軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

200◇最も良い

シトリーさんの 魅了(チャーム) が効いているようで、ぼうっとした様子の雪男達は次々打ち倒されていく。

だが雪男は次から次へと湧いてくる。洞窟内には横穴があり、そこからどんどん出てくるのだ。

このメンバーなら対応は出来るが、普通のダンジョンとは違う。

職員に明確な限りがあるダンジョンではなく、大自然の魔力で作られたモンスターはほぼ無尽蔵に出現し得る。

クラーケンやヒュドラの再生能力も含めて考えると――。

「まともに付き合ったらダメだ」

「あぁ、こんな入口で消耗するのも馬鹿らしい」

僕の呟きに、マーリンさんが頷く。

僕らの目的は第三層の調査だが、第四層に続く通路にセーフルームを築くのも目的の一つだ。

こんな浅い場所で消耗するのは好ましくない。

これがフロアボス戦なら力を出し尽くしての勝利でもいいが、そういう戦いでもないのだ。

「うちのリーダーもすぐ気付くだろうが、ひとまず異形の龍退治はあちらに任せて、私達はもじゃもじゃをどうにかしようか」

「ですね」

「ではご指示を、リーダー?」

一時的に僕のパーティーに組み込まれたからか、彼女は僕の判断に従う方針のようだ。

「マーリンさん」

「なんだい」

「右半分を」

奇しくも、盗賊団の時と似たフレーズになる。

「あぁ、ご注文は?」

「満たして、埋めてください」

「叶えてみせよう」

すぐさまフルカスさんに声を掛ける。

「フルカスさん」

「壊す?」

横穴を壊せば雪男達は出てこられない。しかし――。

「崩落しては困るので、槍で穴を塞げますか?」

「……面白い」

フルカスさんが消えた。違う、地を蹴って左半分の横穴に向かったのだ。

扉を背にし、右方向をマーリンさん、左方向をフルカスさんに担当してもらう。

「レメくん。シトリー疲れたよ~」

魔力的には余裕があるだろうが、どんどん新しい雪男が出てくる状況で精神的に疲弊するのは分かる。

シトリーさんは僕の背中に寄りかかり、溜息をこぼしている。

「代わります」

彼女のおかげで、随分と多くの雪男をなんなく撃退出来たのだ。

丁度いいタイミングだし、休んでもらおう。

「えっ、レメくんの 魅了(チャーム) なにそれ見たい」

「それは出来ないので、黒魔法で雪男を引き受けますね」

「なぁんだ。まぁ君は 魅了(チャーム) なんて無くても人たらしだもんね~」

気まぐれに甘えてくる猫みたいに、小さな頭をぐりぐり僕の背中に押し付けながら、シトリーさんは言う。

「ミラさんは――」

「自分の役割は承知しています。何に代えてもレメさんを――」

「ううん、ミラさんはヒュドラ戦を手伝ってほしい」

「……それでは、レメさんをお守りすることが出来ません」

「【防人】の彼と入れ替わる形で頼めるかな」

今は彼の防御力よりも、ミラさんの攻撃力が必要な場面と判断。

マルさんも既に衣装を変えている。白い両翼『天翼』で飛行し、矢を番えるモーションで無限に矢が装填される『神秘の強弓』を構え、攻撃に雷属性を付与する『雷電の腕輪』を装備。

