軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

121◇人魚姫は○○オタク

ダンジョンにおける、『フロア』の定義。

たとえば魔王城は全十一階層だが、十一の部屋を突破すればクリア……というわけではない。

普通の建造物と同じと考えると分かりやすいか。

一つの階だからといって、一部屋とは限らないわけだ。

冒険者は、沢山ある部屋の扉を開けて回り、ようやく次の階層へ繋がる部屋を見つけると、フロアボスと戦うことになる。これに勝利することで、そのフロアは攻略成功となる。

一つの『階』をフロアと呼び、『部屋』の数や種類は自由というわけだ。

メイド【夢魔】を率いる【恋情の悪魔】シトリーさんの第五層、それとフェニクスパーティー戦での第十層。これらは一つの階に一部屋で、非常に珍しい形態といえる。

荒野や森、空といった広大なステージ一つを展開するタイプを含めると、数は増える。

第六層の海ステージもこれに近いが、部屋数は二つ。

先程まで僕とミラさんのいた一つ目と、今いる二つ目。

「いない……ね」

部屋は正方形。床の半分は白い砂、残り半分は水で満たされている。海辺を箱に詰めたような空間だ。

天候は晴れ。時間帯なら夕方や夜、天気なら嵐や曇りなども可能らしい。

海部分の中央には、長い柱――ではなく、管か。中が空洞になっている円柱がそびえ立っている。

透明な何かで構築されており、中は海水で満たされていた。

ダンジョン攻略ではそこにフロアボスがおり、冒険者達を迎えたのちに戦闘に発展する。

まぁそもそも、普段からボス部屋にいる人なんて滅多にいない。あくまでステージだ。

けれど、ウェパルさんはよく籠もっているのだという。

海上でないなら、海中だろうか。

「想定通りです」

そう言ってミラさんが懐から何かを取り出す。

それは僕らが常に持ち歩く親指サイズの板――登録証に似ている。

機能としては、ほとんど同じものだ。

記憶板(メモリ) なんて呼ばれるそれは、名前まんまの機能を搭載している。

小型の記録石だが、ダンジョンの攻略映像をまるっと記録することも可能。というか、ダンジョン攻略が終わると、映像の収まったこれを受け付けで渡されるのだ。

「ウェパル。例のブツよ」

と、ミラさんが言う。なんだか怪しい取り引きでも始まりそうなフレーズだ。

だが反応はない。

水面は静かだし。波もないまま。

「『初級・始まりのダンジョン』改め、『全レベル対応ダンジョン』の攻略映像よ。当然、全ての未公開シーンを含むフルバージョン」

……ん?

それって確か、僕とトールさん達が、フィリップパーティーと戦った時のものでは……?

レイド戦のニュースで若干勢いが収まったり、逆に僕の登場部分だけ再び取り上げられたりなどしている、話題の攻略映像だ。

「更には別ルートから、フルカスとレメゲトン様の訓練映像を始めとした指導映像も入手しているわ」

足元が揺れた、ような気がした。

いや、揺れているのはフロアか。

砂粒がずず、ずずと絶えず位置を変え、水面が荒れる。

「どうぞ、レメゲトン様」

ミラさんが、僕に傘を掛けた。

持っていなかった筈だが、それもその筈。彼女の血で出来た傘だった。

「相合い傘ですね……ふふふ」

二人一緒に一つの傘に入っている。先の展開が読めた僕は、静かに頷いた。

次の瞬間、海中央の管から、流星のような速度で何かが飛び出してきた。

大量の水が撒き散らされる中、空を泳ぐのは第六層フロアボス――ウェパルさん。

青みを帯びた金色の毛髪がふわりと舞い、人魚の尾が空を掻く。惜しげもなく晒された肌は、胸のみが二つの貝殻で隠されていた。

それは、とても幻想的な光景だった。

彼女が、そのままドボンッ、と落ちるまでは。

「カーーーーミラ!」

凄まじい勢いで彼女が泳いでくる。水が透き通っているおかげでそれがよく見えた。

パラパラと落ちてくる水の粒を傘が弾く中、ミラさんが口を開いた。

「合図を出したら左右に分かれましょう」

慣れているのか、彼女は冷静。

「今です」

僕が左に、ミラさんが右に、それぞれ跳躍。

するとその間を、海中から弾丸のように放たれたウェパルさんの身体が通った。

ずざざざ、と砂の上を滑るウェパルさん。

――普段のイメージと違うな。

でもそうだ、説明を受けていた。好きなものを前にするとテンションが上がるのだと。

「随分と酷いことをするのね、胸に飛び込んでくる美女は受け止めるものではないかしら」

全身を砂だらけにしたのも一瞬。ウェパルさんは水魔法で身体を洗っている。

「貴女、若干レメゲトン様側に飛び込みましたね?」

「途中で、アナタは性格的に避けるって気付いたから。参謀サンまでそんな冷酷だなんて思わなかったけれど」

「あー……」

「いえ、無視してくださいレメゲトン様。あんなものを受け止めては、魔人と言えど身体が吹き飛びます。貴女水魔法で加速したでしょう」

「ふっ……まぁいいじゃない」

あ、誤魔化した。

確かに今のは単に飛び出してきたというには速すぎた。

水棲魔物には、海中での移動を補助する水魔法を扱える者が多い。その応用で、超加速したのかもしれない。

「それよりも、ブツを渡しなさい」

彼女の足元から水が溢れ、それが盛り上がる。くねくね動く、水の柱。それがミラさんに向かって伸び、ウェパルさんはその中を移動。

会議の時もそうだったが、二本足に変化することも出来る筈だが、しないようだ。

「話が先よ」

「中身を検めるのが先……と言いたいところだけど、そこは信用するわ」

ウェパルさんは肩を竦める。

その言葉から、信用を築くだけの取り引きが、これまでも行われていたと推察出来る。

「参謀殿も賢いわね。お一人で来ていたら、多分出てこなかったわ。あぁ、アナタが嫌いとかではなくてね?」

「この子は集中していると、周囲を気にしなくなるんです。そんな時でも特定のワードには反応するので、都合のいい耳ですが」

呆れた様子のミラさんに、ウェパルさんは後ろ髪をふぁさぁ、と掻き上げる。

「進化した耳と言って頂戴」

「進化……」

僕は思わず呟いた。

攻略映像や魔物の訓練映像を餌にすると、驚くくらいに食いつく。

つまり、彼女は。

「ウェパルは魔物オタクなのです」