軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嘘吐きの恋

魔王団長はお呼ばれしている王城で晩餐会にも強制参加させられるようで、「一泊か二泊してから帰って来るそうですよ」と先に戻って来た団員が教えてくれた。

団員を見張っている姉の手の者がいるのではないかと辺りを探ってみたが、他に誰の気配も感じない。

姉ならば俺と魔王団長の繋がりを把握していると思うのだが、気にも留めてないのかそれとも俺に感知されない方法で見張っているのか。

答えは出ないが警戒はしておくに越したことはない。

今夜は魔王団長と今後について話し合いをする予定だったのだが暇ができたので、ある用事を片付ける為に、以前に手渡された地図に示された場所へ向かう。

この地図は杭の国の宿屋に届いた手紙に同封されていたものだ。その手紙にはこう書かれていた。

『こちらの街に来る機会がありましたら当家をお訊ねください。回収屋様と一度お話をしてみたいので』

とだけあった。胡散臭い内容だったので鞄に放り込んだまま最近まですっかり忘れていたのだが、時間が余っていたのでやって来た次第だ。

「地図に示されていた場所はここですよね」

この街の富裕層が住む一帯でもひと際目立つ、色彩が派手で巨大な屋敷。

鉄製の門の前には磨き上げられた鎧を着込んだ門番が二人見張っている。スキルを確認してみたが中々に優秀な人材だ。

「何かご用ですかな」

近づくと門番の一人が反応する。

言葉づかいも丁寧で教育が行き届いているようだ。

「夜分に失礼します。以前、このような手紙をいただいたものですが」

手紙を渡すと一礼してから確認する門番。

読み切ると「少々お待ちください」と言って屋敷へ連絡に行った。

門の向こうには手入れが行き届いた庭が広がっている。夜なので人影はないがこれほど広い庭なら、昼間は庭師が忙しそうに手入れをしているのだろう。

そんなことを妄想しながら庭を眺めていると、屋敷の扉が勢いよく開く。

門番が出てきたかと思えば、飛び出してきたのは華奢な男だった。

櫛がしっかりと通った癖のない髪に、仕立てのいい服。

育ちの良さが一目で見て分かる、典型的な金持ちの息子といった青年が一目散に駆け寄ってくる。

「か、回収屋さん! 最高のタイミングでいらしてくださいました!」

握手を求められたので、その手を掴むと汗ばんでいた。

庭を走った程度なのに肩で息をしていて、体力のなさが見て取れる。

「あの手紙の主は、あなたなのでしょうか?」

「はい、そうです! 回収屋さんの噂を耳にして、家の者に手紙を運んでもらったのです。このような場所ではなんですので、私の部屋に」

俺の返事も聞かずに強引に屋敷へと招かれる。

姉の手が回っていることを警戒して気配を探るが特に怪しいものはない。過剰に警戒しすぎか。

青年の部屋はかなり広々としているのだが、内装のセンスがかなり独創的だ。

部屋の隅にベッドと机椅子がある。これは普通なのだが部屋の半分以上を占めているのが、武器防具の数々。

それと鍛錬用の器具が幾つも床に転がっている。

「おや、気づかれましたか」

これ見よがしに真新しい武器防具が飾られていたら誰だって目に入る。

どれも丁寧に扱われているようで傷一つなく磨かれている。『鑑定』をしてみると全てがかなり高額な品だと判明した。

武器防具集めが趣味なのだろうか。金持ちにありがちだが。

「驚かれましたか。商家の跡取りとして働いてはいますが、実はこう見えて冒険者としても活躍していまして」

力こぶを作るようなポーズをしているが、服を押し上げるはずの筋肉が見当たらない。

ならスキルが豊富なのかと思えば存在しているスキルはたった二つしかない。それも戦闘系ではない『計算』と『虚言』という組み合わせ。

『計算』は商人や数学が得意な人が得ることが多いので、それなりの教育を受けていれば目覚めることもある。……にしては少しレベルが高い。

『虚言』は嘘を吐きやすくなる。レベルが低ければちょっとした嘘を吐く程度なのだが、レベル10を超えてくると日常会話に嘘がかなりの割合で混ざり、その嘘にもスキルの効果で妙な説得力が生まれる。

