軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69:黒子メイドは逞しい

続いて、扉の中から黒子のメイドたちがぞろぞろと出てくる。

王太子と私を見つけた彼女たちは、口々に訴えた。

「大変です! アンジェラ様が、お倒れになりました!」

部屋の中にいる黒子のメイドたちは、アンジェラを抱えてベッドへ向かっている。

「私は、医師を呼んでこよう」

マーロウ王太子が、医師の元へ向かっている間、私は出てきたメイドの一人と話をする。

「王女殿下のご様子は?」

「熱があるみたいです」

「それは心配ですね……」

私たちは、暫くの間、アンジェラについての話をした。

とはいえ、今は彼女のためにできることは皆無で、後のことは医師に任せる他なかった。

話すことがなくなった私は、ちらりと真っ黒なメイドの衣装を見た。

「あの、こんな時に不謹慎ですが。あなたたちは、どうして全身真っ黒なんですか? 動きにくくはないですか?」

「もちろん、多少は不便です。ですが、この格好は王女殿下のご命令なので。あの、変だとお思いですよね?」

答えてくれたのは、近くに立っていた黒子メイドの一人。

声から察するに、けっこう若そうである。

「王女殿下は、自分より美しい人間がお嫌いです。しかし、メイドは女性です」

「……まあ、そうですよね。この国では、王女付きとなると、だいたい見栄えの良い若い女性ですよね」

「そうなのです。私が勤める以前は、毎日メイドの中に王女殿下による犠牲者が出ていたとか。しかし、王女殿下のメイドが人手不足になり……理不尽な八つ当たりを避けるため、この衣装が用意されたらしいです。周囲から奇異の目で見られますが、八つ当たりを受けることがないので、王女殿下のメイドは全員この衣装に感謝しております」

「……って、それでいいの!? なんで、そんな職場で働き続けているの? 命がいくらあっても足りなくないですか?」

私の質問に、メイドは照れたような態度で答えた。

「お給料が、破格なんです! 城のどのメイドよりも……!」

「ええっ!?」

「城の上級メイドより、亡きお妃様付きのメイドより、私たちは高給取りなのです!」

「本当に!? この国、大丈夫!?」

「私は、地方の田舎出身で実家も貧乏なのですが、運良く王女殿下のメイドになることができました! ここのメイドになる条件は簡単なのです! 王女殿下の行動に黙って従う、真夏の暑さの中でも制服は常にきちんと着用する。この二点のみ! やめる方が多いので、私などでもメイドになることができました。精神的にハードですが、お金のためだと思えば乗り切れますよ。ここで働いているメイドは、全員そんな感じです」

「……そうですか」

色々言いたいことはあるけれど、働いているメイドたちは満足しているようだった。

しばらくすると、医者を連れたマーロウ王太子が戻ってきた。

黒子のメイドは、存在感を消しつつ退散していく。

(メイドさんの名前を聞くのを忘れちゃったな。あの格好だと、見分けがつかない)

戻ってきたマーロウ王太子は、私の隣に立ってアンジェラの部屋を見つめる。

数分後に出てきた医師は、風邪だろうという判断を下した。

熱が出ているのに、ここ数日間、本人が無理をしていたために悪化したとのこと。

(全然気がつかなかった、体調が悪かったなんて。そんな様子は欠片も見せていなかったもの)

アンジェラは今、苦しんでいるようだ。

「王女殿下、ずっと体調が悪かったのですね」

「まったく、次から次に面倒ごとを起こして。我が妹ながら情けない」

マーロウの口からは、冷たい言葉しか出てこない。

「……あの、王太子殿下は、王女殿下のことがお嫌いなのですか?」

「以前も言ったが、二人だけの時はマーロウと」

「あ、はい。マーロウ様」

「昨日から、余計なことばかりしているからな。私の足を引っ張るばかりで、本当に腹立たしい」

王太子と王女の仲は、かなり険悪なようだ。

けれど、私は思う……

「確かに、王女殿下のやりようは、如何なものかとは思いますが……病気で苦しんでいる妹に対して、それはひどくないですか? 一般的な貴族の兄妹とは違うのかもしれませんが、あのリュゼお兄様でさえも、もっと優しいですよ!?」

だいたい、誰もアンジェラの心配なんてしていない。

彼女の自業自得という面が大きいが、アンジェラは、まだ十五歳の子供だ。

医師やメイドは仕事だから甲斐甲斐しく世話をしているという状態だし、王は政務で忙しくて娘の風邪どころではない。兄は兄でこの調子。

(少女漫画の中で、メリルが熱を出した時は甲斐甲斐しく世話をしていたのにさ)

マーロウ王太子は、私の苦言に驚いている。

「ブリトニー? 急にどうしたんだ?」

「王女殿下がここまで色々拗らせてしまったのは、周囲にも責任があると思うんです。彼女が我儘を言い始めた時、誰も叱ったりしないんですか?」

「何度も叱ったさ、馬鹿なことはやめろと。ドレスを大量買いした時も、友人として用意された令嬢たちに暴力を振るった時も。だが、効果はなかった」

「いつから、王女殿下は、そのような行動を取るように? どうして、彼女がそんな行動をとったのかは聞いたことがありますか?」

「最初におかしな行動を取り始めたのは、アンジェラが四歳になり他の令嬢たちと交流し始めた頃だ。だが、理由なんて関係ない。どんな事情があろうとも、我々王族には軽率な行動が許されないんだ」

「なるほど、そういうことでしたか。マーロウ様のおっしゃることは正しいですが……」

それでは後々、アンジェラの暴走によって様々な事件が起きてしまう。

(けれど、なんとなく状況が読めてきた)

少女漫画やブリトニーの過去から導き出した答えは、おそらく当たっていると思う。

アンジェラの幼少期に、今の彼女を形成するに至るトラウマのようなことがあったのだ。

それも、容姿に関することで。

とはいえ、誰も彼女の小さな葛藤に気がつかなかったのだろう。

それが肥大して、手遅れになってしまうまで。