軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖属性魔法の使い手

「どうしたんです。帰ってきてからぼーっとされる事が多いようですが。お水持ってきましょうか?」

突然聞こえてきた声に反応して顔を向けると、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる宿屋の店員スーミレがいた。

彼女が慌ただしく動くたびに、頭の大きな赤いリボンが揺れている。

ダメだな。彼女の接近に気付かないぐらい無防備な姿を晒していたのか。

「お水ありがとうございます。最近ちょっと事件に巻き込まれまして。犯罪者に仕立て上げられそうになったのですよ」

「ええっ⁉ だ、大丈夫だったんですか!」

本気で心配してくれているようで、テーブルに身を乗り出して迫って来る。

いつもは近寄るだけで頬を赤らめるような女性なのだが、今は興奮してそれどころではないようだ。

「おかげさまで。領主様に顔が利きましたので、なんとか治めていただけましたよ」

本当はもっと上の地位の人に力を借りたのだが、それを言う必要はないだろう。

コネって大切だな、と実感させられた。

「よかったー。安心しました」

「お騒がせしました。もう大丈夫ですので」

優しく微笑むように心がけて顔を作ると、スーミレは現状を理解したようで慌てて飛びのき、顔を真っ赤にしている。

スーミレといると心が安らぐよ。これは客商売としてスキルよりも役立つ最強の能力なのかもしれないな。

「ふーっ、疲れたー! あっ、回収屋さん同席していい? スーミレちゃん、お腹が膨れる物をドバーッと持ってきて」

「あまり騒ぐでない。他の客の迷惑になるであろう」

「まあいいじゃねえか。今日の依頼は思ったより稼げたしよ」

「だからといって羽目を外しすぎないでよ。誰が面倒みると思っているの」

宿屋の入り口から元気に入場してきたのは、元、老賢者のルイオと、その孫娘ピーリ。戦士セマッシュ、その幼馴染で魔法使いのサーピィの冒険者パーティーだった。

何かと縁がある冒険者達で、この宿屋の常連仲間でもある。

「どうぞどうぞ。食事は一人より大勢の方が楽しいですからね」

「回収屋さん、分かってるー。ルイオはお爺ちゃんみたいに堅苦しいのが玉に 瑕(きず) よね」

「すまんな。これも性分だ」

みたいに、じゃなくて本当にお爺ちゃんなのだが。

俺が売った『若作り』の効果で男盛りだった全盛期の姿になったルイオは、孫であるピーリに未だ正体がバレていない。

若さを感じさせない落ち着いた話し方と、祖父目線で孫に接する場面が何度もあるのだが、ピーリは想像以上に鈍いようだ。

「おっ、そうだ。飯で思い出したんだが、ちょうど回収屋に相談があったんだよ」

運ばれてきた料理を豪快に頬張りながら、このパーティーのリーダーであるセマッシュがそんな事を切り出してきた。

「なんでしょうか。スキルの買い取りならいつでも応じますが」

「あー、それは頼むかもしんねえな。まずは話を聞いて助言が欲しいんだ。スキルの回収なんて商売やってんだから、スキルに関しては詳しいんだろ? 物知りのルイオがめっちゃ褒めてたぜ」

