軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

213:意外と怪力チャラニイサン

交流会の翌日、私は母のいるムーア公爵家へ乗り込もうと予定を立てた。

メリルの厚意で城に宿泊させてもらったので、その足で母の元へ向かうことにする。

(権力に頼ろうかなあと思ったりもしたけれど)

相談しようにも、王太子のマーロウは用事で他領へ出かけてしまっており、王女のアンジェラも元アスタール伯爵領へ移り住む準備で城にいない。

(とりあえず、まずは自分一人で動こう)

ムーア公爵家は、王城の近くに屋敷がある。

建国時は東の辺境沿いの広大な領地を治めていたが、いつの間にか王都に呼ばれ暮らすようになったらしい。現在、辺境は彼らと血のつながりがある貴族たちが治めている。

早速出発しようとしたら、どこで聞きつけたのかアクセルが待ち構えていた。

「おはよう、子豚ちゃん。そんなに急いでどこへ行くんだい?」

「ムーア公爵邸です」

「もしや、俺との婚約関係の話をしに行くのかな?」

「止めようとしても無駄です。何を言われても、私は婚約を撤回しに行くと決めておりますので」

勇ましく宣言したが、相手は拍子抜けする発言を返してくる。

「それじゃあ、子豚ちゃん。俺も一緒に行っていーい?」

「へ……?」

「俺も公爵家と君のすれ違いについて知りたいし。当事者だけど、どうしてこんなことになっているのかわからないんだもん」

「たしかに、アクセル様のおっしゃる内容はもっともですね」

彼もまた、今回の婚約に翻弄されている一人だ。

私たちのやり取りを聞けば、私と婚約する気も失せるだろう。いや、失せてくれ。

「さあ、子豚ちゃん。俺の馬車にどうぞ?」

「遠慮します、私は一人で馬に乗って行きますので」

「ああ、二人で乗馬デートもいいね。堂々と王都を歩いたら、噂になっちゃうかなあ」

「……はたして、アクセル様は私のスピードについてこられますかね?」

「えっ……?」

十二歳から乗馬を始めて、今年で六年目になる。

しかも、途中からはリュゼの意向で、ハークス式のスパルタ乗馬レッスンになった。

今の私なら、戦場でもどこでも、馬で爆走できる自信がある。

「駄目だよ~、女の子が護衛もつけずに一人で馬に乗って移動だなんて~」

そう言うと、アクセルは強引に私を馬車へ押し込んだ。

(え……意外と、力、強い……?)

予想外の勢いで引っ張られ、今は体が重い私はあっさりと椅子に座らされてしまった。

(まずい、アクセル様に対する評価を改めなければ!)

私は密かに危機感を募らせる。

けれど、特に危害を加えられることもなく、馬車の中ではアクセルによる一方的な求愛が続いた。

「子豚ちゃん、君はとてもチャーミングだよ。いっそ、このまま攫ってしまいたいくらいだ。二人きりだと、いけない想像をしてしまいそうになる。もちろん、紳士な俺は我慢するけど……今はねっ!」

「左様ですか……」

アクセルは、私をおだててくれるけれど、彼の言葉を聞けば聞くほど、私は気まずくなってしまう。

「あの、アクセル様。心にもない言葉って、却ってめちゃくちゃ傷つきますので。できれば、普通にしていて欲しいです」

心のこもっていないお世辞ほど、心をえぐるものはない。

今現在、自分の見た目がチャーミングとはほど遠いと、私が一番知っている。

偽りの言葉を重ねられるほど、自分が惨めになっていくのだ。

「なに、子豚ちゃん。君は特別なのに、そんなに自分に自信がないの?」

「私のことはどうでもいいです。放っておいてください」

にっこり笑うアクセルを牽制していると、母のいる公爵家へ到着した。

通された部屋に現れたのは、黒髪を結い上げた、きつい顔つきの女性。

スマートな体にぴったり張り付く髪と同色のドレスに真っ赤な口紅の組み合わせは、彼女だからこそ似合う。自分の魅せ方をよく心得ている人だ。

訪問者を出迎えた彼女は、ついでに私の全身を一瞥して侮蔑の笑みを浮かべる。

とても実の娘に向ける顔ではないけれど、手紙で彼女の人となりは把握していたので驚かない。