婚約破棄と解消の違いも分からないの?
作者: ひよこ1号
本文
「リブシェ・ズ・ロジュンベルク!君との婚約を破棄する!!」
第一王子ラドミールの声が 会場(ホール) に響き渡った。
穏やかに流れていた音楽がぴたりと止まる。
「かよわいシュテパーンカに嫌がらせをした其方を、国母に迎える事は出来ぬ!私はこの、可憐なシュテパーンカを新しい婚約者とするっっ!」
名指しされたリブシェは、穏やかな笑顔のまま、王子の前に進み出た。
「破棄は承りますけれど、殿下の有責ですわね?」
「は?」
突然の言葉にラドミールが固まった。
「もしかして殿下、解消より破棄の方がカッコいいからとか、そういう理由で破棄と仰ったのではないでしょうね?」
この馬鹿ならあり得る……と見ていた人々の幾人かは心で叫んだ。
解消はお互いに望んで婚約を解く事。
だが破棄は一方的に通告する事だ。
「解消は話し合ってお互いに円満に別れる事ですが、破棄は必ずどちらかが有責になるのですが?そんな初歩の初歩もご存知ない訳ではございませんよね?」
「お、お前がシュティを虐めたのだから、お前が有責だろう」
溜息を吐きたい気持ちを抑えて、リブシェは扇の影で小さく息を漏らす。
「宜しゅうございますか?殿下は既に有責の要件を満たしておいででございますのよ?婚約者であるわたくしの 同行(エスコート) をせず、その令嬢を 同行(エスコート) した上で、婚約が正式に無くなっていないにも関わらず、次期婚約者として指名した、不貞の現行犯でございます」
「な……」
見守っていた貴族達も騒めく。
ラドミールは冷たい目を向けられているのを感じて、何か言葉を探そうとしたが出てこない。
「更に破棄を申し立てたのですから、有責事由であるわたくしによる虐め?ですかしら?そんな無駄な事は致しませんけれど……それを立証してくださいませんと。ただの証言だけでは立証になりませんから、その辺りも履き違えませんよう」
そこでリブシェは扇を閉じてぽん、と掌を叩いた。
その笑みは冷たく美しい。
「大変な労力を注ぎ込んで、万が一わたくしがその男爵令嬢を虐めた証拠があったとしましょう。
だから?」
「だから、とは何だ」
「だから何だと言うのでございます?それはわたくしと彼女の問題であって、殿下の問題ではございませんのよ。婚約を破棄するに足る理由には届きません」
ひゅっと息を呑み込んで、ラドミールが必死の声で叫ぶ。
「国母に相応しくないだろう!?」
「殿下の中で国母とは名誉を穢され、目下の者に侮られても笑って過ごす方の事なのでございましょうか?国を率いる女性がそんなに愚鈍で弱くて宜しいと?身分の序列を弁えない者、法を破る者に制裁を与えるのはれっきとした正義でございましてよ?」
静まった広間をコツコツと靴音を立ててリブシェが数歩、歩み寄る。
「でももし、それも狂言だったら?証言が偽証だったら?どうなるのでございましょうね?」
シュテパーンカに向けた言葉ではないが、彼女は分かりやすく顔を蒼褪めさせた。
ガタガタと震えるシュテパーンカを見て、ラドミールが吠える。
「見ろ、お前のせいで震えているではないか!」
「まあ……有事の際に震えて何も出来ない方を、次代の国母になさると仰るの?他国に侵略され放題になりそうでございますわねえ」
二重の意味での嫌味に、ラドミールは気付いていない。
一つ目は言葉の意味であり、二つ目はそのか弱さに絆された無能を突き付けている。
「ああ、そうそう。それよりも重大な罪がまだ残っておりますわ」
ぱらり、とリブシェは扇を開いた。
ゆっくりと細い手で縁をなぞりながら微笑む。