「それで儲けさせていただいていますので、少しは」

「謙遜をするでない。スキルの知識に関しては右に出る者がいないのではないか」

ルイオとは何度かスキルについて語り合ったことがあるのだが、その時も俺の知識に驚いていた。

「お褒めに与り光栄です。それでご相談とは?」

「おう、そうだった。実は新入りが一人加入したんだけどよ、そいつにちょっと問題があってな。もう少ししたらここに来るはずなんだが」

四人パーティーだったのがもう一人メンバーを増やすのか。

今は戦士、戦士、射手、魔法使い、でバランスも悪くないと思うが、戦力が増えるに越したことはない。

「明るくて、すっごくいい子なんだけど……、あれさえなければね」

「本当に戦力も人柄も申し分ないのに……」

ピーリとサーピィが顔を見合わせて肩をすくめる。

今の発言だけでも新入りが悪い人間でないことは伝わってきたのだが、ルイオは渋面で他のメンツは苦笑いを浮かべていた。

「新入りの名はスピと言うのだが、聖職者をやっている」

「聖職者ということは、『聖属性魔法』の使い手ですか。回復職は引く手あまたと言いますからね、かなり優秀な人材では?」

聖属性魔法はかなり特殊な魔法で修練によって習得する魔法なのだが、神を信じる者しか得ることができない。……と、されているが実際はそうではない。

その仕組みを理解して学べば誰にだって覚えられるスキルだ。

事実、無神論者である俺が『聖属性魔法』を買い取っても、使うことが可能だったのだから。

特徴としては実体のないレイスなどの霊や、ゾンビやスケルトンといったアンデッドに有効な魔法が多い。その他にも補助魔法と呼ばれる肉体や精神の強化も有名だ。

だがそんな事はおまけのようなものだ。『聖属性魔法』が尊重されている要因は、回復魔法の存在。

冒険者をしていれば怪我はどうしても避けられない。その際に普通は傷口を水で洗い流し、薬草を潰した回復薬を塗って包帯を巻く程度の事しかできない。

しかし、回復魔法があればその傷口を塞ぐことが可能なのだ。骨折を元に戻して大怪我を即座に完治させる……ことはできないが、その程度での回復力でも重宝されている。

彼らのように中級に手が届くかどうかの冒険者パーティーに『聖属性魔法』の使い手がいるということは、かなり幸運なことだった。

「いやまあ、ほんとありがたいと思ってんだぜ? 聖属性魔法の使い手が余っているって聞いて、すぐさま声を掛けたらメンバーになってくれると承諾してもらえてよ。その時は仲間と喜びのあまり小躍りしたもんさ。だけどよ……」

そこで言い淀む、セマッシュ。

重要な部分をまだ聞いていない。問題点を尋ねようとしたタイミングで、バンッ! と扉が勢いよく開け放たれた音が店内に響く。

「お、お、遅れて、申し訳ありましゅん!」

噛んだな。

ペコペコと擬音が聞こえてきそうなぐらい、勢いよく何度も頭を下げる小柄な女性がいた。

天然パーマのもこもこした髪に、体に比べてかなり大きな顔。四頭身ぐらいだろうか。

大きくぱっちりとした目をしているが、その瞳は焦点が定まっておらず動き回っている。

決して美人ではないが、ずんぐりむっくりした体つきと相まって、ぬいぐるみのような愛らしさがある。

体には全身鎧を着込み、身長とほぼ同じ長さのメイスと盾を背負っている。そんな状態でも平然と動けるということは、力には自信があるようだ。

「おう、待ってたぜ。謝らなくていいからよ、ここに座ってくれ」

セマッシュが自分の隣の席を指すと、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら小走りで近づき、椅子の上にちょこんと座る。

人間の成人男性の半分しかない身長にこの体型。おそらくドワーフか。

手先が器用で頑強が売りの、人に似た種族だ。男性はもれなく立派な髭を蓄えているが、女性には髭が生えない。

「あ、あの、遅れて……」

「それはもういいって、スピ。急いできたんでしょ、水でも飲んで落ち着いて」

「す、すみません」

腰の低い子だな。

手渡された水をごくごくと一気に飲み干すと、小さく息を吐いた。

「スピ、紹介がまだだったな。この人は回収屋と呼ばれている商人だ」

ルイオが紹介してくれたので小さく頭を下げると、テーブルに頭をぶつけそうな勢いでまた勢いよく頭を下げている。

「は、は、初めまして! スピでしゅ!」

また噛んだな。あがり症らしく、緊張で上手く話せないようだ。

この性格を治して欲しいという依頼なのだろうか?

