軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44.行って(1月)逃げて(2月)去ってしまう(3月)① 海外からのオファー②

その日の午後のお茶タイム。母屋のちゃぶ台には瀬奈さんと京香さんと零士くんの4人が揃った。お茶とお茶請けのお菓子を用意した。

「大多喜ママから電話がきたのねー」

「メールではなく直で来たということはなにかあるのでしょう。大多喜先輩はそんなところがありますから」

ふたりの大多喜さんに対する評価は高い。それは俺もよくわかる。あの人の本質は世話好きのおばちゃんだもん。

「守君、会議はみなで出ましょう」

「そうねー、それがよさそうねー」

ギルド会議についてはそうなった。

「それとビッチさんからのメールなんだけど」

添付のリストとともに話を切り出す。海外から取引のオファーと説明すると零士くんが微妙な顔をする。いい印象はないのかな。

ざっとリストを見ていく京香さんの眉根が寄っていくので人差し指でほぐしてあげる。怒っちゃダメー。

京香さんは見終えてふぅと一息。

「守君、ポーション類はいいとして、魔法のラインナップもそうですがスキル書に疑問があります」

「スキルがコモンスキルなのよねー」

コモン、つまりダンジョンに初めて入ったときに覚えるスキルってことだ。俺もそこがひっかかってる。

「【鑑定】こそありませんが【記憶】は問題を引き起こしそうですね」

「そうねー。国家試験とか総なめにできちゃうし、司法試験も簡単に受かっちゃいそうね」

「悪意ある人物が弁護士になるなど悪夢でしかありません」

ふたりの顔は険しいままだ。

国家資格試験ってのは、要は覚えているかのチェックでしかないんだそうな。定められた法規を理解しているか。間違って覚えていないか。実務経験が必要なものもあるけど、肝心なのはそこだそうな。

覚えていれば受かるのでその人となりは無関係だ。

「そもそもこのスキル書をどうやって手に入れたかが疑問でさ」

俺だったら魔物からゲットするんだけど、それは魔物のスキルだし。これはハンターが覚えるスキルだ。

「【盗人】スキルかそれに準ずるスキルで奪ったとか予想してるんだけど」

「悲しいですが可能性はありますね」

「ハンターは死んでも魔石にはならないしねー」

「ってことは、まさか、死体から!?」

そんな犯罪めいたことがあってほしくない。

生きたハンターから奪う、ないしはコピーしたか。そんなことができるかはわからないけどさ。

「俺が生きてた頃にそんな話は聞かなかったな」

黙っていた零士くんが口を開いた。

「ってことは最近なんですかね」

「守みたいな特殊なスキルを持ったハンターがいるのかもしれねーな。スキルを奪えるような」

「俺が唐津から【盗人】スキルを奪えたのは向こうから襲ってきたからであって、意図して手に入れたものじゃないし、そんなことはしたくもない」

スキルはその人の財産だと思う。ってことはスキルを奪うのは犯罪だ。

「コモンスキルとはいえ人外の力だ。入手して覚えれば強くはなるが、使いこなせなければ意味はない」

零士くんがお茶菓子の桃色のすあまに手を伸ばす。もみゅっとかぶりついてほほを緩ませる。写真に撮って美奈子ちゃんに送ってあげたい。

すあまってのは米粉に砂糖などを加えて蒸した餅菓子なんだ。素朴な味でおいしいんだよ。

縁起を担いで寿甘って書いたりするんだぜ。

「アスリート、特に100メートル走で速くなりたいからと足だけを鍛えても速くはならねえ。足が出る動作には必ず腕の動きも伴う。上半身も鍛えてようやく足を鍛える意味が出てくる」

「その部分だけではなく全体を見ろってこと?」

「そうだが、逆に必要のない部分を鍛えても結果には結びつかないってことでもある。スキルも同じで、色々あったら手段は増えるが熟練度が足りなくて器用貧乏になって強さは頭打ちになる。得意を極めたやつには勝てん」

「あー、それはあるかも。何でもできるけど中途半端になっちゃうって、歴史でも物語でもあるね」

俺も戦闘用スキルなんか持ってたらそれで戦うんだろうけど戦闘センスはなさげだから弱いだろうね。眠らせるとかしびれさせるとか、俺にはそれはお似合いだ。

「だがスグルクラスのハンターが覚えたら話は別だ。アイツが鍛錬の末にあらゆるスキルを使いこなしたら手に負えん。ハンターの底上げにはいいだろうが、そいつの 人(・) 間(・) 性(・) にかかってくる諸刃の剣だな。悪意を持つハンターが強くなるなど悪夢でしかない。ま、それでも守には勝てんだろうが」

零士くんが懸案を口にして寿甘も口にする。零士くんは俺を買いかぶりすぎだ。ただの坊主見習いだぞ?

「そもそも、安易にスキルを与えてしまうのは強いハンターを育てるんじゃなく 創(・) る(・) ように思えてな。昔のアニメであった強化人間だ。歪すぎる」

零士くんは言葉を吐き捨てた。

強くなる過程でスキルを得るのが正道であり、強さとともに精神も鍛えるべき、という武道に近い考えだ。

問題の 正(・) 解(・) だ(・) け(・) を(・) 得ていては、過程を考えるという能力が劣化する。勉強はできるけど新しいものを生み出せない凡人が生まれるんだ。勉強ができるわけでもない自分が言うことじゃないけどさ。

そんな短絡的な思考の人間がはびこり始めてるのかな。

「まさかアメリカはすでに……」

「ねえと思いたい」

俺の疑問にも零士くんは明確に否定してくれなかった。

誰でもできるようにマニュアルがある社会がアメリカだ。誰でも強いハンターになれる方法があれば躊躇なく使うだろう。空恐ろしいと思うけど、それがアメリカのお国柄でもある。

「この話を断ってもいいんだけど、値段次第だけど一通り買ってみようかと思う。紛い物で騙されたのならそれはそれでいい。でも使用できて問題のないものだったら……そのうち国内でも、特にブラックマーケットというかイリーガルなオークションで買えるようになってしまうかなって」

闇市場ってのはいつの時代もあるもんでしょ?

「守の心配はもっともだが……」

「守君、いますぐに動かせる現金は10億程度です。ポーションと武器は外すとして、魔法スキル書を1個ずつ買うなら足りるかと。すでに所有している【ヒール】と【キュア】なども手持ちと比較したいので購入を希望します」

京香さんのフォローが入る。さすが有能メイドさん。

持っているものと同じだった場合、それは本物だとわかる。わかってしまうのが怖いけど。

「ビッチさんに購入する意思を伝えましょうかね……」

俺の心配が外れることを願う。もしかしたらすでに国内に流れてるかもしれない。船橋で捕まえた悪い奴らもその筋からゲットしてたとなると……。

いいしれない不穏さだけが残った。