軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139◇第一層・番犬と『獄炎』の領域(上)

「セオが道を作り、みなが駆け抜けた後で、俺が背負って追いつきます」

と、スカハは言った。

スカハも雷系の【勇者】だけど、精霊の位が高いこともあって出来ることが多い。

精霊術を扱えるかは資質と技術の両方が必要なので、努力は必須。

才能と努力。どっちが重要とかいう話があるけど、精霊契約者の場合は両方重要だ。

才能があっても努力が足りず技術が伴わなければ、精霊は精霊術を教えてくれない。

血の滲む努力を積んだところで才能がなければ、やはり精霊は精霊術を教えてくれない。

あと、才能と技術両方あっても、契約した精霊の格が低いと、強い精霊術を教える術を持っていないなんてこともある。

だから、そう。

精霊術を頼りにするなら、才能と努力と運が同じくらいに重要。

スカハは全て備えている。

雷属性は、風属性からの派生。

風精霊本体と契約するエアおじには、もちろん精霊の格で遠く及ばないが。

分霊の中では最上位に近い力を持ってると思う。

スカハは雷撃はもちろん、雷電を身に纏うことで雷槌を思わせる速度での移動を可能とする。

「セオ」

「そう言われると思いまして、用意した道がこれでございます!」

糸だ。

右手から五本、左手から五本。彼の広げた両腕から合計十本の糸が伸び、それが片側ごとに複雑に絡みながらこのエリアの果て、偽魔王城の門に絡みついた。

これで左右どちらからも【黒妖犬】は襲ってこれないし、運悪く内側に巻き込まれた個体は俺達に退場させられる。

スカハとセオを除く十五人が門に辿り着いたら、セオを背負ったスカハが俺達に追いついて完了。

「それじゃあ、先に行ってくれ」

「向かってくる奴らは全員ぶっ飛ばせばいいだろう」

ヘルさんこと【魔剣の勇者】ヘルヴォールが、つまらなそうに唇を尖らせた。

「ならお前の分だけ糸を開けてやろう。外に出て存分に犬とじゃれるといい」

「ハッ、話が分かるじゃないかスカハ。よしさっさと開けな!」

「……皮肉だ脳筋女」

「あ?」

俺は思わず吹き出した。

どちらの意見も分かる。

どちらもアリだし、良いと思う。

ヘルさんのところみたいに『突撃して蹴散らせ!』みたいなスタイルは喝采したくなるような爽快感と興奮を視聴者に与える。

派手な攻略だ。

スカハのところは卓越した攻撃精度と速度を誇るメンバーによる、スピーディーな攻略で視聴者を驚かせる。

迅速な攻略だ。

別にどっちだっていい。重要なのは、勝利する為にその方法を選んでいるということ。

好きにやればいい。勇者の仕事は勝つこと。

その為に必要なことは、自分や仲間の能力によって変わる。

「つまらん男だなぁ、もっと思うままに動いてもいいだろうに」

「放っておけ。この層は俺達主導って話だった筈だが?」

ヘルさんはそれ以上不平を漏らすことなく、肩を竦めて溜息を溢した。

「邪魔はしない、だったね。勝手にしな」

彼女はそう言って引き下がったが、理由の全てではないことは明白。

スカハのやり方で勝てないと思えば、ヘルさんはそれを無視しただろう。

自分の好む方法でないことを表明したからといって、相手を否定することにはならない。

好きじゃないけど、ダメじゃない。

ヘルさんは思うままに振る舞っているように見えるけど、そういう柔軟性がある。

「じゃ、また後で」

ここまでちょくちょく喋っていたということもあるし、セオに軽く手を振る。

「ふふ、『すぐに追いつく』と言いたいところですが、これを言うとよくないことが起こりそうなので言わないことにいたします!」

言っちゃってるよ。

突っ込むことはしない。もう走り出してるし、振り向くほどのことではないだろう。

先頭はエアリアルパーティー、次がヘルヴォールパーティーと俺達、その後ろにスカハパーティーの三人という陣形。

エアリアルパーティーかヘルヴォールパーティーが後ろについた方がよいのではとも思うが、三人的にはスカハとセオが追いついてくる時に合流しやすいように……という考えもあるのだろう。

