軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217:婚約者の精神年齢(リカルド視点)

俺が王都の関所に着くと、ブリトニーはちょうど門から外に出るところだった。

手間取るかもしれないと思ったが、かなり早く用事が済んだらしい。

すれ違わなくてホッとする。

馬から下りると、ブリトニーが駆け寄ってきた。

「リカルド、来てくれたの? リュゼお兄様は、戻ってきた?」

「ああ、領地のことは大丈夫だ」

とはいえ、何事もなく出かけられたわけではない。

来る前に、リュゼと一悶着あった。

……主に俺自身のせいなのだが。

ブリトニーの王都行きについて、ハークス伯爵領へ帰還したリュゼに話すと、ものすごい圧を纏った彼に詰め寄られた。

「へぇ? それで、君はノコノコとブリトニーを送り出したというわけ。あのババァが仕組んだ婚約話。大きな問題がなければいいけど、海外が絡んでいるのなら警戒する必要がある。僕なら、閉じ込めてでも行かせないね」

「ブリトニーは十八歳だし、何もできない子供じゃない。本人の意見を頭から無視するのは……」

彼女は、責任を持って行動できる意志のある人間だし、庇護してあげなければ何もできない相手ではない。

「そうだけど。君はざっくりとしか、知らないんだっけ? ブリトニーが持つ前世の記憶の話」

俺の考えが伝わったのか、リュゼが髪をかき上げながら視線を向けてくる。

確かに、簡単に話を聞いただけだった。

それでも、ブリトニーはブリトニーだし、過去がどうであろうと変わらないと思っていたけれど。

リュゼが懸念しているのは、そういった話ではない。

「変な相手の手に渡ると危険なんだよ、ブリトニーは。本人は無自覚だけれど、彼女の記憶の中には国を揺るがせてしまうものがある。リカルドも見ただろう? 火炎瓶とかいう武器を。あれをもっと強力にすれば、恐ろしいものができあがると思わない? 他に、あぶない薬の知識だって持っているし……どうにも危なっかしいんだよね」

「知識があるだけでは、武器を作れないだろう。薬にしてもそうだ。ブリトニーの世界は、おそらくここより文明が発達している」

ブリトニーの火炎瓶は、俺も見せてもらったことがある。あれはヤバい。

「今はまだ、この国の技術が追いついていないから、実現不可能なものも多い。でも、ブリトニーの発想をそのまま、作り出せるようになってしまったら駄目だと思うんだ。他国の内情は、僕でも全部把握できていないからね」

「確かに。お前の言いたい話は、わかった。今から急いで王都へ向かう」

母親と会って、ブリトニーが落ち込んでいるかもしれない。

「そうしてくれる? 僕も杞憂だと思うけど……念のため。ババァのワガママで済めばいいけど、相手がブリトニーの事情を把握した上で婚約者に望んでいるなら、タチが悪いからね」

リュゼは俺の前で本当に、自分を取り繕わなくなった。

よほど、ブリトニーの母親が嫌いなのだろう。ババァ呼ばわりなんて。

俺は詳しく知らないが、聞いている限り、かなり我が儘な女性だと思える。

「ああ、それと、リカルド」

「なんだ?」

「ブリトニーの精神年齢は、たぶん、僕より上だよ」

「……は!? 嘘だろ?」

「今は、こっちの環境になじんでいるから、年相応になっていると思う」

「そういえば、お前の好みって、年上……」

余計なことを言ったせいで、リュゼに屋敷から放り出されてしまった。

子供の頃から、俺は要領のいい人間だったと思う。

父の仕事を見て、彼に憧れ、まっすぐ努力してきた。王都の学園でも首席だったし。

努力すれば、その全てが報われた。

裕福な家庭で何不自由なく育った俺は、ミラルドの件で初めて挫折を味わう。

豹変する周囲、領地の没収、父は伯爵位を叔父に渡さなければならなくなった。

今まで上手くいっていた人生のツケが、一気に回ってきた。

俺は、まだまだ未熟だ。

ブリトニーとの婚約を破棄してしまったり、ミラルドの野望を見抜けなかったり、再度叶った婚約だってリュゼにオマケしてもらったようなものだ。

早く、ブリトニーを迎えに行かなければならない。

関所で話を聞けば、ブリトニーの乗った馬車が、何者かに襲われたようだった。

ただの物盗りか、彼女の母親が雇った者か、他の人間の仕業か……それはわからない。

けれど、ブリトニーが危険な目に遭ったことに変わりはない。

リュゼの言葉が頭をよぎった。

「すまない、ブリトニー。俺の落ち度だ」

「なんで謝るの? リカルドが、私を襲ったわけでもないのに」

「俺は、ブリトニーを一人で、危険な王都に送り出してしまった」

「何を言っているの。行くって言って聞かなかったのは私の方なのに」

ブリトニーは、王都で母親に婚約破棄の件を伝えたのだと話してくれた。

とりあえず、目的は達成したようだ。

相手は納得していない様子だが、リュゼがいる限り、無理に婚約を押し通すのは不可能だろう。

あとは、ブリトニーが領地にいれば、向こうは手出しができないはずなのだ。

幸い、王太子たちは、俺とブリトニーの婚約を認めてくれている。

(だとすれば、狙われたのは、ブリトニーを領地に帰したくない何者かの仕業だろうか? わからないな)

撃退できたものの、危ない状況。

リュゼの言うとおり、止めるべきだった。

「俺は、また間違った……リュゼみたいに完璧にはいかない。ブリトニー、本当にすまない。お前を王都へ行かせるべきじゃなかったんだ」

「私から見れば、リカルドも十分完璧な部類だけどな。それから、リカルドの間違いじゃないからね? 私はむしろ王都へ来てよかったと思っているよ。いろんなことが知れたもの」

「だが……」

深刻な顔をしていたのだろうか。ブリトニーが、俺をのぞき込んでくる。

「あのさ、一人で気負わないでね? お互いに完璧じゃないなら、二人で一緒に頑張ればいいと思う」

「男として、そういうわけには」

「リカルドがいてくれるから、私はお母様とも戦えたんだよ。過去にリカルドがくれた言葉が、私の自信になっているの」

そんなに、たいしたことを話した覚えはないのだが、ブリトニーは真剣な顔つきだった。

「私はリカルドに完璧なんて望んでいない。今のままがいいんだよ。何があっても、一緒に越えていける相手だと思ってる。婚約者って、そういうものじゃないの?」

その言葉を聞き、俺はブリトニーを抱きしめたくなった。

どうして、彼女の言葉は、こんなにも俺を救ってくれるのだろう。

「あ、あの、リカルド……」

いつの間にか無意識に体が動き、思っていたことを実行していた。

腕の中に、真っ赤になってふるふると震えるブリトニーがいる。

可愛くて、愛おしくてたまらない。

精神年齢が何歳だろうと、彼女は俺のただ一人、換えのきかない大切な相手だ。