「貴族にとって何が一番大事な物かご存知でございますわね?……ええ、名誉です。これだけの人々の前で、貴方はわたくしと公爵家を愚弄なさったの。罪があろうが冤罪であろうが、その事実は消えません。貴方の後ろ盾を降りるだけじゃ生温いのでございます」
それは王子に突きつける死刑宣告だ。
リブシェの言葉の正当性においても、権力においても王権を上回った瞬間であった。
公爵家の侮辱が許されるなら、その他の貴族達においても無法が許されてしまう。
国の上に立つ身である王子が無法を行うなら、身分の序列が不安定なものになるという証左で、どの家門もそんな事は許されないと分かっている。
高位貴族なら猶更。
リブシェは、震える二人を冷たい目で見つめ、扇をパチンと閉じて背を向けた。
そのリブシェに別の公爵家の令息が、スッと腕を差し出した。
迷いなくリブシェはその腕に指を添える。
僅かに振り返って、リブシェは最後の言葉をかけた。
「さあ、殿下。わたくしの父、そして我が公爵家の騎士たちが、この侮辱に対してどのようなご挨拶を差し上げるか……楽しみになさって。精々、その庶子の娘と短い夢を貪っていらっしゃいな」
優雅に立ち去っていくリブシェに、公爵家に与する派閥がその後ろ姿に続く。
そして、それを見た他の貴族家も後に続いた。
彼女の言葉と辞去は、現体制への不信に対する答えだ。
残れば王子側の人間と見做されて、標的になりかねない。
ガタガタと音がしてラドミールが振り返れば、国王と共に控えていた重鎮たちもが席を立っている。
官僚や騎士団の長、騎士達までもが去って行った。
残ったのは最低限の近衛騎士達だ。
だが、彼らも冷たい目を向けている。
任務がなければ、ここに留まらなかったはずだ。
去り際、半数の騎士はリブシェに対して敬礼を送っていた。
「何故、止めに入らなんだか分かるか」
国王の静かな問いかけに、王子は腰を抜かしたまま視線だけを向ける。
「リブシェ嬢の言葉を遮ればお前を庇った事になる。黙して見守る事でしか、王家の威信を保てない。それ位の事をお前はやりおったのだ」
一国の王が沈黙せざるを得ないほどの罪。
もし国王が止めていたら、それは公爵家の正当な言い分を遮る事になる。
そして、王子を庇ったのだという立場になれば、すぐにでも離反や反乱が起こっていただろう。
国を支える支柱を失う事は出来ない。
大義名分の無い戦いに参加するかと言われれば、今の誰もいない 会場(ホール) を見れば結果は歴然としていた。
名誉を穢されながらも毅然と論理的に言い返したリブシェ・ズ・ロジュンベルクに対しての敬意と、同意。
いざ戦いになれば、彼女の完璧な正論に太刀打ちできない王家は負ける。
「お前は国を失ったのだ、ラドミール。そなたを廃嫡とする。二人を捕らえよ」
「やめろ、離せ!私は王子だぞ!」
「痛いっ!離してよ!ラドミール様、助けて!」
騒ぐ二人を屈強な騎士達が連行していく。
連れていかれたのは貴族牢ではない。
拷問室だった。
その事実にサァッとラドミールの顔が紙のように白くなる。
「ま、待て、何で、何でだ!」
「自白して頂くためでございます、殿下」
慇懃無礼な書記官が、にこやかに説明をする。
身の回りの世話をしていた従僕達が、今日は椅子に王子を固定する革帯を締めていた。
彼らは用事が終わると、部屋を出ていく。
「さて、殿下への罰はこの娘の自白を聞いて頂く事でございます」
書記官とは別の尋問官が前に進み出て、優雅に頭を下げる。
どこか芝居がかったそれに、王子は一瞬息を呑む。
「まずは、今日シュテパーンカ嬢に使用する道具の説明から始めましょうか」
歌うように尋問官が言い、涙を流して震えるシュテパーンカが台に横たえられる。
