作品タイトル不明
257:白豚令嬢の結婚式
海辺の教会前で色とりどりの花びらが舞う。
集まった人々は皆笑顔で、私たちを祝福してくれているように見えた。
まさか、自分の人生にこんな事態が訪れるとは、前世も今世も思っていなかった。
(つ、ついに……リカルドとの結婚式を挙げてしまった)
半分になったとはいえ、豊かなアスタール領の力を見せつけられる圧倒的な結婚式で、領地をあげての大規模なものだ。
花嫁姿のまま馬車に乗って街中を凱旋したり、たくさんの招待客に挨拶をしたりと、忙しい式だった。
誓いの言葉諸々を終え、今はリカルドと建物の外へ出て皆に祝われている最中だ。
ようやく、親しい人たちとの集まりになり、私は少しだけ肩の力を抜いて息をつく。
「ブリトニー! おめでとう!」
元気に駆け寄ってきてくれたのはノーラだった。
現在、彼女は弟が成人するまでの代理で、北東のグレイニア領を領主としてまとめている。
「ノーラ! 忙しい中、来てくれてありがとう」
「そんなのいいのよ。あなたとリカルドの結婚式なんだから! 今日ぐらい、意地悪な親父共との争いや、過激な危険人物の監視から解放されたいわ。ここなら、彼も大人しくしていてくれると思うし」
「危険人物……?」
「ええ、そうなの。目を離すとすぐ、勝手に掃除をしたがるのよ」
結婚式にはノーラと一緒にルーカスも来ていた。彼はリカルドと話をしている。
いろいろあったが、この二人は今も仲良しだ。
アスタール家の名誉がいくらか改善されたことで、リカルドとルーカスは公の場でも表立って仲良くできるようになった。本当によかったと思う。
「アンジェラ様に続き、ブリトニーも結婚なんてね。既婚者になっても、また皆で集まりたいわねえ」
「そうだね。私も皆と話がしたいな」
ノーラの話を聞き、傍にいたルーカスがこちらへ顔を向けた。
「いいですねノーラ嬢。そのためにも草抜きを頑張らないと」
「ちょっと、黙って!」
そういえば、ルーカスはノーラの家の庭師に転職をしたようなこと言っていた。
二人が案外上手くいっているようでほっとしている。
「ああ、そうそう。僕らも結婚することになりました」
「へっ? ルーカス殿下と誰が?」
「もちろん、ノーラ嬢です」
ルーカスが突然、突拍子もない発言をした。
「ノーラ、本当?」
「え、えっと、成り行きで……気づいたら逃げ場がなくなっていて……」
歯切れの悪いしゃべり方のノーラが、若干動揺しながら答える。
「そうなんだ、おめでとう!」
「あはは、ありがとうブリトニー」
笑顔のルーカスとは対照的に、ノーラの目は泳いでいた。何があったのだろう。
「ルーカス殿下は複雑な身の上だったから、ノーラとの結婚で許可が下りてよかったね」
「ああ、うん、それは本人がほぼ自力で許可をもぎ取ってきたというか、なんというか」
「私、二人はなんとなく上手くいきそうだと思っていたんだ」
「え、嘘!?」
仰天するノーラの横からルーカスが顔を出し、「ブリトニー嬢は先見の明がありますね」と、機嫌良さそうに告げる。
「二人の結婚式が楽しみだわ」
「任せてください。花に溢れた素敵な式に……」
「ルーク……ルーカス殿下! これ以上うちの庭を花だらけにしたら怒るわよ。手入れだって、大変なんでしょう?」
「庭師に不可能はありません」
なんだかんだで、二人はとても打ち解けている。ノーラとルーカスは気心の知れたいい夫婦になりそうだと思えた。
話をしていると、アンジェラとエミーリャもやって来た。
「おめでたいですわ、ブリトニー! 素晴らしい式ですわね。わたくし、あなたの式が見られて感無量ですのよ?」
「アンジェラ、途中から泣いていたもんねえ?」
「お黙りなさい!」
横から茶々を入れるエミーリャに反論するアンジェラ。こちらも仲がいいようだ。
「アンジェラ様、エミーリャ閣下、ありがとうございます。お二人とも元気そうでなによりです」
あとからマーロウとエレフィス、メリルとグレイソン、リリーを始めとする令嬢仲間も来たりと、大変賑やかな集まりになった。エレフィスは会場に並べられたお菓子を慣れた様子で、マナー違反を指摘されない程度に、都度上手に口へ運んでいる。立食パーティーのプロである。
もちろん、祖父やリュゼも訪れていた。祖父はずっとおいおい泣いている。
そして、そんな彼を人のいいリカルドが慰めていた。
「リカルド、ブリトニー、おめでとう」
「ありがとうございます、リュゼお兄様」
ハークス伯爵領はリュゼたちによって、今も順風満帆に運営されている。
リュゼがいる限り、あの領地は安泰だろう。ライアンもマリアも優秀だし……
私の薬指にはアスタール領産の真珠がキラリと光っている。
(さーて、宣伝頑張るぞー)
大好きなリカルドの大事な領地を守るため、私は自分にできることを着実にこなしていこうと思った。