軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

170◇第十層・渾然魔族『喚起邀撃』領域3

落ち着け。

正直、驚いた。認めよう。

これまで、エアリアルさんは常に全体のバランスを考えていた。

それはユアンくんに経験を積ませることだったり、他のパーティーを立てることだったり。

エアリアルさんとレイスくんのカバー力がなければ、各層でもっと冒険者を落とせる場面はあった。

個の功績よりも集団としての勝利の為に動いていたわけだ。

だが、それは第一位のエアリアルとしての動きに過ぎない。

僕のような冒険者オタクや、古いファンは知っている。

第五層で【サムライ】マサムネさんが 魅了(チャーム) に掛かった時、そのことを思い出した者も多いだろう。

冒険者エアリアルは元々、強敵との戦いを求めてダンジョンに挑む男だった。

大前提として、彼の行動はルール違反でもなんでもない。

これが第七層のように、『問題を解かねば先へ進めない』という仕様ならば別だが、第十層に設けられたエリア間の扉に解錠の条件はない。

強行突破は迅速に攻略出来ればそれでいいが、上手くいかなかった時のデメリットがある。

たとえば第四層・人狼の領域は鉱山風の作り。追ってくる敵を無視して突き進むことは確かに出来るが、行き止まりにでも詰まってしまったら大変だ。一時的に戦闘を回避したツケを、逃げ場なしの空間で払わされることになる。

