軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35. クリスマスと因果応報①

12月といえば師走だが、獄楽寺幼稚園には重要な行事が待っている。そう、クリスマス会だ。

シングルベルシングルベルと悲しく囀る鳥の声ではない。キリスト教のキリスト降誕祭のことだ。

冬の幼稚園の一大イベントともいえる。

俺たちはその準備に駆り出されている。

「お寺でクリスマスってやっていいの?」

壁に折り紙で作ったお飾りを張り付けてる智がこぼす。仏教の象徴たる寺で異教の祭りをやっていいのかという疑問だ。

「うちは毎年やってるよ?」

俺は園児に渡すお菓子の詰め合わせを作りながら答えた。

園児も喜ぶし、子供の笑顔を見れる親御さんも嬉しい。みんな幸せだ。

手作りのお菓子とか入れたいけど衛生面で問題を起こしちゃうと迷惑がかかるからスーパーで買ってきてひとり用の袋に詰め替えるんだよ。

お菓子の大袋を収納に入れてから取り出すとひとり分だけ取り出すことができることが分かってね。俺の役目になった。

「クリスマスは、確かにキリスト教の行事がもとではあるけど、日本ではもはや季節の行事と同じだ。うちが寺だからと幼稚園でクリスマスに触れなければ、園児たちが小学校へ上がった時に肩身の狭い思いをするかもしれない。そんなことはできないと、母さんはそう言っていたよ」

脚立に上って天井の飾り付けをする父さんから声が降ってくる。

「プレゼントを渡すことが目的ではなく、皆で楽しむことが目的だけどね」

「お義母さまの言葉なのねー。いーわねー、そーゆーのー」

教室にある黒板にサンタの絵を描いてる瀬奈さんも賛同してくれる。ちょうどトナカイを書いてるところで、とてもかわいらしく描かれている。絵心があるようでうらやましい。

「瀬奈さんは絵がうまくっていいなぁ」

「わたしが小さいときはひとりで家にいることが多くって、絵ばっかり描いてたからねー」

「でも、いまそれがいきてるんですよね。去年俺が描いたトナカイはクマに間違われたし。クマに引かれたサンタって、ホラーだよ」

「守の描いた絵に園児が怖がってしまっていたなぁ」

「う……まぁ、これからは瀬奈さんがいるから頼っちゃうもんねーだ」

「ふふ、おねーさんに任せてー」

「あたしだって手伝うんだからね!」

「ふたりとも頼もしいな」

和やかな時間が過ぎていく。

京香さんと北国分さんは日比谷ダンジョンでゲットした魔石とドロップ品の買取処理をしてる。やってもやっても終わらないと愚痴られた。北国分さんはアイテムに囲まれて幸せそうではあったけど。

ちなみに、北国分さんは強制的にダンジョンでパワーレベリングをされて、レベルが7になった。レベル5で【暗算】という経理スキルを覚えたので、将来うちを離れる可能性も考えて簿記の資格取得を勧めている。ゆくゆくは税理士も目指せるそうだ。

京香さんとは違った事務系を極めそう。

12月5日 土曜日。12月の上旬ではあるが、獄楽寺幼稚園のクリスマス会の日だ。

普通の幼稚園であれば、クリスマス会はなるべく25日に寄せて開く。だがここは寺であり、師走は結構忙しいのだ。

ここら一帯は冬で時化ることが多い地域であまり漁に出れず、年末は宴会が開かれることが多かった。一帯の知恵袋たる寺の住職は御呼ばれするのだ。まぁ呼ぶ側が「住職が来るから」と酒飲みの言い訳に使うのだが。

そんな風習がいまだに残っていたりする。なので父さんは二日酔い気味な日が多くなる。そんな呑みの日々の前にやってしまうことにしていた。

土曜なので園児の父親が来れる家庭も多い。この日ばかりは送迎バスでは乗り切らないので自転車や徒歩で来園してもらうことになっている。これもまた、園児にとっては楽しいのだ。

「こんにちわー」

お母さんに手をつながれた園児が元気に挨拶をしてくる。出迎えるのは父さんをはじめとする先生たちと俺+奥様ズだ。美奈子ちゃんと葉子ちゃんもいるけど裏方をやってもらってる。北国分さんはアパートの解約の手続きとかをやりに戻っている。

園児のお父さんたちは初めて見るだろう奥様ズに目を大きく開いて驚いてる。結構お腹の大きな妊婦さんとメイドさんと女子高生だし。奥さんにわき腹を抓られてる人もいた。

「メイドさーん」

「メイドのおねーちゃーん」

女の子は両親の手を振り払って京香さんに突撃する。

「はいメイドさんですよ。今日はお父さんもいらしているのだから、頑張ってるところを見せましょうね」

「「はーい」」

膝をついて園児たちの視線に近づけた京香さんが言葉巧みに園児を煽る。もう何年も働いているかのようだ。

壁も天井も飾り付けられ、いつもとは空気が違うことに気が付いた園児たちのボルテージは上がっていく。教室の中を叫びながら走りまわる。園ではめったに見かけないからか、女の子が智に殺到してたりもする。無法地帯だ。でもそれがいい。全員が集まるまでは自由時間だし。

「さて、始めましょうか」

父さんが促すと先生たちが声を張る。

「はーいみなさーん、始めますよー」

「どうするんだったかなー?」

「おすわりー!」

「ならぶー!」

「おれのほうがはやいー!」

園児たちが横3列になってペタンと座る。とても微笑ましくて尊い。合掌したくなる。

「きょうはー、クリスマス会でーす!」

「みんなで楽しくすごしましょー」

「「「はーい!」」」

「最初はー、ツリーの飾りつけでーす!」

「この箱に飾りがありまーす!」

「ひとり3つ、あの木に飾ってくださーい!」

先生が大きな段ボール箱を抱えてる。あの中には雪の代わりの綿とかキラキラのリボンとか、いろいろ入ってる。同じものの奪い合いが減るように、園児の5倍の数を用意した。

「木はこっちだだぞー」

俺は大きな鉢に植えたもみの木を持ち上げて見せる。もみの木は地域の植木屋さんから買ったもので、俺の背丈くらいの小さい奴だ。あまり大きいと園児が届かないからね。

「お父さんとお母さんと一緒に飾り付けをしよー!」

「「「「わーーー!」」」」

子供たちはいっせいに段ボールを取り囲み、飾りをつかんでもみの木に走る。ご両親と一緒とはいえ子供はひとりでつけていくので、みなカメラとスマホを構えて撮影会になっている。

「これ、いちばんうえにつける!」

大きな星を持った男の子が鼻息荒く俺に訴えてくる。

「じゃあ、この踏み台に乗ってつけようか」

「よっしゃー!」

階段になってる踏み台を置けば、トントンと登って手をいっぱいに伸ばして木の上に星を置く。飾りには取り付け用のひもがあるけど、かかっていなかったからさっと直しといた。

「つけ終わったらお友達に場所をゆずろーねー」

もみの木はカオス状態だ。そんな中、ちょっと離れたところに男の子がぽつんと立ち尽くしてるのを見つけた。