作品タイトル不明
15.アイアンビッチ襲来とギルド独立①
夏休みが終わり佐倉は学校が再開する。佐倉は暑い中登校し、机にぐったりとしていた。今時の学校なので空調は完備されているが、それでも窓からの日差しで教室は暑くなっていく。
「おら、ホームルーム始めるぞ」
担任の先生が入ってきた。中年男子、いわゆるオッサンだ。元ハンターで妻子持ち、と常識的な人物だ。
「欠席は、美浦と鹿島と神栖、だけだな」
美浦らが欠席になっていたが、佐倉らは事情を察しているので黙っている。どうせろくなことではないはずだ。
「よーし、ちゅーもーく」
先生が黒板に向かい大きな文字を書き始める。
【船橋ダンジョン立ち入り禁止】
「「「「えぇぇぇぇ!!」」」」
教室に悲鳴が響く。当然佐倉もだ。
「先日、船橋ダンジョンで正体不明の強力な魔物が出現した。調査が必要とのことで学生は立ち入り禁止となった」
あれか零士さんか、と事情を知る3人は納得した。確かに、武者幽鬼が出たとなれば学生どころかハンターですら立ち入り禁止にしないと大惨事になる。今でこそショタ零士として、親友の師匠として寺の母屋で生活しているが、元々は魔物だ。いや、現在も 魔(・) 物(・) 扱(・) い(・) だが、ぶっちゃけてしまえば分類不可なので魔物としているだけだ。
「先生! 実習とかはどうなるんですか!」
席を立ったのは学級委員の男の子で成田だ。眼鏡をかけて真面目そうな男子で「学級委員ぽい」という理由で学級委員をやらされていた。本人は満足しているので誰も不幸ではない。
「まだはっきりと決まってはないが、同じ県内の勝浦海底ダンジョンで行うことになるだろう」
「勝浦!?」
「遠くない?」
クラスがざわつく。成田が挙手した。
「先生、勝浦だと日帰りは難しいのでは?」
「そうなんだよなー。やるとしたら数日かけての泊りになるだろうが、まだ何も決まってなくてな。船橋ダンジョンでの調査も始まったばかりなんだよ」
先生は申し訳なさげに頭を掻く。武者幽鬼を探すのだろうが見つかるはずがない。船橋には い(・) な(・) い(・) のだ。いたらそれはそれでマズいのだが。
「詳しい事が決まりしだい親御さんあてにも通知を出す」
それ以上は追及しても答えが返ってこないので、生徒から質問はなかった。
「佐倉―」
「智ー」
佐倉の机に四街道、柏、ポニーの4人が集まる。佐倉には勝浦や小湊という伝手があり、またバックにいる 守(旦那) が強力なのでどうしても相談を受けるポジションになる。
「佐倉、詳しいこと知ってる?」
「智、何か聞いてる?」
ほぼ同時に同じ内容を問いただされる。佐倉は言っていいことと悪いことを反芻し、答えることにする。
「うーんと、船橋で大捕り物があったってことは聞いた」
「おおとりもの?」
「なにそれ?」
「レアアイテムを狙ってハンターを襲う悪いヤツらを一網打尽にするって、瀬奈さんから聞いた」
「あ、それって最近見かける目つきの悪いハンターとか?」
「あー、怖そうなハンターがいたねー」
「あと、ハンターの力を使って女の人とかを襲ってたクズとかもだって。大多喜副ギルド長が大ナタ振るってるんだって」
「ほえー」
「うわー、そんなものいるんだー」
「こわー」
「ハンターにもなってないうちらは危ないからってこと?」
「人質にされると困るって言われた」
「あー」
「やりかねないな、あいつらなら」
ぽっちゃり太田が美浦の机をチラ見した。美浦もひどいが、その先輩たちはもうどうしようもないレベルでクズだった。
佐倉はムカつく感情など通り過ぎて呆れている。あの程度なら3人でカースをかければどうにでもできてはいたのだ。ただ、やる前に零士が出てくれた。
魔物の自分が暴れればハンター同士ではなくなるからだと、あとで教えてもらっていた。大人の判断で、感謝しかない。
「なになに、佐倉って情報ツウなのー?」
