軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189:白豚令嬢とバゲット

間違いない。

今回の一連の事件――国王毒殺未遂やアンジェラの行方不明には、ヴィーカや北の国が関わっている。

麻薬は軍資金集めと、中央の国で中毒者を生むのが目的だろう。麻薬中毒者が増えれば、国は弱体化する。

麻薬の供給源はヴィーカから聞き出した。なんと、中央の国の国内だった。

国の南側に領地を持つ貴族が麻薬の原料を生産しているという。

阿片の原料は芥子の未熟な果実。

それを傷つけた時に出る白い乳液が固まり、阿片になるのだ。主成分はモルヒネ。

痛みを和らげる麻酔として使われることもあるが、依存性が高いので日本では規制されていた。

私にわかるのはこのくらい。一刻も早く流通を止めなければならない。

(なんでこうなるのー!)

引き続きヴィーカに聞き取り調査、国王毒殺実行犯捜し、行方不明になったアンジェラの捜索、阿片問題対応などなど……

全部を同時進行しなければならないなんて、頭が痛くなりそうだった。

(ああ……甘いもの食べたい! こってりステーキが食べたい! うわあああああああああああ!)

屋敷の者にヴィーカの見張りを頼んだ私は、リカルドたちのところへ向かった。

本来なら、ヴィーカは王城の敷地内にある牢屋へ直行。ミラルドと仲良く監禁生活を送ることになる。

しかし、事がはっきりするまでは、ハークス家で管理しておきたい。

城の中には、すでに北の国の手が伸びている。危険だ。

(現に、国王が毒を盛られているし、アンジェラ様も行方不明だし……以前、私やメリル殿下も襲われたしね)

ハークス家の者たちは全員身元がしっかりしていて信頼できるが、城だと人数も多いしそうも行かないのだ。それに、ハークス家の兵士の方が強い。

ヴィーカの手足となって動いていたジルも捕まえておけば、彼女らは何の手出しもできないだろう。

(マーロウ様には、事情を話してもいいかも。そして、リュゼお兄様にも連絡しなきゃ……)

私はさっそく城とハークス領、そして、もう一件へ伝令を飛ばした。

用事を済ませ、皆が集まっている客室へ入った。

いつの間にか、巨大なバゲットを右手に握っているが……後で食べよう。

おそらく、厨房の前を通りかかった際に無意識に手に持ったものと思われる。

「エミーリャ殿下、お待たせしました! 城へ向かいましょう。リカルドは、ルーカス殿下をお願いね……ジルさんは、ヴィーカ様と一緒に地下にいてもらいます」

ルーカスとは一緒に行動することに決めた。

王宮住まいの彼を、勝手にうちに閉じ込められない。でも、監視は必要だ。

ルーカス自身の動きも気になるし、今までコウモリのように動いていた彼が、北の国から命を狙われないとも限らない。

まだ完全にこちらの味方とは言えないけれど、リカルドとの友情は本物だと思いたい。

エミーリャたちと一緒に一度城へ向かうことになった私は、実験室から護身のためのアイテムをいくつか持ち出して馬車に乗り込んだ。バゲットは握りしめたままだった……

馬車に乗って王城へ到着すると、エミーリャは自分の部屋に私たちを案内する。

伝令の件があったので、私だけ先にマーロウに会ってからエミーリャの部屋へ向かうことになった。バゲットは馬車の中で全部食べた。

王太子を待っている最中、若い貴族の一団とすれ違った。

同じ年頃の男性五人組で、最近城に出仕するようになった人たちだと思う。

彼らは私を見て話を始めた。私にも会話が聞こえる声の大きさだ。

「アレだろう? デブから激痩せしたハークス家の令嬢って」

「そうそう。俺、前の姿を見たことあるけど、超ブヨブヨのプニプニだったんだから」

「え、普通に可愛くね? 俺、アレならキスしてもいい」

「マジでー? 元がデブだと思うと無理だわー。しかも、落ち目のアスタール家と婚約しているだろ? 見る目ないよな。北の伯爵もなんで許可を出したんだか」

「デブに戻ったら困るからじゃね?」

口々に話している内容は、酷いものだった。私に聞かれても困ることなどないのだろう。

向こうは五人でこちらは一人。しかも、田舎の伯爵令嬢。彼らにとって全く脅威ではない。

しかし、上から目線の発言は、ものすごく腹が立つ。

(うるさいなぁ! 私はお前らに気に入られるために痩せたんじゃない! 自分のために痩せたんだ!)

それに、リカルドは目の前の貴族たちよりも、ずっと人間ができている。

奴らにリカルドのことを、どうこう言われたくない。

イライラしていると、彼らはまた話を始めた。

「あの令嬢はアンジェラ殿下の取り巻きだ。城内では、陛下に毒を盛ったのはアンジェラ殿下ではないかって噂だぜ」

「幼少期はヤバかったらしいからな、あの王女。ちなみに、俺は断然メリル殿下派だ!」

「ていうか、婚約者にアンジェラ様を選んだ南の国、ヤバくね?」

「いやいや、案外南の国の陰謀かもしれないぜ?」

面白おかしく話す彼らを前に、私はただひたすら反論するのをこらえていた。

ここで事を大きくするのは良くない。それくらいは、私でもわかっている。

けれど、もう我慢の限界だ……

「アンジェラ様は、そんなことをしていません!!」

貴族たちに向かって、私は叫んだ。