軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)④ 日比谷にダンジョン設置①

月も変わって2月に入った。幼稚園は節分の豆まきの用意でせわしない。毎年俺が鬼役なので今年もやる所存。わるいごはいねがー。

豆まきって有名な寺――例えば成田山新勝寺とか浅草寺――とか神社でもやるんだけど、原形は追儺ていう鬼払いの行事だったんだ。医学なんてものがなかった昔は病気は疫鬼として恐れられてて、それを追い払う儀式だった、はず。

うちでは山門の高いところに柊鰯(柊の小枝と焼いた鰯の頭)を縛り付けてる。背の高い鬼の目の付くところにってことらしい。

閑話休題。

「やっと許可が出ました」

メールチェックをしていた京香さんが安堵の息を吐いた。

なんの許可かといえば、日比谷のビッチさんの事務所にダンジョンを設置する許可のことだ。以前の賄賂が効果を発揮したのかもしれない。

ワンフロア200平米あるビルの2階と3階を借りた。家賃は特別価格で月100万円。普通なら倍以上だって。さすが皇居のおひざ元。お高い。

2階にギルド事務所、3階にダンジョンを置く。空調とか調子が悪い設備はうちの費用ですべて修理した。仕事するにも快適な空間がマストよね。

ビッチさんの事務所に置くのは【いわきダンジョン】。その管理ギルドは日比谷ギルドから引き抜いた4人で回す予定だ。

藤枝義孝:支所長で元課長。45歳妻子あり 【記憶】

焼津紀子:副支所長、32歳既婚者元ハンター【連撃】【怪力】

沼津巴:25歳独身【鑑定】袋井が彼氏らしい

袋井敬一:24歳独身【速記】沼津が彼女らしい

有能さんばかり。日比谷高校の生徒にも顔が知られているので都合がよい。

ここで魔石およびドロップ品の買取と、きれいな包帯、ポーションの販売も行う。まぁポーションは高いから売れないだろうけど、あれば大けがした場合に使えるんだよ。これはギルドの4人にも言えることなのできっちり説明した。

使うべき時を見誤らないでね。

このギルドの扱いとしては獄楽寺ギルド日比谷支所。給料+出来高制。基本的には瀬奈さん京香さんと同じ額。

週休二日制、営業は朝11時から19時まで。休憩は随時。葉介さんに相談して労働基準法ってやつに違反しない勤務体系にしてもらった。基本は学生に合わせる。学生の相談にも乗ってあげてって付け加えた。目指せホワイトな職場!

日比谷高校から徒歩10分でご近所といえる距離の上に武器を学校に戻すので学校でシャワーを浴びて汗を流すことも可能。みんなに優しいぞ。

ダンジョン設置当日は日曜日。俺と京香さんが日比谷に向かう。日曜だからか電車は空いてたぜ。

立ち会うのは 俺たちの他にビッチさん+信号機の3人、ビッチさんのお父さんで上野商会の社長さんである上野 翅(つばさ) さん、ギルド職員の4人だ。10時に『上野日比谷ビルヂング』という定礎の前に集合だ。

「おはようございます!」

待ち合わせが昼でも一発目のあいさつは「おはようございます」だ。

「早いのね」

すでにビッチさんと信号機の3人がいた。今日も美人なビッチさんはシンプルなダウンのコートだけど、上品に見えるので絶対に高い奴だ。信号機トリオはお揃いのトレンチコートでびしっと決めてる。センスがいいなぁ。

うちはといえば、俺は冬でも作務衣で京香さんはメイド服だ。着たいものを着ればばいいんだよ。

「父はもう事務所にいますわ」

「まだギルドの4人が来てないから俺は外で待ってます。妊婦さんらは冷えたらダメなんで中にいてください」

「あら、紳士ですわね」

お褒めいただいたぞ。実際は煩悩まみれの坊主だけど。

ちょっと待てば4人の男女が駆けてくる。あれだろうな。

どこにでもいそうな細身のおっさんとやけに姿勢のいいお姉さまと俺よりちょい上に見える若い男女だ。

「すみません、皆で揃って行きたくて待ち合わせしたら遅れてしまいました」

「いやいや、まだ待ち合わせの時間じゃないですから」

最年長の藤枝さんに謝られてしまった。寺に来たこともあるから顔は知ってるんだ。藤枝さんは課長さんって感じの線が細いけど面倒見がよさげな空気をまとってるおっさん。元ハンターの焼津さんはジャケットのみだけどびしっとしてて頼れるお姉さまって感じ。

