよね?」

「もちろんだ。参加希望者全員に予選参加のチャンスがある。目玉である一部のレジェンドはいわゆる『ボス』扱いらしいがな」

部屋ごとに 映像板(テレビ) のある宿の一室。

ボク達ニコラパーティーは今、兄である【金剛の勇者】フィリップの部屋に集まっていた。

「ふふ、いいじゃん! お祭り感あって、こういうの好きー」

【盗賊】レイラが楽しげに言う。

「【鉄壁の勇者】も出るんじゃないの? フィル、貴方確か好きだったでしょう?」

【妖精】ルリは兄さんの肩に乗って小さな足をぷらぷら揺らしながら言う。

「……私も聞いたことがある、憧れなのだと話していた」

【清白騎士】のマルクも言った。

「そうだが、この祭典において重要なのは『ボス』との戦いまで残ることだ。最終戦に近づくほどに世間の関心が高まることだろう。活躍次第で来年の大幅ランクアップも狙える」

兄さんらしい言い方に、ボクらは苦笑する。

ルリだけが「そういうところ、好きよ」と微笑んでいた。

「でも、そうだね。勝って勝って、勝ち続ければいい。シンプルだ」

そしてもし叶うなら、レメさん……レメゲトンかな。

貴方とまた一緒に戦いたいし……貴方と競いたいな。

「ブタ主、これはわたくし達のダンジョン使うのよね?」

執務室で 映像板(テレビ) を観ていると、メイド姿の幼馴染が言った。

生中継ではなく、ニュースで流れる概要をまとめた映像だ。

「魔力空間を貸す契約はしてるからね。一応、足りなくなったらその都度向こうが特大魔石を用意するらしいよ。あとブタ主はやめて……」

「契約書に向こうが使用出来る魔力量について定めてあるから、そうでしょうね。わたくしが確認したのだもの、覚えているに決まっているでしょう。あなたなら見落としていたに違いないけれど、なにせ危うくダンジョンを奪われそうになった男なのだし」

「グッ、それは言わないで……」

かつて僕は経営不振に悩み、そこでお金を貸してくれたフェローさんを疑わず契約書にサインしたことで、危うく祖母から継いだダンジョンを失いかけた。

そこを救ってくれたのが魔王城のみなさん、特に参謀とフルカス殿だ。

「基本的にはパーティー単位……タッグトーナメントと同じで種族問わず結成してもいい……あの男らしい企画ね。あら、でもこれだと、今の魔王軍は……」

「あっ、魔王様をリーダーに組むなら、四天王と参謀から一人余るね」

パーティー単位というからには、五人制限があるのだろう。

エンターテインメント性を保つとなると、様々な試行錯誤の上で導き出された五人体制を崩すのは得策ではない。

「まぁ、他のフロアボスや強力な魔物も大勢いることだし、彼には冒険者として参加するという選択肢もあるけれど……それよりも」

「ん?」

「わたくし達も参加しましょう」

「えっ……!? で、でもさ……沢山人が街に来るわけで、『全レベル対応』ダンジョンとしては稼ぎ時でもあると思うんだけど」

「そんなもの、わたくし達が参加する日だけダンジョンを閉めればよい話でしょう。そもそもあなたはフロアボスでわたくしだって基本は最深部勤務なのよ? 予定の調整は難しくないわ」

確かにこれが第一層だと急な予約もあったりするわけだが、最深部なら事前に攻略を進めている者達のことが分かるので、その分予定を組みやすい。

「な、なるほど……」

「あなた、悔しくはないの? レイド戦以降更に挑戦者が増えたけれど、それもレメ様が召喚して下さったおかげ。彼はそんなふうには決して思っていないだろうけれど、恩義が積み重なるばかりだわ」

「!」

確かに、その通りだ。

彼に力を貸したくてレイド戦に参加したし、役に立たなかったとは思わない。

僕も仲間達も、精一杯やった。

だが、恩を返しきれたとは、到底思えなかった。

僕は意識を改め、幼馴染を見つめる。

「そうだね。僕たちが僕たち自身の力で勝ち進んで、お客さんを増やして、『あんな強いやつらと契約してるレメゲトンはやっぱすごい』って、観ている人に思わせるくらいしないといけないね」

ケイは、満足げにふっと笑った。

「見つめないで頂戴、気持ちが悪いから」

「君はほんと酷いな……!?」

しかし、それが素直じゃない幼馴染の照れ隠しだと、付き合いの長い僕には分かるのだった。

……照れ隠し、だよね?

「へぇ、楽しそうなこと考えるじゃない」

アタシは湯船に浸かりながら、浴室に設けられた 映像板(テレビ) を観ている。

レイド戦参加以後、アタシ達エリーパーティーの注目は高まった。

冒険者のくせに魔物に手を貸すなんて……という戯言もあったけれど、雑音は無視するに限る。

レイド戦は楽しかった。

レン……レメゲトンという面白い男とも出逢えたし。

これもまた、楽しそうだ。

自分の輝ける舞台は、多ければ多いほどいい。

「次にアナタと逢う時、アタシ達は敵か味方、どちらかしらね?」

まだまだ謎の多い祭典だ、何が起こるか分からない。

願わくば、どちらも経験出来ますように。

きっと、その方が楽しいから。