軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

143:その頃の女子たちは

明るい日差しが降り注ぐ王宮内、アンジェラの部屋付近の客室では、早くも暖炉が活躍している。

まだ冬の初めで本格的な寒さは到来していないが、古い石造りの城の中は微妙に冷えているのだ。

体の軽くなった私は、骨折した足が治ったこともあって絶好調。毎日仕事の合間を縫って運動や護身術に励んでいる。

ノーラは婚約相手の下に滞在中。あまり会うことが出来ないので、主にアンジェラやメリルと過ごすことが多かった。

今も、休憩中にアンジェラと一緒に話をしている。

「ブリトニー、昨年から続けていた美白化粧水の効果が出ましたわ! あの軽薄王子が私の肌を褒めたのです!」

「良かったですね、アンジェラ様。ユキノシタという植物を使った化粧水はまだ在庫が沢山ありますので、多めに取り寄せておきますね。エミーリャ殿下とも仲が良さそうで……」

「な、何を言っているのです! 仲が良いなんて、あなたの目は節穴ですの!? わ、私は……!」

相変わらずツンツンしているアンジェラだが、エミーリャに籠絡されるのも時間の問題だろう。

最近は、黒子メイドたちも微笑ましく二人を見守っている。

王太子一行が城を出て数日……心配なことも多いが、今はやるべきことをやるだけだ。

アンジェラと喋っていると、メリルが部屋へ突撃してきた。

「ブリトニー、こんなところにいたのね! お姉様、ブリトニーを借りるわよ!」

「メリル!? なんですの? ブリトニーは今、私と話をしている最中で……」

「お姉様、ブリトニーには、私の鍛錬に付き合って貰うの。ちょうど、指導係を捕まえたところなのよ」

有無を言わさず、メリルは私をぐいぐいと引っ張っていく。

数日前から、私はメリルの鍛錬……という名の娯楽に付き合わされているのだ。どこからか、ハークス伯爵領の面々は戦闘に秀でているなどという迷惑な噂が広まっていたのである。

おそらく、ルーカス辺りが余計なことを言ったのだろうと私は睨んでいるが、真相は闇の中だった。

とにかく、それを真に受けたメリルが、彼女の最近のお気に入りである「鍛錬」に私を巻き込み始めたのである。

(うちの領地で強いのは、お祖父様とリュゼお兄様と兵士の皆さんたちだけで、私はか弱い令嬢だというのに……解せぬ)

納得いかないが、王女の誘いを無碍にも出来ず、事なかれ主義の私は空き時間に彼女と鍛錬……という名のダイエットに励んでいた。

しかし、メリルの見つけてきた指導係というのが曲者で、祖父の大ファンだという老貴族なのだ。

現役時代は王宮の騎士たちを纏める立場で、引退後もその腕は衰えず後輩たちをしごいている元鬼団長。

そんな彼は、祖父の孫だという私に変な可能性を見い出したらしく、やたらと厳しく指導をしてくる。

(メリルは簡単な護身術の訓練や木の棒を素振りしているだけだというのに、私……真剣を持たされているんですけど?)

今は、徹底して相手の攻撃をガードする鍛錬をさせられている。私に攻撃してくる相手は、言わずもがな……元鬼団長様だ。

鍛錬を逃げ出す口実に「私、護身術だけ出来ればいいです」なんて適当な言い訳をしたのが悪かったに違いない。あんなこと、言うんじゃなかった!

(まあ、メリルも最近は大人しくしているし、息抜きに付き合ってあげることも必要だよね)

そう、メリルは未だ何の問題も起こさずに、アンジェラやエミーリャの仕事を手伝っているのだ。

前回、余計な好奇心で命の危機に陥ったので、さすがのメリルも懲りたらしい。

「ブリトニー様、よそ見をするとは余裕ですな!」

容赦なく剣を振り下ろしてくる元鬼団長を見て、私はこのまま行くと腕の筋肉がムキムキになりそうだと、どうでもいいことを考えた。明日は確実に、筋肉痛だろう。

休憩、もとい鍛錬を終えると、仕事が私を待っている。

リュゼ不在時の領地のアレコレや、王太子一行のサポートなどだ。

「ふう、さすがに疲れたかも」

とはいえ、げっそり……とならない私の健康で強靱な体は、しっかり空腹を訴え続けている。

(もしかして私、リュゼお兄様より頑丈に出来ているんじゃない?)

年頃の令嬢としては微妙だが、今は喜ぶべきだろう。

食事をしてアンジェラの元へ出向こうと歩いていると、軽い足音が近づいてきた。

「ブリトニー!」

「あ、メリル殿下。ご機嫌よう……って、うおっ!?」

走ってきたメリルは、私の手を強引に掴む。

「のんきに挨拶している場合じゃないのよ! 逃げなきゃ!」

「へ……?」

なんだかデジャヴを感じた私の背後から、複数の足音が聞こえてくる。

「まさか……」

「武器を持った怖い人たちに追われているの! あ、今回は覗き見していないわよ? 散歩していたら、何故か追いかけられて……」

「この城の警備体勢ー!」

言いたいことは沢山あるが、長期間潜伏している人物などの場合、敵だと見極めるのが困難だ。

とにかく、私とメリルは城の兵がいそうな方角へと走るのだった。