軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128◇だからってすぐに強くなれるわけじゃないけど

あれから二週間経った。

いよいよレイド攻略の開始日が近づいてきていて、街も活気を見せ始めている。

というのも、師匠の息子さんでもあり魔王様のお父さんでもあるフェローさんが、またまた色々企画しているのだ。

本番でも特別な試みを用意しているのだが、この準備期間も有効活用していた。

冒険者達の訓練風景の公開、座談会やサイン会、握手会、スタンプラリーや限定グッズの販売。

この街の商店とバッチリ手を組んで、住民やファンを巻き込んだイベントとして盛り上げている。

また、そんな試みを 映像板(テレビ) が放っておくわけもなく、連日ニュースで魔王城のある街が映し出されていた。

ある時は『始まりのダンジョン』内に創られた空間――以前トールさんと契約して借りるという話になったものだ――を活用しての戦闘訓練なんかを期間限定で配信するなどして話題になった。

この時の動画は各パーティーを主役とした幾つかのバージョンが作成され、各パーティーのチャンネルで配信された。

公式パーティーは五人と決められているので、レイスくん達のチャンネルは無い。

露出を抑えることで関心を煽る結果となっているので、フェローさん的には良いことだろう。狙い通りかもしれない。

「あ、見てくださいレメさん。魔王城フロアボス紹介というのが始まるそうです」

もぐもぐと朝食を口に入れながら、僕は考え続けていた。

「うん……」

ミラさんが何か言っていたが、生返事になってしまう。

そう、この二週間、僕は壁をぶち破れずにいた。

コアに内蔵された魔力を感じ取ることは出来る。

放出された魔力を感じることも。

だが、角に吸収出来ない。魔力を角に触れさせて意識を集中させても何も起こらない。

あれこれ試してみたが全部ダメ。ぴくりとも反応しない。何の感触もつかめないまま、時間を空費している。

「むっ……カーミラはもっと映りの良いシーンがある筈です。手抜き仕事ですよこれは。……でもシトリーは可愛く映ってますね……。私ももっとカメラ写りを気にするべきでしょうか……」

「うん……」

「ウェパルは登場からして仰々しいので、様になってますね。フルカスのように龍人を率いて待ち構えるというのも中々……。うぅん、私も今以上に特別な演出を考えた方がいいかもしれません。レメゲトン様は前回と同様に玉座で冒険者共を迎えるのですか?」

「うん……」

「ところで、今日の朝食はお口に合うでしょうか?」

「うん……」

「……レメさん。今日は槍の雨が降るそうですよ」

「ん……」

「私達、とても親密になれたと思うのです。そろそろ結婚してしまいましょうか?」

「……ん?」

ケッコン? 結婚……!?

僕は慌てて顔を上げる。

ミラさんは控えめに、だがよく見れば分かる程度に頬を膨らませていた。

折角作った朝食をぼうっともそもそ食べ、自分の話も聞いていない。彼女が不機嫌になるのも当然。

「ご、ごめん……考え事してて」

僕がそう言うと、彼女は頬に溜めた空気を、ふぅと吐き出す。

「魔力不足の件ですか?」

「うん……色んな人に出来ると言い切っておいて、いまだ成果ゼロでさ……」

「……レメさんのことですから、既に色々と考え尽くしていることと思います。そういう時は、無理に考え続けるのではなく、休憩するのも大事ではありませんか?」

「そう、だね」

「私で良ければ、相談に乗りますよ? それとも、私ではお役に立てませんか?」

首を傾げながら瞳を潤ませるミラさん。

敢えて、普段の通りに演じてくれているのだろう。

ふっと気が抜けたように笑ったことで、それまで表情が固くなっていたことに気づけた。

「ありがとう、それじゃあ聞いてもらえるかな」

「もちろんです」

そして僕は話した。

まったく上手くいかなかった二週間について。

これまではこちらを気遣ってか、深く尋ねないでくれたミラさん。僕の方も自分から話すことはなかったので、詳しく話すのは今日が初めて。

「……なるほど。随分と無茶な方法に思えますが……。その、どう足掻いても他の種族は血を操ることが出来ませんし。同じようなことだと、私は思ってしまうのですが……」

血を操り武器防具とする吸血鬼の能力も、確か操血『術』という。

「前例が無ければ、僕もそう思うんだけど」

「レメさんのお師匠様ですか……。魔王様のお祖父様でもあるという」

師匠には出来るのだ。技術的に不可能ではないなら、可能ということ。実現がどれだけ困難でも、可能ということ。

「うん、『魔術』レベルか、それ以上に習得が困難かもしれないけど、不可能じゃない筈なんだ」

「お師匠様に、指導をお願いすることは出来ないのですか?」

「……理由は色々あるんだけど、どちらにしろ今からだと間に合わないかな」

僕とフェニクスの故郷はドがつく田舎にあるし、往復だけでレイド戦が始まってしまう。

師匠はメールアカウントを取得していないので、出来るのは手紙を送ることくらい。

まぁ、話を聞くという選択肢自体、僕はそもそも考えていない。

もちろん、分からないことがあれば人に聞くというのは大事だ。自分なりに考えても答えが出せないことはある。それをそのまま抱えて問題を起こすよりは、誰かを頼る方が余程賢い。

