軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163:愛妾回避と新たな依頼

こうして、アンジェラの取り計らいにより、王太子の愛妾になる件は回避されそうだ。

長く行方を眩ませていたあげく、いきなり伯爵家へ出戻った父の言うことなので、元々王宮側も疑ってかかっていたらしい。

「北の伯爵も苦労しますわね。ブリトニーの父親は、自分こそが新しい伯爵だと王都で言い回っておりましたから」

伯爵家に来る前にも、父は余計なことをしていたようだ。

ダン子爵家のケビンが父の噂を聞いたのも、この時ではないだろうか。

「……色々すみません。娘の私としても、お恥ずかしい限りです」

「心配なさらずとも、あなたの父親が伯爵に返り咲くことはありませんわ。王宮側が許可しませんもの。ハークス伯爵領は、北の国への防衛の要となる領地です。そこの当主が阿呆だと我々も困るのですわ」

「ありがとうございます、アンジェラ様」

大問題が解決しそうなので、私は隣にいるリカルドと目を合わせて微笑んだ。当主交代も婚約解消もなくなりそうでなによりである。

私たちの様子を見たアンジェラは、満足そうに座っている。

けれど、エミーリャのことも気になるようで、時折チラチラと視線を向けていた。かなり意識しているようだ。

「それから、別件でブリトニーにお願いしたいことがありますの」

「なんでしょうか?」

革のソファーから少し身を乗り出したアンジェラは、私の目を見て告げる。

「侯爵令嬢のエレフィスは知っていますわよね?」

「ええ、詐欺化粧の会などで、お目にかかっております」

王都付近に屋敷を持つ侯爵令嬢のエレフィスは、大貴族の娘さんで父親も要職に就いている。

私などよりも、ずっとマーロウに相応しいお嬢様だった。性格もおっとりと優しく頭もいい、まさに令嬢の鏡。

しかし、その体型は、ブリトニーとして親近感のわくポッチャリ型だ。まるっとそのまま、かつての私と変わりない立ち姿なのである。

彼女を思い浮かべながら頷くと、アンジェラは言葉を続けた。

「訳あって、エレフィスを痩せさせて欲しいのですわ!」

「えっ…………?」

「ブリトニー! あなたならできるはず。いいえ、あなたにしかできないことなのです!」

「そう言われましても。理由を伺っていいですか?」

尋ねると、アンジェラは身を乗り出して答える。

「幸せな婚約のためですわ! エレフィスは賢女と名高い令嬢で、彼女を嫁にと望む貴族は多いです」

「引く手数多なら、特に問題ないのでは?」

「いいえ、甘いですわよブリトニー! 確かにエレフィスを正妻に迎えたい者が多いですが、それは彼女の家柄や能力面のみを見てのこと。そこに愛はありません……当主がエレフィスを息子の嫁にと望んでも、肝心の息子が彼女を嫌がるのですわ! 既に数件打診があるのですが、全ての家の息子がそうみたいで。中には既に愛人を囲っていて、形ばかりの妻を求める輩もいたのです」

アンジェラは、「許せませんわ!」と息巻いている。彼女は見かけによらず、可愛いものや恋愛に憧れを抱くロマンチストなのだ。

けれど、エレフィスの人となりを多少知る私も、「どうせなら幸せになれる相手と婚約して欲しい」と望む気持ちは同じだった。辛い目に遭うとわかりきっている結婚を勧める気持ちにはなれない。

「だから、ブリトニー。家のことが解決しましたら、エレフィスを頼みたいのです」

「分かりました。けど、エレフィス様ご本人は、そのことを承諾されているのですか?」

「するに決まっていますわ、それが彼女のためですもの。という訳で、また王都に来てもらいますわよ。私が元アスタール伯爵領へ引っ越すのは、まだ少し先になりますし」

父の件で助けてくれたアンジェラ本人たっての頼みだ、引き受けた方が良いだろう。

「仕事が一段落しましたら、王都へ向かいますね」

「ええ。リカルドも時間が許せば、ぜひ来て欲しいですわ」

「……リュゼ次第だ」

彼の言葉に、私もコクコクと頷いた。

(お兄様とお父様……あれから、どうなったんだろう)

残してきた彼らが心配だし、アンジェラの提案や伯爵の座について早く彼に話したい。

落ち着いた雰囲気の客室内で王女たちをもてなしながら、私は今後のことを考えた。

全員で他愛ない話をしていると、ゆったりとした笑みを浮かべたエミーリャが、私やリカルドに話しかける。

「ブリトニー、リカルドとは仲良くやっているのかな」

突然そんなことを聞かれて、私は持っていたティーカップを取り落としそうになった。

「なっ、そっ……ええ、まあ」

取り乱した私の隣からスッと腕が伸び、優しく私を抱える。リカルドが、こちらを落ち着かせるように微笑んでいた。

「ええ、ブリトニーとは日々絆を育んでおります」

「それはいいね。俺もアンジェラとは、いつも愛を育んでいるから」

エミーリャの発言に、彼の隣に座っているアンジェラがビクリと反応した。薔薇のように頬を赤く染めた彼女は、婚約者を揺さぶりながら抗議する。

「こんなところで、何を言っておりますの!?」

「ほらね、婚約者殿とは仲睦まじい間柄だ。王宮から出てアンジェラと二人で暮らす日が楽しみだよ」

「その減らず口を、今すぐ縫い付けて差し上げますわ!」

「大胆だなあ。こんな場所で口づけしてくれるのかい?」

「ち、違っ! ど、どどどどうして、そうなるのです!? あなたという人は、いつも、いつも……!」

あのアンジェラが、完全にエミーリャの手のひらの上で転がされている。

しかし、お互いに抱いている信頼感は分かりやすく安心できるもので、この二人なら大丈夫だという気持ちにさせられた。