軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74:痩せても油断してはいけなかった

十五歳の春がやってきた。

馬車の座席から大きな尻を上げた私は、従兄のリュゼと一緒に王都にある城の中へ足を踏み入れる。

これから約一年、私は城の客室に滞在することになるのだ。

リュゼもしばらくは城にいるらしいが、用事を終えたら領地に戻るとのこと。

約一年ぶりの入城だが、私の体型は以前と様変わりしていた。

「はー、よっこいせ」

体が重く、ちょっとの動きが億劫だ。

城の無駄に長ったらしい階段を上がり終えた頃には、私は息を切らしていた。

(苦しい、ただ階段を上っただけだというのに……)

そう、私は去年の半年の間に、また太ってしまったのである!

原因は、婚約やら王都行きやらのストレスかもしれない。

とにかく、無意識のうちに菓子を食べまくるというブリトニーの悪癖が完全復活してしまったのだ!

痩せたことによる慢心もあり、ブートキャンプの回数が減っていたのも悪かった。

(そこまで食べていないのに、一瞬で太るなんて……! おそるべし、ブリトニーの体!)

リバウンドした私の体は、痩せていた時よりも十キロほど重い。

しかも、私の身長は低いので、太った体型がかなり際立ってしまう。

城へ行くにあたり、慌ててダイエットするも間に合わず、こんな体での訪問となってしまった。

(うう、自業自得とはいえ憂鬱)

足取りも重く上階へ向かうと、マーロウ王太子とアンジェラが揃って私たちを出迎えてくれた。

二人には、以前の険悪だった雰囲気がない。

それどころか、仲が良さそうですらある。

「待っていたよ、リュゼにブリトニー! 元気そうで何よりだ!」

朗らかに笑いながら、王太子が近づいてくる。

アンジェラも、扇で口元を隠しながら悠然とした足取りで兄の後に続くが……私を見る彼女の目は少しの困惑を含んでいた。

「急に呼び立ててすまないな、会えて嬉しいぞリュゼ」

「いいえ、僕の方こそ、久々に殿下にお会いできて嬉しいです」

「話したいことがたくさんあるんだ。まずは、私の部屋へ来て欲しい。そちらも、仕事の話があるだろう?」

「ええ、では……お言葉に甘えて」

リュゼの返事を聞いた王太子は、妹の方を振り返った。

「アンジェラ、ブリトニーの案内を頼んでもいいだろうか?」

「もちろんですわ、お兄様! さあ、ブリトニー。部屋へ案内しますわよ!」

「それじゃあ頼んだぞ。ブリトニー、また後ほどな」

マーロウ王太子に頭をさげる私の腕を、アンジェラがぐいぐいと引っ張る。

途中で黒子のメイドたちが次々に合流し、一行の人数が膨れ上がっていった。

「こちらですわ!」

やたらと張り切る王女は、さらに上階にある客室へと案内してくれたが、私はついて行くので精一杯だ。

開け放たれた重厚な扉の中は、やたらめったらフリルをまぶした薄ピンクの布が、これでもかというくらい施されていた。

カーテンも、ベッド周りも、絨毯も……総ピンクである。

(これって、アンジェラの趣味だよね?)

得意げな顔のアンジェラをちらりと盗み見ると、彼女の背後にいたメイドがウンウンと頷いた。

どうやら、私の思っていることが伝わったようである。

「……王女殿下自ら、お部屋を用意してくださったなんて感激です」

「ほほほ。私が準備したと、よくわかりましたわね?」

「なんとなくです」

本当はアンジェラが倒れた日に、彼女のピンクだらけの寝室を見たからだが、本人はそれを知らない。

マーロウ王太子も妹に伝えていないようなので、わざわざ言わない方が良いだろう。

「ところであなた、その体型はどうしたのです?」

部屋に着き、ひと段落したところで、アンジェラがストレートに私の体型のことに触れた。

「ぐ、ぐふふ……」

「去年見たときは、普通だったのに。一年でこうも体型が変わってしまうなんて、たるんでいるのではなくて? こんなのでは、私が困ってしまいますわ」

アンジェラの意外な言葉に瞬きしていると、彼女は鋭い視線を私に向ける。

「ブリトニー、よくお聞きなさい!」

「……は、はい」

「私からの命令です。さっさと痩せて去年の体型に戻りなさい!」

「なぜ!?」

私は呆気にとられて彼女を見つめた。

(どうして、アンジェラが、私に痩せろなんて言うの?)

原作での彼女は、太った醜いブリトニーを側に侍らすことにより、自尊心を満たしていた。

なのに、どうして痩せろと言ってくるのか……謎である。

「あら、私の命令が理解できなくて?」

心を読んだかのようなアンジェラの言葉に、ハッとして顔を上げる。

「教えて差し上げますわ。私はこの半年の間に、徐々に城での地位を確立しつつあります。昨年度のあなたのアドバイスのおかげで、今までよりも自分に自信を持てるようになったの。周囲からの評判も徐々に良くなりつつある。なのに……私がハークス伯爵領の製品を私が大々的に使っているというのに、そこの令嬢がこんなのでは示しがつかないではありませんかー!!」

「お、王女殿下!?」

錯乱しかけた王女だが、すぐに上品な仕草に戻り、視線を私へ向ける。

「私、お兄様の勧めで貴族の奥方たちとも交流を持つようになりましたの。そこで、皆様が私の化粧に興味を持たれたので、あなたのところの製品を紹介しましたわ」

「それは、どうもありがとうございます」

「お礼を言っている場合じゃないのよ! 彼女たちから、ぜひあなたを紹介してと言われているの。それで、二ヶ月後の大規模なお茶会に参加させると約束してしまったのですわ!」

「え、私、そんな話は聞いてないんですけど……?」

「今言いました」

無茶苦茶である。

「とにかく、そんな場に今のあなたを連れて行けば、私は笑い者よ」

「はあ……」

何気に、めちゃくちゃひどいことを言われている気がする。

「ですから、あなたには、当日までに何がなんでも痩せてもらいます!」

アンジェラの鋭い菫色の目は、まっすぐで強い光を宿していた。

(城に来て早々、大変なことになったー!)