軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.池袋ダンジョン⑥

その後は黄金騎士団と一緒に戻った。途中で魔物と遭遇するけど、元気になった彼らはあっという間に対処して俺は歩いてるだけだった。すごく強い。

1階に辿り着いたら階段前に人だかりがあって、スタンピードを食い止めるべく送り込まれたハンターたちだった。

「アラグネは倒したよ」

那覇さんがそう言うと、彼らはほっとした顔になった。決死だったんだろう。

待合所(ロビー) に戻ったらまずは寺に連絡して無事を伝える。今日は瀬奈さんが受付なので瀬奈さんにかければワンコールもせずに出た。

「守です。無事に終わりました」

『大丈夫? ケガはない?』

思った以上に切羽詰まった声な気がする。それだけ心配かけちゃってるんだなぁ。

「クイーンアラグネは倒したよ。ちょっと受付によってから帰るから」

『わかったわって、ちょっと、クイーンアラグネって言った? アラグネじゃなくって?』

「収納にはそう出てたから」

『それ、アラグネの強化個体で、ランク40の化け物よ!』

ワーソウナンダー。知らんがな。

「ともかく、早く帰りたいからさっさと受付に行くよ」

受付に向かうと、美人な受付嬢と偉そうなデブが待ち構えてた。

「スタンピードは収まりましたんで帰ります」

「おいマテ。勝手に入ったんだから報酬はなしだからな! まったく弱小ギルドはこれだから!」

デブが唾を飛ばして叫んできた。こいつがギルド長か。

「その弱小ギルドにポーションを500本売れと言ってきたのはそちらでしょう? あまりにも上メセなんでお断りしましたけど」

「なんだと生意気な!」

「あ、これ蜘蛛の魔石です。これがクイーンアラグネの魔石です。クイーンアラグネの魔石は持ち帰りますけど蜘蛛の魔石は犠牲になられた方の家族に寄付します」

カウンターの上にゴトゴトゴトゴトと魔石を置く。蜘蛛の魔石は240個あるはず。クイーンアラグネの魔石は俺が持ってる。

「クイーンアラグネだとぉ?」

「えぇ、アラグネではなくクイーンアラグネでしたよ。えっとそこの受付嬢さん、鑑定スキル持ってますよね? これを鑑定してください」

横の受付嬢さんに振る。

デブも「どうなんだ!」って怒鳴るからか委縮しちゃってる。

「怒鳴ってたらやりにくいですよ」

「ガキが何を言う!」

「そのガキに窘められて恥ずかしくないですか?」

「なんだとぉぉ!」

待合所は静まり返ってるのでデブの怒鳴り声がよく響く。

「ま、間違いなく、クイーンアラグネの魔石です」

「じゃあスタンピードも終わったってことでいいですよね?」

受付嬢さんの鑑定が出たのでこれでおさらばじゃ。

「待て、その魔石も置いていけ!」

「いやですよ。奥さんたちへのお土産です」

「俺を誰だと思ってるんだ! 池袋ギルドのギルド長だぞ!」

「知りませんよそんなこと。唾を飛ばさないで下さい、汚いなぁ」

「このガキがぁぁぁ!!」

カウンターを乗り越えてこっちに来そうだから【説法】で眠らせた。デブはカウンターに崩れ落ちて、そのままボテンと床に転がった。きつくやったので1週間くらいは寝てるんじゃないかな。お休み、よく寝るんだよ?

「あ、毒消しも置いていきますね。じゃ」

カウンターに毒消しを100個取り出して、バイバイだ。

「うちの汚物がすまないね」

那覇さんに呼び止められた。眉を八の字にして困った顔をしている。この人も苦労してるんだろうな。

「これ名刺です。困りごとがあれば相談に乗ります」

名刺を渡しておいた。いつの間にか作ってあって渡されてたやつだ。簡単に渡さないでねって言われてたけど、この人ならいいよね。

電車に乗って千葉方面へ。大網駅に迎えに来てくれるというので改札を出れば、3人が待っていた。マタニティとメイド服と学生服と。違和感さん仕事しすぎ。

こっちに走ってきそうだったから俺から駆け寄る。妊婦さんを走らせちゃいかんよ。

「ただいまー」

務めて明るく。

すぐに車に乗り寺へ。母屋に入ってちゃぶ台につけば、どっと疲れが出た。肉体的にではなく精神的にだ。体も疲れてるけどさ、それよりもデブの相手がね。

瀬奈さんと京香さんは毎日あんなハンターとかを相手にしてたんなら、そりゃ離れたくもなるよ。

「だいぶお疲れねー」

瀬奈さんが左に座った。

「お疲れさまでした」

京香さんは右に座る。

「お疲れー」

智は背後に立って肩たたきをしてくれる。

はぁ、癒される。この空間の時間を止めたい。

「ダンジョンにいる時にどっちを選んでもマイナスがある選択肢しかなくってひとりでは決められない場面があってさ、悩んで決めたけど、いつも3人が何かしらの力を貸してくれてて、それで選ぶ選択肢が決まったんだなって思い知った。いつもありがとう」