「ええと、この方が――」

相談内容を確かめようとすると、グオオオオオオオッ! と地鳴りのような音が店中に響き渡る。

一瞬びくりと体が揺れたが、平静を装い彼らの顔を見回すと……誰も驚いていなかった。

一人は俯き、残りの四人の視線はその一人に集中している。

どうやら音源は彼女――スピのお腹らしい。

信じられないことだが、今のは空腹で腹が鳴った音のようだ。

「えっと、スーミレ! 注文いいかな。さっき頼んだのと同じだけ持ってきてくれる?」

どう反応していいか分からず沈黙の続く場を打ち破ったのは、ピーリの注文する大声だった。

よくやったと言わんばかりに、仲間達が親指を立ててピーリの行動を称賛している。

ここまでで彼らの悩みに予想がついたが、一応『鑑定』で彼女のスキルを調べてみた。

ドワーフらしく『精密動作』『頑強』がある。他には『怪力』『聖属性魔法』もあり、これだけでも優秀な人材と言える。

そして、彼らが俺に相談しようとしていた問題のスキルも確認できた。

「あ、あの、本当に食べていいんですか?」

彼女の為に用意された別のテーブルの上に、こっちと同じ量の料理がずらりと並んでいる。

普通の人よりも大食いな冒険者達四人と俺の分も含めた料理と、同量の料理を前にしても怖気づくことがない。

それどころか目を輝かせて舌なめずりをしている。

「遠慮せんでよい。お主と組む際にそれが条件だったのだからな」

ルイオがそう言うと、目の前の料理へ襲い掛かった。

凄まじい速度で料理が彼女の胃袋へと消えていく。次々と空になった皿が積み上げられていく様を見て、思わず「ほぅー」と声が漏れる。

この尋常ではない食事風景は『大食い』『食欲』のスキル所持者ならではか。

スピにはこの二つのスキルが存在している。それもかなりの高レベルで。

基本的にこのスキルは共存することが多く、『大食い』が先でも食べている最中に『食欲』が目覚め、『食欲』が先でも食べたいという欲望が『大食い』を目覚めさせる。

珍しくはないスキルなのだが、このレベルとなると大事だ。

たぶん、この五人前の料理でも彼女には物足りないのではないだろうか。

と考えている間に、料理は食べつくされ空の皿だけが虚しく置かれていた。

「そういうわけだ、回収屋」

「全てに納得がいきました」

口元に付いたソースを恥ずかしそうに拭っているスピ。

彼女の『食欲』と『大食い』を買い取ることは簡単なのだが、問題はそれを彼女が望んでいるかだ。

「スピさん。私は特殊なスキルを所持していまして、貴女が望むのであれば、いらないスキルを買い取ることが可能です。それが何を意味するかお分かりですよね?」

「は、はい。事前に皆さんから教えてもらっています。そ、そ、それを聞いて、是非、買い取ってもらいたいと思、思いましゃりましゅて」

「本当に良いのですか? 食べることに対する欲が減って、量も激減しますよ?」

「は、はひ。最近は本当に酷くて、収入の殆どが食費でなくなってしまうんです……。これだけ大食いだから、長期遠征にも出られなくて、他のパーティーにも捨てられて」

今にも泣きそうな顔で語る彼女は、相当辛い思いをしてきたのだろう。

ここまでの大食いだと日帰りの依頼しか受けられないよな。目的地に到達するまでに食料が尽きてしまう。

優秀なスキルが揃っているスピが、誰とも組めないで余っていた理由が痛いほど理解できた。

「それではレベル1だけ残して買い取らせていただきましょうか?」

見ているこっちにまで伝わってくる、幸せそうな表情で料理を平らげていた彼女を見てしまうと、全てを奪う気にはなれなかった。

「あ、あの、えと、いいんでしょうか」

仲間の顔を見回しながら、おどおどと話しかけるスピ。

「うん、それぐらいなら大丈夫だよ!」

「そうだぜ。ちょっと大食い程度なら可愛いもんだって」

「そうよ。作った料理を美味しく食べてもらえるのは嬉しいし」

「ということだ。それに、またレベルが上がっても回収屋が買い取ってくれるのであろう?」

ルリオがちらっと横目で視線を飛ばしたので、にこりと微笑んでおく。

レベルが上がったら上がったで彼女の臨時収入になり、食費の足しになる事だろう。

「あ、ありがとうございます。ですが、こ、こんなスキル買い取って、回収屋さんになにかメリットはあるのでしゅか?」

「どんなスキルでも意外と使い道があるものですよ」

心配するスピを安心させて、彼女のスキルを買い取りさせてもらった。

大金持ちの食通に『大食い』『食欲』が結構いい値で売れた。世界中の美味しいものを食べることが生きがいだと公言している人だったので、これで望みが叶えられるようになったはずだ。

