軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

178:新しい部屋

アンジェラからの「エレフィスを痩せさせる」という依頼が予想外の形で一段落し、王都での滞在先である幽霊屋敷へ移動した私は、自室にと選んだ一部屋を片付けていた。

曰く付き物件の三階は一番建物の劣化が進んでおらず、掃除さえすればそのまま使えそうな部屋が多い。

少しずつリフォームしていくつもりだが、地下にいるヴィーカたちのこともあって、人の出入りを制限せざるを得ない状況だ。

なので、領地から使用人や庭師を呼び、必要最低限の部分だけ手を入れることにした。

白い石の内壁を磨けば美しさを取り戻し、室内の暖炉も冬以外は使わないが使用可能な状態に復活する。使える部屋に限りはあるが、とりあえず住むことが出来そうだった。

内装にこだわりはないので、メイドのマリアの趣味で選んでもらっている。

彼女は衣装や部屋のデザインが好きみたいだから。

「ブリトニー様、幽霊屋敷には見えないお部屋になりましたね。一時はどうなることかと思いましたが、なんとか住めるようになってよかったです!」

「そうだね、ありがとうマリア。部屋が整ったら、お兄様は一度領地に戻って仕事を済ませてくるみたい。リカルドはここに残って、私と王都での仕事をする予定だよ。やっぱり、こっちで出来ることは多いものね」

ハークス家支部として、この幽霊屋敷には活躍してもらわねばならないのだ。

そのためには、まずヴィーカの問題をなんとかしなければならないのだが……

今も彼女は地下室に隠れている。

私と会って安心したからか、今は少し体調を崩して休んでいた。

早く「メリルと王宮の扉」の続編情報を聞き出したいが、彼女の従者が王女に無理をさせたがらないので話を聞くことが困難だ。

幸い重い病ではなく、軽い風邪とのことなので、数日待てば話せるようになるだろう。

(それにしても、ジルさん……ちょっと過保護だよね)

王女の従者だから当たり前なのかも知れないが、彼は恍惚とした表情で黙々とヴィーカの世話を焼いている。ここでの地下牢生活を満喫しているようにさえ見えた。

危ない人に感じるのは、私だけだろうか……

こちらに害はないし、ヴィーカにとってはいい従者なので、このまま様子を見守ろうと思う。

(続編に関する情報は、絶対に話してもらうけどね!)

そんなこんなで、私は王都でハークス伯爵領の製品を売り込む仕事に精を出している。

近々、領地の製品を取り扱う店もいくつか出店する予定なのだ。

リュゼの命令により、交渉など前面での仕事も増えた私の気苦労は多いが、これも領地のためである。

意気込んでいると、慌てた様子のマリアがノーラの訪問を告げた。

「えっ!? 今来ているの!?」

事前の連絡がなかったので、急いで彼女を迎える準備をする。

(一階の客室は最優先で綺麗に取り繕ったから、大丈夫だけど……!)

使用人にお茶やお菓子の用意を頼んだ私は、いそいそとノーラの元に向かった。

ヴィルレイと婚約してからの彼女と会うのは久しぶりだ。

(ノーラがアポなしで来るなんて、何かあったのかな)

心配になりながら客室の扉を開けると、淡いベージュのドレスを品よく着こなしたノーラが、長い足を揃えて長椅子に腰掛けていた。

長く癖のある茶髪を優雅に結い上げた彼女は、少し見ない間に大人っぽく変化したように感じられる。

「うふふ、ブリトニーの新居が見たくて来ちゃった。最近は南にあるヴィルレイ様のお屋敷にいたんだけど、たまたま王都に来ることになって……ちょうどブリトニーもいるし会いたいなと」

そのため、ノーラは急な訪問になってしまったのだという。

「それにしても……中古にしても、もう少しましな物件はなかったの? ここ、王都じゃ有名な曰く付き物件らしいじゃないの」

「ええと、あはは。広いし、いいかなと思って。それにしても、ノーラ、物件に詳しいの?」

「ルーカス様から聞いたのよ。あの人、暇だから王都の情報を集めるのが趣味になっているらしくて。新しい庶民向けのお店とか、やたらと詳しいの」

「そうなんだ。意外だね」

ルーカスは誰にでも気さくな性格だけれど、庶民通には見えない。

王子らしい高貴で上品なオーラが全身からにじみ出ているのだ。

「お忍びで街に出ている……なんてことはなさそうだけど」

「そうねえ。部下に頼んで、グルメマップを作ってもらったりしているらしいわよ。ルーカス様自身の外出は難しいけれど、見ているだけでも気が紛れるからって」

「そうなんだ。仲良しなリカルドも王都にいるけれど、色々忙しいからね」

「でね、そのグルメマップや街歩きガイドが、お城で働く役人や兵士の間では密かなブームになっているらしいわ。ルーカス様もあの性格だし、気軽に配り歩くものだから……『今度は、デートスポットガイドでも作りましょうか』なんて言っていたし」

人質の身である北の第五王子は、逞しく暮らしているみたいだった。