「なんで詳しいんだ?」
クラスメイトが聞き耳を立てていたらしく寄ってくる。
「えーっとね……」
どうしようかと思った佐倉だが、現状をカミングアウトするのだった。
学校が始まって寺も静かになった。墓地とダンジョンの掃除は一緒にやってるけども。
家事も一通り終えてお茶の時間だ。緑茶に氷を入れてると京香さんが台所に来た。今日はあのメイド服を着ている。非常にかわいい。父さんにも好評だ。
「守君とお義父さんにお話があります」
そういった京香さんはすごく真面目な顔だ。
「俺の他に父さんも?」
「はい。土地や建物の話をしたいので」
「なるほど、それじゃ父さんだね」
ということで父さんを呼ぶ。ついでにお茶休憩にしよう。
ちゃぶ台につくのは俺、父さん、京香さん、瀬奈さん。大人のフルメンバーだ。零士くんは気を利かせてくれたのかダンジョンを巡回してる。
「お義父さん、お忙しいところすみません」
「いやいや、ちょうど休憩かなと思っていたところですよ」
「議題は色々あるので早速ですが、まずは吉報から」
「はーい、わたしからでーす」
瀬奈さんがちゃぶ台に手帳を出した。可愛らしいイラストが描かれている、小さな手帳だ。
「母子、手帳?」
「妊娠しました」
瀬奈さんがぺこりとお辞儀する。父さんが俺を見てきた。当然俺の子だろう。俺以外でも困る。
あれ、思ったより動揺しないな俺。あっさり受け入れちゃってる。
「そっか。ありがとう」
するっとそんな言葉が出てくる。
「ふふ、よかったー」
「先輩が落ち着いたら次は私ですので」
ほっとした笑みを浮かべる瀬奈さんとにっこりしつつも俺を凝視してくる京香さん。はい、心得ております。
「おめでとう、瀬奈さん」
父さんが声をかける。
「ご迷惑をおかけしますが」
「ほっほっほ、迷惑なんてそんな。初孫ですぞ? 檀家さんに自慢してやりますわい」
にこにこの父さん。秒でデレた。
「それに関係することでもあるのですが借家の隣家についてです。子供が増えること、契約ハンターも増えることが見込まれておりますので手狭になると予想されます」
「わたしが3人でー京香ちゃんも3人でー智も3人とすれば9人だもんねー!」
「野球チームでも作る気ですか……」
「大家族っていいと思うのよー」
両親に問題があった瀬奈さんは、家族という関係に憧れがあるのかもしれない。そりゃまぁ少子化のご時世に福音だけども。
「なるほど。確かに手狭になってしまうな」
「ですので、隣家及び周囲の土地と建物を買い取って増築ないしは空いている敷地に新しく家を建てて母屋と廊下でつなごうかと思っております。費用は守君の稼ぎですでに足りております」
「ふむ、瀬奈さんが妊娠したとなれば、連絡が取りやすい方が良いだろう。いちいち表を通るのは負担になってしまうね」
「はい。不動産の方に打診はしておりまして、許可が頂ければすぐにでも取り掛かりたいです」
「資産としては守のものにしてもらえるかい?」
「隣家及び廊下部はそのつもりです」
「ついでにこの母屋も守の資産にしてしまった方が良いかもしれんな」
「ではそのようにいたします」
父さんと京香さんの間で、俺ではよくわからない話が進んでいく。まだまだガキなんだな俺は。色々勉強しないと、奥様達に呆れられちゃう。それはイヤだ。
にしても。
「京香さんはさすがだなぁ……」
「不動産は専門外でしたが勉強しました。守君のために」
笑顔の京香さんにさらっと言われてしまった。
「ありがとう。俺も勉強しないと、3人のためにも」
よし、やるぞ。気合だけだけど。
「さてこの後はギルドについてですが。おや、誰か来たようです」
京香さんが話題を変えたところで母屋のインターフォンが鳴った。通販でも頼んだのかな、と思ったけど瀬奈さんも京香さんもなんだろうって顔してる。ともかく玄関に向かう。
モニターに映っていたのは、あのアイアンビッチだった。