この青年は『虚言』が10を軽く超えていた。

「常日頃から鍛錬も欠かさず、こうやって部屋にいる時も己を鍛えているのですよ」

鍛錬用の器具を指差して自慢げに語っているが、どの器具も使われた形跡がない。

一度や二度は使ったかもしれないが、使い込んではいないと断言できる。

「失礼ですが、嘘ですよね?」

「何を仰っているのですか。一に鍛錬、二に鍛錬、三四がなくて五に鍛錬の男ですよ。冒険者ギルドでは鍛錬の鬼とまで言われて――」

「それも嘘ですよね?」

「なんのことでしょうか」

平然と嘘を並べる青年にツッコミを入れたのだが動じている様子はない。

もう彼の中では嘘を吐くのが日常となっているので、自分の発言に違和感を覚えないのか。

「鍛錬もそうですが、冒険者でもないのでは?」

武器防具に至っては使われた痕跡も無ければ、そもそもサイズがあっているかどうか怪しい。

あの大剣やメイスは持ち上げることすらできないだろうに。

「ふっ、見抜かれていましたか。そうです、私は息を吐くように嘘が言えるのですよ……」

自嘲した笑みを浮かべ、気まずそうに頭を掻いている。

さすがに自覚はしていたのか。

「そこで回収屋さんに頼みがありまして」

やっと本命の話か。おそらく『虚言』を買い取って欲しいという話だと思うが。

「実は私には可憐な恋人がいるのですよ。お淑やかで人当たりがよく優しく、草原を歩けば花が咲き乱れ、街を歩けばその姿を見た者は失禁してしまうほどの美しさで」

「……はあ」

嘘だと丸わかりの過剰な表現に返す言葉もない。

「私と彼女は仲睦まじく、いつも冒険の話で盛り上がっていたのですよ」

「冒険?」

青年は冒険者ではないはずだが。

「ええ。彼女も冒険者として活躍しているのですよ。聖なる癒し手として」

「彼女も?」

癒し手ということは『治癒』系のスキルを所有しているのか。

それが本当だとするなら冒険者として引く手あまただ。

傷を治せる人材は希少なので、そのスキルがあるだけで実力のある冒険者から勧誘され大事にされる。

「美と知が共存しているという完璧な彼女なのですが、それ故に不安なのですよ。愚かでみすぼらしい男共が彼女にちょっかいをかけないかと!」

大袈裟な身振り手振りを交えながら力説している。

『虚言』持ちの言うことなので話半分に聞いているが、魅力的な彼女がいるのは本当だと思う。

『心理学』も発動しているが『虚言』の嘘は判定が難しい。本人が嘘を吐くつもりで会話をしていないので判断ができないのだ。

「先日も冒険について二人で熱く語っていると、彼女がこんなことを言い出したのですよ。『今度、一緒に冒険してみない』と……」

「それは困りましたね」

感情を込めずに相槌を打つ。

話の流れとしてそうなるだろうとは思ったが、やはりそうなったか。

だがそれだと俺に何を頼むつもりなのか。今更『虚言』を売ったところで後の祭りだ。むしろ、言い訳をするのに『虚言』は必須。

「そこで回収屋さんにお願いしたいのです! 私に冒険者として活躍できるだけのスキルを売ってもらえませんか! 金は幾らでも払いますので!」

おっと、この人は『売買』スキルの存在と本当の能力を知っていたのか。

最近は杭の国でも広まりつつあるが他国にまで知られているとは。これはもう隠す必要はないな。

「ご存知でしたか」

「商人の間では有名人ですからね。商売は情報が命ですので」

回収屋と名乗る怪しい商売をしている行商人がいれば調べて当然か。

彼の商人としての実力は不明だが、ここの商家はそれなりのやり手だと考えた方がいい。

「つまり、彼女への嘘がバレないように冒険者として成り立つスキルを手に入れたい。ということですね」

「その通りです。なんとかなりませんか!」

バカらしい依頼なので即座に断りたい。

だが、この街の商人と繋がりを得ておけば姉に対して役に立つかもしれない。

