軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.日比谷ダンジョンでドロップ品勝負①

ちょっと準備をしたらもう12月だ。向こうは俺の希望を聞いたようで、開始時刻が12時ぴったりになった。

早朝の掃除を終え、朝食と昼食の準備をすれば、あとは俺の用意をするだけだ。

「守くーん、那覇さんが来たわよー」

寮の調理場で食料のチェックをしていると瀬奈さんが呼びに来た。

俺と零士くんが留守の間、墓地ダンジョンを抑えてもらうために黄金騎士団に依頼したんだ。

那覇さんを先頭に食堂にゾロゾロ入ってくる。池袋で見た顔があるな。

なんでも、ダンジョンから最前線でシルクを集めてる黄金騎士団の一軍全員を引き上げてうちに来たらしい。

「やあ坂場君。なんだか楽しいことになってるね」

ニコニコ笑顔の那覇さん。楽しくはないんだけどね。

「困ったもんですけど、売られた喧嘩は買わないとですよー。師匠はやる気で昨日からソワソワしてますよ」

「あはは、ダンジョン踏破を楽しみなんて言えるのはあの人だけだな」

雑談をしてれば大人形態で般若の面をつけた零士くんが来た。一軍さん達が武器に手をかけ腰を落とすけど那覇さんが手で制した。

「スグル、すまねえな。一国一城の主になった男に頼むことじゃねーんだが」

「ふふ、いいんですよ。貴方に頼られるなんて、僕がそれだけの男になったってことです。僕にとって誉ですから」

「1日だ。1日で踏破する」

「……1日、ですか!?」

那覇さんが「正気か?」って顔で俺を見てくる。

「師匠曰く、走れば1日で30階まで行けるって言うんですよ」

「10階のボスまで1時間。20階のボスまで4時間。データのない21階以降は1フロア1時間だ。しめて14時間だ。寝る時間まであるぞ。俺と守なら全然行けるだろ?」

「これですよ」

肩をすくめちゃうよね。

「なので、明日の12時ジャストに踏破の予定で、智たちに現地に行ってもらって配信するつもりなんです」

取らぬ狸のなんとかだけどさ。やれちゃう気はしてる。

「いやはや、考えてる次元が違いすぎる」

那覇さんが苦笑いだ。一軍さん達も「なに言ってんだこいつ」って目で見てくる。当然だよね。

「那覇さん、墓地ダンジョンをお願いします。俺が求めるのは幸せの探究です。不正やパワハラが蔓延るあそこはその対極にある。見過ごせないんですよ」

合掌する。

「いわきダンジョンと備後ダンジョンも置いてきましょうか? 魔物をまとめた資料もありますし」

「備後ダンジョンは気になるね。そこらはあのメイドさんに聞くさ」

「スグル、頼むぞ」

師匠が那覇さんに右手を差し出す。

「土産話を楽しみにしてます」

にこやかな笑みの那覇さんと師匠はがっちり握手した。

電車を乗り継ぎ、日比谷ダンジョンに着いた現在時刻は11時半過ぎ。間に合ってよかった。

日比谷ダンジョンは、建築家がデザインしたような奇妙奇天烈な建物の中にあった。一言で言い表すなら、趣味が悪い。

まあいいやと中に入る。自動ドアから入れば受付があり、受付のおねーさまにしっかり値踏みされた。【鑑定】スキル持ちが配属されるはずなので、俺のレベルも確認したでしょ。

「初めまして、獄楽寺ギルドの坂場です」

会釈だけして通過する。背中に視線が刺さるなぁ。ダンジョンの入り口がある待合場までは案内看板があるのでその通り進めばいい。歩いて数分で大きな空間に出た。待合場だ。

ゲートが3つあるのでランク3のダンジョンってのがわかる。職員がいるカウンターがあって、そこでドロップ品と魔石の買い取りとか相談などの業務をしている様子。うちは超零細で一般のハンターも来ないからこんな設備はない。手持ちのダンジョンが増えてきちゃったし、そのうち来るようになるのかなぁ。

「おやおや、その情けない恰好は獄楽寺ギルドのインチキギルド長ではないか」

俺がぼやっと周囲を見てたらサスペンダーをした中年のデブに話しかけられた。というか、喧嘩売られてる?

スラックスは履いてるけど上はポロシャツだ。もう12月だぞ?

