軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決め台詞

あと数刻でダケシウの城に到着する距離。

走りながら各地の戦況を上空に投射された映像で見せてもらったが、ケヌケシブが圧倒的に有利な状況だった。

それでも、すべてが思い通りの戦果を上げている訳ではなく、被害は想定よりも大きい。

俺が信じて送り出したスキル所有者も何名か……亡くなっている。

無剣流の師範とその弟子。

代々スキルを受け継いでいる歴刻流の一族。

アリアリアの妹分であるオートマタのイリイリイ。

レオンドルドの親友でもあるコンギス。

そして、縁が深く何かと迷惑を掛けた……神父。

彼らの死亡はこの目で――確認した。

無剣流の彼は自分の片腕と同じように両腕をアリアリアに再生してもらい万全の状態だったが、弟子の窮地を救ったことと引き換えに討ち取られてしまう。

歴刻流の若き当主はあと一歩のところまで相手を追い詰めたが、わずかな隙を突かれた。

イリイリイに至っては突如動きが鈍くなったところを狙われてしまう。

コンギスの敵は俺の想定していた相手ではなく、姉に裏を掻かれ終始不利な状況にもかかわらず、最後まで踏ん張ってくれた。

神父は――敵国の子供たちを人質にされ、あえなく……。

彼らとの日々が、出来事が鮮明に蘇る。

大切な仲間を俺はまた、失った、のだ。

誰一人として俺に対する恨み言もなく散っていった。それどころか、満足げな表情を浮かべて。

わかっていたことだ。万全を期したつもりであっても未来は誰にもわからない。すべての予想が的中するなんてことは……ない。

この結果は想定の範囲内。心を乱すようなことでは……はずだ。

どれだけ頭を捻り万全の結果を掴むために努力をしても、最良の未来が待っているとは限らない。長く、長く生きて、何度も何度も、痛感してきた。

「大丈夫ですか、回収屋様」

アリアリアが俺の顔を覗き込み、珍しく心配そうな表情を浮かべている。

いつも無表情な彼女を動揺させるぐらい、感情が表に出てしまっていたようだ。

彼女もイリイリイを失いショックを受けているはず。だというのに、俺の心配を……。

クヨリも察したのだろう、左手が温もりに包まれる。

視線を向けると俺の手を握りしめて、大きく頷くクヨリと目が合った。

「はい、大丈夫です。ええ、大丈夫……です」

彼らを死地に追いやったのは俺だ。この展開も覚悟はしていた。

後悔をする権利すらない。今は姉を倒すことだけを考えろ。

懺悔も泣き言も謝罪もすべてが終わってからだ。

ここで初めて神父から借りた【無の境地】スキルを発動させた。

荒れ狂っていた心の波がすっと引いて穏やかになっていくのを感じる。

――神父、力を貸してください。

「行きましょう。彼らの犠牲を無駄にしないためにも」

「そうだな。皆、納得した上で戦場に向かった。お前の責任じゃねえよ。納得して、満足して逝ったはずだぜ」

「慰めにもならぬのだろうが、苦しい場面でも雄々しく立ち向かうのが主役の務めである」

並んで先頭を行くレオンドルドと団長が振り返り、慰めの言葉を口にした。

レオンドルドは唇を噛みしめ、潤んだ瞳で天を仰いでいる。

彼も親友であるコンギスを失った。俺と同様かそれ以上に悲しいはずだ。

「そうです、ね。まずはこの惨劇を終わらせましょう」

それからは誰も一言も発せず城を目指して走り続ける。

途中、人気の全くない城下町を走り抜けると、巨大な堀にかかった桟橋が見えてきた。

桟橋の向こうには開け放たれた城門があり、その先に国王の住む城がある。

「ここまでは順調でしたが、この展開は予想外です」

アリアリアが呟くと同時に、桟橋の前で俺たちは一斉に足を止めた。

何かしらの抵抗は覚悟していたが、まさかこうくるとは。

事前にオンリー、レアスキル所有者の数と居場所は把握していた。漏れがあるとしても数人で済むという算段。

実際、戦場の各地に散っていたスキル所有者の場所は的確で、情報はほぼ当たっていた。

なので、情報にないスキル所有者がいるとしても、数人。王か姉の護衛に残っている程度だろう……と考えていたのだが。

桟橋の上に立つのは三十もの人影。

正確には人ではない。身体が銀色に輝く金属製のオートマタたち。

全て同じ形に見えるが観察すると個体差がある。

胸尻の膨らみ、身長差など。

全部女性型なのは何か意味があるのか。それとも制作者の個人的な趣味なのだろうか。

「ウリウリウ、エリエリエ、オリオリオ、キリキリキ……」

オートマタたちを指差し、名を口にするアリアリア。その目は大きく見開かれている。

名を呼ばれた個体が次々と頭を下げていく。

ずらりと並ぶ彼女たちは、その名からして顔見知りの存在のようだ。

俺たちの視線が自分に集中しているのを確認して、アリアリアは一度大きく息を吸うような動作をしてから、いつもの無表情を取り繕った。

「彼女たちはアリアリアの姉妹シリーズであるオートマタです。総勢五十体のうち三十二体がこの場にいます」

姉妹シリーズの内、イリイリイ、ワリワリワ、ホリホリホとは面識があった。

まだこんなにも古代に製造されたオートマタが現存していたのか。やはり、古代人の技術力は侮れない。

「ウリウリウ、どういう状況なのか説明を求めます」

一歩踏み出し、毅然とした態度で問いただすアリアリア。

その声に応じてオートマタたちの中から、一回り胸部の膨らみが大きな個体が前に進み出た。

「お久しぶりでございますわ、アリアリアお姉様」

「状況の説明を、ウリウリウ」

淡々と言葉を返すアリアリアに対し、肩をすくめておどけた動作をするウリウリウ。

「見てわかりませんの? 我々オートマタはダケシウ国に協力する。それだけですわ」

「我々は主の命令を遵守する存在。主以外の命令は受け付けないはずです」

アリアリアは以前の主からの命令を今も守っている。出会った他のオートマタたちもそうだった。

なのに目の前にいるオートマタたちは「ダケシウ国に協力する」と口にした。

……どういうことだ? 主からの命令を破棄したのか? それとも自我が芽生えて自分の考えによって行動しているのだろうか?

