作品タイトル不明
238:白豚令嬢、両手でドンされる
碌な収穫がないまま塔を後にした私だけれど、ヴィーカが当てにならないなら、アクセルたちに諦めてもらう新たな方法を考えなければならない。
(体は少し軽くなったけれど、気が重い……)
塔でヴィーカと話すうちに、外は夕方になっていた。
オレンジ色に照らされた庭の隅に、ポツンと置かれたベンチへ向かう。
「よっこらせ」
痩せた成果で、二人掛けのベンチを占拠する心配もない。
リカルドのおかげで、ダイエットは順調だ。
心を悩ませる問題は、西の国のことだけ。
「それさえなければなあ」
一人でブツブツ言っていると、ベンチの後ろから声がした。
「何がお困りかな?」
「ええ、そうなの……って」
ギョッとして振り返ると、ベンチの背後に植えられた薔薇の生け垣からひょっこり顔を出すアクセルが目に入る。
「アクセル様? どうしてここに?」
「庭を歩いている子豚ちゃんが見えたから、来ちゃった」
和菓子でサラにカマをかけられた件があるので、今は彼に会いたくなかった。
しかし、顔を合わせてしまったものは、どうしようもない。
(ナチュラルな動きで隣に座ってくるし)
何を言うべきか迷っていると、アクセルのほうから話を切り出した。
「サラから聞いたけれど、やはり君はレニと同じだったんだね」
「よくわかりませんが、その件に関してはサラさんが誤解しているのではないでしょうか?」
「レニは侯爵家の医師でセシリアの兄だよ。医療に詳しかったんだ」
「私は医療の専門家ではありません。素人です」
「そんなはずはないよ。石鹸にしても、薬の知識にしても、レニと同じだ」
「たまたま知っていただけです」
「俺には、君のその知識が必要なんだ。レニは……もういないから。どうか、一緒に西の国へ来て欲しい」
「だから、私にあるのは趣味の知識だけで、専門知識はないんですってば!」
「大丈夫。なんとかなるから」
「なりません!」
アクセルもサラも、レニという人を盲目的に信奉しているような気がする。
西の国の事情はわからないけれど、私が力になれることはなさそうだ。
変に素人がアドバイスをしたら、逆に迷惑をかけてしまうだろう。
「俺は、諦めないから」
立ち上がったアクセルは、私を逃がすまいと言うように、ベンチの背もたれに右手をつく。
「困りますっ」
逃れようとして反対側に身をよじらせるが、アクセルが左手をつくほうが早かった。
両手で壁ドンされ、逃げ場を失ってしまう。
「子豚ちゃん、絶対に逃がさないよ」
「ぐふぉっ!」
力ずくで逃げ切ることはできる。
しかし、他国の侯爵に暴力を働いたら問題になるから、別の手を考えなければならない。
(どうしよう、アクセル様も力が強いから、本気でやらないと逃げられなさそう。でも、手加減なしで、もし彼に怪我をさせたら……国際問題だよ~)
過去に馬車に押し込まれたとき、彼の力量を知る機会があった。
手軽に押しのけられそうにない。
戸惑っていると、アクセルの向こうから誰かが走ってくる足音が聞こえた。そして……
「侯爵、ブリトニーを解放してください」
聞き間違えようのない、よく知る人物の声がした。
しかし、普段とは異なり、冷たく低い。
「リカルド……?」
アクセルの後ろに、寒々しいオーラを放つリカルドが立っていた。