デブは前髪から少し後退したあたりで妙に盛り上がった髪形をしてて、明らかにカツラだ。

腕にはお高そうな時計と腕輪がじゃらじゃらしてて、成金ってのがよく分かった。

「そちらのおデブさんはどなたですか?」

失礼には失礼で返すのが礼儀。そこは外さないよ。

「……田舎の猿は言葉というものを知らない!」

「都会の猿も変わらない気がしますけど」

「お、おれを猿だと!?」

「特定の人物にあてた言葉ではありませんよ」

煽り耐性がない人だなぁ。俺はいろいろ言われてるし池袋とかでも鍛えられたからね。これくらいの返しはできるようになってしまった。

「ふん! 大きな口をきけるものいまの内だ! おい、唐津を呼べ!」

デブは職員を捕まえて偉そうに命令した。こいつがパワハラギルド長なのかな。

職員はみなびくびくしてて、不安そうな顔をしている。碌でもない職場だ。

「見たところ手ぶらだが?」

「見た目でないだけで問題ないですよ」

デブと話をしているからか、待合場にいるハンターの視線を感じる。侮ってるやつよりは同情の視線が多いかな。ハンターが全員腐っているわけではなさそう。

「おーおー。逃げずにぃ来たのはぁ褒めてやるよぉ」

少ししたら職員につれられたキモイ金髪のおっさんが来た。ハンターTVで見た通りのキモさだ。鳥肌が立ったぞ。カメラを構えた男もいる。こいつはハンターTVの人間だろうね。ここも配信するのかな。

後ろには小さい金髪のヤンキーもいる。こいつが息子でうちの子らをインチキだって言ってたおバカちゃんか。親子そろって徳が低そうだ。

「さっさとやりたいんですけど、準備はいいんですか?」

見たところこいつも手ぶらだ。まぁ、事前にあれやこれややって悪だくみはしてるんだろうけどうちのメイドさんがハッキングして何をしてるかはお見通しなのよね。

「急ぐ乞食はぁ、もらいが少ねぇって言うぞぉ?」

「金持ちは時間を無駄にしないんですよ。おや、ご存じない?」

『無礼には無礼で、あくまで慇懃に』が煽るコツだって、辛辣メイドさんが言ってた。

「ほぉぉ、言うじゃねえかぁぁ」

キモ金髪が青筋を立てて歯ぎしりをしてる。

効いてる効いてる。効果は抜群だ。

「日比谷ダンジョンは踏破しますんで俺の勝ちは揺るぎませんが、墓地ダンジョンを放ってもおけないんですよ」

「インチキ野郎がほざくんじゃねえ!」

ミニヤンキーが吠えた。こいつも煽り耐性が足りないな。

「目の前で起こったことを現実として認められないハンターは大成しないって【剣鬼】長篠が言ってましたよ。ちゃんと日比谷ダンジョンは踏破しますんで、楽しみにしててください」

ニッコリ笑顔で言い放てばミニヤンキーが殴り掛かってくる。ちょいと体を横にして足をかけてやればスッテンコロリで顔からダイブした。

「何もないところで転ぶなんて不用心すぎますよ。さて時間ももったいないですから、はじめません?」

「ほぉぉぉお、いい度胸だなぁ。負けたら分かってるんだろうなぁ。配信を開始しろ!」

ぶち切れ寸前のキモ金髪。口調も崩れてきた。化けの皮までもう一歩か。

「おっほん。これより唐津慎吾と坂場によるドロップ品の金額勝負を開始する! 公正を期して配信も行う!」

デブが突然宣言をした。

「インチキギルド長は弱いだろうからぁ、特別にハンデで護衛をつけて差し上げますよぉ」

キモ金髪がそういうと、待合場にいるハンターの中から格別にガラの悪そうなやつらが歩いてきた。圧も感じないので大した強さでもないな。美奈子ちゃんの方がよっぽどおっかない。

「俺より弱い護衛なんていてもしょうがないと思いますけど、まぁ好きにしてください」

「俺らが弱いだぁ?」

「俺に恐喝は通用しないですよ」

ふふっと笑って差し上げればヤカラハンターは顔を真っ赤にする。

「そんな口もぉ、今のうちだぜぇ。ギルド長ぅ、開始をお願いしまぁす」

「よし、スタートだ!」

デブが叫んだ。

「さて行こうかな」

金剛杖を取り出して肩に担ぐ。ゲートまで歩けば、ヤカラハンターが先回りして立ちふさがる。

「おっと、俺らの護衛なしにダンジョンには入れねえぜ」

息が酒臭いので【説法】で眠らせる。うんと効き目を強くして明日の昼までは目覚めないくらいにした。酔いも醒めるでしょ。

どさどさと床に崩れるヤカラたち。踏まないように歩いてゲートを通過する。

「じゃ、踏破してきまーす!」

カメラに向かって手を振った。