軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.夏の登校日①

8月に入り夏休みも半分ほどが終わった暑い日。ハンターコースの学生は登校する日がある。毎日だらだら過ごすのを予防するためだが、暑い中に登校させられる方はたまったものではない。熱で空気がゆがんでいる。

制服姿の佐倉は学校最寄りの駅近くのコンビニで買ったかき氷バーを食べながら歩いていた。

「智ー!」

後ろから四街道が走ってくる。すっかり日焼けしてこんがり小麦色の肌だ。栗色の長い髪は一つに縛っていた。そのまま流していると暑いのだ。

「美奈おはー」

「あついねー」

「あじぃ」

佐倉はかき氷バーをかじる。口の中だけでも冷却したい。

「智はレベルあがった?」

「強制的にあげられてるー。16になってスキルを覚えた」

「おおお流石奥様」

「誰が奥様じゃ! まだじゃい!」

「 ま(・) だ(・) 、ねー」

四街道は佐倉の左手を見る。薬指には光るものが。

「婚姻届けは出してないもん」

「現役JKの結婚指輪すげー」

「まだ婚約だって!」

「幸せですなぁーうりうりー。はーわたしも彼氏ほしー」

四街道が「にひひ」といやらしい声で笑う。

「オクサマーオハヨー」

歩道のわきに柏が立っていた。ハンディファンを制服のシャツの胸元入れているが汗だくだ。

「誰が奥様よ!」

「葉子おはー」

「ミナもおはー」

いつもの3人が揃って学校への道を歩く。栗色の四街道と黒が強い佐倉と金髪の柏が並ぶ。個性的だがハンターはこれが普通だ。

「あの後にすぐニュースで見るとは思わなかったね」

佐倉は呆れた顔になる。

海で遊んだ次の日。スキルの遺伝の可能性が発表され、世界的な潮流に合わせるとして有能なスキルをもったハンターの重婚が認められた。スキルの認定は各ギルドが行い、その認定証をもって複数人との婚姻届けを受理する。なおスキルの認定は書類のみである。

「ユニークスキル持ちがすでに完売だったもんねー」

「オニーサンはすでに完売御礼イエー」

「 守(・) お(・) に(・) ー(・) さ(・) ん(・) を買った佐倉でーす」

佐倉が投げやり気味に手を挙げる。

守の呼び方も「おにーさん」から「守おにーさん」に変わった。将来結婚した時に「おにーさん」と呼んでいては誤解を招く。

同じく勝浦のことは「瀬奈さん」、小湊のことは「京香さん」、となった。佐倉の呼び方は「智」、ないしは「智美」である。

「パイセンから幸せ爆発なメールがきてアーシはウレシーゾー!」

柏が「うぉぉぉ」と叫びながら身もだえした。

「小湊先輩がいってたみたいにザル法案みたいだね」

「スキル偽造野郎はすでに取り消されたみたい」

「ハヤスギー」

小湊が危惧したように、スキル偽造でハーレムを作ろうとした痴れ者が検挙されていた。

ダべっていれば学校に着く。普通科の生徒は部活をしてるがハンターコースは制服で登校だ。普通科の生徒の視線が冷ややかに感じるのは、先般のニュースのせいだろうか。

自分はまっとうに重婚なんだぞと佐倉は思うが口には出さない。どうせ理解はされない。

学校について教室へ。生徒の半数以上はすでにいた。最近行動を共にするようになったあの4人もいる。ぽっちゃり太田、ポニテ足立、ツインテール品川、ボブ渋谷の4人だ。

基本的には7人で組んでダンジョンに入るが、7人もいれば都合がつかないこともあり、佐倉達3人と太田達4人に分かれる時もある。

4人の中でぽっちゃり体型の太田は近接から弓を使った中距離に変更した。それに伴って4人で行動する際の指示役になっていた。

それぞれのグループに佐倉側は『桜前線』、太田側は『ポニー』と名をつけている。船橋に競馬場があり、サラブレットにはなれないがせめてポニーにはなりたい、という願望が埋め込まれていた。馬に例えるならば若駒など言い方はいろいろあるが「カタカナだとかわいい」という理由で採択された。