「最初の道具ですが、こちらの名称は 苦痛の台(ラック) にございます。この 持ち手(ハンドル) を回すと、身体を上下に引き延ばすことになり、少しずつ身体の骨……関節が外れていくのですよ」
説明が終わるか終わらないかの内に、シュテパーンカは泣き叫んだ。
「言います!何でも言いますから、回さないで!」
縄をかけていた執行人が手を止め、書記官が記録用紙に文を書き入れる。
「被告、台の上にて即座に翻意。狂言を認める」
わざと口に出された言葉に、王子は愕然とする。
まさか、嘘を吐いているなどと思ってもみなかったからだ。
涙を浮かべながら、自分に甘えて来たあの姿が幻想だったと、初めて気が付いたラドミールは呆然とシュテパーンカを見る。
汚れても構わない簡素な麻の布に身を包んで、恥も外聞もなく泣き腫らした顔に、暴れて乱れたぼさぼさの髪。
恨みがましい目で睨んでくる瞳。
そこにはかつて寄り添い、可愛らしく笑っていた少女の面影も無い。
「自白をすれば、処刑になりますが、宜しいですね?」
尋問官が確認するように問いかけると、シュテパーンカは再び混乱して暴れ出す。
「嫌よ!自白しても死ぬなら、言いたくない!助けて、ラドミール様!貴方王子様でしょうっ!?」
王子だと言われても、ラドミールも拘束されていて、助けようがない。
ぶるぶると震えながら見ている事しか出来ないのだ。
それを冷たい目で見ながら、やはり冷たい声で尋問官が告げる。
「自白しなければ、今すぐこの 苦痛の台(ラック) で五体をバラバラに引き裂きますよ。そして、苦しんだ後に処刑となります。苦しんで死ぬか、楽に死ぬかを選べと言っているのですが……」
そこでふう、と尋問官は溜息を吐いた。
「貴方がたはまだ事の重大さが分かっておられないようだ。今問われているのはただの不貞などというくだらない些事ではない。公爵家に冤罪を被せ、国家転覆をはかった愚かな罪を問われているのですから、処刑は当然でしょう?しかも貴方は庶子だ。認知されていようと平民の血が入っている、非嫡出子。そんな娘が公爵家の姫君に泥を被せて無事でいられると思う方が可笑しい」
尋問官の説明が終わると、書記官が静かに付け足した。
「自白すれば斬首を願い出て差しあげましょう。残念ながら刑は公に行わなくてはならぬため、毒杯という方法はとれませんのでね。拒めば先程説明のあったように、骨を砕かれたまま晒し台に送るだけにございます」
男達の冷酷な言葉に耐え切れず、シュテパーンカは震えながら訂正した。
「……わ、私がやりました。全部嘘です。……だから、もう痛くしないで……」
「良いでしょう。では、そちらの椅子に移って、書記官に自白して文章を確認したら 署名(サイン) を。ああ、でもその前に、我が身の罪を自覚させよと国王から勅命があったので、指一本は砕かせて頂きます」
ヒッと短い悲鳴をあげ、シュテパーンカは身を強張らせるが、気にした風もなく執行人が道具を机の上に乗せた。
「これは 指締め器(サムスクリュー) と言いまして……いや、もう説明は不要でございますな」
尋問官がわざとらしく説明を中断する。
執行人は指の中から左手の薬指を選び出した。
それは婚約を台無しにした罪人に相応しい罰だ。
逃げ場のない鉄の台座に指を置かれ、執行人が冷徹に螺子を回し始める。
徐々に狭まる隙間が、ギリギリと指を締め付けた。
「……ひっ、あああああ!」
「痛い、痛い、助けて」
「ラドミール様、助けて、助けてよ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い」
狂ったように叫ぶ彼女の横で、拘束され見ている事しかないラドミール。