沼津さんも袋井さんも薄着で若さがあふれてる。4人とも元気そうでよかったよ。これで暗い顔してたら心配になっちゃう。

「揃ったんで中に入りましょう」

4人を伴って事務所にお邪魔する。上野商会の事務所はまず受付のカウンターがあってそこで訪問の目的を確認して担当者を呼ぶシステムだ。今日はビッチさんがいるので受け付けはスルーだ。

「坂場くん、こちらが父の翅ですわ」

「翅とかいてツバサと読むんだ。娘が大変世話になってるようだね」

スラックスにジャケットとカジュアルな装いの、口ひげがダンディなイケオジが握手を求めてきた。ビッチさんが美人ならお父さんはイケオジだよなぁ。

「初めまして坂場守です。メイドさんは妻兼ギルド職員の京香です。蝶さんには色々無理を言ってすみません」

がっちり握ったらがっちり握り返された。

「ははっ、こちらこそ、普通に商売をしてれば出会うことができない品々を扱う幸福をいただいてるさ」

皴が似合うかっこいい笑顔でそんな言葉をもらってしまった。うーん、イケオジすぎてうまい返しができない。雰囲気に呑まれそうだ。

「先日いただいたもののおかげで、転んでもケガをしなくなって助かっているよ」

「蝶さんが心配されてましたね。お役に立ててるなら僥倖です」

挨拶はこのあたりで切り上げないと俺のボロが出るー。イッパイイッパイでーす。

「後ろの4人でギルドを運営する予定です」

「うん、4人とも知っているよ。あの日比谷ではまともな側の人間だった」

取引してるんだもん、知ってるよね。

「お久ぶりです社長」

「藤枝君、ダンジョンはなくなってしまったけど元気でやってたか」

「おかげさまで。研修で獄楽寺に赴いたら日比谷ダンジョンがあったのには驚きましたが」

「ははっ、娘から聞くだけだが、たいそう不思議なことが多い寺だとか」

「若いハンターたちが真面目にかつ楽しそうに鍛錬に励んでいるのを見て、我々のやる気に火が付きましたよ」

にこやかに会話をしてる。顔見知りってのも有利に働いたのかな。

「お父様、雑談はそこまでにして、まずはダンジョンを設置してしまいましょう」

「うむ、そうだな」

ビッチさんが誘導してくれるから助かる。さすがにこの空気で俺が誘導は厳しい。

ダンジョンへ行くにはまず1階の上野商会の事務所へ入って挨拶してから内階段経由で2階へ。これは、学生以外を入れないための苦肉の策だ。野良ハンターにダンジョンを開放するつもりはない。

2階はギルドの事務所だ。ここでハンター証を機械で読み込ませて入場記録をつける。これは、夜にギルドを閉める際に「誰も残ってないよね」って確認のためだ。

「机も広くなりましたな」

「棚もたくさんあるし、ともかくきれい!」

「冷蔵庫と冷凍庫があるのは助かる! 夏場にアイスを置いておける!」

「給茶機はありがたいっす」

200平米あるけど4人しかいないので事務用品は大きくした。実はパーテーションで区切った仮眠室もある。ダンジョンにはコケケケがいてドロップ品の肉の管理もあるから業務用の冷蔵庫と冷凍庫を用意した。もちろん職員も利用できる。電子レンジとミニキッチンは当然ある。

自販機も置けるけど補充が面倒だから給茶機を置いた。珈琲やら紅茶やらいろいろ選べるから何を入れるかは4人にお任せだ。これの補充くらいは職員がやってね。

「いい感じの休憩スペースができたね」

事務所にはカウンターもあって、そのカウンターがある空間にテーブルセットがふたつ置いてある。日比谷校の生徒が休憩のほかに打合せとか雑談とか宿題もできる。3階にもスペースはあって休憩スペースも用意したけど、ギルド職員に気軽に相談できるようにって配慮なんだ。

ひとりで抱え込まないでちょっとしたことでも話ができるようにしたい。智の例があるからね。

これは俺のわがままで置いてもらった。

「坂場君、3階へ行きますわよ」

3階へ向かう。3階は休憩スペースとパーテーションで区切った男女別の更衣室も作った。汗だくの服で帰るのは嫌だよね。トイレはビルのものを使わせてもらう。

「さてダンジョンを設置するかな」

場所は決まってる。3階の部屋の隅だ。金剛杖を取り出して予定の場所の床に突きつける。

「出します」

【いわきダンジョン】を取り出すと、床がぼろぼろと崩れて階段が出現する。

「ほ、本当にでてきた」

「ゲートも出しておきますねー」

ぽいっとゲートも出しておいた。ゲートは買い取った在庫があるんだよ。

電気工事は後日だ。