何事もなければ、問題なくそうなるだろうし。

そうはならないのが、魔王城というところなのだろうが。

編まれた糸で創られた左右の障壁の間を、全体の半分くらいまで走った頃だ。

それは起こった。

複数のことが同時に起こり、各人が一瞬の内に判断を求められた。

一つずつ語るなら。

一つ、糸の塀が燃え上がった。

一瞬見えたが、空中から火属性が放たれて、糸が燃えたようだ。

疑問は二つ。突如現れた火魔法と、糸が燃えたこと。どちらも答えはすぐに出た。

不可視化している敵が魔法を放ったのだろう。そうなると、不可視化の解除条件は攻撃ではないということになる。魔法だけが見えて、それを放ったものは見えなかった。

……距離、だろうか。

糸が燃えたのも不思議だ。セオの糸には魔法耐性があるから、今しがた食らったような火球程度でこうも燃え上がりはしない。

しかしこれもまた、すぐ頭に浮かぶものがあった。

【黒妖犬】だ。正確には、やつらが糸をすり抜ける為に身体に塗っていたと思われる液体。

引火性のものだったのだろう。

十五体の内、八体は復路も糸をすり抜けた。付着した量はそれなり。

道を作る時に糸は一度指輪に収納されたから、そのときにでも浸透したのか。糸の伸縮の仕組みは分からないが、付着物が無かったことにされるわけではないようだ。

糸の塀は炎の道に早変わり。道の長さから言って消火は容易ではない。

これでピンチなのは、セオだ。遣い手まで炎が及ぶのは厄介。

これが問題その一。

次。

「くっ……!?」

「落ち着くんだユアン、私達がいる」

【疾風の勇者】ユアンの声。

焦りの声を上げるユアンに、エアおじが声を掛けている。

あいつが焦るのも仕方ないのか。

【不可視の殺戮者】グラシャラボラスが姿を現し、上空からユアンに向けて飛びかかってきたのだから。

フロアボス相当の魔物に狙いを定められているとなれば、平常心が乱されるのも無理はない。

ユアンは咄嗟に三日月状の風刃を三つほど放ったが、全て空中で回避される。

焦りからか、上手く照準出来なかったようだ。威力はかなりのものだろうに。

いかに 育成機関(スクール) で優秀な成績を収めていようと、あくまで訓練。

これまでの鍛錬でやつが優秀なのは分かっているが、それだって能力的に、である。

人には感情があって、それによって能力が発揮出来たり逆に出来なかったりする。

あいつは先達の足を引っ張らないようにとかなんとか、気負った様子だった。

まぁ【氷の勇者】ベーラも初攻略では良いところ見せようとして、【恋情の悪魔】シトリーにやられていた。

二人に限らず、初の実戦で実力を充分に発揮出来る人の方が少ないものだ。

そのあたりは、エアおじも承知のことだろう。

だからこれは問題その二だけど、任せてオッケー。

次。

「……! 師匠っ!」

「分かっている」

普段は穏やかで地味めのカリナが、師である【無貌の射手】スーリを呼ぶ。

幾本の矢が空中で止まっているのを見るに、後方のスカハパーティー三人組が【黒妖犬】に襲撃されたのだろう。

後方と言えばこれまでに通り過ぎてきた道なわけで、左右が糸で遮られていたこともあって本来ならば背後を突かれるわけがないのだが。

糸の穴を心配するよりも、グラシャラボラスの巨体の背に乗っていたものが飛び降りたと考えた方が可能性が高いというものだ。

――というか今、どうやって当てたんだ?

これまでと違い、大地に湿った足跡の痕跡などは無い。

違和感と言えば、ほんの僅かに彼の魔力を感じるくらい。

さすがは世界ランク五位の【狩人】というべきか、普通ではない。

カリナも弓の名手だが、彼女の方は険しい顔をして虚空を睨むばかりで動かない。動けないのか。

彼女には不可視化された【黒妖犬】の動きを追えないのだ。

俺が未熟だから分からない、というわけではないらしい。

「気をつけろ、【黒妖犬】だけではない」

明らかに人の立てた策だ。流れに合わせて【黒妖犬】達に適宜指示を出しているやつがいる。

多分、【調教師】持ち。スーリが言っているのはそれのことか、他に戦力が隠れているのか。

確認することは出来ない。とにかく、これが問題その三。

確認出来ない理由は、最後の問題の所為。

「……まったく面倒だね」

ヘルさんの声だ。本当に面倒くさそうだが、直面している状況を考えれば呑気ともとれる調子だ。

ヘルヴォールパーティーと俺とフランは、今まさに――沈んでいる。

あれだ、流砂みたいに地面が崩れてしまい、言うなれば砂の沼に飲み込まれているような状況だった。

こういった罠は実にダンジョンらしいのだが、この層の攻略動画では確認出来なかった。

新作のようだ。此処以外にも設置していると思うけど、スタート地点から偽魔王城までの最短距離に作っておけば、スピード重視のパーティーは大体踏む。

新しく出来たものなら予期しようがない。

まったく素晴らしいタイミングだ。

流砂があるから、エアリアルパーティーもスカハパーティー三人組も後退出来ない。

お互いに眼前の脅威に正面から対応するしかない。

左右は仲間の糸が燃えているから、簡単には越えられない。

そしてもちろん、脅威が目前にあるからセオを助けにもいけない。

きっとあの二人も今頃【黒妖犬】に襲われていることだろう。

この、四つの勇者パーティーまとめて潰してやるよ感、すごく良いと思う。

従来の第一層のままだったら、あまりにも退屈過ぎたことだろう。

攻略レベルが低いというわけではない。十七人の冒険者、それも一流だらけとなれば仕方のないこと。

ダンジョンは基本、五人組をどう排除するかという考えで運営されているのだから。

そこを短い期間でレイド戦仕様に変えるばかりか、ばっちり機能させられるのはさすが魔王城。

難攻不落の名は飾りではないようだ。

同時に起きた四つの問題。

「レイス」

フランが俺を見ている。

分かってる。今の俺達は二人組だけど、パーティーリーダーはそれでも俺だ。

立ち向かうべき困難は与えられた。

後は冒険者らしく、これを突破するのみ。

考えるべきは流砂もどきからどう抜け出すか――ではない。

抜け出すのは前提として、どの問題解決に手を貸すべきか、だ。

エアリアルパーティーのグラシャラボラスは任せるとして。

スカハパーティー三人組の【黒妖犬】と推定【調教師】?

スカハパーティー残る二人の燃える糸と【黒妖犬】?

または、ヘルヴォールパーティーの沈みゆく五人?

誰に何が出来て、どう動いて、どんな展開になるか。

今は十七人で一つの集団。全員を仲間として、どうこの層をクリアするか。

考えて動け。

それくらい出来なければ、【不屈の勇者】には到底届かない。

俺はまず――。