作品タイトル不明
03 男性体に!
「あ、それと辺境伯、男の物の服と塩と胡椒とハーブ類は貰えるだろうか?」
「調味料はあるが、男物の服は何に使う?」
「狩りに行くのに男になろうかと」
辺境伯は目を瞬かせた。
「あ、ああ、騎士達の着替え用の予備もあるが、しかしサイズは?」
「それは後で確認してから教える」
まだ転身してみてないから知らんのだ!
後で部屋でやる。
やり方は人目のないところで全裸で気を高めて男性体をイメージしてやると日記に書いてあった。
気が高ぶって勝手に男性体に変化した事もあるとか。
まだ完全にコントロールできてないのだな。
「では、後で君の部屋に調味料を届けさせる」
辺境伯本人がそういうのだし、信じよう。
「ありがとう、ところで辺境伯、婚姻届は?」
式はスキップしたし、あるならさっさとサインはしてやる。実家に戻されるのはだるい。親父が多分キレる。
「あ、ああここに」
豪華な大理石のテーブルに書類とペンとインクが出された。
「この書類にサインすればいいんだな」
「そうだ」
情緒もくそもなく、軽く書類を読んで俺は婚姻届に名前を書いた。
そして辺境伯も自分の名前を記入した。
すると契約の紋章が浮かび上がって一瞬光った。
魔法的な効果のある用紙だったらしく、ファンタジー世界らしくて少し楽しい。
「これでこの婚姻届を神殿に提出すれば夫婦と認められる」
「はい、あとは任せました」
部屋に戻るとすぐに調味料が届いた。
「奥様、こちらに調味料をお届けしました」
俺はマホガニーのテーブルの上に置かれた調味料を検品していく。ハーブは何種類かあった。
「フム、臭み消しのハーブはこれでよいか、岩塩に胡椒……胡椒もあってよかった、流石に辺境伯家」
胡椒も買えない貧乏領地だったら使う予定が消えたウエディングドレスを売るしかないと思った。
だとすると、ドレスは被り物のベールだけ使用せずに少し装飾を足してただの白いドレスに見せかけて公の場で結婚したと周知させるためのパーティー等でしれっと使うか、なんかの植物で染めるかな。
──そしていよいよ、俺は自室内でメイドも全て下がらせ人払いをして、服を脱いで全裸になってみた。
陰陽師時代に気を練るのはやったりしてたから、きっと転身とやらもなんとかなるだろ。
目を閉じ、集中する。……大自然から気を集めるイメージを脳内で描く。
そして背が高く、たくましい男性体をイメージした。
体が温かい気に包まれた。物質が一旦壊れて再構成されているかのような感覚。
大きな姿見の鏡の前で目を開けると、筋肉隆々のたくましいイケメンがそこにいた。イメージしたのが20代くらいの男だから、そのくらいになってる。
「いいじゃねーか」
俺はニヤリと笑った。
身体の大きな辺境伯と大差ない、がっしりした体格。
細身で可憐な女子だった女性体と全く違う。ここまで質量が違うのは大自然の気まで取り込んだせいだろうか?
まあ、都合がいい。狩りをするのには屈強な身体の方が助かる。
そして腰に布を巻いてから、人を呼んだ。
「おーい、誰か来てくれ!」
急に夫人の部屋から低めの大人の男の声がして、護衛騎士が慌てて入ってきた。
「!? あ、あなたは?」
「白い髪の色と金色の目の色は同じだろ、アリストだ。狩りに行く為転身したんだが、この身体に入る男物の服がいる。ちょうど騎士たるお前達の予備服でいけるだろう」
使用人にはこのまでごついのはいないが、騎士にならいたはず。
「か、身体の大きな騎士の予備服をお持ちします」
お付きの二人の騎士より体がでかかったのだ。
「うむ、頼んだぞ」
俺は可憐さの消し飛んだ姿で髪だけひとつに飾り紐で結んでまとめた。
ややして男物の服が下着とセットで届いたのでまた人を下がらせて着替えた。
狩りに行くと言ってたのでそれっぽい服を用意してくれていた。
シャツにベストにシンプルなズボンにマントにブーツ。
腰にはベルトと自前の護身用の剣と調味料を入れたバッグを腰に巻き付けて完成。
さて、出かけるぞと、言う段階で窓から魔法の鳥が飛んで来た。
鳥は周囲を見渡した。人は俺しかいないのをかくにんしたような動きだった。
『アリスト、無事婚家に着いたようだな』
白く可愛い鳥からアリストの親父の声がした。
「はい」
『お前の役割は分かっておるのだろうな?』
「辺境伯の妻としてここに住む」
簡潔に答えた。和合目的なんだし、それでいいだろ。
『それだけの為だと本気で言っておるのか』
「子供を産めってことですか?」
相手女嫌いと噂なんすけどねー。
『それもあるが』
「はっきり言ってください」
回りくどいのは嫌いだ。
『情報だ』
あー! ライバル家門の情報か。
騎士の数とか帳簿の情報とかつまりスパイ行為をして欲しいってことか。
「私は既にこの地に嫁ぎましたゆえ、私のやれる情報なんて辺境伯が髭もじゃの熊みたいな男だったってことくらいですね!」
わざと大きめの声で言った。
扉向こうの騎士にも聞こえるように。
『アホか。そんな情報が何の役に立つ』
魔法の鳥越しでも、親父が苛立ってるのが分かった。
「そんな情報が漏れたらすぐ私が疑われて離婚されるじゃないですか、お断りします!」
『何のためにそこまで育ててやったと』
「そう言うと思ってわざわざ敵性家門だった所に嫁ぐという義務は果たしてさしあげたでしょう? でも己の名誉捨ててでもスパイやる程には甘やかして貰ってませんね。誕生日パーティーもなかったし、支度金くらい貰えたでしょうにドレスと少ない装身具程度で送り出されたんですよ」
本来なら花嫁は豪華な持参金と共に来るものだろうに何故かそれが無かった。
大人なので私自身は誕生日パーティーも別にいらんのだが、アリストという少女が孤独で不遇だったのは日記でも分かった。
『……後悔するぞ』
「あはは、悪役みたいなセリフですね」
多分悪役なんだなと思っていたら、魔法の鳥はすっと姿を消した。俺は鳥が消えた方向にべーっと舌を出した。