軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.黄金騎士団の鍛錬②

「はぁぁぁ、つかれたぁぁぁ」

「緊張したぁぁ」

休憩所に戻ってきた新人たちはテーブルに突っ伏してる。このあたりはAチームと一緒だ。偉い人の前でなれないことをやるから疲れるよね。

「オークとは初めてやったけど、カブトムシより硬いかも」

「皮膚はそうでもなかったけど毛が厄介だな」

「きちんと当てないと刃が通らない」

中堅も得るものはあったらしい。ホッとしたよ。何も得られませんでしたぁぁ、とか言われちゃうと寂しい。

それにしても美奈子ちゃんの強さと零士くんの指導の的確さよ。さすがだ。

「みなお疲れ様。これで午前中は終わる。昼食はここでいただくことになってる」

那覇さんが説明している間に俺は昼食の用意だ。昨晩作ってはあるので収納から出すだけなんだけど量が多いから瀬奈さんと京香さんに手伝ってもらう。ちなみにお昼は中華にしてみました。

おいしいという声が聞こえたのでヨシ!

昼食後は集団戦になるけどゴブリンが60体ほど欲しいというので6階でやることに。ちょっと数が多いけど大丈夫かな。

「これから僕含めた全員でやる。相手はゴブリンが60体だ」

「えぇぇ!」

「多すぎませんか!?」

驚きの声だけど悲鳴にも聞こえる。全員でも19人だし。相手は3倍だ。

「数が多いからと慌てないで冷静に対処してほしい」

那覇さんは有無を言わさない。

「陣形はこうだ」

那覇さんは後方でその前にクロスボウ4人。両翼に中堅3人新人4人ずつ配置する。シンメトリーな配置だ。

「魔物を倒したものが偉いわけではない。サッカーもバスケもそうだけど、アシストがあってこそだ」

自分が倒すんだと思いがちな若手にそう言葉をかける。倒せなかった人も出るだろうからそのフォローかな。

もちろん倒せるチャンスがあれば倒すのがいいんだけどね。

「坂場君、頼む」

「りょーかい!」

那覇さんから合図があったからゴブリンを出現させる。ただし、正面に40体だ。

『グギャギャギャ!』

『グギャーッ!』

緑の餓鬼、ゴブリンの集団が出現する。ゴブリン40体を一気には場所が狭いからか続々と顕現化しては波のように駆けてくる。

「来るぞ。クロスボウは先頭のゴブリンを狙え!」

「はい!」

「当たれぇ!」

クロスボウで転倒を誘い一度に接敵する数を減らす作戦だ。新人はふたり一組で、中堅は個人でゴブリンに当たる。

転倒したゴブリンが後続を巻き込む。前衛は五月雨式にゴブリンと接敵する。

「くっ、この!」

「焦るな。落ち着いて対処しろ」

「はい!」

中堅が新人をフォローしてる。戦闘慣れしてて安心して見ていられる。

「でもまあ、これからなんだけどね」

事前に那覇さんから要望があってね。左右からゴブリン10体ずつを出現させる。

「げ! 横からもかよ!」

「くそ、こいつらで手一杯だ!」

前衛の、特に新人が騒ぎ出す。

「魔物は正面からだけじゃないぞ! 正面を攪乱、ファイヤーボール」

「了解ッ!」

那覇さんが叫ぶ。彼は知ってるから冷静に指示を出してる。

クロスボウの女性が正面にファイヤーボールを放つと続いてもう一発。ゴブリンが爆風にやられ、また爆風で吹き飛ぶことで戦線が崩れる。

このファイヤーボールはポーションのついでに売ったものらしい。わかりやすい賄賂だ。

「魔法すげー!」

「こ、これなら」

浮足立ちそうになってた新人たちも冷静さを取り戻した。

「正面は新人に任せろ!」

「おうさ!」

「正面は頼むぞ!」

左翼右翼の前衛が別れ、中堅が伏兵とぶつかる。クロスボウは正面のゴブリンの足止めするために撃ちまくってる。

那覇さんは余裕だからか地面に剣を刺したまま顔色一つ変えないで視線を動かし続けて仲間の動きを確認してる。できるリーダって感じでかっこいいなぁ。

「これで最後だぁ!」

新人君がゴブリンを切り裂いた。

ゴブリンはすべて魔石に変わって、動いてるのは黄金騎士団の面々だけになった。

「周囲を確認! 魔物の姿がなければ集合!」

那覇さんの指示通り数分間周囲を警戒したのちに集合した。新人たちは腕や足に怪我が目立ってて、足をびっこしてる人もいるけど、中堅たちは土汚れ程度だ。やっぱり差が出るね。