名を呼ぶ事さえ怖くてできなかった。
彼女の呼び声に耳を塞ぐ事もできないまま。
ギ、チッという湿った音と共に、細い指の骨が砕ける。
「あああああああああああああああああああ!」
あまりの激痛に、シュテパーンカは白目を剥いて気を失う。
その間に、赤黒く腫れた指から器具が取り外され、彼女は冷水を浴びせられて起こされた。
ぶるぶる震えながら、彼女はぶつぶつと呟く。
「何でも、言う……言うから早く、殺してください……」
その言葉を聞いて、書記官は羽ペンのカリカリという音を響かせながら、書面に書き記す。
「被告、左手第四指の粉砕を以て、不貞と不敬の罰の一部を執行。……自白の継続を確認」
何も出来ず声を発さないラドミールの前で、シュテパーンカは冤罪についての告白を始める。
絶え間ない痛みに苛まれながら、彼女は言った。
「全て……殿下の指示で行いました……」
「なっ……!?違う…それは、嘘だ、間違いだ!」
「嘘ではありません」
ギラリと向けられた執念の籠もった眼に、ヒッと王子はのけ反る様に距離を取ろうとした。
何が何でも道連れにしてやるという恨みがましい目。
執行人と書記官と尋問官は顔を見合わせた。
尋問官が首を縦に振ると、書記官が静かに羽ペンを滑らせる。
「記録いたします……被告、ラドミール元王子の教唆を供述。主従関係による組織的犯罪として記録完了」
「違う、違う!嘘だ、私も騙されたんだ!」
書記官の声を遮る様に言うが、彼らは訂正する気も話を聞く気も無かった。
元々、それが一番良い結末だったからだ。
真実が何処にあるかなどは重要ではない。
公爵家と王家の間に決着がつくように、馬鹿な王子の仕出かした事であり責任を負わせる事の出来る自白だからだ。
痛みと苦しみに汗を滲ませながら、シュテパーンカは満足げに口角を上げる。
責任を取らせるために道連れにしたいと願い、それが叶ったのだ。
シュテパーンカの暴挙を止めなかった王子も悪い。
何処かで撥ね付けてくれれば、こんな事にはなっていなかったと、シュテパーンカは憎しみをぶつけたのだ。
「さて、王子殿下。違うと仰るならば、貴方も彼女と同様の試練が与えられますが、どうなさいますか?」
「ひっ!やめろ!近寄るな!認める!認めるからそれを片付けろ!」
尋問官のにこやかな問いに、ラドミールは身体を跳ね上げて同意の言葉を吐いた。
その瞬間、冷え切った視線が更に蔑みへと変わる。
一人凄惨な笑みを浮かべるシュテパーンカと、脅え切って私は王子だと繰り返すラドミール。
「……承知いたしました。殿下が自ら主犯であると認められたこと、記録に留めます」
「第一王子ラドミール、肉体的な試練の執行を待たず、被告シュテパーンカへの教唆の事実を全面的に認める。自白の成立」
静かに言葉を紡ぎ、書記官はそのまま紙へと書き入れる。
そして二人は同じ死出の旅路も共には行けなかった。
シュテパーンカは国を傾けようとした反逆者として公衆の面前で罵声を浴び、物をぶつけられ、最後には広場で斬首されたのである。
ラドミールは、静かな部屋を用意され、毒で満たされた黄金の杯を震えながら傾けた。
二人の末路を書き記した書簡を受け取ったリブシェは、一読するとそれを暖炉にくべた。
公爵宛にも同じ物が届いているだろうし、リブシェにとってはもうどうでも良いことだったのである。
それよりも、王城への呼び出しに応じるのが億劫だった。
提案される内容は察しがついている。
謁見の間にロジュンベルク公爵と、兄であるロジュンベルク小公爵、リブシェが揃って入室した。
それぞれに麗しい紳士淑女の礼を執って、話し合いに臨む。
