軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88:南の町と西の町

その日の昼から夕方にかけては、領内の役人と協力して各地へ物資の手配を行い、その後は怪我人を見舞った。

医師はすでに派遣されていたが、医療品の在庫の多くは北へ流れてしまっている。

現状、足りてはいるが、今後病人などが出た時に困る事態になるかもしれない。

「……わかった。住民のために、領地の石鹸の在庫を南と西へ回してもらおう。他の商品も、使えるものがあれば今は無料で配るね。他に足りない物資があったら教えてもらえる?」

私は、怪我人たちが集まる施設の責任者に状況を詳しく聞いた。

南や西で足りない医療品は、リカルドに頼むしかなさそうだ。

北はノーラのところに頼んだ方が早いだろう。

南側は領内でも作物が育ちやすい南の土地なので、収穫していた野菜や果物が結構ある。

今現在の食料不足はない。

けれど、これから収穫予定だったものや、秋に収穫を控えていた作物が植わっていた場所が荒らされていれば、冬が越せない人々が出てくる恐れがある。

(きちんと調査と対策をしておかないと。今後のことが、すごく心配)

現在、私はお仕置き覚悟で北にいる従兄弟にも連絡を入れている……返信はまだだけれど。

こちらでバックアップすれば、リュゼも多少は楽になるだろう。

彼は他人に頼ろうとしないので、そして放っておくと倒れるまで働くので、周囲が察して動かなければならない。困った伯爵様である。

(今回の襲撃で働き手を失った家があれば、適切な補助を出さないといけないな)

それから、南の地に二箇所ほど自然に温泉が湧き出ている場所があったので、そちらを活用するよう勧めてみた。

夏場は、特に衛生面に気を配らなければならない。

家が破壊された人々は、役所の広めの会議室や他の施設などに避難している。

(早く、なんとかしなきゃね。でも、まずは野盗被害を解決しなきゃ同じことの繰り返しになる)

祖父が北ヘ向かったので、私は西へ行くことを決めた。

あちらには、祖父も従兄弟も向かっていないので、困ったことがあるかもしれない。

もともと、ハークス伯爵領の役人の質は悪くない。

リュゼが伯爵になってからは、方向性が明確になったのもあってよく働いてくれている。

町の各担当者にすぐ現状を聞くことができて、私もすごく助かった。

これなら、物資の手配や手助けのために早く動けそうだ。

色々仕事をしていると、起きてきたリカルドが合流した。

「ブリトニー、アスタール伯爵領で手伝えることはあるか? あまり大きなことは、父を通さなければならないが……」

「とりあえず、医療器具や薬があれば。可能なら手配して欲しいんだけど」

「うちの領土は少し前から医療に力を入れているから、そういうものなら回せる。必要になるだろうと思って、ミラルドの元へ送った伝令に頼んでおいた」

「ありがとう。それから……今年の冬だけど、農地の被害が大きい場合、食料を多めに支援してもらえないかな? もちろん、リカルドのところの民が飢えてはいけないから可能な範囲で」

「問題ない。知っての通り、うちの領土は農業が盛んだから。余っているものを、安く回せるだろう。生活用品なども取り寄せよう」

ハークス伯爵領は、アスタール伯爵領の食料を毎年少しずつ買い取っている。

向こうとしても、抱えている在庫が減って金が入るので、悪いことではないのだ。

せっかく、アスタール伯爵領への依存状態が解消してきたのに、またこれかと思わなくもないけれど、人々が冬を越せなくなっては困る。

「それで、これからお前はどうするんだ?」

「北への物資手配を終えたら、野盗退治がひと段落した西へ向かうつもり。西の町の報告では、被害状況はここと同じか少し大きいくらい。そこを回って北へ行く予定。西の街まで数時間だから、なるべく早くここを発ちたいな」

というわけで、私たちは日が落ちる頃に南の街を出発した。

西の町に着いたのは、夜遅くだった。

周囲には霧が立ち込めており、海辺の町はとても静かだ。

「夜遅くにごめんなさい。詳しい話し合いは明日行いますが、急ぎで連絡があれば今聞きます」

出迎えの役人たちは、私の到着を喜んでくれた。

祖父や従兄弟が来ていないということで、多少不安を感じていたのかもしれない。

頼りないけれど、私も一応ハークス伯爵家の者なので……心強く思ってくれたようだ。

眠るまでに一通りやるべきことをやり終え、用意された部屋に戻る。

(それにしても……今更だけど、南や西の街に野盗が出た原因が不明なんだよね。怪しむべきところは、一通り調べたし。伯父様や伯母様は今回無関係だったし)

ハークス伯爵領内が白だとすれば、他領から野盗が送り込まれた可能性が高い。

最近急激に発展したこの領地へのやっかみは多少ある。

けれど、リュゼが王太子と仲が良かったり、私が王女に気に入られたりしているので……そして、現在力を持っているアスタール伯爵と祖父が懇意にしているので、他の貴族に露骨に嫌がらせをされることも少ない。

(地理的にいうと、怪しいのは西と南に面しているアスタール伯爵領なんだけど……リカルドのところがうちを襲う理由なんてないし。二つの領地の仲違いを目論んでいる勢力がいる? それとも、アスタール伯爵領の誰かがリカルドの家族を嵌めたがっている?)

はっきりと事実が確認できない限り、迂闊なことは言えない。

気持ちは焦るが、引き続き地道に調べるしかなさそうだ。

外は雨が降り出したようで、滅入っている気分がさらに悪化しそうである。

このままでは、眠れそうにない。

夜遅いが、私は近くを散歩することにした。

ちょっとした変態くらいなら普通に撃退できるので心配いらない。

西の町の役所は港の近くにある。

港とは言っても、波が荒く岩場が多いため、ほとんど交易船の出入りはない。

地元漁師の船が数十隻止まっているだけである。

海に精通している彼らは、岩礁に乗り上げることなく、自由自在に船を操ることができるのだ。

フードを深く被り町の地形を確認しながら進んでいると、後ろに人の気配がした。

振り返ると、顔をしかめたリカルドが立っている。

「おい、ブリトニー! こんな夜中に一人で何をやっているんだ、風邪をひくぞ」

「リカルド?」

「窓からお前が見えたから、焦って出て来た。何かあったらどうするんだ!」

「ご、ごめん……せっかく休んでいたところだったのに、驚かせちゃって。眠れなくて……色々考えていたら、モヤモヤしてきて」

「構わない、眠れないのは俺も同じだったから。ミラルドからの返事がまだ来ないし、向かわせた部下からも連絡がない。念のため、別の部下も送っているが……」

浮かない顔のリカルドを、近くの屋根の下まで引っ張る。

雨避け用の服を着ている私とは違い、慌てて出て来たリカルドは普通の格好だ。

二人で雨宿りをしていると、同じ町の中で少し離れた場所から赤い光が見え始めた。

「なんだろう、あれ」

「……おい、まさか、炎じゃないだろうな?」

「え、でも、今は雨だし。それで燃えているっていうことは、人為的な炎で……もしかして!」

「野盗かもしれない、戻るぞ!」

「うん!」

私とリカルドは、慌てて滞在先の役所へ走った。