かわいいは正義なのだ。

「おはー」

「おっすおっす」

「あついねー」

「とろけそー」

交わされる会話は代り映えしない。それほどまでに暑かった。

やがて担任が来てホームルームが始まる。

「休みも半分だ。宿題はためるなよー」

担任はそう言うとさっさと出て行った。登校日とはいえ授業があるわけではなく、ホームルームで終わる。

終わりと分かればみな席を立ち、好きな場所へ移動する。佐倉のもとには四街道と柏が来た。

「暑い中きたのにさー。これだけってないよねー」

「ソレナ」

「ひっどいよねー」

3人のみならず、生徒はオコだ。さっさと帰りだす生徒もいる。

そんな荒れ気味の教室の中で、金髪男子の美浦が佐倉の席に歩いてきた。

「佐倉ー、くそ暑いしよ、俺たちと海に遊びにいこーぜー」

にやにやしながら話しかけてくるが、佐倉の脳裏には守にコテンパンにやられて素っ裸になった姿が浮かんでしまう。吹き出しそうになるのを懸命にこらえ、彼をにらむ。

「そろそろお盆なのに馬鹿じゃないの? お盆は海に入っちゃいけないのよ」

「はぁ? 佐倉お前、そんな迷信なんて信じちゃってるの?」

「そうそう、イマドキ迷信なんてはやらねーって」

「先輩が車出してくれるっていってくれてな」

美浦の後ろからモヒカン頭の鹿島とロン毛の神栖が加勢する。彼のいう先輩とは、佐倉に対してセクハラまがいな暴言を吐いて守にお尻ペンペンされた先輩ハンターのことだろうか。むかつきで鳥肌が立ちそうだ。

「お盆くらいから海水温が上がってクラゲが増えてくるから危ないってのは昔からの知恵よ」

「最近はアチーからお盆前にはクラゲがフエッゾ」

佐倉には四街道と柏が加勢してきた。

「クラゲなんて俺がスキルで蹴散らしてやんよ」

「俺らは先輩に鍛えられてるからな!」

「もうレベルも3なんだぜ!」

男子3人は自慢げに語るが、佐倉たちはあきれるだけだ。

佐倉はすでにレベル16で、四街道と柏はレベル9だ。ポニーの4人ですらレベル5になって新しいスキルを覚えていた。もちろん関係者以外は知らないことだが。

「佐倉には彼氏がいるからあきらめな」

「そうそう。とんでもない彼氏がいるから」

ツインテール品川とポニテ足立がぬるっと会話に入ってくる。

「はぁ? 彼氏ぃ?」

美浦が慌てて佐倉に顔を向ける。佐倉は耳を赤くしつつ視線は逸らし「まぁ、できたのよ」と返す。

そんな乙女な様子の佐倉に見とれそうになった美浦だが、彼氏という言葉に頭がかっとなった。

「どどどどいつだ!」

「あんたは知らなくてもいいじゃない」

慌てふためく美浦に対して佐倉は手でしっしと追い払うしぐさをする。教えるつもりもないが、教えたらもっと騒がれるに決まっているからだ。守に迷惑をかけたくない佐倉の思いもある。

とりつく島もない塩対応に美浦の頭はさらにヒートアップした。

「おおお教えろ!」

「なんで?」

美浦はバシンと佐倉の机に手をつくが佐倉は平然としている。佐倉の方がすでに腕力も強くなってしまっており、こんなことでは恐怖を感じなくなっているのだ。

「佐倉ー。打ち合わせしたいんだけどー」

遠くから太田が声を張り上げる。援護射撃だ。

「おっけー」

「どこでやんのー?」

「じゃあ、 船橋(ギルド) 上のファミレスで!」

「いこいこー」

「じゃ、あたし行くから」

「ちょ、佐倉! 待てって!」

美浦は立ち上がった佐倉の手首を掴もうとしたがあっさりかわされてしまう。

「は?」

「じゃね」

佐倉は空ぶった美浦を振り返ることなく太田がいる方へ歩いて行った。