「お疲れ様。ゴブリンのスタンピードを想定したが、これくらいの魔物を撃退できれば十分だろう。だけどこれはあくまで訓練で、こうして集合する余裕もあるがダンジョンではこうもいかない。ケガしたものは軽ければ包帯で、深い傷はポーションを使うように。では休憩だ」

那覇さんの指示で休憩に入った。

包帯もポーションも黄金騎士団が持ち込んだもので、うちからは出してない。うちから出したのはおやつだ。おはぎとかクッキーとかせんべいとか、ちょっとつまめるやつね。

「休憩しながら感想を聞きたい。飯島から」

「はい、えっと、ゴブリンとはいえ集団は怖かったです。挟まれないように動くのが精一杯で周りを見る余裕はなかったです」

「1対1ならゴブリンの対処はできっけど、複数はきついっす」

「那覇さんがいて不安はないはずなんですけど、正直怖かったです」

「ゴブリンでも60体を相手だとなかなか骨が折れますね」

「訓練だって甘く見てましたわ」

「相手は魔物だもんな」

「ファイヤーボールほどではなくとも魔法は牽制になるから覚えたほうがいいかも」

「集団になると魔法の有用性が出るな」

色々出てくるもんだ。

「新人は1対1も集団戦も経験が必要ね」

「どっちを優先するべきかしら」

「両方だろーなー」

ポニーテールズの3人からも意見が出る。訓練は何回もできるから経験してほしい。

おやつを食べながらワイワイしてると、階段から武者が下りてくるのが見えた。零士くん、いや本来の大人形態なので零士さんだ。

気が付いた皆がぎょっとした顔になる。ただ、那覇さんだけは口を開けて呆けていた。

般若の面をつけ、大蛇丸を肩に担ぎ、やばいオーラを放ちながらのっしのっしと歩いてくる。いつの間にか美奈子ちゃんも来てた。学校はどうしたのさ。

「なんだあれ?」

「侍のコスプレ?」

黄金騎士団の若手からはそんな声が。ただ、那覇さんだけが零士さんをじっと見つめてる。

「ここからはサービスだ。ひとり限定で相手してやろう」

「……稽古をつけてもらえるんですか?」

那覇さんが静かに立ち上がった。ざわつく騎士団員たち。ポニーテールズの3人も驚いてる。

「サービスの一環だ」

「お願いします!」

那覇さんが頭を下げた。

「おいスグル!」

「すぐる君、大丈夫なの?」

「ちょっとどうしたの?」

ポニーテールズの3人が寄ろうとしたのを、那覇さんが手で止めた。

「団長!?」

「リーダー!」

「ごめん、僕のわがままを聞いてもらえるかい?」

そう言われてしまえば団員は黙るしかない。ポニーテールズの3人も大人しくなった。

「5分間だ」

零士さんがダンジョンの真ん中あたりに歩いていく。

「師匠はガチでやるつもりです」

美奈子ちゃんに言われた。

ガチでやるとすれば、ここまで影響があるな。

【駆け込み寺】スキルで安全地帯を作る。

「見学する人はこの中から見てください。あのふたりがガチでやったらどうなるかわからないのでー。我々がいたら那覇さんが全力を出せませんよー」

俺がこう言えば、ポニーテールズが真っ先に中に入る。俺のこれを知ってるからね。ただ若手は躊躇してる。これもわかる。怪しさ満点だしさ。

「お前らも中に入れ! スグルの邪魔すんじゃねえ!」

ポニーテールズの一人、与那国の姉御が喝を入れれば団員も動き出す。

「みんな、すまないね」

「なーに、スグルがそんなにワクワクした顔するのは久しぶりだしな」

「……僕、そんなに嬉しそうな顔してる?」

「あたしらがやきもち焼くくらいは楽しそうだぞ」

「そっか。行ってくる」

那覇さんが歩き、零士さんと向き合った。

「強くなったなスグル。良い圧を感じるぞ」

「胸をお借りします」

「守、合図だ」

「了解。両者構え」

零士さんは大蛇丸をトンボに、那覇さんは八双に構えた。皆かたずをのんで、シンと静まり返った。

「はじめ!」