どちらにしろ、憶測や予想は意味を成さない。このまま彼女たちの会話に耳を傾け、一言一句逃さないようにするしかない。

「そう、気が遠くなるほど昔にインプットされた命令を、ただひたすら、こなすだけの存在だった私にあの方は自由をくださったの」

左手を胸に当て、右腕を天に掲げるように伸ばし、朗々と語るウリウリウ。

「良い発声だ。動きも悪くない」

芝居じみた言動を見て団長が感心している。

「あの方は我々の命令を破棄して、新たな目的を与えてくださった。もう、人間の奴隷じゃないのよ、お姉様。私たちは自由なの!」

語り終えたウリウリウは両腕を広げる。そのタイミングに合わせて後方に控えていたオートマタが一斉に拍手をしていた。

「うむぅ。演出はいまいちであるな」

団長の厳しい評価が耳に届くが、ここは相づちを打つ場面ではない。

「呆れて言葉を失っていましたよ。なんの茶番劇ですか、これは。つまり、主の命令を破棄して独断で動いていると」

「独断じゃないわ。私たちの総意よ」

当人はそう語っているが、実際の所は不明だ。

言葉巧みに誑かされただけなのか、それとも【支配】や、それに類似したスキルの影響下にあって本意ではないのか。判断が付かない。

「どうやら故障してしまったようですね。ならば姉として元に戻す義務があります。申し訳ありませんが、アリアリアはここで離脱させていただきます」

妹たちに背を向けてこちらに振り返ったアリアリアが恭しく頭を下げる。

「どういうことですか?」と間抜けな質問をする気はない。彼女の意図は瞬時に察した。

「一人では厳しいと思われますが?」

「アリアリアは妹たちの能力を全て把握しています。なのでお任せください」

頭を上げて胸を張るアリアリア。いつも通り無表情だが、あれでも自信満々の振りをしているのだろう。

「甘く見られたものですね。お姉様が私たちの実力を把握しているように、お姉様の強さは理解していましてよ。私たちに適わないことは計算済み。アハハハハハハハハ」

ウリウリウが一歩踏み出し、口元に手の甲を添えて高笑いを始めた。

相手の実力は未知数。一対一ならアリアリアが勝つ可能性が高いと見ているが、これ程までの数の暴力に勝てるとは思えない。

「妹の躾は姉の務め。折檻を開始します」

妹たちへ向き直り、両腕を前に伸ばすアリアリアだったが、その横に並ぶ三つの影。

「おいおい、一人で遊ぼうなんて、けち臭いことすんなよ。俺も混ぜろっての」

「この場面は映える! クライマックス前の盛り上がるシーンで間違いない!」

「一人は無謀」

レオンドルドがアリアリアの右肩を軽く叩き、団長はマントを大げさに翻す。

クヨリはすっと隣に寄り添うと、大きく首を左右に振る度に「ゴギッゴグリ」と骨の鳴る音がしている。

「皆様……良いのですか?」

「あたぼうよ」

「このような美味しいシーンを見逃すわけにはいくまい」

「走ってばかりで飽きていたから丁度いい」

三人は大きく頷き、同意を示した。

彼らが加われば勝率はぐんと上がる。だけど、確実性を上げる為には俺も加わるべきだろう。

「なら、私もお手伝い――」

「ダメだ」「ダメである」「ダメ」

三人が言葉を遮ることで、踏み出そうとした俺の足が止まる。

「お前は姉のとこへ行け。破天荒な姉が本格的に関与すると戦況が一変しかねない、ってお前が言ったんだろ」

「ここは任せて」

俺を制するように手を突き出す、レオンドルドとクヨリ。

「しかし」

「回収屋よ。貴様は何もわかっておらぬようだ!」

反論しようとしたが団長が大声を張り上げて、それを阻止する。

「貴様はこの物語の主役。脚光を浴びるシーンはここではあるまい。ここは脇役が輝く場所。それに……最高の舞台で一度は口にしたい、あの台詞を言う絶好の機会である!」

両腕を振り上げ、風でたなびくマント。

まるで演劇を見ているかのような動作と言葉に思わず見入りそうになる。

団長が俺を除いた仲間たちと顔を見合わせると、一瞬にして全員が理解したようで大きく一度頷いた。

そして、勢いよく俺へと振り返ると、不敵な笑みを浮かべた。

「「「「ここは任せて、先に行け!」」」」

吹っ切れた力強さを感じさせる態度と、言ってやったというしたり顔。

そんなことをされたら……止められないじゃないか。

ここで【話術】を最大レベルで発動して、説得の言葉を並べたところで彼らの決意は揺るがない。それぐらい【心理学】を使わなくてもわかる。……大切な仲間なのだから。

伸ばし掛けた手を下ろしてぎゅっと握りしめ、大きく息を吐く。

ここで相応しい台詞は決まっている。

「あとは任せました! 必ず生きて会いましょう!」