「この度は息子の不始末で、そなた達には多大な迷惑をかけた。そこで、優秀な第二王子ミロシュの婚約者として迎えたいと思っておるのだが」
国王の言葉に、ミロシュとその横に控える彼の婚約者のアネシュカが沈鬱な面持ちで口を引き結んでいる。
その様子を見て、リブシェは膝を屈して淑女の礼を執る。
「直答をお許しくださいませ、陛下。……お戯れかと存じますが、不当な婚約の破棄をなさった長子の次に次子までも同じ轍を踏ませては国の乱れに繋がります。そしてわたくしの名誉にも関わりますので、この場で正式にお断りさせて頂きとう存じます」
「リブシェ嬢。そなたの言う通りだ。……我が王家の浅はかな提案が、さらにそなたの名誉を傷つけ、国の信義を損なうところであった。……許してくれ」
国王だけの意見ではないだろう。
重鎮たちも含めて話し合った結果、怒りを収めるための提案であったはずだ。
けれど、謝意を示せるのはここでは国王だけである。
リブシェは静かに頷いた。
「……リブシェ・ズ・ロジュンベルク公爵令嬢。そなたの独立と安寧を、王の名において永遠に保証しよう。……どうか、我が国の良心として、健やかであってくれ」
それは、王家の婚姻を断った事に対する、最大限の擁護だった。
「寛大なるお言葉、感謝申し上げます、陛下。それでは、失礼いたします」
謁見の間を出て、長い廊下を歩いている最中、ミロシュとアネシュカがリブシェに駆け寄った。
「リブシェ様、感謝いたします。わたくし達の婚姻を守ってくださったこと、一生忘れません」
アネシュカが涙を浮かべて頭を下げるのを、リブシェは凛とした手つきで制する。
「いいえ、アネシュカ嬢。貴女を救ったのはわたくしではなく、貴方がたのお互いを思い合う心でございましょう。今日にいたるまで、あの場に貴女が婚約者として立っていた矜持。それを守ったミロシュ殿下の誠実さ。……わたくしは貴方がたの愛を心より信じ、祝福しておりますわ」
「……感謝いたします、リブシェ嬢。貴女が守ってくれたこの愛を、生涯を懸けて全うする事を誓います」
ミロシュの力強い言葉と眼差しに、リブシェは優しく微笑んだ。
それは夜会で見せた冷たい笑みや、断罪の時の恐ろしい笑みではなく、春の陽だまりのような温かい笑みだった。
「ええ、期待しておりますわ、ミロシュ殿下。……それでは、お幸せに」
リブシェは翻り、公爵家の紋章が誇らしく刻まれた馬車へと父や兄と共に乗り込む。
御者が鞭を鳴らし、馬車がゆっくりと動き出した。
「お父様、わたくしの薬指は何方に捧げれば宜しいかしら?勿論、捧げなくても宜しいのですけれど」
「……リブシェよ。お前の薬指は、誰かに捧げるための物ではない。お前自身が、その手で運命を掴み取るためのものだ。……もし、お前に相応しい男がこの世にいないというのなら、一生私や兄の傍で、公爵家の広大な領地を共に治めてくれればよい」
ラドミールの不貞を知ってから、自らの手で叩き切ると言っていた兄も豪快に笑う。
「ハハハ! リブシェ、お前を娶れるような男が、この国に一人でもいると思うか? お前の厳しさに耐え、お前も心から尊敬できる男だぞ。……それに、俺が認めるまでは、誰にも渡さん!」
「左様だ。跡継ぎは兄に任せて、お前は好きなように生きるがよい。王妃という籠の中よりも、領地でのびのびと生きる方が、お前には似合っている」
「まあ、お二人とも、わたくしを甘やかし過ぎですわ」
窘めるように言いつつも、リブシェは満足げに薬指を光に透かし見た。
そこには何も嵌っていない。
かつて嵌められていた指輪の跡すらもう、無かった。
いつか現われるかもしれない誰かの為に、それとも一生自分自身の誇りを守り続けるために。