「僕の師匠はさ、意味のない訓練はさせないんだ。理不尽だったりむちゃくちゃな指示でも、意味がある。それをこなすことで、確実に僕は何かを得て、成長することが出来た」

「素晴らしい方だったのですね」

「世間一般で言うところの『良い人』ではなかったけどね。凄い人で、恩人だ。だから思うんだけど、『体外の魔力を角に吸収する』って技術は、凄まじいものだよね」

「はい、そう思います。精霊や妖精だけの能力、とされているわけですから」

「師匠は僕に角をくれた。勝ちたい相手が現れた時に、真っ向勝負で勝てるようにって。でも僕は、この技術に関して師匠から話を聞いたことがない」

「……え、ぇと。レメさんの勝利を願ってくれたお師匠様が、その役に立ちそうな技術について語らなかったのは、不自然、ということですか?」

ミラさんの言葉に、僕は頷きを返して続ける。

「厄介なことになるというなら、角の時点でそうだ。じゃあ師匠はなんで教えてくれなかったんだろう。僕はこう思う」

そして、僕は指を一本ずつ立てる。

一つ、『危険だから』。これは魔王様の話ぶりからすると、考えづらい。

一つ、『僕がまだ未熟だから』。ありそうだけど、師匠なら説明した上でそう言うと思う。

一つ、『口で言って分かることではないから』。僕は、これだと思う。

師匠は意味のない訓練はさせない。

僕にこの技術の存在を明かしても、師匠にさえ教え導くことが出来ない類のものだったなら。

僕はこの二週間のように、時間を無駄にしながら訓練に励んだ筈だ。

だから言わなかった。

あるいはそもそも、順番が逆なのかもしれない。

技術の存在を知ってから、習得するものではなく。

自らその境地に至ることで、初めて身につく能力なのかも。

「な、なんだか難しいですね……」

「なんて言えばいいかな、例えば『愛とは何か』『正義とは何か』って、辞書を引けば答えを得られるものではないと思うんだ。誰かの言葉に影響されることはあっても、結局は自分が見出すもの、だよね。師匠は、自分の言葉で僕に答えを与えられないと思ったから、言わなかった」

「なるほど、よく分かりました」

ミラさんは力強く頷いた。愛という部分に強く惹かれたようだ。

「だから、話を聞きに行くのは無駄だと思う」

本当はもう一つある。

『僕には習得出来ないと分かっていた』というものだ。

角を継いだだけの 人間(ノーマル) に習得できないなら、師匠が言わなかったのも頷ける。

師匠は厳しい人だったが、無理だとか不可能だとか、そういう言葉を使って誰かの未来を否定することはなかった。向いてないとか根性なしとか、そういうのは沢山言われたが。

勇者になれないとは、一度も言われなかった。

魔力吸収について、わざわざこんな技術があって俺には出来るがお前には無理、という人ではない。あるとしたら、僕が勝手に気付いて相談した時に、静かに教えてくれるというところだろうか。

だが、これは考慮しても仕方がない。

出来ると言ったからには、やらねば。

もちろん出来なかった場合のことも考えねばならないし、それが責任というものだが、僕は諦めていない。

「自分で、至らなくちゃいけないものだと思う。角の扱い方というか、魔力の捉え方なんじゃないかと思うんだ。それも技術的なことではなくて、感覚的な部分だ。魔力は在って、角も在って、不可能ではないのに吸収出来ない。認識……僕の先入観が邪魔しているのか……?」

ぶつぶつと語り出す僕は、いつの間にか俯いていたようだ。

頬がそっと柔らかい何かに包まれ、顔が上を向く。

そこには、真紅の月のような瞳が二つ、僕を見つめていた。

「そろそろ、カシュさんを迎えに行く時間では?」

また思考の沼に嵌っていたようだ。

時計を見ると、彼女の言う通り。

僕は急いで残りの朝食を掻き込み、服を着替えた。

ぐだぐだ悩むだけでも時は過ぎる。自分に合わせてスピードを変えてはくれない。

「……なんだか、最近ミラさんに返しきれない恩が溜まっていってる気がする」

「気になさらないでください、私が好きでやっていることですから」

なんというか、半ば彼女にお世話されているような感じだ。

家のことは彼女が完璧にこなしてくれているし、仕事もプライベートもよく助けられている。

「いや、よくないよ。僕ばっかり助けられている」

少し前までは彼女指導のもと、家事を覚えようとしていたのだが、レイド戦で一時中断。

「うふふ、私無しでは生きていけなくなりそうですか? 実はそれが狙いなのです」

そう言って彼女は冗談っぽく笑う。

「あはは……」

ミラさんがいるのが当たり前になりかけていることに気付いて、僕は苦笑した。

「レメさん」

玄関で靴を履いたところで、彼女の声が掛かる。

「なにかな」

「先程の、お師匠様が説明なさらなかった理由ですが、もう一つあると私は感じました」

……僕が言わなかったものに気付いたのか。

だが、違った。

「お師匠様はきっと、貴方ならば自ら答えに至ると信じていたのではないでしょうか?」

「――――」

中途半端に知識を与えなかったのは、自分で辿り着くべきものだからで。

僕ならそれが出来るだろうと、師匠は考えた?

答えは分からないし、聞いてもあの師匠が答えてくれるわけがないが。

「うん、そうだったら嬉しいな」

その場合だと、魔王様から話を聞いてしまった僕は正規の習得ルートを外れてしまったわけだが。

せめて答えくらいは、導き出さねば。

「行ってきます。また魔王城で」

僕は微笑む。自然にそうすることが出来た。

「行ってらっしゃいませ。もちろん、私もレメさんにならば出来ると信じています」

誰に無理と言われたって、勇者になることを諦めるつもりはなかった。

でも、師匠が弟子にしてくれて、フェニクスがパーティーを組もうと言ってくれて、嬉しかったんだ。

今回も同じ。

ミラさんが信じてくれているというだけで、とても嬉しい。

それは確かに、僕の力になってくれる。

「ありがとう」