この第十層でも同じ。あくまで同じ層という扱いだから、第一エリア、第二エリアと無理やり突破したら、魔物達は追ってくる。

彼の行動はルール違反ではないし、冒険者にとって不利になり得る選択なのだ。

彼の全滅させる宣言は、そこへの対策としても放たれていたものと僕は解釈していた。

いや、あるいは彼自身も、そういう意味で言ったのかもしれない。

だけど、という話なのか。

「う、おぉおおおおおおおッ!!!」

エアリアルさんが放った風刃を、受け止める者がいた。

僕を切り裂かんと迫る風の刃を、交差させた爪で受け止めるのは――【人狼の首領】マルコシアス。

彼は突然の出来事にも瞬時に対応。僕を守らんと体を張った。

召喚直後であるにもかかわらずそれが出来るのは、魔王城でフロアボスを務める猛者だからこそ。

通常個体の三倍に相当する巨体が、ズズズッと後退していく。風刃の威力を相殺する頃には、床にマルコシアスさんの足の爪の跡が線となって刻まれている。

――やっぱり。

エアリアルさんは僕を試している。

「よくやった、マルコシアス」

「参謀殿こそ、よくぞオレを召喚してくれた!」

【嵐の勇者】を見る。

「上はいいのか、【嵐の勇者】よ」

「あぁ、あの戦場に適した戦士が他にいたからね」

……ユアンくんとスーリさんのことだろう。

ユアンくんは【 生ける死体(ゾンビ) 】となった自分とベーラさんの 魔力体(アバター) 破壊。

スーリさんはストラスが絶対に先へ行かせない。

「貴様に適した戦場が他にあると?」

彼は、一瞬悲しげな表情を見せた。

「それを探しているんだ、 もうずっと(、、、、、) 。君がそうなのか? レメゲトン殿」

彼を第一位としての責任から解き放つだけの何かがなければ、こんな行動には出まい。

任せられると、判断したのだ。

自分が突出し、望む戦いに向かい、それでもなお――第十層の魔物を全滅させ、魔王へと至ることが出来るのだと。

僕が自分の求める敵なのか、彼は知りたがっている。

予想を越えた侵攻を前にどう出るか。第一の試練は、ひとまず合格といったところだろうか。

――やってくれる。

僕は今、【黒魔導士】レメではない。

魔王軍参謀【隻角の闇魔道士】レメゲトンなのだ。

人類最強だろうが、 人間如き(、、、、) に試される存在ではない。

この身に勝る存在など、魔王様をおいて他に存在しないのだ。

少なくとも、そのような気概でいなければならないだろう。

「誰も、魔王様と戦うことは叶わん。その為に我がいる」

「必ず、君のところまで行く」

僕は転移用記録石に触れ、第三エリアへと飛ぶ。

「…………くそ、魔力が」

口中で呟く。

エアリアルさんの策は、少なくとも僕を苦しめることに成功している。

仲間を召喚する指輪。必要なのは仲間の 魔力体(アバター) を構成するのにかかる魔力と、後は距離に応じて消費魔力が増える。

後者は対象が城内ということもあり特段考慮することもないだろうが、前者の消費量は凄まじい。

いずれも優秀な同胞。彼らの 魔力体(アバター) を構成する魔力は膨大。

「フッ……」

笑ってしまう。これは、なんだろう。

高揚、か。

遠い、とても遠い存在である筈の、人類最強。

【嵐の勇者】エアリアル。

全冒険者の憧れにして、頂点。

不動の一位である、彼が。

たった一人、レメゲトンとの戦いを心待ちにしている。子供みたいに、目を輝かせて。

トップとしての戦い方から、若き日の戦い方に変えてまで。

光栄に思う。うん、それはある。なにせ、僕の憧れの人でもあるのだ。

フェニクスパーティーを抜けた僕をわざわざ探して、自分のパーティーに誘ってくれた人でもある。

でも、今、この胸に燃える熱は。

――以前は、フェニクス達と一緒に、ランクで貴方を越えるのが目標だった。

けれど今の僕は魔王軍。ならば、貴方を越える方法は一つ。

その攻略を阻むこと。

魔力を、練り上げる。

おじさん……エアリアルの戦い方が変わったのは、一位になったあたりからだ。

上がいる限りは挑戦者。トップに立てば代表者。姿勢が変わるのは仕方がない。立場が変わるのだから。

だが、父さんを越えたのは、【不屈の勇者】を越えたのは、挑戦者のエアリアルだ。

そんなエアリアルを越えたいと、俺はずっと思っていた。

でも、そんな機会は得られないかもと半ば諦めていた。俺がどう頑張るかは問題じゃない。一位だから、上がいないから、挑戦者の頃には戻れないという話なのだ。

だから、一度一位になって、彼を挑戦者に戻す。そう考えていた。

だが、このレイド戦。

ダンジョンに心躍る脅威が現れた今この時。

エアリアルは第一位としての振る舞いを捨てた。

ならば、だ。

この状態のエアリアルよりも活躍すれば、俺は彼を越えたことになる。より優秀な勇者だと視聴者に認めさせることが出来る。

精霊に愛された者でなくとも、最強に相応しい活躍は出来るのだと、証明出来る!

やらない手はない。

その為に、俺はここにいるのだから。

第二エリアにつくと、エアおじはもういなかった。

【吸血鬼】か【人狼】か【夢魔】か、倒された魔物の魔力粒子が舞っているだけ。

――くそ、速いなやっぱ。

三種類の魔物がいることには驚かない。

第九層までの魔物を複数のエリアに割り振るとして、基本を二種類だとするとどこかで一種類余る。

あるいはこの次で四種類ということも有り得るか。そもそもどこかで一種類がくる可能性もある。

組み合わせは敵次第だが、何種類の魔物だろうと有り得るから驚くに値しない。

【恋情の悪魔】シトリーは、既に倒されているようだ。

フロアボス相当の魔力反応が消えるのを、到着の寸前に感じたし。

――ナベリウスみたいに邪魔されて倒したか。一応マサさんを操られたわけだし、仇とは違うけど戦う理由はあるし。どっちでもいいか。

それにしても、シトリーは結構厄介な敵だったと思うんだけど……?

よほどテンションが上がっているのか、遠慮なしだ。

第二エリアは吸血鬼と人狼と夢魔の領域。

それぞれ通常個体が見られ、【人狼の首領】マルコシアスもいる。

あと――。

「エアリアルさんは……もう行ったのか」

追いついてきた【迅雷の勇者】スカハセンパイが、呆れと驚きを半々に混ぜたような声で言う。

「みたいだね。残ってる敵からすると、あれだよ。これ、あの人用」

「ハーゲンティ! カーミラ、生きてるか!?」

来た。

【魔剣の勇者】ヘルヴォール。ヘルさんである。

「また逢ったわね、【魔剣の勇者】」

「おぉ! あたしも嬉し……い、ぜ? なぁカーミラ、それお前さん、何に腰掛けてる?」

うん、そうなんだよね。

【吸血鬼の女王】カーミラは、座っている。何かっていうか、【串刺し令嬢】ハーゲンティに。

「貴女、前回 これ(、、) に腕をとられたでしょう?」

鼻息荒く恍惚に浸っている椅子は、ハーゲンティだ。

「あ、あぁ、楽しかったぜ?」

ヘルさんは戦いとくれば全力で楽しめる人だが、さすがにこれには面食らったようだ。

「だからね、褒美を与えているのよ」

「? ……?? そ、そうか! まぁいいや! んで、いつまで褒美っての続けるんだ?」

ヘルさんは理解を放棄した。

「永遠でもかま――きゃん! 申し訳ございませんカーミラ様!」

立ち上がりざまに女王様に尻を叩かれ、喜悦の声を上げるハーゲンティ。

すぐさま立ち上がったところを見るに、戯れるのはここまでらしい。

……まぁ、アホみたいな顔しつつ、隙は見せなかったあたりはレア魔物というところか。

「状況は把握したわ。レメゲトン様の深淵なる計画を乱した罪は、いかに罰しましょう」

「よく分かんねぇが、戦えばそれでいいだろう。お前さんが勝てば、それがあたしへの罰になるんじゃねぇのか?」

「……そうね」

ヘルさんは吸血鬼との戦いを楽しむつもりだろう。

俺はその会話を意識の端で拾いつつ、扉に向かっていた。

「素通り出来るとお思いか、若き【勇者】よ」

マルコシアスが俺の進路上に立ちはだかる。

……風魔法で加速してるんだけど。すごい反応と速度だな。

「うん、俺はね」

俺は止まらない。彼の横すれすれを飛んでいく。

「甘い!」

彼の爪は速い。俺を八つ裂きにするには充分以上の威力。速さも申し分ない。

あぁ、けど。

「レイスの邪魔、しないで」

その爪を、腕を盾にして受け止める者がいた。

まぁ、俺の幼馴染なんだけど。【破壊者】フランだ。

「ほう……見事な動きだ!」

「……行って、レイス」

「下で待ってる」

「ん」

マルコシアスは俺を……追ってこない。

「……友が為、盾となるか。貴嬢、漢だな!」

「……おんな」

「がはは、性別の話ではないのだ!」

「……意味が、よく」

性格的には相性悪そうだが、戦闘的には悪くないだろう。どちらも肉弾戦を得意とする。

あとは、スカハセンパイが俺を追ってくると思う。まだ動いていないけど。

それよりも今はあのおじさんに追いつかねば。