しかし、嘘吐きの相手をさせられる彼の恋人を騙すのは気が引ける。

「考えさせてもらっても構いませんか?」

「明日の昼に一緒に冒険に行く約束があるのですよ! なので、本当に切羽詰まっていて!」

すがりついて涙目で迫られても困る。

可哀そうだと思わなくもないが、元々は自分で吐いた嘘が悪い。それがスキルによるものだとしても、真実を伝えることは可能だったはずだ。

『虚言』は嘘を吐くのに長ける能力ではあるが、真実が話せないわけじゃない。スキルと上手く付き合っている人は、嘘を笑いに変えて芸人として生きている。

彼の嘘は彼女によく見られたいという見栄が根源にあるのだろう。

「こんな大きな商家の息子というだけで立派じゃないですか。自分を偽る必要はないと思いますよ」

「生まれは何の自慢にもなりません。だから私は自分の功績が欲しかった。体を鍛えようと何度も思ったのですが、生まれ持っての虚弱体質に加え仕事に追われて時間がなかった……。いえ、それも嘘ですね。時間がないを言い訳にして、何もしなかった。道具を買っただけで満足していたんです……」

肩を落として大きなため息を吐く姿は、心底後悔しているように見えた。

どちらも幸せになる嘘ならいくらでも手を貸すが、今回は相手が不憫だ。

「では明日の朝にもう一度お訊ねしますので、その時に」

「どうか、どうかお願いします! もし、もしも一度彼女と一緒に冒険が出来たら、私はもうそれで満足します。今までの嘘を謝り、彼女に全てをゆだねます」

「別れることになっても彼女を恨みませんか?」

「はい……。でも、私は信じたい。こんなことで愛は揺らがないと! どんな嘘でも彼女なら笑って許してくれると……信じたいっ!」

青年が震えながら話す内容を嘘だとは思いたくなかった。

次の日の昼。

青年は真新しい全身鎧を着込んで、ゆったりとした白いローブを着た清楚な感じがする女性の隣に立っている。

ご自慢の彼女はどちらかと言えば綺麗な方だが、絶世の美女ではない。

腰まで伸びた黒髪を紐で縛り、動きやすくなるようにまとめている。

お淑やかで人当たりがよく優しいという点は同意する。

身長は青年と同じぐらいで女性にしては背が高いが、冒険者にはあれぐらいの背丈の女性は結構いるので珍しいという程ではない。

青年は鎧の重さに負けることなく歩いている。俺が売った『怪力』のおかげだが。

結局俺は青年に『怪力』『剣術』『体力』『見切り』を売ることにした。本当はあと幾つか売りたかったのだが、スキルスロットの空きが三つしかなかったので妥協したのだ。

一つ足りなかったスキルスロットは『虚言』を買い取って増やしておいた。青年にこのスキルはもう必要ない。

足並みをそろえて街を出ていく二人の背に小さく手を振る。

二人の実力なら心配いらない依頼内容だったので安心して見送れた。

「この冒険が終われば真実を話すのでしたね。上手くいくといいのですが」

買い取った『虚言』はかなりの高レベルだ。

――二人分を買い取ったから。

昨晩、青年の屋敷から帰る際に冒険者ギルドに寄って噂の彼女に会ってきた。

名前と特徴を聞き出しておいたので意外とあっさりと相手が見つかり、青年のことは隠して話を聞いてみたのだ。

自分は回収屋でスキルを買い取れる、という話をすると俺に「お願いです。『虚言』スキルを買い取って欲しい」と懇願してきた。

詳しく話を聞くと、青年にずっと隠していた嘘があって心苦しく、いつも真実を話そうと思っていたのだが『虚言』スキルの影響で嘘を吐いてしまう、と。

そこで『虚言』を失えば本当のことが言える、と思ったようだ。それならばとスキルを買い取り、翌日に青年の元を訪れて頼みごとを了承した。

「どんな嘘も許せる愛ですか」

恋人にそれを求めた彼ならきっと彼女の嘘も許し、乗り越えていくのだろう。

彼女が――男だったとしても。