作品タイトル不明
249:白馬令嬢!?
そして、怪しい男たちの狙いは私のようだ。
(めっちゃこっち見てる……)
ギラギラした視線を受けて、私は慄く。
「ブリトニー様、あちらの建物の陰へ隠れていてください」
アスタール家の兵たちが私に安全な場所へ避難するよう告げた。
「わ、わかった!」
素直に建物へ向けて走る。うーん、体が軽やか。
物陰へ入り込んだ私は、兵士たちの戦いを観察する。彼らは統率された動きで、手早く野盗たちを倒していた。さすがプロである。
(頑張れ~!!)
前方に注目し念を送っていると、ふと、背後に人の気配を感じた。
「ん……?」
振り返ろうとすると、唐突に口に布が押しつけられ、後ろから体を拘束される。
(しまった……!)
これでは相手を確認することも、逃げることもできない。
布に浸した薬でも嗅がされるのかと身構えたが、そうではないようで意識ははっきりしている。
(クロロホルムがこの世界にあるかわからないけど、効かないっていうもんね)
ただ、声が出せないので、兵士たちに助けてと伝えられない。
(皆、目の前にいるのに!)
彼らは野盗との戦闘に集中していた。
こうなったら、自分で暴れて逃げるしかない。私は全身に力を入れた。
「ふごっ、ふごーーーーーー!」
口は塞がれているが、叫びながら腕を振り回す。
しかし効果はないようで、への突っ張りにもならないまま、ずるずると後ろ向きに引きずられていった。
(くっ、痩せたせいで力業の威力が落ちる……!)
今の体型ではヒップアタックも決まらない。
私は助けも呼べない状態で、路地の片隅に停められていた知らない馬車に乗せられてしまった。
馬車に連れ込まれ、ようやく私を引きずった相手が確認できた。
「アクセル様?」
目の前には東の国には来ていないはずのアクセルがいて、私を観察しながら猫のように目を細めている。
(野盗の仲間ではなかった? 彼が野盗を動かしていた可能性もあるけど……)
まだまだ、憶測でしか判断できない。
拘束が解かれた私は馬車の扉に手をかけ、アクセルを睨んだ。
「こんなことをして、どういうつもりですか。私は帰らせてもらいます!」
はっきりと抗議して扉を開けようと動くと、横から腕を掴まれる。
(やっぱり力……強い)
西の国はお国柄故か、王子のグレイソンからして武闘派揃い。アクセルも例外ではないのだろう。
振りほどくのは難しそうだ。
ここから脱出しようにも……隙を突かないことには、逃げ出せないと思う。
「子豚ちゃん、君と話をしたい」
「でしたら、人さらいのような真似をなさらないでください。あなた、グレイソン殿下に東の国への同行を禁止されていたはずでしょう?」
それが私と西の国の王子との約束である。
「俺だけ除け者にするなんて、酷いな~。傷ついたよ~」
(ぬわぁ~にが、『傷ついたよ~』だ)
アクセルは、仲間はずれにされたからと傷つく類いの人間ではない。
現に今もヘラヘラ笑っている。
「だからさあ、もう勝手に動くことにしたんだ~」
「何が『だから』なんですか。脈絡がなさすぎです」
「俺の中では繋がってるんだけどな~。まあそういうわけだから~」
先ほどから隙を窺っているが、抜け目のない西の侯爵は油断を見せない。
ぶっちゃけ、武道やら経験やらにおいては私よりも格上だ。
(ぐぬぬ……やはり強敵)
このぶんだと、「馬車の中用必殺技・膝プレス」も使えないだろう。あの技はリュゼやリカルドにも通じないけれど。
(皆、骨が強すぎだよ)
彼に掴まれたままの腕を再度振り回してみたが、予想どおり解くことはできなかった。
抵抗も空しく、馬車が動き始める。
「ちょ、ちょっと! アクセル様、お話をするだけではないんですか!? なんで馬車が出発するんですか! 困ります!」
「え~? 俺、『だけ』とは伝えていないし~?」
のらりくらりと、アクセルは抗議を躱す。
「子豚ちゃんが意地悪ばかり言うから辛い……」
「被害者ぶらないでください。本当の被害者は私ですから、この誘拐犯!」
自由なほうの腕で、ポカポカとアクセルを攻撃する。
しかし、狭い馬車の中で動きが制限されている上、痩せたのでやはり威力は落ちていた。
「あ痛たたた。子豚ちゃん、元気すぎでしょ……子馬ちゃんに改名したほうがいいかな~」
「ハークス産の暴れ馬って意味ですか? 豚も馬も、いずれにしても失礼です!」
「あはは、元気で強い子は好きだよ~。西の国の、モテる令嬢の条件だし~」
ほぼノーダメージのアクセル。やはり、彼は強い。
そして、西の国の価値観は、メリルの言っていたとおりだった。