感謝の言葉がするっと出た。ひとりじゃ生きていけないよ。いろいろできるんだって思いあがってたな、俺。

「守くーん、晩御飯はわたしたちで作るわよー?」

「私の料理の腕を見せるとき」

「あたし、家庭科の評価はよかったんだからね」

瀬奈さんが左腕に、京香さんが右腕に、智が後ろから抱き着いてきた。

俺が疲れてる顔してるからか、奥様方が料理をすると。初めて会った時のあのおにぎりを思い出すと不安だけど、せっかく言ってくれてるのに断るのも。あと、手料理食べたい。

「奥様方の手料理が食べたい」

「「「!!」」」

「これはやるしかないわねー」

「がんばる」

「あたしの料理の腕を思い知りなさい!」

かくして、奥様3人が台所へ消えていった。

夕飯前に父さんが帰ってきて、俺がのんびりしているのに台所に気配があることを不思議がってる。

「みんなが夕飯を作ってくれるって」

「ほぉ、それは楽しみだな」

父さんもにっこりだ。

「うわぁ」とか「きゃあ」とか「あっつ」とか心配になる声を聞きながらも無事に夕飯となった。

献立は失敗が少ない野菜炒めと焼き魚と豆腐の味噌汁。3人の指に貼られている絆創膏が痛々しい。後で綺麗な包帯を巻いてあげよう。

「ではいただきます」

「「「「いただきます!」」」」

まずは野菜炒めを一口。うん、甘い。父さんも「ん?」って顔をしたけど笑顔で黙々と食べてる。

「うっ」

「甘い!?」

「砂糖と塩を間違えた!?」

瀬奈さん京香さん智がばつの悪そうな顔になった。でも俺の心にはじんわり染み入ってくる。

「守、懐かしいな」

父さんが野菜炒めを食べながら懐かしそうに頬を緩めた。

「俺もよく砂糖と塩を間違えたよね」

「父さんも、人参を生煮えにしたりな」

「ははは。まぁ人参は生でも食べられるし。俺もジャガイモの茹で時間を間違えたなぁ」

「母さんがいなくなったとき、守はまだ小学生だった。当然だ」

俺も父さんも笑顔だ。失敗料理を食べたら思い出したよ。

「次はこうするあーする言いながら父さんと食べたね」

「いまはちゃぶ台を囲む家族も増えた。母さんに見せたかったな」

たらればはないけど、こうだったらなって思うことはある。

「あれからもう10年か……そろそろけじめをつけて前に進むべきかもしれんな」

父さんが味噌が多すぎてしょっぱい味噌汁を口にする。そうだね。立ち止まったままだもんね。

「墓はないが、仏壇だけでも設けようかと思うんだ」

「いいんじゃないかな、それで」

「実はな、仏壇はもう何年も前から用意してあるんだ。踏ん切りがつかなくてな。でもこの料理を食べて思い出したよ。いつまでも立ち止まってては母さんが輪廻に戻れない」

父さんはそういうと台所へ向かった。一升瓶とグラスを持って帰ってきた。

「こんな時くらいは飲まないとな」

父さんが一人で飲み始めた。父さんとしても、迷った末の決断なんだろう。父さんは日本酒をグラスで1杯飲んだら酔って寝てしまった。酒に弱いけど、心の重しがなくなったからもあるんだろう。

父さんを寝室に運んだ。いい夢を。

片付けも終えた夜の22時。そろそろ寝るかという時間なのに俺の部屋には奥様方が集まっている。しかもみな薄着で。

「守くんがさみしーかなーって」

「添い寝係」

「一緒に寝てあげる」

寝るの意味が違う気もするが慰めなのかな。

優しい奥様方だ。

「寝る意味をたがえてる気はするけど父さんが酔いつぶれちゃってるから容赦はしないぞー」

容赦しなかったぜ。