作品タイトル不明
227:新米伯爵は妻を構いたい
ハークス家のときより一回り大きな自室で、私はリカルドと仕事について相談した。例の真珠のことだ。
「あの~、リカルドさん。そろそろ放してくれませんかね」
「話なら、このままでもできるだろう?」
相変わらず、長椅子の上の私は、彼と至近距離で会話している。
再度逃げだそうと動いたが、リカルドがドレスのスカートを膝で踏んづけていたので失敗に終わった。
向かい合わせで、スカートを押さえられたら動けない。不覚!
(ぜったいに、わざとだ)
とにもかくにも、私の動きは、封じられてしまった。
「あの~リカルドさん。どさくさに紛れて、私の二の腕をぷにぷに触るのは、やめてくれませんかね」
「触り心地がいいんだから、仕方がない」
リカルドが退いてくれることはなさそうだ。
仕方がないので、ぷにぷにいじられつつ、話を始める。
「アンジェラ様と、宝石について話をしているって言ったでしょ? アスタール伯爵領の真珠なのだけれど」
「ああ、きれいだよな。石というか、貝だが……アスタール領民はよく使う」
けれど、領地の外ではメジャーではない。
「全国的に有名にしよう」
「ちょっと、読めてきた」
リカルドは話が早くて助かる。
価値がないなら、作ればいい。
幸い、この国で真珠が採れるのは、もとアスタール伯爵領全域のみ。
アンジェラたちと手を組めば、真珠の価値を上げて広めることは可能だ。
「まず、今出回っている真珠は品質の基準が曖昧。生産者と話し合って、品質のいいものは価格を高く設定し、逆に良くないものは安価にする」
アスタール伯爵領の真珠の価格がいまいち上がらないのは、その辺りが杜撰で品質がバラバラだからだと、いろいろな資料を調べてわかった。
「次に生産調整。ノーラの領地でもやっていたけれど、値崩れ防止策だね」
「生産を調整しても、売られた中古品が出回れば、全体の価値は下がるのでは?」
「簡単に売れないように工夫が要るね。私は販売規制ではなく、心理的な方に訴えかけようと思ってる。幸い、真珠自体は好ましい宝石として、アスタール伯爵領で受け入れられているし」
「何をする気だ?」
今度は、お腹をぷにぷに触りながら、リカルドが問いかける。
……恥ずかしい、痩せよう。
「大切な人からのプレゼントって、売りにくいよね? 一生に一度の記念品だと、特に売れないよね?」
「記念日商法か」
だいぶ前になるが、リカルドは私にネックレスをくれた。
その後、度重なる婚約破棄の危機にさらされ、影が薄くなってしまったネックレスだけれど。私は、ずっと大事に身につけている。
ちなみに、金属部分は金色で中心部分の宝石は緑。小ぶりで品のいい、きれいなネックレスだ。
だけれど、これは貴族だからなせる技。
「高い宝石だと庶民は手が出ない。だから、彼らの婚約の贈り物は人それぞれだし、ない場合もあるの」
「ほどほどの品質の真珠で、安くはないけれど買える範囲の商品を出し、婚約用に買ってもらうと?」
そんでもって、売り上げから一定額を税金として納めてもらう。
「まったく、ブリトニーは頼りになるよ。それで、もう一つの、イベントというのは?」
「うん。私がいた世界には、イベントごとが多かったの。新年祭、愛のチョコレート祭、チョコのお返し祭、女の子祭、男の子祭、星に願いを祭、ご先祖様お迎え祭、収穫祭、聖夜祭……などなど」
すると、イベントに関連する商品の売れ行きが伸びる。
「アスタール伯爵領にあるのは、新年祭と収穫祭くらいだな」
「だったら、作ろう! 一つの季節に三つくらい……」
「欲張りすぎだ。まずは、年間で一つ増やすとして、なんのイベントをやるかだな」
すすっと伸びてきた指が、さりげなく私の唇に触れる。
「……っ!」
私の頭は真っ白になり……
リカルドのせいで、打ち合わせは、あえなく中断となった。