軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

221:天然王子と豪腕令嬢

(今度は誰? この豪華さは絶対に貴族だ。アクセル様の関係者?)

私が睨んでいると、予想通り馬車は宿の前で停止した。

並ぶ二台の大きな馬車を、通りがかった人々が凝視している。

ちょっと通行の邪魔だ。

少しして、中から、フードを被った背の高い男性が登場した。

(……って、ええっ!? グレイソン王子ーーーー! 全然変装できていないし、お忍びになってなーい!)

まず、馬車の時点で失敗だ。フードを被っていても、あまり意味をなさない。

次に、異国風の衣装も隠しきれていない。

(駄目出しはさておき、どうして彼が?)

メリルは一緒ではないので、個人で馬車に乗ってきた模様。

私に用事というよりは、アクセルに会いに来た線が濃いだろう。

予想通り、彼はアクセルへ向かって低い声で告げる。

「アクセル、お前は勝手に王都を出て。婚約の話はなくなったのであろう? これ以上、ブリトニー嬢に迷惑をかけるな」

しかめっ面のグレイソンが苦言を呈するが、アクセルはヘラヘラしているだけだった。

「まさかとは思うが、お前、まだレニの件を諦めていないのか?」

続けてグレイソンが述べた内容に、アクセルは初めていつもと異なる表情を見せる。

感情を映さない空色の瞳が、じっとグレイソンへ向けられた。

だが、次の瞬間、アクセルはいつもの表情に戻る。

「もう、何言ってるのー? 諦めるも何も、どうしようもないでしょう? レニは、この世にいないんだから」

「……ならいいが。あれは、レニが少々特殊だったのだ。彼の代わりは、誰にも務まらない」

自国の王子に指摘され、アクセルは黙り込んだ。飄々とした態度からは、彼が何を思っているのか読み取れない。

ただ、グレイソンに逆らう気はないようで、大人しく馬車の方へ向かう。それを見届けたグレイソンは、私たちに謝罪した。

「アクセルが迷惑をかけたようで、すまぬ」

「いえいえ。グレイソン殿下、頭を上げてください」

他国の王子に、往来で頭を下げさせるなんて恐れ多い。

なかなか頭を戻してくれないので、私は「アクセル様を引き取りに来ていただいただけで十分です」と、力ずくでグイグイ彼の頭を押し上げた。

「ブリトニー嬢は、強いな。並の女性の腕力じゃない」

「ぐ、ぐふふ。ここ数年で、めきめき力がついてしまいまして」

「それは、すばらしいことだ!」

なぜか、グレイソンは目を輝かせていた。

侍のような渋くて頼もしい王子だと思い込んでいたが、グレイソンは天然な部分を持っているらしい。

その後、グレイソンとアクセルの馬車は、揃って王都に帰っていった。キラキラしていて、無駄に目立つ馬車だ。

彼らは客人として、しばらく王都に留まるので、特にグレイソンは周囲に気を遣っている様子だった。馬車は別として。

そうして、私とリカルドは、無事ハークス伯爵領へ帰還した。

今は、アスタール領から戻っていたリュゼに王都での経緯を報告中である。

「……というわけで、その怪しい集団は引き渡してきました。私を狙って馬車に乗り込んできたので、ヒップアタックで追い出したのですが、いい感じにヒットして、相手は馬車の外へ転がっていきましたよ」

「あれを真正面から受けるなんて無謀だよね、避けなきゃ」

「そう言いながら、お兄様は訓練中に楽々と受け止めていましたよね」

答えると、リュゼは無言で笑みを深める。

いつかは彼を見返してやりたいけれど、いつも軽くいなされてしまう。

「それにしても許せないね、ブリトニーのお尻を、その身に受けるなんて。身内である僕だけの特権なのに」

「違う、大いに違う! あれは、今度こそお兄様を、ギャフンと言わせてやろうと不意打ちを狙ったら……簡単に受け止められてしまっただけで。次こそは倒します!」

「無駄だと思うけど」

話していると、どこからともなくリカルドがすっ飛んできて反論した。

会話内容が聞こえる位置にいたようだ。

「聞き捨てならないぞ、リュゼ! ブリトニーの尻を受け止めていいのは、俺だけだ!」

「僕の目の黒いうちは、そんなこと許さないよ」

「婚約者なのに!?」

王都でのあれこれの報告のはずが、いつの間にかお尻談義になっていて、私は憤慨した。

「二人とも、いい加減にしないと、ブットバシマスヨ!」

二人から期待に満ちた視線を送られた気がしたのは、錯覚だと思いたい……

「ともかくですね! 母が勝手に決めた婚約はなくなりました! 報告は、以上です!」

きびすを返すと、リュゼが「ちょっと待って」と言って、私を呼び止めた。

「僕の方からも、ブリトニーとリカルドに報告があるよ」