軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123◇エルフの驚愕と、頼み事

目が回る忙しさなんて言い回しがあるが、まさにそれだった。

直属の部下の確保と、連携の訓練。

全てのフロアボスとレア魔物との契約、加えて各層固有の魔物さん達の配置換え交渉。

別ダンジョンなどからの助っ人対応。

また、参謀として各フロアへのアドバイスを考え、レイド攻略挑戦者達の情報収集と研究も平行して進めていた。

自分の鍛錬もあるし、魔力不足も解消しなければならない。

秘書として各フロアや助っ人さん達と僕を繋げてくれているカシュも、大忙し。

みんな自分の層の強化や、新人育成もあるのだ。

更に普段の仕事――冒険者達への対応もある。

多くが第三層までで撃退出来ているとはいえ、最近では四層まで達するパーティーも現れるようになった。

「済まない、待たせたかな」

これはフェニクスパーティーをきっかけに、多くの攻略映像が世に出回ることになったことも一因だろう。先人の動きを参考にする、ということが出来るようになった。

数が増えたことで、自分達のパーティーに合った突破方法も見つけやすくなったわけだ。

後は単純に……高い実力を備えた挑戦者が増えてきた、というのもある。

「予想外の人物と遭遇しまして……こちらから呼んだのに、ごめんなさい」

前にフェニクスとご飯を食べた酒場だ。

フェニクスとリリーが遅れてやってきて、僕の座っていた卓に近づいてくる。

僕は思考を切り上げ、二人を見遣った。

「大丈夫。予想外の人物って?」

二人が席につき、飲み物を注文。食事の好みは把握しているので、既に注文は済ませていた。

「【湖の勇者】です」

「あぁ、合同訓練の件で?」

レイドに参加するエアリアルパーティー、ヘルヴォールパーティー、スカハパーティー、あとはレイスくんとフランさん。

そこにフェニクスパーティーを加えた冒険者達で、意見交換と合同訓練が行われると聞いた。

「いや、私達は不参加ということでその場には寄らなかった。彼の方が……迷っていたようでね」

話を聞くと、イジメっ子を少々過激に退治していたという。

「へぇ……」

強さの信奉者……か。

確かに彼は、強さに執着している。

自信に溢れる態度と相まって、人によっては生意気に映るかもしれない。

ただ、未熟さからくる全能感に酔った子供とは、絶対的に違う。

彼がフランさんに向ける視線には信頼と気安さがあったし、エアリアルさんに窘められたからというのはあるにしても、スカハさんへの非礼も詫びて態度を改めた。

そして、フェニクスから聞いた今回の話。

レイスくんは強さを背景に、傲慢に振る舞っているのではないのだ。

仲間を信じ、決して捨てないという信条を持ち。

主義の異なる者であっても、協力が必要とあれば柔軟に対応し。

また、暴力によって弱者を虐げる者があれば、これを身体的に傷つけずして撃退する。

彼の中には、明確な強者の定義がある。違うか、勇者の定義か。

「なぁ、レメ。私は思ったんだが、彼はあの人に似――」

フェニクスの声は、飲み物を運んできた給仕さんの声に遮られる。

「レイスくんがなんだって?」

「……いや、後でいい。今日の目的とは逸れてしまう話だし」

ちなみに店内に入ってから二人への認識も阻害しているので、客も店の人も僕らには気づかない。

もちろん『客』とは思っているが、それだけ。

「ふぅん。まぁいいか。それで、リリー。話があるんだよね?」

「え、えぇ……。その前に、少しよいですか?」

リリーは果実酒を口につけたが、唇を湿らせる程度だけ含んで木樽ジョッキを卓に置いた。

「うん?」

「先程、レイスくんと言いましたが……お二人は面識が?」

「あー、うん、まぁちょっとね。エアリアルさんがこの街に来た時に少し逢ったんだけど、そこに彼もいたんだ」

「それで、仲間に誘われた?」

フェニクスが唇だけで笑っている。

「なんだよその顔……。断ったぞ、僕は」

「彼は諦めていないようだったけれどね」

「僕にはどうしようもないだろ」

「……何故冷静でいられるのですか? この時代の四大精霊契約者が、全員貴方を求めたということなのですよ?」

【炎の勇者】【嵐の勇者】【湖の勇者】。【泥の勇者】は空席なので、三人で全員。

「あ、あぁ、うん。そう言われると、確かにすごいことだね……」

「すごいなんてものでは……! ……いえ、魔王城の魔王に気に入られることも、充分以上に凄まじいことなのですが」

リリーがここまで反応するのは、彼女がエルフだからというのも大きいだろう。

エルフという種族は、風精霊の子とも呼ばれる。

大昔は実際に風精霊が人に成った姿だとか、人と交わって出来た種族だとか信じられていたようだが、現代ではそう考える者はほとんどいない。

人間(ノーマル) の【魔法使い】は、基本的に得意な属性というものを持たない。均等に才能があるとも言えるし、突出したものが無いとも言える。

だがエルフは生まれつき風魔法の適性を持つ者が多いのだ。

同じように蟲人は土精霊の子、水棲魔物は水精霊の子なんて呼ばれることがある。

精霊契約者でもないのに一部属性に高い適性を持つことから、そう呼ばれるようになったのだろう。

タッグトーナメントでベリトの力が疑われなかったのも、勇者レベルの土属性を扱う蟲人という存在が、有り得なくはないから。

ただ、非常に稀なのは事実。大多数は【勇者】に遠く及ばない。あくまでほとんどの 人間(ノーマル) とは比べ物にならない適性持ち、ということだ。

実際、リリーはあまり風精霊に愛されていない。これは彼女自身の言葉。

エルフは風魔法で弓の精度や威力を上げる者が多く、彼女もそこまでは出来る。

だが大規模な風魔法は使えない。

だからこそ、彼女は『神速』にこだわったのかもしれない。

とにかく、エルフにとって精霊は身近なもので、自分達の種族に加護を与えてくれる存在という認識。

その本体は、非常に尊いもの。

四体しかいない本体の内、三体の契約者が一人の【黒魔導士】を仲間に迎えたがった。

その衝撃は計り知れない。

「そう、だね。けど僕は、仕事を投げ出すつもりはないから」

フェニクスに誘われた時も、エアリアルさんやレイスくんに誘われた時も。

嬉しかった。光栄だったし、胸が熱くなったものだ。

フェニクスと一位を目指し、その夢は半ばで諦めることになった。

だがその先で得た仕事は、多くの仲間は、新しい夢は、僕にとってとても大事なものになったのだ。

「い、いえ……そもそもわたくし達の判断で貴方を排除したことがきっかけだというのに……取り乱しました」

「もういいって。あんまり引き摺られてもやり辛いし、うん……仲間ってのはもう違うけど、他人でもないんだし、友人になれないかな」

「……ゆう、じん」

「だめかな?」

リリーは、不思議なものを見る目で僕を見た。

「貴方は……いえ、貴方がよいと言うのならば」

こくり、と彼女が頷く。

「もちろん。それじゃあ、本題に入ろうか」

僕が微笑むと、彼女も弱々しくだが、笑顔を作った。

「は、い。……本日は、貴方にしか頼めないことがあって参りました」

そして、リリーは頼みごとの内容を明らかにした。

「レイド攻略に限り、わたくしを貴方の部下にしてほしいのです」