軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

「なんちゅうか、肩透かしだよなぁ」

いつもの宿屋一階の食堂。窓際の特等席で作戦会議中だった仲間たちに、ことのあらましを説明した。

それに対する第一声がレオンドルドの呆れ声。

いつもと違って大きなテーブルを取り囲むように椅子が置かれ、その周囲に仲間が集まっているのだが、全員の視線が痛い。

呆れる者、怒る者、批難する者、冷たい視線を注ぐ者。

様々な感情が込められた視線を受け止めるしかない。

「つまり、我々に黙って一人、何度も何度も何度も『死に戻り』を繰り返し、一人で解決した、と」

隣の席から、ひときわ鋭い視線を突き刺してくるクヨリが俺の腕を掴んでいる。

「すみません、クヨリさん。戦闘系のスキルをほとんど失ったので痛いです。あ、あの、力が増してませんか?」

ギシギシと骨の軋む音が内部から響いてくるが、クヨリが力を緩めてくれない。相当、おかんむりのようだ。

「いいぞ、そのまま折っちまえ」

「クヨリ様にはその権利があります。看護はお任せください」

「愛憎劇とは少し違うが、中々の見世物ではあるな」

千日以上も共に過ごした、レオンドルド、アリアリア、魔王団長は止めるどころか、クヨリを 唆(そそのか) している。

「しかし、この話をベースに脚本を仕上げるのには苦労しそうです。千八百六十七回も一人で同じ日を繰り返し、最良の未来を手に入れた、と」

小説家がペンを手にしたまま腕を組み、天井を睨みながら唸っていた。

そんな主を執事と双子のメイドは背後に控えた状態のまま、微笑みながら見守っている。

「今頃、回収屋さんのお姉様は『自爆』を『制御』できずにお亡くなりになり、『支配』スキルが消えることでダケシウ国の兵士たちが我に返ったと。戦う必要性がなくなったので戦争も起こらず、万々歳ですね。これでゆっくり昼寝ができそうですわ」

「わいらの情報も役に立った、ってことでええんやな?」

欠伸をかみ殺す眠り姫と、その背後に付き人のように従っている情報屋マエキル。

彼は俺専属の情報屋の筈だったのだが、まあいいか。

「回収屋さん、私の『死に戻り』はお役に立ちましたか!」

テーブルに身を乗り出して、鼻息荒く迫るリプレ。

「はい、このスキルのおかげで犠牲者も出さずに済みそうです。本当にありがとうございました」

「ずっと重荷でしかなかった『死に戻り』が多くの人の助けになった。これほど、嬉しいことはありません!」

感極まって大粒の涙を流すリプレ。

彼女がいなかったら、大団円を迎えることはできなかった。

「あの、そろそろ手の力を……」

腕がうっ血して肌の色が変わり始めている。強引にでも振り払おうとしたが、涙目で睨んでいるクヨリの顔を見てしまうと、腕の一本ぐらいいいか、という気持ちになった。

「腕が変色してますよ! 気持ちはわかりますけど、クヨリさん離してあげてください!」

俺とクヨリの間に割って入ったのは、この店のウエイトレス兼、花売りのスーミレ。

必死になって引き離そうとするスーミレを見て、少し冷静になったのか手を離してくれた。

「なるほど、恋する乙女の演技の参考になるわー」

そんなスーミレを眺めながら茶化すのは、この店の看板娘チェイリ。

「ん、もう! チェイリさん!」

頬を膨らましてスーミレが睨んでいるが、怖いよりも可愛いの方が勝っている。

「でも、ほんとびっくりしたわよ。急にすっごく料理が上手になって手際もよくなって驚いていたら、知らないうちに『料理』と『精密動作』のスキルが高レベルで増えているんだもの」

「わ、私もです。『計算』がすっごく早くなって、注文も一度聞いたら直ぐに覚えられて『記憶力』がすっごく上がってます」

二人が驚くのも無理はない。彼女たちが新たに得たスキルはレベルが三桁に達しているのだから。

「さすが、回収屋と褒めるべきか呆れるべきか。抜け目がないのは見事である。まさか、姉との戦闘に必要の無いスキルの数々を仲間に売って備えていたとは」

椅子から雄々しく立ち上がり、必要もないのに大げさにマントを翻し、芝居じみた言動で俺を褒める魔王団長。

そう、彼の言う通りだ。姉にスキルを奪われることを前提として、戦いに使わないスキルの数々をこの場にいる仲間たちへ『売買』で事前に売っておいた。

「ですが、回収屋様。渡されたスキルを皆様が返すのを渋る、と考えたりはしなかったのですか?」

アリアリアが無表情なまま問いかけてくる。

「うんうん、アリアリアと同じことを私も思いました! この『速読』スキル、かなり便利で!」

アリアリアの隣で勢いよく手を上げたのはセラピー。彼女はスキルスロットが一つしか余っていなかったので『速読』だけを渡していた。

全員が同じ疑問を抱いていたようで、視線が俺に集中している。

それに対する答えは一つしかない。

「信じていますので」

ずっと一人で姉と戦っていた……わけじゃない。

頼れる仲間たちがいたから、俺はこの無限にも思える『死に戻り』に耐えられた。心が折れそうなときも、仲間の顔を思い浮かべて奮起した。心が折れずに踏ん張ることができた。

俺は仲間に支えられて、今こうしてここにいられる。

「本当にありがとうございました。皆様のおかげで無事生還することができました」

テーブルに手を突いて、深々と頭を下げる。

どれぐらいそうしていただろう。何の反応もなかったので、ゆっくりと視線を上げると満面の笑みを浮かべる仲間たちが、一斉に声を揃えて「おかえり」と言ってくれた。

「ただいま」

演技ではなく、心からの笑顔がこぼれた。

「あの、円満解決したこのタイミングで少々心苦しいのですが、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

おずおずと申し訳なさそうに声をかけてきたのは、シスターとサキュバスに挟まれた状態で身を縮めていた神父だった。いつもはここに、もう一人少女も加わっているのだが、極秘の作戦会議だったので遠慮してもらっている。

思えば神父の『無の境地』には助けられた。『死に戻り』とこのスキルがなければ未来は変わっていただろう。……最悪の方へ。

「なんでも訊いてください。何度もお世話になりましたから」

心からの感謝も含めて、どんな質問にでも答えるつもりだ。

「最後の戦いで『死に戻り』『売買』だけが残ったのは理解したのですが、そうなるとお渡しした『無の境地』はどうなったのでしょうか?」

「………………あっ」

俺は神父に平謝りをして、代わりになりそうな精神を高めるスキルを大量に渡すことになった。

なんとか耐えつつ、再び『無の境地』に目覚める可能性にわずかな望みを託す。

俺を責めるどころか慰めてくれる神父の背後で妖艶に笑い、舌なめずりをするシスターとサキュバスの二人に寒気を覚えたが……祈るしかない。

あれから数日が経過した。

戦いが始まる前にダケシウ国からの全面降伏があり、死者を一人も出さずに済んだ。

各地に控えていたオンリースキル、レアスキル持ちである姉の配下は、万全の体勢で挑み説得に応じなかった者だけを倒した。

そうして、杭の国ケヌケシブにも平和が訪れ、俺は久しぶりに街中で商売を始めることにした。

今は戦争に備えてこの首都に避難していた人々が多く、回収屋の存在を知らない者も多い。

商売人としてこの好機を逃す手はない。

「使い物にならない、ご不要なスキル。害でしかない邪魔なスキル。どうでもいいようなスキルを無料で回収。もしくは買い取りいたしております。どのようなスキルでも大丈夫です。お気軽にお声かけください」