作品タイトル不明
02 オズヴァルド・レウ・ガルナバーシュ
夕方四時くらいに屋敷に着いて、今だ夫となる男が現れないまま、そろそろ夕方6時の晩餐の時間になったが、そこでもやつは、辺境伯は現れない。
女嫌いと聞いたが、使用人の無礼を謝りに来るくらいはしてもよさげだが、それもない。
実は執務中というのは嘘で外出してると言われた方がまだ納得がいく。
広い食堂で、一人で食事をする事になった。
辺境伯が来ないなら自室で食べても良かったのでは?と、思った。
そして料理の味は全体的に薄味だった。
もしかしてこれも嫌がらせなのか、こちらはうす味が基本の領地なのか、わからん。
それとも健康の為に減塩を?
腹に溜まるだけで味的な満足感はない。
そんな感想の食事だった。貴族の料理でこの程度とはな。それとも料理人の腕が悪いのか。
流石にちゃぶ台返しのようなものはしないが、ガッカリだ。食事を終えよう。
「辺境伯も来ないようだし、部屋に戻る」
これ以上ここで待っていてもしょうがないみたいなので、使用人にそう伝え席を立った。
「かしこまりました」
翌朝のこと。
朝食は部屋でとると伝えていたので、昨日は見なかった金髪のメイドが料理を運んで来た。
なんとなく敵意のような気配を感じた。俺は勘がいい方だ。
さらに、運ばれてきた具入りスープから変な匂いもする気がする。
「……このスープ、持ってきたお前が毒味しろ」
「え?」
金髪メイドは顔色が変わった。青ざめたのだ。
「毒味をしろと言った、早くしろ」
スプーンをメイドの方に突き出すと、メイドは震えながらそれを手にはしたが震えてるし、口元に持っていったところで止まる。
「どうした? 大胆不敵にも毒でも盛ったか?」
「い、いいえ! 毒など決して入っておりません!」
「じゃあどうしてスープごとぎが飲めない?」
「も、申し訳ありません……」
「理由を話せと言ってる」
「……」
「言えんのか、じゃあ、お前の口に直接私がスープを流しこんでやる、鼻をつまめばいやでも呼吸が出来ず苦しくて口を開けるからな」
スプーンを持ってメイドの方に向かって立ちあがる俺を見てメイドはさらに絶望の表情をした。
「ど、毒ではありませんが、ぞ、ぞうきんの」
「ぞうきんの?」
「ぞうきんの……絞ったものを」
なるほどな。
「ほーん、ぞうきんの絞り汁をか、この屋敷の女主人となるこの私に」
「申し訳ございません!」
女は床に頭をつけて謝罪した。
「私が嘔吐したり腹を壊して苦しみながらトイレに行ったり来たりする姿が見たかったのか」
「申し訳ございません!!」
「申し訳ございませんでなんでも許されると思うなよ」
ガシャーン!!
「きゃあっ!!」
今度こそ、ぞうきんスープを投げつけてやったので、女は頭からぞうきんスープをしたたらせた。
「お前、これから私の毒味係な。それと呼び名をぞうきんに改めよ」
「……え?」
「ぞうきんよ、この名で呼ばれる度に思い出せ、己の罪を」
「……はい」
頭からぞうきんスープを被った女は、騒ぎを聞きつけた者に支えられて部屋を出て行った。
そして入れ替わりに違うメイドが掃除道具を持って部屋に来た。
ぞうきん汁スープをぶちまけたので床の掃除だろう。
「しかし……なめた態度の御者が私に腕を切られたのに、さっきの女、よくあんな風に喧嘩が売れるものだな」
くそメイドだが、無駄に度胸があるとこが不思議だった。
すると床を拭いていたメイドが口を開いた。
「あ、あの者は昨日おやすみでして、今朝戻ったばかりで何も知らなかったと思われます」
なるほど、休みの間の引き継ぎの注意事項もなかったか。
「だからあんなに愚かなのか」
「申し訳ございません!!」
そしてまたもノックの音がした後に、
「奥様、旦那様がお話があるそうです」
家令がやって来てそう言った。
「ようやくか、全てのドアというドアを無理やり開けねば会えないのかと思ったぞ」
嫌味のひとつも言わせてもらった。揃いも揃って花嫁に対する仕打ちが酷すぎるこの家。
「申し訳ございません」
◆◆◆
「私がここの主たるオズヴァルド・レウ・ガルナバーシュだ。まずはうちのもののはたらいた無礼を謝罪しよう」
いかつい体格の……顔は良い方だが、むさ苦しく髪や髭を伸ばした男が辺境伯らしかった。
第一印象、熊!!
てゆーか、お前が花嫁の出迎えをスルーした謝罪はねーのかよ。
「躾がなってないにもほどがあるだろう」
「こちらからもキツく叱っておく」
普通は解雇だろうに。甘い事だ。まぁ、とりま聞きたいことを訊いとこか。
「結婚式はどうするのか、やるのかやらないのか」
「……君がやりたいのなら、やろう。しかし、招待客は呼ばない、呼ぶのは神父と騎士達のみだ」
渋面を作られた。女嫌いだし、誓いのキスとかしたくないんだろーな。
「結婚式を嫌々されてもな、金と時間の無駄だから省略でいい」
あからさまにほっとした顔をしやがった。
「ただ、その省略分の予算は自由にさせて貰う」
「……使用人達の無礼の分の謝罪料ものせよう」
だからそれであのクズどもを許せとでも?
「たが、あの女はぞうきんと呼ぶように、私のスープにぞうきんの絞り汁を入れた女は」
「わ、分かった、体罰以外なら」
腕を切られた御者のことがそんなに気がかりか。
「それと、この後外出する」
「ああ、ドレスでも宝石でも好きな物を買えばいい」
辺境伯は私が貴族令嬢らしく謝罪金で散財するとでも思ったのだろう。
「私が行きたいのは森だ」
「森?」
「狩りに行く」
飯が不味いなら、自分で狩って食おうと思った。
狩りと聞いて辺境伯は一瞬意外そうな顔をしたが、護衛騎士を連れて行くようにと言って許可してくれた。