軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42.狂犬(わん)ちゃんがやってきた②

多賀城さんは文無しで来たようで。

「そっか、旅費でお金がなくなっちゃったんだね。えっと部屋は空いてたかなぁ」

「守くーん、お困りな感じねー」

瀬奈さんがおっとり歩いて多賀城さんの隣に座った。

「いまちょっと満室なのよー。だから、わたしと相部屋でもいいかしらー?」

「人間、立って半畳寝て一畳。押入れを貸してもらえればオレは大丈夫だぜ!」

「あらあら、女の子を押し入れには入れられないわよー」

瀬奈さんも苦笑いだ。この子、北国分さん系の興味あること以外はどうでもいいタイプだな。

この子が【祈り】スキル持ちでレベル4だと説明する。

「あらあらー、幸先いいわねー。しかもレベル4なんて、あとひとつ上げるとタイプがわかるわねー」

瀬奈さんがにっこりだ。あとひとつなのでさっさとあげた方が良いし、それから京香さんを交えて詳しい話をしよう。

「えっと、先にレベルを上げちゃいたいんだけど、ジャージって持ってきてる?」

「この下に履いてるぜ」

多賀城さんがスカートをがばっとめくりあげると藍色のジャージズボンがコンニチハした。でもあちこち擦り切れてて裾もボロボロだ。使い込まれすぎだ。

「女の子がスカートを派手にめくりあげちゃだめよー」

スカートをめくりまくって蹴りまくりだった人がなんか言ってるぞ。この子と違ってパンツ丸見えだったし。

「武器は何か使ってるの?」

「武器はこの拳!」

多賀城さんが自信たっぷりに小さな右こぶしを突き上げた。

武器も使わずにレベル4に?

「【祈り】スキルじゃ魔物は倒せねーし。じゃ殴るしかねーってなった!」

「あー、【祈り】はアンデッド用だしね……」

だからといって殴るとは。もしかしたら武器を買えなかったのかもしれないな。

「オレは役に立たないからひとりで戦ってた! 戦いなら自信あるぜ!」

曇りのない瞳を輝かせる多賀城さん。

ひとりでかぁ。クラスメイトも扱いに困ってたのかなぁ。

ちょっと胸が痛くなった。

三島さんには由比ヶ浜君がいたから何とかなってたのかもしれない。

ともかく、この子は放置すると大変なことになっちゃいそうだ。保護猫じゃないけど、保護しよう。と瀬奈さんとアイコンタクト。

「じゃあまずはダンジョンに行ってレベルを上げようか」

多賀城さんを連れて墓地を歩く。彼女はブレザーの下にジャージを着てるので制服のままだ。着ているジャージがボロボロっポイので隠す意味もある。

でも、制服が大きめで、背も低くて着慣れない制服を着てる中学生に見えちゃう。

「いきなりダンジョンに行っていいのか?」

「【祈り】スキルの子はね、まずレベル5になってもらってタイプを判断するんだ」

「へー、知らなかった!」

話をしていればダンジョンの入り口に着く。ゲートを通って階段を降りても誰もいない。【いわきダンジョン】と【備前ダンジョン】と【日比谷ダンジョン】の入り口があり、そこから声が漏れてくる。

「階段が3つもありやがる!」

多賀城さんが今にも駆けて行きそうなので手を掴んでおく。暴走ワンコだな、もう。

そして思った以上に小さく細い手に気がついた。栄養が足りない感じ。

「多賀城さんはこっちのダンジョンね」

と墓地を指さす。ちょうどいいことにゴブリン骨が5体ほどうろついてる。

「ややややべぇ。ガイコツじゃねえかよ!」

多賀城さんが頭を抱えて全身をガクブルさせてる。もしかしてお化けがお嫌い?

「なんだかかわいいなぁ」

「んだゴルァ。おおおおおおお化けなんて、怖くねーぞ!」

ぼそっとつぶやいたつもりが聞こえちゃったらしい。わわわわん!と威嚇されてしまった。

「ごごごごめん、つい癖で。オレってチビだから小さくて可愛いって言われるとわぁぁぁってなっちゃうんだ」

小柄なので威嚇するのが癖になっている様子。小さいときから揶揄われてるんだろうなぁ。

「俺こそ無神経でごめんね。身長とかをいじられるとムカつくよね。おっとこっちに気がついたか。【祈り】スキルで成仏させてやってもらえないかな」

「成仏?ってあいつらを?」

多賀城さんは震える指をゴブリン骨に向ける。余程苦手なんだね。

「そのための【祈り】だから」

あまりにも怖がってるので盾になる意味で俺が前に出る。金剛杖を取り出して地面に突く。

「【祈り】スキルは範囲攻撃だからそこから使っても届くからね」

「お、おぅ……」

そこから数十秒。まだかなーと待っていたら「いいい祈りだゴルァ」とやけっぱちな叫び声が聞こえた。

スキルは発動したようで、ゴブリン骨は光に消え、白い靄が空に上がっていく。

「なんか上がっていったな……って倒せたぁ!?」

俺を壁にしてのぞき込むように前を確認した多賀城さんがまた叫んだ。この子は叫ぶのが好きだね。

幼女っぽい声で叫ぶから幼稚園にいると錯覚しちゃうよ。

おっと現実に戻らないと。

「これが【祈り】スキルの効果なんだ。アンデッドでない普通の魔物には効果がないスキルなんだ」

「なるほど……だからオレのスキルは役立たずだったんだ」

騒がないところをみるにレベルは上がっていないようなので2階へ行くかな。

「じゃあこの勢いで下に行こうか」

「が、学生の間は1階だけって!」

「墓地ダンジョンは狭いからさ。さー行こう」

細すぎる手を引いて強引に連れていく。握りすぎると折れてしまいそうだから優しくだ。

階下にはホブゴブ骨とゴブリン骨の集団がいた。9体いるので彼女単独で倒せれば経験値は独占できる。ちなみにパーティは組んでいないので彼女が倒した骨の経験値は全て彼女のものだ。

「ま、また骨! しかもデケェ!」

「ホブゴブリン骨だね。【祈り】スキルで一撃だから」

「ほほほほんとうか!? ウソついたらハリセンボン飲ませっぞ!」

子供の頃によく言ったなぁ、嘘ついたらハリセンボンのーますって。まさかここで聞くとは。

さて壁になって視線を遮ればスキルも使いやすいでしょ。と前に出る。

「見えなければ怖くないでしょ?」

「オオオレはお化けなんか怖くねーぞ!」

はいはい、怖いのね。

「ならさっくり成仏させてあげて」

「おおお、おう!」

それから10秒ほど経って「いい祈り!」と幼女の叫びが聞こえた。

ホブ骨もゴブ骨も光に変えた。

「お、おおお? レベルが上がった?」

なぜか疑問系の叫びだ。