とはいえ、あのレベルを全て渡すと一年も待たずに、樽のような体になり動けなくなるのが目に見えていたので、スキルのレベルはあまり減っていないのだが。

ドワーフは生まれつきの大食いで燃費の悪い体をしているので、少々の大食いなら問題はない。

スピはドワーフの特性に加え重い防具を常に着込み、冒険者として激しく体を動かしているので、あれだけ食べても極端に太ることなく、脂肪ではなく筋肉がびっしりとついていたが。

それにもう一つのスキルの存在が、彼女が肥えることを防いでいた。

「さてと、彼の様子を見に行きますか」

大金持ちの客は小銭稼ぎ程度にしか考えていなかったので、スキルレベルが大量に余っていることにショックはない。

そんな事より、定期的に見に行くことにしている彼の方が重要だ。

目的地に到着すると、ちょうど昼食の時間帯だった。

その建物の扉をそっと開けると、話し声が聞こえてくる。

「今日は腕によりをかけてお弁当を作ってきましたの! あんな痴女シスターの料理よりも、絶対に美味しいですわ」

「あのですね、昼食はシスターが用意してくれていますので。私の胃袋には限界がありまして……」

「ダーリン! 私も料理作ってきたから、食べて食べて! 希少な魔物の肉をふんだんに使った秘伝の料理だから!」

「お二人とも、神父様が困ってますのでぇ、お帰りくださぃー」

教会の中で少女とサキュバスから弁当を押し付けられ、困り果てている神父の姿がある。

迫る二人を引き剥がそうとシスターが抵抗しているが、その際に修道服の裾が捲れ下着が見えそうになっている。

神父はそ知らぬふりをして目を逸らし、咳払いをしてシスターが自ら気づくように促しているが、『鈍感』を所有している彼女が気づくわけがない。

相変わらずだな。モテモテの神父のスキルを確認すると、『性欲』と『理性』のレベルが前よりも上がっていた。

だが順調な育成とは言い難い。ここまでのレベルに達すると上りが悪くなってきている。

もう一つ何かあれば、神父の『理性』は高位スキルに目覚めそうな気がするのだが。

「食べてくれませんの……。朝早く起きて、一生懸命作りましたのに」

「やっぱり、人間を優先するんだ。神父様は差別をするような人じゃないと思っていたのに」

少女とサキュバスが涙目で神父を見つめると、諦めたように大きく息を吐いた。

「せっかく作っていただいたお弁当を無駄にはできません。ありがたく、いただきますね」

断り切れなかった神父が受け取ると、二人は神父に見えないように拳を握り喜んでいる。

二人は弁当を渡すと満足したようで教会から出ていき、シスターも料理の準備をする為に奥に引っ込んだ。

先日、あの両名が『料理』を売ってくれと言ってきたので、どうしたのかと不思議だったが。……いやー、まさかー、こんな展開になっているとは思いもしなかったな。

一人でさっきよりも大きくため息を吐く神父に歩み寄ると、微笑んで話しかける。

「こんにちは。ちょうど、先日『大食い』と『食欲』のスキルを買い取ったのですよ。『大食い』があれば三人前ぐらいはペロッと平らげられますし、『食欲』があればゲテモノ料理でも食欲がわいて無理なく食べることが可能です。ああ、そうそう、『新陳代謝』というスキルもありますよ。これがあると食べても太りにくい体質を手に入れることも可能です。……お買い上げになりますか?」