もちろん、彼女の相棒である熊の亜獣ニックさんも登場している。

マーリンさんもこちらにいるので、【防人】の力を活かすには僕らの側にいてもらった方が良い。

逆に、僕らを守ってくれるミラさんだが、彼女は攻撃の方が得意。

彼女もそれは分かるはず。

しかし、ミラさんは僕とパーティーを組むことを喜び、守ることに燃えていた。

体は既に動き出しているが、やるなら気持ちよく戦ってほしい。

「ミラさん、僕はミラさんが格好いいのも知っているよ。みんなにも、それを知ってほしいんだ。ダメ……かな」

ミラさんが血の刃をナイフのように短くし、自分の背中に回し、腰のあたりを切り裂いた。

そこから血が噴き出し、蝙蝠の翼となる。大きな、鳥人が飛行に使うものと同じくらい大きな翼だ。

「――貴方が望むなら、龍さえ屠って見せましょう……!」

一瞬でやる気全開になったミラさんが、飛び立つ。

雪男用に散らばっていた血の剣を全て回収、一つにまとめ――巨大な杭とした。

それで龍の首を地面に打ち付けるつもりだろう。

入れ替わるようにやってきたミノタウロスの【防人】さんが「お守りします」と僕の前に立った。

「よろしくお願いします」

と口にしてから、【白魔導士】を呼ぶ。

「――ヨスくん」

「はい!」

「もう少し頑張ってくれるかい? 僕に『思考力上昇』を、持続重視で」

「いけます……!」

僕はチャンネルをクラン全体に合わせ、集中する。

見る(、、) 。

背後には扉、非戦闘員は安全地帯に退避。クラーケンは対処済みで、他の魔力反応は特になし。

警戒すべきが前方だけなのは助かる。

真正面には、九つの首を持つ巨大な水龍ヒュドラがいる。対応するのはエクスさん、アーサーさん、マルさん、ミラさんなど。腕に覚えのある冒険者や亜人の方々も参戦。

既にみんな再生能力に適応している。

ミラさんは巨大な杭で首の一つを縫い止め、再生を阻害。

アーサーさんは『光の聖剣』によって傷口を焼くことで、これまた再生を阻害。

マルさんに刻まれた矢傷も、矢が体内に残っている所為で再生の邪魔になっている。

仲間が動きを抑えている間に、土魔法で生み出した巨岩で首を押し潰す者達もいた。

ちなみに、見上げるほどの巨躯を誇る鬼の男性などは、首を両腕で締め上げていた。

本来フロアボスでもおかしくない強力な相手だが、こうもみんなが上手く攻められているのは――エクスさんの力が大きい。

ヒュドラの影に触れ、やつの影でやつ自身を拘束し、機動力を大幅に削いでいるのだ。

今は少しずつ、やつの体が黒い影に侵食されているところだった。あれが体を覆い切れば、もはや再生能力などあったところで役に立たない。影に囚われ、動くことも出来なくなる。

