軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

225:ご機嫌な公爵夫人

リカルドと一緒にアスタール家に住み始めて数日後、隣の領地からアンジェラがやってきた。大きな馬車には、荷物がたくさん詰め込まれている。

一足先に、隣の領地(もとアスタール伯爵領)で暮らし始めた彼女は、私が近くに引っ越すのを楽しみにしていたようだ。

近くといっても、片道半日の距離なので、アンジェラは屋敷に泊まる予定。

淡い金髪をなびかせ、薄い水色のドレスを身に纏った公爵夫人は、今まで見た中で一番落ち着いていて、彼女なりに満足のいく生活を送っているのだろうと思われた。

「ブリトニー! やっと会えましたわー!」

「アンジェラ様、お久しぶりです。お元気そうでなによりです」

「あなたが前回から全く痩せていないことについては、突っ込むべきかしら?」

「グ……グフフ……」

痛いところを突かれてしまった。アンジェラの結婚式から、あまり体重が減っていないのだ。ドレスの採寸も控えているので、これはなんとかせねばなるまい。

死刑を回避した今、なりふり構わず痩せる必要性は失われた。

細くなりたい思うのは、私の勝手な自己満足。

だからだろうか、ダイエットに熱が入らないのは。

一応運動も食事もきちんと管理しているのだけれど。

なにかと間食しがちなのだ。

また、アスタール領の食べ物がおいしいので、ここ数日は食事を腹一杯食べまくってしまった。ダメダメである。

ハークス伯爵家は料理のレベルが国内一という、すごい評価を得ている。

私が嫁ぐにあたり、アスタール伯爵家では、かなり料理に力を入れてくれたみたいだ。

すばらしい食事が出てくる。デザートも夜食もおいしい。

夜食は食べない方向で頑張ろうと思うが、どうしてもお腹が空いてしまうのだ。

アスタール家コック特製、「こってりスープ!」が、とても美味。どうしよう!

「あなたの体重の増減に関しては、一種の名物みたいになっていますが。それでいいのですか?」

大変よろしくない。

今日こそは、夜食の誘惑を回避しよう。

(この際だから、リカルドにも相談してみようかな。前に頼るよう言われたし)

アンジェラを今夜泊まる部屋へ案内したあと、二人で庭に出て話に花を咲かせる。

今は一番季候の良い時期なので、芸術作品のようなアスタール伯爵家の庭をフル活用だ。

ダイエットを始めた当初は、まさか彼女と二人仲良くお茶を飲む間柄になるなんて思わなかった。

隣の領地にアンジェラがいて、心強く感じる。

「ブリトニー、アスタール伯爵領へ来ても、何か面白いことをするのでしょう? 新しい服や装飾品や化粧品など、今までもたくさん生み出してきましたものね。私、楽しみに待っていますのよ?」

「そうですね、いくつか検討しております。リカルドは、ゆっくり過ごせばいいと言ってくれていますが。今度は、庶民向けの商品についても充実させたいと思っていて」

アスタール伯爵領の人々は、他の領地に比べてお金持ちの平民の割合が多い。

貴族が身につけるレベルのものを頻繁に買うのは難しいが、普通の商品よりも少し上、手が出る範囲の品を生み出そうと考えていた。

あとは、季節のイベントにまつわる商品を売り出したい。

この世界でバレンタインやハロウィン、クリスマスのようなイベントを作り、経済を活性化させたいのだ。

アスタール伯爵領は裕福な領地だけれど、それでも半分になってしまった打撃は大きい。

取り上げられた領地は王都に近い方なので、税収面では大損だった。

「例えば、アスタール伯爵領では真珠という宝石が採れます。きれいだけれど、中央の国全体ではまだ価値の見出されていない宝石です。その良さを広めたいと思います」

ちなみに、真珠は薬としても使える。

解熱、鎮痛、滋養強壮などに効くのだ。本当かはわからないが、美肌効果を持つという説もある。

もっとも前世での真珠は、恐ろしい値段の生薬だったが。

海の宝石は真珠だけではないが、とりあえず養殖できないかリカルドに相談だ。

技術者がいれば、貝を使った螺鈿細工なんかもできそうだけれど、漆の木が見つからないので、こちらは保留。

宝石珊瑚などの加工も併せて検討していきたい。

前世のような乱獲は、今世の文化レベルでは起こらなさそうなので。

「アンジェラ様は、現在住んでいらっしゃる、新しい領地についてどう思われます?」

「そうですわねえ。王都と変わらない発展ぶりですが、同じように貧富の差が大きいですので、人々の雇用を創出したいですわ」

もと王女様は、立派に公爵夫人を務めている。

以前のアンジェラより、今の彼女の方が、格段に生き生きしていた。

城を離れた場所での暮らしが、合ったのかもしれない。

独身時代は城から出る機会のなかったアンジェラだが、嫁いだ今、彼女の行動制限は緩くなっている。新しい世界を見ることで、アンジェラの価値観も変わった。

話していると、リカルドがやって来た。

アスタール伯爵になる彼は、日々の業務に追われている。

けれど、日に数回は、必ず時間を作って私のもとを訪ねてくれるのだ。

アンジェラを出迎えたあと、呼び出されて一時的に席を外していたが、用事が片付いたらしい。

「リカルド、ブリトニーはこちらへ来ても、相変わらずのようですわね。頭の中は、面白い計画でいっぱいなのだから」

「そうですね、殿下。慣れるまでは、のんびり過ごしてもらいたいですが」

「あら、殿下だなんて。今は王女ではないのだから、アンジェラとお呼びになって」

アンジェラと共に生きると決め、公爵になったエミーリャは、まだ領地を空けられず、今回は来られなかった。

とはいえ、これからは行き来が増えるだろう。家族ぐるみで仲が良い間柄は強みだ。

「ところで、アンジェラ様。ブリトニーの計画とはなんですか? 俺は全く知らないのですが」

「この地に眠る宝石で、一儲けしたいそうですわ。他にも、ありそうですが」

リカルドには、計画を詰めてから知らせようと思っていたが、話が出てしまったので、私は真珠の話や、イベントについて彼に伝える。

「イベント……祭りか。ここ数年、アスタール伯爵領は不幸続きだったからな。明るい行事を作るのはいいかもしれない」

一緒に話を聞いていたアンジェラが、目を輝かせながら身を乗り出す。

「そのイベントとやら、私も一緒に計画したいですわ! 我が領地と合同でやりませんこと?」

アンジェラやエミーリャの治める領地の中には、もとアスタール領も含まれている。

ミラルドの事件でとばっちりを受けたのは、そこに暮らす人々も同じだ。

私とリカルドは顔を見合わせた。二人の考えは一緒。

「アンジェラ様、一緒にイベントを計画しましょう」

返事に喜ぶ彼女は扇を広げ、嬉しくてたまらない気持ちを前面に出さないよう誤魔化していた。バレバレなところが可愛い。

エミーリャの気持ちが、なんとなくわかってしまった私であった。