あのメンバーなら、間違っても雪男対応組に被害を及ぼすことはないだろう。

「どうせなら、既にあるものを利用しようかな。そうら、おいで、 渾渾(こんこん) と」

氷の地面が一部砕け、海中から膨大な量の水が吸い上げられる。

マーリンさんが杖を振ると、その水は正面右側に空いた横穴に殺到。

未だにどんどん出てくる雪男ごと穴を満たし、そして。

「今日は少し冷えるね?」

――凍結した。

横穴の長さは知らないが、これで右半分からの戦力追加はないだろう。

フルカスさんもまた、穴を塞いでいた。

こちらはその矮躯に槍一つで雪男の群れを突っ切り、横穴に到着すると――突きを放つ。

槍が急速に伸び、鈍い悲鳴が幾重にも重なる。

だがそれもすぐに聞こえなくなった。

フルカスさんの槍が、横穴を塞いだからだ。

彼女の槍は魔法具。伸縮自在どころではなく、もっと自由な形状変化も可能。

また特筆すべき点は、切り離しが可能というところだ。

敵を貫き、食い止め、槍を戻し、形状変化で穴を塞ぎ、切り離す。

それを目にも留まらぬ速度で繰り返す。

だからそう、僕が集中すべきは残る雪男達だけでいいわけだ。

口を開く。通信越しに指示を出す。正確には提案か、でもみんな的確に動いてくれる。

今日参加しているのは第二陣計五パーティー。

うちエクスパーティーとレメパーティーに追加の指示は不要。

ヒュドラ退治に参加している者もいるが、基本はパーティーで動いている。

孤立気味の者が雪男に囲まれれば、『空白』で敵の動きを止め、その間に囲みを突破してもらう。

直後、駆けつけた他の仲間と同時に敵の背後を突いてもらい、それに合わせ『防御力低下』を掛ける。

攻撃力は高いが大振りなので動きが読まれやすい仲間の相手には、『速度低下』を。

こちらを警戒して連携する敵がいたので、『混乱』を掛けて同士討ちを誘った。

【魔法使い】さんの魔法が完成したタイミングで対象に『魔法防御力低下』を掛ける。

仲間の盾を殴りつけようとしていた敵には『攻撃力低下』を施し、その仲間には盾を持っての突進を指示。雪男の拳は砕けた。

元々がフェローさんやマルさんが集めた人達だ、敵の全滅まではそう掛からなかった。

新たな敵の出現の気配がないことを確認し、僕は集中を解く。

「捕らえた」

ヒュドラが己の影に呑み込まれたのは、それからすぐのことだった。

やつは海中に沈むことも出来ず、静止している。

「マーリン」

「あぁ、ずっとこのままではお前の消費が激しいものな。この大魔法使いが氷漬けにしてやるとも、感謝したまえ」

「あはは、お前は本当に頼りになるよ」

「知っているさ」

マーリンさんが言葉通りヒュドラを氷漬けにすると、エクスさんが魔法を解いた。

巨大な海獣が、底の見えない海に沈む。

九つの首と強力な魔法で暴れ回るヒュドラではなく、身動きのとれないヒュドラなら、楽に氷の中に閉じ込めることが出来る。

魔法規模的にはとても楽とは言えないが、そこはマーリンさんだ。

「さて、非戦闘員を呼び戻さないといけないな」

撮影班の一人が、呼応するように駆け出した。呼びに向かったのだろう。

氷の洞窟内に、しばし静寂が訪れる。

ミラさんが僕の近くに降り立ち、翼を仕舞った。

「格好良かったよ」

と伝えると、照れたように微笑した。

少し気になるのは、なんだかみんなの視線が僕に向いている気がすること。

ヒュドラを担当したメンバーの方が、よっぽど凄いことをしていたのだけど……。

「見えた」

と、マーリンさんが言った。

僕を見て、彼女はこう続けた。

「素晴らしい采配だったね――【最良の黒魔導士】殿」

くすぐるように笑いながら、彼女は僕をそう呼んだ。

聞き慣れない言葉に、思わず彼女の顔を見てしまう。

通り名というか二つ名というか、そういった銘の付き方には色々ある。

四大精霊契約者の場合は、過去の契約者と同じように【嵐の勇者】【炎の勇者】といった形。

自分で名乗り、それが定着した形。

誰かが名付け、それが定着した形。

四大精霊契約者なんて四人だけの例外だし、二種類に大別される。

で、冒険者だと自分で名乗るパターンは少ない。あっても定着しないことが多い。

魔王城の魔物の場合は、フロアボスやその副官クラスになると、魔王様が名付けてくれる。

魔物の場合だと、攻略動画で名乗ったものを受け入れられることが多いわけだ。

もちろん、それだって活躍によっては名前負けや意味不明と言われたりもするけれど。

「お気に召さないかな?」

一応、なんとなくの慣例みたいなものもあったりする。

ランク百位以内に三年以上残ること、デビューから十年経ってること、【魔王】のいるダンジョンを最低一つは攻略していること……みたいな。

なんとなく、ファンの間でこの条件をクリアしてないとなぁ……みたいな空気。

例外は精霊と契約した【勇者】くらいのもので、そうでない【勇者】は長いこと銘が無かったりする。なんなら引退まで。

だからこそ、【湖の勇者】レイスくんの父である【不屈の勇者】アルトリートさんの凄さが分かるというものだろう。

精霊という分かりやすい特別感の無い者は、【勇者】であっても区別される。

その常識を覆し、銘をもぎ取ったのがアルトリートという勇者なのだ。

「な、な、なっ、ず、ずるいですよマーリンさん……! レメさんの銘なら私だって沢山考えていたというのにっ」

ミラさんが不満を漏らす。

「ほう、それは申し訳ない。ちなみにどのような?」

「【史上最強の黒魔導士】【空前絶後の黒魔導士】【比類なき天才黒魔導士】――」

「君の想いはよく分かるが、些か長いな」

マーリンさんには珍しく、苦笑いだ。

「短い言葉でレメさんの偉大さを示すことなど……はっ、こういうのはどうでしょう【偉大にして前人未到の――」

ミラさんの名誉の為に言っておくと、彼女のネーミングセンスに問題があるわけではない。

その、彼女は僕のファンを公言しているだけあって、【黒魔導士】レメのことになると少々各種能力に乱れが生じるというか……。

「私は【先見の魔法使い】だからね、分かるのさ。レメ、君はいずれそう呼ばれることになる」

先を見る能力で、マーリンさんに並ぶ者がどれだけいるか。

戦闘に利用しているだけで、彼女には未来を予測する能力があると思う。

将来性を見抜く目、とでも言おうか。

事実、彼女に気に入られた冒険者の多くは、今や一線で活躍している。

僕の場合、今更冒険者稼業で大活躍というのは想像出来ないが……。

同業者といっても、直接戦闘する場面を見る機会はあまりない。

この旅と先程までの戦いで、マーリンさんは僕への評価を固めたのか。

――【最良の黒魔導士】。

なんて言えばいいのか。

気取った表現を冠につけることは、いくらでも出来るだろう。それが様になる、格好いい人達も沢山知っている。

最良。シンプルで、平易な表現。この言葉を聞いて、難しくてピンとこないと感じる人は少ないのではないか。そういう意味では、遊び心もない。

あぁ、だけど。

なんて、光栄だろう。

最も良い(、、、、) 、だなんて。

こんな誉れがあるだろうか。

現代の冒険者業界において、不要とさえ言われる【黒魔導士】。

【絶世の勇者】エリーさんのようにその有用性を認めパーティーに起用する人もいるが、あまりに少ない。

そんな【黒魔導士】の存在価値を認めるような、その銘を。

「その未来に到達出来るよう、頑張ります」

――大切に、胸に刻む。